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343 赤い瞳
しおりを挟む「じゃあハルトくん、ユウマくん、また後でね」
「訓練場で待ってるぞ」
「「は~い!」」
アーロさんとディーンさんとはここで一旦お別れ。バージルさんたちへの挨拶が終われば、ハルトとユウマはライアンくんと一緒に騎士団の訓練場へ向かう様だ。
「皆さん、こちらへどうぞ」
《 む。なかなか広いな! 》
《 私でも余裕で入れる 》
「クルルル~!」
フレッドさんに案内され来賓者専用の厩舎へと移動すると、そこは厩舎とは思えない程立派な建物が。ハルトとユウマもライアンくんと一緒に厩舎の中を見学中。厩舎の掃除をしていた使用人さんがライアンくんを見てから少し動きがぎこちない気がする。
「あら! ここならサンプソンもゆっくり寛げるわね……!」
「ホントだな」
オリビアさんとトーマスさんも中を覗き、その広さに感心している。サンプソンは厩舎が窮屈そうだからってハワードさんの牧場では放し飼いだったからなぁ。ここならのんびり過ごせそうだ。
「予めサンプソンが来ると分かっていましたから、仕切りを取り払いスペースを確保しています」
「まぁ~! わざわざありがとう」
「いえ、私は指示をしただけですので。この者達が」
フレッドさんに紹介され、慌てて帽子を取り挨拶をする使用人さんたちに、僕たちも皆で頭を下げる。
どうやらフレッドさんがサンプソンも入れる様にと、使用人さんに頼みわざわざ三頭分のスペースを繋げてくれた様だ。それを聞いていたのか、サンプソンと馬たち、そしてドラゴンがフレッドさんと使用人さんの元へと歩み寄る。
「え……? な、何ですか……?」
「ふ、フレッド様……? これはどうすれば……」
「わ、私も分からな……」
皆一斉に鼻先を押し付けお礼を伝えているんだけど、言葉が通じないせいか囲まれたフレッドさんたちの狼狽えっぷりが面白い……。
お礼を伝えて満足したのか、解放された時には使用人さんの服が少しよれよれになっていた。
「クルルル~!」
「ブルルル……」
《 はしゃいでいるな 》
「楽しそうだね」
今日は僕たちの貸し切りらしく、気兼ねなく使って良いそうだ。五頭の馬もドラゴンも楽しそうにじゃれ合っている。セバスチャンは保護者目線なのか、騒がない様にと注意していた。
……だけど僕が気になるのは、さっきからグルグルと落ち着かないサンプソンの事。
「サンプソン、ソワソワしてるみたいだけど……。大丈夫?」
いつもはどっしり構えて落ち着いているのに、お城に入ってから少し様子がおかしい。トーマスさんたちも気付いていたみたいだ。
《 ……いや、何でもない 》
「何でもない事はないでしょ? 疲れた?」
《 それは全く……。ただ…… 》
「ただ?」
《 ……後で話すよ 》
「……そう? 分かった。じゃあ、行ってくるね?」
《 あぁ、頑張って 》
いつもと違うサンプソンを気に留めつつ、僕たちはお城の中へと移動する事に。その間は使用人さんたちがお世話をしてくれるらしい。
「ふむ……。何かあったのか?」
「今朝はいつも通りだったわよねぇ……?」
「なんだろう……? ね、めふぃくん」
「あぶぅ~」
トーマスさんたちも首を傾げつつ、フレッドさんに案内されお城の入り口へと足を進めた。
*****
「さ、こちらです」
「おっきいです……」
「しゅごぃねぇ……」
「ひろ~い……」
一歩足を踏み入れると、そこはまるで別世界。廊下は皆で住めるんじゃないかという程に広く、壁には所々に美しい装飾が。それを見てユウマはうっとりと溜息を漏らしている。
吹き抜けになっており、天井には星屑を散らした様な夜空の絵が描かれていた。ハルトもすごいと呟きながらじっくり眺めている。
そんな二人の様子を見て、ライアンくんはずっと笑みを浮かべている。
全体的に白と青、そして金を基調にデザインされている内装で、シャンデリアも飾られてまるで映画に出てくる豪華なお城そのもの。
「ふれっどさん……、あの……」
僕たちが内装に見とれていると、レティちゃんがおずおずとフレッドさんに声を掛ける。その視線はフレッドさんと廊下の奥にある部屋の一室を行ったり来たり。
その様子に、フレッドさんも隣にいたサイラスさんも顔を見合わせた。そしてレティちゃんの傍に近付き、膝をついて目線を合わせる。
「さすがレティちゃんですね。もう気付いてしまいましたか?」
「魔力が分かるって言うからなぁ。隠し事は出来ないか」
「驚かせようとしたんですが……」
その言葉に、僕もトーマスさんたちも首を傾げる。
隠し事は出来ない……? 一体何を……?
「じゃあ……」
「えぇ、この先に」
「ほんとうに……?」
「会うのを楽しみにしていたんだろう?」
二人の言葉に、レティちゃんは目を見開き大きく頷く。そしてフレッドさんの後をついて行くと、ある部屋の前で足を止めた。
「失礼致します」
そして中から返事が聞こえ、扉を開けると……。
「レティ!」
レティちゃんを認めた瞬間、男性二人と女性がこちらに駆け寄ってくる。レティちゃんも両目一杯に涙を溜めて三人に抱き着いた。
「良かった……! 心配していたんだ……」
「無事だったんだね……!」
「会いたかったわ……!」
「わたしも……! あいたかった……!」
──あぁ、そうか……。この人たちが……。
その人たちは皆、レティちゃんと同じ様に美しい赤い瞳を持っていた。
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