転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀

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第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!

第六話

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「それで、兄上はこんな夜更けに、どちらへ?」

 エマージェンシー、エマージェンシー。どうも、緊急事態です。

 オリヴィアさんにそれとなく「ボク外に出たいな~」と意思表示をしてから数日たったが、色よい返事はなかなか帰ってこずじまい。焦れた俺は強硬手段に出た。

 暇人の人間観察力を舐めちゃあいけないぜ。

 オリヴィアさんの回答を待っている間も、俺はどうやって扉のない部屋から彼女が退出していっているのか、つぶさに確認していたのだ。

 どうやら、壁と同化している扉は、登録した魔力の持ち主にのみ反応する仕組みになっているようで、壁の特定の場所にオリヴィアさんが触れただけで解錠されるらしかった。

 そして、暇つぶしに持ってきてもらっていた本に書いてあった眠りの呪文を覚えておいて、今日もまた俺の身辺の世話をしにやってきた何も知らない被害者(オリヴィアさん)にぶっつけ本番でそれを発動、まさかの成功を収めて、脱出に至ったというわけだ。

 部屋からの脱出クエストをクリア、次なるクエストは王城からの脱出。幸い、時刻は誰もが寝静まった深夜で、見回りの衛兵の目さえ欺けば……そう、簡単に考えていた。

 まさか、チュートリアルクエストの次にラスボスとエンカするなんて、難易度ナイトメアな仕様だとは夢にも思わなかったのだ。

 そう、これは冒険RPGなどではない。俺が絶賛逃避していた、現実という、世にも残酷な正真正銘のクソゲーだったのだ。

 俺にとっては初対面の相手だったが、一目見ただけで、目の前の彼がこの世界の主役、即ち、俺を殺す人物その人であることが分かった。

 月明かりに照らされたプラチナの髪が神々しく煌めく。真っ直ぐにこちらを射抜く眼光はまるで紫電のように鮮烈だ。

 過酷な鍛錬を積んで鍛えられたであろうことが素人目にも分かるほど逞しく、しかして均整の取れた素晴らしい肉体美の上には、これまた生物を超越したと言っても過言ではない造形美が乗っかっていて。

 揺ぎ無い佇まいも、その圧倒的なオーラから、常人には揺らいで見えるほどには、何もかもが現実離れしていた。

 まるで雷の権化、雷神の化身。

 ダイナミックな迫力がありながらも、ディテールひとつ取れば非常に繊細な美すらも持ち合わせた、まごうこと無き超絶美男子。

 ジルラッド・アンケミニス・ガラリアである。

 暢気にフラフラと当てもなく出口を探して彷徨っていた俺が、まるで貫くような声に驚き、その声の響いた背後を振り向けば、俺の死がそこにあったというわけ。

「兄上!!」

 彼は鬼気迫る顔でもう一つ、俺のことをそう呼んだ。

 息をするだけで覇気を巻き散らかすような迫力を持つ彼が、そんな形相でいるものだから、俺は湧き上がるような恐怖に駆られてすぐさま猛ダッシュしたのである。

 した、筈だ。

 しかし、2歩と進まぬうちに、俺は強い力で腕をひかれ、気付けば両手首をつかまれた状態で壁に縫い留められていた。

 誰に? 他でもない、ジルラッド・アンケミニス・最強・イケメン・主人公・ガラリア様に、である。

 俺はまるでか弱い乙女みたいなか細い悲鳴を喉にくぐもらせ、クソヤバい目力に気圧されて失禁しそうになった。

 やれやれ、既に殆ど無い尊厳を永劫に失うところだったぜ。

 なんて、言ってる場合じゃない。てか俺とこの人の間にはおよそ50mの距離があったはずだ。例え俺の足がどんなに鈍くても、それを一瞬にして追いついてしまいやがるなんて、控えめに言ってバケモノ。

 うん、無理。ガチで無理ゲー。俺の人生オワタ。

「ああ、よかった……貴方が部屋からいなくなったと聞いて居ても立っても居られず……僕の焦りが分かりますか? 何故、どうして、貴方は……っ」

 ワア……顔が良……。って、違う、違う。ヤバい、ヤバいんだって。しっかりしろ俺。

 外に出られた今が最大のチャンスなんだ。ここを逃せば、一度脱走されたってことで監視も監禁ももっと厳しくなるかもしれないんだぞ!! 

 もしかしたら逃げられる前にってことで執行猶予が無くなってハイ処刑、ってこともありうる……?

 え、無理無理無理無理!!!! でもこの拘束から逃れるのもおんなじくらい無理じゃね!? もしかして:詰み。

「……っ、す、すみません。貴方の記憶がないことは分かっていたのに、つい……」

 俺が絶望に打ちひしがれる顔を見てか、何故かジルラッド氏は我に返った様にしょぼくれかえって力を緩めた。

 え、何? なんでそっちがそんなに申し訳なさそうな顔をするんだ? よけい君のこと何もわからん。

「や、なんか、こっちこそ、スマセン」

 俺もついその落差につられて謝るなどする。

 でも、おかしい。記憶が無いにしろ、君にとっちゃ俺は散々自分のこといじめて……いや、虐げてきた憎い相手だろ? 

「兄上が謝ることでは……まあ、突然いなくなって勿論心配はしましたけれど、謝るなら僕ではなくオリヴィアに。突然知らない相手に追いかけられて咄嗟に逃げるのは当然のことです。配慮が足りず申し訳ありませんでした」

 ワア、良く出来た人……流石は完全無欠完璧最強主人公、過酷な生い立ちでよくぞ歪まずにこんな人格者に育つことができたものだ。

 憎い相手(多分)に対しても、こんな誠意ある対応ができるなんて。恵まれてたのに歪み切った悪役王子とは大違いだ。

 それとも、もしかしてだけど、何かしらの手違いで、俺になる前のベルラッドは間違いを犯さなかったとか? 

 だったら俺この人に殺されずに済むんじゃね??

「その……何といえばいいか……俺、君のことを少し誤解していたのかな」

「……と、申しますと」

「俺、嫌われているとばかり……外に出ようとしてもダメみたいだし、記憶が無くなる前に何かやらかしちゃったのかな、って」

「ああ、そうですね。貴方を外に出せない理由はあります。何かやらかした、と言うのも、あながち間違いではありません」

 ところで……。

 と言った経緯で、冒頭に至る。
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