転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀

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第二章 転生するにしても、これは無いだろ!

第二十八話

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 有体に言えば、俺が向き合っていたスケッチブックが、画板とイーゼルもろとも、上から落っこちてきた人間の下敷きになった、ってのが現実なんだが。

 いや、違う違う。この場合心配するべきは俺の画材用具なんてものじゃなく、上から少年が落っこちてくるとか言うただならぬ状況の方だ。

 我に返ると同時に、聴覚が一気に戻ってきて、あたりがどんなにざわめいているか、たちまち理解できた。

 俺は咄嗟に頭上のバルコニーを確認する。ベルラッド(覚醒前)の取り巻きである、王宮に出入りしている高位貴族の子息が何人か。

 流石にヤバいって顔をしていたが、俺の顔を見た途端やや安心したように引っ込んでいく。

 これは明らかアウトだろ……いくら王宮内で立場が無いからって、王子だぞ!? いや王子でなくても、年端のいかない子をバルコニーから突き落としたんだぞ!?

 そう、俺のスケッチブックめがけて落っこちてきたのはジルラッド。幼き悲劇の王子であり、後の最強主人公その人だ。俺の死亡フラグの化身が俺の目の前に落っこちてきたんだが……。

 俺はどうしようもない気持ちになって、未だ呻きながら倒れているジルラッドの傍らに立ち尽くした。

 本来なら絶対に関わらないと決めた相手。しかし、明らかな怪我人を放っておくなんてことは流石になんというか、人倫にもとる。

「ちょっと、失礼……」

 俺はひとまず、スクラップになったイーゼルの残骸の上から少年の身体を退避させるため、彼の腕を俺の肩に回して起き上がらせた。

 うわ、待って、それなりに太い木の破片が足とか腕に刺さってるって!! 血が出てる血が出てるゥ!! イヤァァァァァァ!! 

 俺は、某国民的鬼退治アニメの、黄色い髪のやつみたいな汚い高音を脳内に響き渡らせながら、彼の身体を壁に背をもたれかからせるように座らせた。

 うわあうわあうわあ、奇跡みたいに均整の取れた顔がこんな無惨に……明らかさっきの転落によってではない傷だ。打撲痕も沢山。かすり傷なんて数えきれない。

 俺がいないのによくやるよあいつら、てか勝手に俺の名前借りてやってたとしたらガチで最悪なんだが。お前らの軽率な行動が俺の命を脅かすんだぞ、絶許。

 可哀そうに、落ちた先に最悪の顔があったからか、ジルラッドは最早土気色の顔で絶望している。

 既に満身創痍なのに、これからどんなむごい仕打ちを受ける事かと、なんだか処刑台に向かう死刑囚みたいな顔だ。アワワ、ボクソンナコトシナイヨコワクナイヨー……。

「ここで待ってて」

 ビクリ、と震えるジルラッド。しかし、ここで逃げたらもっとひどいことになるのでは、なんて顔をしている。信用皆無だ。当たり前だが。

 いや、ごめんって。ボロボロの美少年ショタを折檻する倒錯趣味なんてお兄さん持ってないから!!

 俺は駆け足で王宮騎士の詰め所へ向かう。実際問題、彼をこのまま王宮に駐在する治癒術師の下に連れていくのが一番早いのだが、申し訳ないことに、俺は今絶賛母の監視を受けている身だ。

 考えなしに他人を頼って、どこから「俺が怪我をしたジルラッドに手を貸した」なんて情報があの母親ひとの耳に入るか知れない。

 そうなったらあの母親ひとはどんなことをしでかすか全く分からない。マジで怖い。やめてくださいしにたくありません。

 息切れしながら戻ってきた俺を見て、ジルラッドは面食らった。俺が持っていたのが応急処置セットだったからだろう。

 俺は無言で処置用の手袋をはめ、一先ず彼の肌に刺さっている木の破片を取り除きにかかる。本当に痛そう。この子俺より2歳下だからまだ7歳だぞ!?良く泣かずに我慢している。

 いや、違うか。彼はこんな怪我をしてなお泣けない、泣くことが許されない環境にいるんだ。普通泣くだろ。泣かなきゃおかしい。

 目視で確認できる部分は全部抜ききった。水の初級魔法を使って血が出ているところを洗う。痛そうに眉を歪めるジルラッド。痛いよね、ごめん、我慢してくれ。

「な、んで……?」

 目が合った時に、ジルラッドは思わずと言ったような感じでそう零した。そりゃそうだ。いままでひどく虐めてきた俺が、急に何も言わず手当なんかしてきて。

 まあでも俺は中身高校生だからな。ひどい怪我してる小学校入ったばっかの年頃の少年を見捨てたら前世の母さんに何発拳骨食らうか分からない。良心には逆らわない方が気分いいしな。

 しかしまあ、いい言い訳が浮かばなかったので、申し訳ないが返答しなかった。何を言っても信用されないだろうし。今後この子と仲良しこよし出来るとも思えない(主にあの母親ひとのおかげで)から。

 てか、怪我に気を取られて気付かなかったけど、この子細すぎね……? まさかだけどちゃんとご飯貰ってない……? ――いや、あり得る。あの継母ひとなら。あり得ると言えてしまうのが悲しい。

 小説、最初の方とか結構サラッと読んでたから、ジルラッドが幼少期にどんな仕打ちを受けたとかあんま覚えてなかったけど、これは酷い。

 うわ、待って、腕折れてないか、これ……? そりゃまあ、あの高さから落ちたら骨折るか……むごいな……。

 ふと、俺は何か湧き上がるような力を感じた。何と言うか、手のひらがもぞもぞするというか、勝手に魔力が湧き上がってくる、ような。あと、何か、頭がボーッと……?

 なんだか、夢うつつな気分だ。今まで思っていたことが、シンナーをかけられた油彩絵具みたいに溶け、次第に白くなっていく。

「あぇ?」

 自分でも笑っちゃうくらい間抜けな声が他人事みたいに耳に入ってくる。ん? ガチでナニコレ? 自分の身体の制御が効かない。

 自分の魔力に体が勝手に操られているみたいで、それなのに、何故か不安が全くない。正直自分の身体が何をしようとしているのか分からんとか言うめちゃ不気味な状況なのに。

 俺は頭にありったけのクエスチョンマークを浮かべながら、いつの間にか、ジルラッドの手を取り、もう片方の手を折れている患部に当てて魔力を込めていた。

 ん? 俺今何してんの? セクハラ? 美少年の橈骨をなぞるように撫でる何がしかのフェティシズムが俺に潜在していたというのか!?!?

 俺の魔力が光となって患部に収束していき、次第に俺の夢うつつも霧みたいに消えていく。我に返り、俺はヒュッと勢いよく息を呑んだ。

 さっきの意味不明な出来事の間、呼吸を完全に忘れていたらしい。やば、滅茶苦茶苦しい。息と一緒に唾液も気管にはいったので、呆然としているジルラッドの手前でゲボゲボと汚い咳を繰り返す。

「え……? なんで……? 傷が消えてる……」

「ハッ!?!?」

 俺は蹲っていたところから勢いよく上体を起こした。未だに喉がツキツキ痛むが、構っていられなかった。

 傷が消えた!? 一体、どういうことだってばよ……!?
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