限界社畜、異世界に連れ去られてよしよしされる

海野ことり

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【11】ちょっとした変化-②

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「身体は大丈夫? 泣き過ぎて目が腫れちゃったね。辛くなかった?」
小さなキスを落としながら甘やかすように訊ねられて、日影は目をギュッと閉じた。確かに腰はガッタガタで違和感がありまくりだけど、それよりも恥ずかしさが上回る。

「恥ずかしいからもう言うな!」
「ん? 乱れちゃったのが恥ずかしかったの? それとも泣いたこと?」
「全部だバカ!」
何から何まで恥ずかしかったし、なんなら今も恥ずかしい。

「でも慣れてくれないとなー。俺は日影さんを甘やかしたいし」
「だからって、飯までこんな……」
「膝の上でご飯を食べさせるのは、当然だから」
「当然じゃないっ!」
「でも診察はさせてくれないでしょ?」
診察? と、不可解そうな日影に折原はしゃあしゃあと言い放つ。

「身体が心配だから、奥まで開いて見たいけど、きっとさせてくれないじゃない。だったら労わるしかないなって――」
「お前の気遣いはおかしい!」
薄々わかっていたことだが、折原の心配の仕方と気遣いは少しおかしい。相手が日影でなければ本当に犯罪だ。

「嫌なの? でもあなた、俺に触られてないと寂しくて死んじゃうよ。凍えた表情のあなたは見ていたくないなぁ」
「うっ……嫌とは、言ってない」
折原に構われて、強引に口説かれて、熱いくらい全身を愛情で包まれるのは心地好い。
自分から手を伸ばせない分、掴んで引っ張って貰えると安心する。今だって、本当は凄く嬉しい。

「じゃあ今日は、一日俺の腕の中ね」
「なんでそうなるんだよ……」
ぼやきつつも日影は折原の胸にスリスリと頭を擦り付けた。

(一日中、翔太の腕の中……)
そう思ったら嬉しくて、日影は喜びを隠せない。

「日影さん、お口を開けて」
「ん……」
スプーンで運ばれたのは柔らかく煮た何かで、食べたことがない味だけど美味しい。

「柔らかい肉と、ちょっと花の匂い?」
「日影さんは、本当に鼻が良いな。そうだよ、挽き肉のタネを白い花の蕾に詰めて煮たの。ほんのりと甘くて美味しいよね」
「ああ。こういうのなら旨い」
日影は余り甘い物が得意ではない。お陰で栄養補助食品も食べられるものが少なくて、不自由していた。

「あなたは少しだけ甘い豆とか、ご飯に合う甘っ辛い味付けが好きだよね」
「はっ! ご飯!」
日影は異世界に来たら白米が食べられないのではないかと慌てた。それを見て折原が苦笑する。

「豆とかキヌアやクスクスみたいな似た感じのものはあるけど、米は無いなぁ」
「うぐぅ……」
忙しい時にはろくにご飯など食べていなかった癖に、もう食べられないかもしれないと思うと未練が湧く。

「米だけはどうしても……」
「そうだねぇ、栽培でもする?」
何反もの水田は無理でも、自分たちが食べる分くらいなら何とかなるかもしれない。
しかしその提案に日影は乗り気ではなかった。

「泥とか、嫌……」
「ああ、そうだよね」
日影は潔癖というのではないが、汚れるのが嫌いだった。何日も風呂に入ってなかった癖に、と言われてもそれとは問題が別だ。泥とか土は病気になりそうだから触りたくない。

「俺がやっても良いけど、時間があるかなぁ」
折原は家事の全てと日影の世話と、こっちでの仕事もある。どんな超人であっても時間が足りない。
米は諦める、と言おうとしたところでズボンの裾をツンツンと引かれた。足元には小さな蟹がいる。

「カーニー?」
案内されて外に出たら、畑の横に黄金色の稲が植わっていて吃驚した。まさかの田圃だった。
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