限界社畜、異世界に連れ去られてよしよしされる

海野ことり

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【16】山道で出会う-①

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 エルフに薬を届けに行くことになった。
 ワットは行けないぐらい遠いし、それに身内の手前、顔を出すのもマズイらしい。
 代わりに一族に伝わる秘伝の薬と、折原の料理と、音楽を届ける。
 日影もギターと歌は練習したけれど、人前で歌うと思うと震えがきたし、無理に歌わなくてもいいと言ってもらえた。
 仕事だったらそういうわけにもいかないと意固地になっただろうが、これは違う。
 だから甘えることにした。自分は、単なる助手に過ぎない。

「空を飛ぶバイクって、それ、バイクじゃないだろっ!」
 日影が叫んだら、ちゃんと走ってると言い返された。確かに空を走ってはいるが――。

「それは、エンジンを吹かしてタイヤも回転してるけど――」
 言っている途中でプスンプスンとガス欠のような音がして、バイクが止まってしまった。
 日影は落っこちる! と慌てたが、バイクは自分たちを乗せたままエレベーターのように静かにスーッと降下した。

「この、これ以上は進めませんって感じが、機械的でいつもスンてなる」
 折原が楽しそうに笑ってそう言い、バイクの後部座席で固まったままの日影を抱き降ろした。

「さ、ここからは山登りだよ。辛くなったらすぐに言ってね」
 折原が繋いだ手を口元に持っていき、柔らかく口付ける。レディみたいな扱いに日影はまだ少し戸惑うけれど、手を引かれるままに折原の腕の中に収まる。すっかりこの場所が落ち着くようになってしまった。日影は少し甘ったれた気持ちで、冗談など言ってみる。

「歩けなくなったら、おぶってくれるのか?」
「勿論。俺はあなたの下僕だから」
  パチリとウィンクをされて照れ隠しに辺りを見回せば、高山植物の生えたなだらかな山肌は割りと歩きやすそうだった。
 足裏で砂利を踏みしめる感触も楽しいし、散歩気分でのんびりと歩ける。
 途中で、折原が珍しい花を見つけてはしゃがみ込み、湧き水を発見して飲もうとしたり、ベッドみたいな岩を見つけて寝転ぶので進みは更に遅くなった。

「おい、そんなにゆっくりで、時間は――」
「あっ! こんな所にタケノコモドキが!」
 折原は筍によく似た植物を見つけ、ボキボキと折り始めた。そして食事休憩だと言って火を熾し、タケノコモドキを皮ごとくべた。

「筍の一番美味しい食べ方を教えてあげるね」
 そう言って、皮が黒くなるまでじっくりと焼いたタケノコモドキを火箸で掴んだ。

「おい、その火箸は何処から出した!?」
「え、今更? バイクの後部座席の下に、空間拡張収納が付いてる。旅人の標準装備だよ」
(えっ、そうなのか?)
 折原は嘘スレスレの冗談をよく言うので油断ならない。でもバイクの説明を出して見たら、確かに空間拡張収納付きと書いてあった。

「俺はステータスが旅人じゃないから、収納もないよな」
 日影ががっかりしてそう言えば、折原は「だけど」と慎重に切り出した。

「だけどホテルの部屋にあるような、飲み物の入った冷蔵庫を出したり、アイスの自販機を出したりは出来るんじゃない?」
「自販機……」
 自販機はピンとこないけれど、自宅にあった冷蔵庫はあれば便利かもしれない。冷蔵庫には食べ物や飲み物ではなく、薬とドライバーセットが入っていた。

「薬はわかるけど、なんでドライバー?」
「使いたい時に、すぐに使えて便利だろう」
「使いたい時とは!?」
 折原が悩んでいるが日影は気にしない。それよりも、彼が持っている真っ黒い物体の方が気になる。

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