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⑦森の中で出逢う−1
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俺は頭の中に泥を詰められたような酷い気分で目を覚ました。
「頭取りたい……」
「二日酔いは初めてか?」
呻くような俺の声に対して、ロクはいつものように落ち着いている。
(そりゃあこいつは飲んでないものな)
「これが二日酔いってものならそうだよ」
「これに懲りたら次からは程々にしておくんだな」
「……もう飲まない」
「そう言う奴は大抵、また飲むんだ」
ロクに小さく笑いながら言われて俺は眉を顰めた。
これまで沢山見てきた若者の一人みたいに扱われてムカつく。
「俺は飲まないもん」
「美味かったのに?」
微かに笑みを含んだ声で言われて、カーッと頭に血が上る。
昨日の事は余り覚えていないんだけど、キスの最中にロクに美味いと言われた事は覚えている。
それが吃驚するほど嬉しくて、心地好くて……もっと美味しくなりたいって思った。
(俺自身から甘い味がすると知って最初は冗談じゃないと思ったけど、今はもっと美味しくなりたい。美味しくなって、ロクに喰われたい)
でもこんな事を思ってるって気付かれちゃ駄目だ。
ロクは俺が甘い物を欲しがってるとしか思ってないんだから。
「飲みすぎたみたいで、昨日のことは余り覚えてないんだ」
「そうなのか?」
「だからロクも忘れて」
「……わかった」
うん、これでいい。昨日の事は無かったことにして、俺は変な期待をしたり浮かれずにこれまで通りにやっていこう。
キスも甘い物の代わりだって、ただのおやつだって誤魔化して欲しがって……向こうから求めて欲しいなんて素振りは見せないんだ。うん。
俺はそうやって無かったことにしようとしたんだけど、朝食を摂ろうとしていたら昨日の三人組がのこのこと食堂に現れやがった。
おいおい、こいつらどういう神経をしてやがる。
「「「昨日はさっせんしたぁ~ッ!」」」
ロクに向かって深々とお辞儀をした三人組に、ロクが温度の無い冷ややかな声で言った。
「謝る相手は私ではないだろう」
「「「さっせんしたぁ~ッ!」」」
くるりとこちらに向きを変えて謝ってから、犬型獣人がアホっぽく首を傾げて訊いてきた。
「ってか、なんでそんな格好をしてんだ? 誰だかわからなかったぜ」
「あ、やっぱり変だと思う? そうだよね、俺も今朝になって急にフード付きのマントなんて被らされてヤダよ鬱陶しいって抗議したんだけどさ、顔を隠さなきゃ外に出さないって言われちゃって――」
「お前がトラブルに巻き込まれない為だ」
「え~、巻き込まれないよぉ~」
そう言ったら一斉に振り向かれた。
なんだよお前ら、その異論有りげな顔はぁ。
「俺らが言っちゃあれだけど、いかにも絡んでくれって風情だったぜ」
「だよなぁ、ツルッと子供みたいな面をしたのが一人で飲んでるんだもんよ」
「フラフラして、妙に良い匂いがするしなぁ」
なんだよこいつら、結託して俺の所為にし始めやがった。
「それは酔っ払ってたからだろ。もう飲まないから大丈夫だよ」
「いいや、駄目だ。お前は顔を見せるな」
厳しくロクに言われ、俺は思い切り唇を尖らせる。
「顔を見せるなって、指名手配犯じゃないんだからさぁ」
「駄目だ」
(ム・カ・つ・く!)
「お前らもなんとか言えよ。酔ってない俺は大丈夫、しっかりしてるって」
「えぇぇ、嘘はちょっと……」
「おいっ!」
「決まりだな。お前は外でフードを外すなよ」
(ム・カ・つ・く!)
ロクが一緒にいたら絡んでくる命知らずなんていないのに。
でもまあ、昨日は助けられたから仕方がない。言うことを聞いてやるよ。
「わかったよ。でも飯を食う時はいいだろ?」
そう言ってフードを後ろにズラすように脱いだら三人組が騒ぎ出した。
「フード付きマント、可愛いぃぃぃ!」
「これ、拐ってもいいか?」
「お兄ちゃんて言ってみ?」
なんだこいつら? 怖いんだけど。
「ロク、こっちの方が身の危険を感じるんだけど」
「む……これからは部屋で食事を摂った方がいいな」
「無茶を言うなよ」
改めて俺の容姿がこの世界では浮いている事を自覚する。
獣人たちと人種が違うのは勿論、獣人の血が混じった人間たちとも雰囲気が違う。彼らは “異世界の人” という感じがする。
(まあ、異世界人は俺の方なんだけれど)
俺はたった一人の異世界人なのに、どういう訳か余り孤独を感じない。
甘い物が無いのだけは禿げそうに辛いけど、それ以外は獣人に囲まれて嫌だとか元の世界にどうしても帰りたいとか思わない。
ひょっとしたら俺の体質が変わったように、なんらかの補正効果が掛かっているのかもしれない。それか元々そういう精神的な適性のある人しか召喚されないのかもしれない。
いずれにせよ、考慮すべきは一人しかいない俺ではなく、俺という異世界からのプレデターに価値観を揺らがされるこっちの人達の方だろう。
「俺みたいな毛が薄くてのっぺりした生き物って、あんたたちから見て気持ち悪くないの?」
今更ながらそんな事を聞いてみたら、不気味に思う獣人もいるかもしれないが、大抵の獣人はペロペロしたくなると言われた。
「ペロペロ? なんだそれは」
「ツルッとして柔らかそうだから、舐めたくなる」
よくわからないが、毛皮がない身体が珍しいのか?
ロクはどっちなんだろう、と思って見上げたらふいっと目を逸らされた。
答える気はないって事か。
「まあ、珍獣扱いされるのは嫌だから、マントは脱がないようにするよ。食事は――出来ればこれまで通り、普通にしたい」
多少は見られるにしても、ロクがいたらそこまで大事にはならない筈だ。
「仕方がない。チヤにも息抜きは必要だろう」
「わかってくれて良かったよ」
俺はロクの言葉にホッとして息を吐いた。
それから三人組と別れ、早々にこの村を後にした。
「頭取りたい……」
「二日酔いは初めてか?」
呻くような俺の声に対して、ロクはいつものように落ち着いている。
(そりゃあこいつは飲んでないものな)
「これが二日酔いってものならそうだよ」
「これに懲りたら次からは程々にしておくんだな」
「……もう飲まない」
「そう言う奴は大抵、また飲むんだ」
ロクに小さく笑いながら言われて俺は眉を顰めた。
これまで沢山見てきた若者の一人みたいに扱われてムカつく。
「俺は飲まないもん」
「美味かったのに?」
微かに笑みを含んだ声で言われて、カーッと頭に血が上る。
昨日の事は余り覚えていないんだけど、キスの最中にロクに美味いと言われた事は覚えている。
それが吃驚するほど嬉しくて、心地好くて……もっと美味しくなりたいって思った。
(俺自身から甘い味がすると知って最初は冗談じゃないと思ったけど、今はもっと美味しくなりたい。美味しくなって、ロクに喰われたい)
でもこんな事を思ってるって気付かれちゃ駄目だ。
ロクは俺が甘い物を欲しがってるとしか思ってないんだから。
「飲みすぎたみたいで、昨日のことは余り覚えてないんだ」
「そうなのか?」
「だからロクも忘れて」
「……わかった」
うん、これでいい。昨日の事は無かったことにして、俺は変な期待をしたり浮かれずにこれまで通りにやっていこう。
キスも甘い物の代わりだって、ただのおやつだって誤魔化して欲しがって……向こうから求めて欲しいなんて素振りは見せないんだ。うん。
俺はそうやって無かったことにしようとしたんだけど、朝食を摂ろうとしていたら昨日の三人組がのこのこと食堂に現れやがった。
おいおい、こいつらどういう神経をしてやがる。
「「「昨日はさっせんしたぁ~ッ!」」」
ロクに向かって深々とお辞儀をした三人組に、ロクが温度の無い冷ややかな声で言った。
「謝る相手は私ではないだろう」
「「「さっせんしたぁ~ッ!」」」
くるりとこちらに向きを変えて謝ってから、犬型獣人がアホっぽく首を傾げて訊いてきた。
「ってか、なんでそんな格好をしてんだ? 誰だかわからなかったぜ」
「あ、やっぱり変だと思う? そうだよね、俺も今朝になって急にフード付きのマントなんて被らされてヤダよ鬱陶しいって抗議したんだけどさ、顔を隠さなきゃ外に出さないって言われちゃって――」
「お前がトラブルに巻き込まれない為だ」
「え~、巻き込まれないよぉ~」
そう言ったら一斉に振り向かれた。
なんだよお前ら、その異論有りげな顔はぁ。
「俺らが言っちゃあれだけど、いかにも絡んでくれって風情だったぜ」
「だよなぁ、ツルッと子供みたいな面をしたのが一人で飲んでるんだもんよ」
「フラフラして、妙に良い匂いがするしなぁ」
なんだよこいつら、結託して俺の所為にし始めやがった。
「それは酔っ払ってたからだろ。もう飲まないから大丈夫だよ」
「いいや、駄目だ。お前は顔を見せるな」
厳しくロクに言われ、俺は思い切り唇を尖らせる。
「顔を見せるなって、指名手配犯じゃないんだからさぁ」
「駄目だ」
(ム・カ・つ・く!)
「お前らもなんとか言えよ。酔ってない俺は大丈夫、しっかりしてるって」
「えぇぇ、嘘はちょっと……」
「おいっ!」
「決まりだな。お前は外でフードを外すなよ」
(ム・カ・つ・く!)
ロクが一緒にいたら絡んでくる命知らずなんていないのに。
でもまあ、昨日は助けられたから仕方がない。言うことを聞いてやるよ。
「わかったよ。でも飯を食う時はいいだろ?」
そう言ってフードを後ろにズラすように脱いだら三人組が騒ぎ出した。
「フード付きマント、可愛いぃぃぃ!」
「これ、拐ってもいいか?」
「お兄ちゃんて言ってみ?」
なんだこいつら? 怖いんだけど。
「ロク、こっちの方が身の危険を感じるんだけど」
「む……これからは部屋で食事を摂った方がいいな」
「無茶を言うなよ」
改めて俺の容姿がこの世界では浮いている事を自覚する。
獣人たちと人種が違うのは勿論、獣人の血が混じった人間たちとも雰囲気が違う。彼らは “異世界の人” という感じがする。
(まあ、異世界人は俺の方なんだけれど)
俺はたった一人の異世界人なのに、どういう訳か余り孤独を感じない。
甘い物が無いのだけは禿げそうに辛いけど、それ以外は獣人に囲まれて嫌だとか元の世界にどうしても帰りたいとか思わない。
ひょっとしたら俺の体質が変わったように、なんらかの補正効果が掛かっているのかもしれない。それか元々そういう精神的な適性のある人しか召喚されないのかもしれない。
いずれにせよ、考慮すべきは一人しかいない俺ではなく、俺という異世界からのプレデターに価値観を揺らがされるこっちの人達の方だろう。
「俺みたいな毛が薄くてのっぺりした生き物って、あんたたちから見て気持ち悪くないの?」
今更ながらそんな事を聞いてみたら、不気味に思う獣人もいるかもしれないが、大抵の獣人はペロペロしたくなると言われた。
「ペロペロ? なんだそれは」
「ツルッとして柔らかそうだから、舐めたくなる」
よくわからないが、毛皮がない身体が珍しいのか?
ロクはどっちなんだろう、と思って見上げたらふいっと目を逸らされた。
答える気はないって事か。
「まあ、珍獣扱いされるのは嫌だから、マントは脱がないようにするよ。食事は――出来ればこれまで通り、普通にしたい」
多少は見られるにしても、ロクがいたらそこまで大事にはならない筈だ。
「仕方がない。チヤにも息抜きは必要だろう」
「わかってくれて良かったよ」
俺はロクの言葉にホッとして息を吐いた。
それから三人組と別れ、早々にこの村を後にした。
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