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⑩栄養ドリンク−2(R−15)

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 砦の調査を行う一団は軍部から派遣されていて、一人の男がロクに真っ直ぐに近付いてきた。

「団長殿、お久し振りであります」
「ヨカナーン。君が来てくれて助かった」
「ハハ、私はマキシム卿のお守りですよ」
「マキシム卿は――」
「団員を引き連れて直接砦に向かいました。急げば犯人がまだ捕まるとでも思っているようです」
 その呆れた口ぶりから、ヨカナーンという人がマキシム卿をどう思っているのか伝わってきた。

(う~ん、マキシム卿って人望が無いんだな)

「ところでそちらは?」
 俺の方を真っ直ぐに見た瞳がビー玉のような緑色で、キラッと光ったのを見てドキリとした。
 人間だけれど猫科の獣人の血が混じっているんだろう。
 かなり綺麗な人だった。

「今回召喚された異世界人だ。レオポルトが血迷った件は聞いているだろう?」
「聞きましたけど、あの人間嫌いのレオポルトが本当に人間を追い掛けているんですか?」
 ヨカナーンが嫌そうにそう言い、俺はレオポルトが人間嫌い? そうは見えなかったけどと首を傾げた。

「レオポルトは別に人間嫌いではないさ。ただ獣人の方が強いと思っているから、軍部に所属する人間を軽視しているだけだ」
「そんなのもっとたちが悪いです」

(確かに)
 俺はそっと胸の中で同意した。

「初めまして、私はヨカナーン・ヘスです。北星騎士団の副団長をしています」
「柚木一哉です。レオポルトに追い回されて、ほとぼりが冷めるまで城の外を見て回っています」
「クスッ、あなたも災難でしたね」
「全くです」
 その代わりにロクと二人で旅に出られたのは僥倖だった、というのは黙っていた。
 なんとなく、このヨカナーンという人はそれを喜ばないような気がしたのだ。
 それにロクの事を団長殿と呼んだのも気になる。

「団長殿、これから砦に同道して頂けますか?」
「いや、私は顔を出さない方が良いだろう。マキシム卿には宜しく伝えておいてくれ」
「しかしそういう訳には――」
「あと、いつまでも私を団長と呼ぶのは止せ。今はマキシム卿が君の上司だ」
「……はい」
 物凄い不服そうなヨカナーン副団長の顔を見て、ロクが無理矢理にその地位を追われたのだと察する。

(あれ? でもロクはそれなりの地位にあると自分で言ってなかったか? 騎士団長の座を奪う代わりに、何か与えられたのだろうか?)
 俺はとても気になったけれど、この場では聞けなかった。
 後で聞こう。

「では団ちょ――ロクサーン侯爵殿、発見時の状況を詳しくお聞きかせ頂いても宜しいでしょうか」
「わかった。一哉、悪いが席を外してくれるか?」
「あ、うん。食堂でご飯を食べてくる」
 俺はロクに追い払われてそそくさと部屋から逃げ出した。
 わざわざ『一哉』って呼んでたし、俺が下手なことを言わないように敢えて席を外させたんだろう。

(わかってるもん。俺の為だって事くらい、わかってる)
 それでも悔しくて唇をキュッと噛み締めた。
 あの人と仲が良さそうなのも、俺が部外者なのも仕方がない。
 上官と部下なんていいなとか、ロクに信頼されていて羨ましいなとか思わない。
 俺がいないところでどんな話をするのか気になるけど、二人きりで何をするのか心配だけど覗いちゃ駄目だ。

(益々格好良くなったロクを見て、何も思わない訳がないけど……)
 今頃ヨカナーンって人がロクに迫っていたらどうしよう。
 獣人は情熱的に迫るのを良しとしているから、ロクだって絆されちゃうかもしれない。
 あんなに綺麗な人だったらロクだってふらっと行くかもしれない。

(やっぱり乱入して来よう!)
 俺がやっと決意を固めた頃にはすっかり話が終わっていて、扉の前で二人と鉢合わせた。

「チヤ、直ぐに宿を出るぞ」
「えっ、いいの? 話はどうなったの?」
「ヨカナーンから上手く言って貰う事で話がついた。その代わり、これからも連絡を取り続けて情報を交換する」
「情報ってなんの?」
「お前が気にする事はない」
 ぽふっと頭に手を乗せられて鼻の奥がツンとした。
 この場で子供扱いは辛い。

「俺の、事でしょう?」
 そう食い下がったけどあっさりといなされた。

「後にしよう」
 それ以上何も言うなとばかりに肩を抱かれて胸が軋んだ。
 ヨカナーン副団長の前で何も言えないのはわかってるけど、わかってるけどっ!

「団長殿を宜しく頼みますね」
 にこりと笑ったヨカナーンに、俺は何も言い返す事が出来なかった。
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