【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

海野ことり

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㊸神様の代理人−2

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「そんなにつまるつまらないは大事な事ですか? ハヌマーンも天界がつまらないと言ってましたね」
 全くぴんときていない口振りでお師匠様がそう言った。
 それを聞いたハヌマーンが勢い込んで吼える。

「ただ寝そべっているだけならば草木と変わらん! 俺は走りたいし思い切りジャンプしたい! そして俺様が目の前に落ちてきた時の人間の顔は面白いし、嫌がる女を押し倒すのも楽しい。喰って寝て女を抱いて、酒池肉林の後で騙されるのもまた楽しい」
 ゲハゲハと笑うハヌマーンを見て最低だなと思う。
 まるきり山賊か悪党のセリフだよ。
 でもきっとそれが奴の一番生きているって実感できる暮らしで、楽しい生き方なんだろう。迷惑だけれど。

「お師匠様、俺の世界には衣食住足りて礼節を知るって言葉があります。人間は人間らしい暮らしをしてやっと礼節を守れる。それまではハヌマーンが言ったように生きることだけで精一杯で、それじゃ人には不足なんです」
「衣食住……それは天界なら全て賄えるのではありませんか?」
 あ~あ、やっぱりちっともわかってない。

「『足りて』って言ったでしょう? 天界の衣食住は全然足りてないんですよ。俺は霞じゃなくてもっと歯応えのある物が食べたいし、暑さ寒さを感じなくて外敵がいなくても柔らかい布団とか居心地の好い部屋は必要だし、衣服は――裸族になっちゃったから俺はそんなに要らないけど、ロクに脇から手を突っ込まれる服とかパンツとかは萌えるしあとカッコイイシャツとか着てるとちょっと気分が上がるし。それでもってそういうのって、人によって求めるものが違うからどこを見ても一緒の天界はつまらないです。つまらないと人間は腐っていきます」
「腐る……」
 俺の長口舌にやや気圧されていたお師匠様が呆然と呟く。
 それを見て俺はフフフと笑う。

「血が淀んじゃうんです。だから天界にはいられない」
 俺はロクたちの祖先が獣神を選んだ理由はそれじゃないかと思う。
 獣神の方が面白そうだから、刺激的だからそっちについた。
 人間は快楽を求める生き物なんだ。

「では人を楽しませる為に神に媚びよ、と?」
「まさか。そうではなく、代理人を立てれば――代理人?」
 俺は自分の言葉に天啓を得たようにハッとする。
 そうだよ、神様に人間の求めるものなんてわかりっこないんだから、少し力を貸して貰って代わりに布教する人がいればいいんじゃん!

「お師匠様っ! 交渉材料が見つかったかもしれません!」
「そなたの言う代理人ですか?」
「うん。俺の世界では自分の信じる神の信徒たちが宗教を広めるんだけど、それだと政治に結び付いて良くないから、ちゃんと契約条件を定めてビジネスにしたら良いと思うんです」
「ビジネス……」
「給料の代わりに神の力の一部、或いは天界になっている物を下賜して貰って代わりに神を信仰するように勧めるんです。信仰心って神の力になりませんか?」
「どう……でしょう? 受けたことがないのでわかりません」
「じゃあ先ずはお試しでどうですかって勧めます。下界に神話が少な過ぎるので、正しい話を広めたいけど、いきなり真実を暴いたって反感を買うだけですからね。段階を踏んで本訳聖書、新訳聖書、特訳聖書……みたいにステップアップしましょう。先ずは飛び付きそうな貧困弱者、虐げられた反乱組織なんかから引き込んでいきましょう。本訳聖書には下界と人を創ったのは神だってちゃんと明記して、獣神は他所からやってきた侵略者――でも余り悪者にしちゃうと受け入れられないから、最初は新しいカッコイイ神……くらいの書き方がいいかな? 新しいカッコイイ神を受け入れたけど、彼らは旧い神を恐れてこの地を去った……」
 俺は自分が思い付いた新興宗教プロジェクトにすっかり夢中で、ブツブツと独り言ちていた。

「イチヤ、少し落ち着きなさい」
 ロクに引き続きお師匠様にまで落ち着けと言われてしまった。

「その代理人をそなたが務めるのですか? しかし一人で全てを行うのは――」
「俺が手伝ってやろう!」
 ハヌマーンが偉そうに胸を張りながらそう言った。
 俺は反射的に断りかけ、でも意外と悪くないかもしれないと思い直す。

「ハーレムと酒池肉林は困るけど、薬を作って貰って給料を出して、その金で遊ぶ分には――悪くないかも」
 ロクの領地に会社を作って信用できる人を紹介して貰い、反乱組織なんかを取り込みつつ会社を大きくする。
 きっと獣神を拒む上で一番のネックになるのは王家だから、対抗できるようにこっちの信徒を出来るだけ増やしておいた方がいい。
 まるで神々の代理戦争だけれど、このままじゃ大神の不戦敗で下界が獣神たちの猟場にされるからしようがない。

「それにしても、獣人の支配体制に対抗することが最終的には獣人を守ることになるんだから皮肉だよな」
 思わずそうボヤいた俺を、ロクが軽い口付けで労ってくれる。

「いずれ獣人にも理解者が現れるだろう。必ず本当のことが知られる日が来る」
「ん……それまではロクが俺を守ってね」
「任せろ。私はいつでもお前の側にいる」
 腰を抱かれて真上からプルシアンブルーの瞳で見つめられ、俺はボーッと見惚れた。
 こんなに綺麗な宝石みたいな瞳は他にない。

「ロク、ロクの瞳の色は俺の故郷の星に似ている。だからこの目を見ていると、凄く気持ちが落ち着くんだ」
 何処で暮らしていたって、あの星があると思うと心が安らぐ。
 絆を感じると言ったらおかしいだろうか。

「チヤ、私の目の色が青くて良かった……」
 夜の帳が降りるように黒い顔が近付いて来て、俺はうっとりとしながら目を閉じたが触れる前に不粋な声が響いた。

「イチヤ、男同士で乳繰り合うのは後にしろ!」
「乳繰り合うって……」
 凄いセリフだなぁと思ったけど、確かに今はイチャついてる場合じゃない。
 俺は素直に大神と取り引きする為の案をまとめ始めた。
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