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55.なんとか納税? 始めました。―2
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「ゆっくりと浸透させてゆくならそれも良いでしょう」
「エミール!」
どうしてここに?
「イチヤ様をお探ししていました。この匂いはなんですか?」
「メープルシロップ。待望の甘味だよ」
「これが……」
エミールの目がキラリと光った。
素で驚いているように見える。
「エミールも食べてみて。この国では貴族の一部しか口に出来ない、超貴重な味覚だよ。それを知って欲しいんだ」
「……こんなに早く甘味が戴けるとは、思っておりませんでした」
「俺ももう少し時間が掛かると思ってたよ。ほら、兎に角食べて」
俺はとろりとした黄金色のシロップをエミールに勧めた。
人間に近い姿をした大鹿の獣人は、ペロリと木匙を舐めて瞑目した。
「これは……」
エミールは無言のまま、ペロリペロリと木匙を熱心にしゃぶっている。
もう味がしないだろうに、なかなか舐めるのを止めない彼を何処で止めようかと思っていたら、ホウッ……と溜め息を吐いた。そして機械的な声で呟いた。
「私は甘味の話など、嘘だと思っておりました」
「まぁ、仕方ないよね」
だってその存在自体を知らないのが普通だもの。
「私は信じると言いつつ、何も信じておりませんでした。ただ都合良く利用すればいいと、嘘と知って立ち回れば良いのだと見縊っておりました。まさか……真でしたとは」
人は欺かれるよりも、真実によって打ちのめされることがある。自分の信念が揺らぐことがある。そう気付いた。
「俺も信じてくれなくてもいい、ただ信じる体で動いてくれれはそれでいいって思ってる節があったからね。お互い様だよ」
理解して貰うことを最初から投げ出していた。
そんな努力は面倒臭い、するだけ無駄だと思っていた。
だから俺も威張れたもんじゃないんだ。
「イチヤ様、与えて戴ける甘味はこれが最後ではないのですね?」
「うん。信仰心に応じてって約束だから、信者が増えたり信仰心が篤くなれば次もその次もあると思う」
「フッ、フフッ……」
急にエミールが笑い出した。
「こんなことが……私の大法螺よりも壮大な事実を目にするとは、完敗いたしました」
ホラ吹きらしい賛辞に苦笑してしまう。
「俺も未だに夢見心地っていうか、何処か信じられないようなところがあるから。それで却って平然としてられるのかも」
「なるほど。参考にさせて戴きます」
そう言ったエミールは既に態勢を立て直していて流石だと思う。
「最終的には甘味が誰の口にも入るようにしたいけど、それを広める過程でしっかりと儲けるよ」
「ビジネスですから」
「うん。利益を出さないと運営が続けられないもん」
組織を維持するのも、新しいことにチャレンジするのも、自分達が生きていく為にも金は必要だ。
だから俺は儲からない仕事なんてしない。
「この甘味は、最終的にどれくらい手に入るのでしょう?」
「これから調査してみないとわからないけど……一本の樹から採れるのが一リットルとして、ここに十本あれば十リットル。百本は無いだろうから、数十リットル、かな?」
植樹して殖やすにしても、育つまで時間が掛かるからね。
後は領内をくまなく探したら、他にも生えている場所は見つかるかもしれない。
「でしたらなるべく小分けにして、教会に寄付をして下さった方々に配りましょう」
「寄付……」
「貴族や上流階級の方々は、必ず何処かに寄付をしなければ後ろ指を指されます。どうせ金を使うなら、少しでも見返りのあるところにしたいのは道理です」
ん~、なんか思い出すな。そういうの、元の世界でもなかったっけ?
「金額に応じて配布する本数を増やせば、より多くの寄付が集まるでしょう」
「それ、上限は設けてね?」
「心得ております」
ニタリと笑ったエミールを見て、何に似ているのか思い出した。
なんとか納税って奴だ。
(まぁ、多分前から寄付金の見返りはあったと思うんだよ。みんながみんな、純粋な福祉の精神だけで金を出すとは思えないもん)
「勿論、ご領主様の分は先にお取り置き下さい」
「ん? ああ、ロクは甘いものが嫌いだから奴の分はいらないよ」
「甘いものがお嫌い? 本当に?」
透かし見るようなエミールの視線に、俺は居心地が悪くなって首を竦めた。
「……本当だよ」
「それは判断を保留にしておきましょう」
そう言うとエミールは踵を返して来た道を戻っていった。
(結局、彼は何をしに来たんだ)
俺は憮然としながらも、甘味の話が嘘じゃないとエミールに示せたことにホッとしたのだった。
「エミール!」
どうしてここに?
「イチヤ様をお探ししていました。この匂いはなんですか?」
「メープルシロップ。待望の甘味だよ」
「これが……」
エミールの目がキラリと光った。
素で驚いているように見える。
「エミールも食べてみて。この国では貴族の一部しか口に出来ない、超貴重な味覚だよ。それを知って欲しいんだ」
「……こんなに早く甘味が戴けるとは、思っておりませんでした」
「俺ももう少し時間が掛かると思ってたよ。ほら、兎に角食べて」
俺はとろりとした黄金色のシロップをエミールに勧めた。
人間に近い姿をした大鹿の獣人は、ペロリと木匙を舐めて瞑目した。
「これは……」
エミールは無言のまま、ペロリペロリと木匙を熱心にしゃぶっている。
もう味がしないだろうに、なかなか舐めるのを止めない彼を何処で止めようかと思っていたら、ホウッ……と溜め息を吐いた。そして機械的な声で呟いた。
「私は甘味の話など、嘘だと思っておりました」
「まぁ、仕方ないよね」
だってその存在自体を知らないのが普通だもの。
「私は信じると言いつつ、何も信じておりませんでした。ただ都合良く利用すればいいと、嘘と知って立ち回れば良いのだと見縊っておりました。まさか……真でしたとは」
人は欺かれるよりも、真実によって打ちのめされることがある。自分の信念が揺らぐことがある。そう気付いた。
「俺も信じてくれなくてもいい、ただ信じる体で動いてくれれはそれでいいって思ってる節があったからね。お互い様だよ」
理解して貰うことを最初から投げ出していた。
そんな努力は面倒臭い、するだけ無駄だと思っていた。
だから俺も威張れたもんじゃないんだ。
「イチヤ様、与えて戴ける甘味はこれが最後ではないのですね?」
「うん。信仰心に応じてって約束だから、信者が増えたり信仰心が篤くなれば次もその次もあると思う」
「フッ、フフッ……」
急にエミールが笑い出した。
「こんなことが……私の大法螺よりも壮大な事実を目にするとは、完敗いたしました」
ホラ吹きらしい賛辞に苦笑してしまう。
「俺も未だに夢見心地っていうか、何処か信じられないようなところがあるから。それで却って平然としてられるのかも」
「なるほど。参考にさせて戴きます」
そう言ったエミールは既に態勢を立て直していて流石だと思う。
「最終的には甘味が誰の口にも入るようにしたいけど、それを広める過程でしっかりと儲けるよ」
「ビジネスですから」
「うん。利益を出さないと運営が続けられないもん」
組織を維持するのも、新しいことにチャレンジするのも、自分達が生きていく為にも金は必要だ。
だから俺は儲からない仕事なんてしない。
「この甘味は、最終的にどれくらい手に入るのでしょう?」
「これから調査してみないとわからないけど……一本の樹から採れるのが一リットルとして、ここに十本あれば十リットル。百本は無いだろうから、数十リットル、かな?」
植樹して殖やすにしても、育つまで時間が掛かるからね。
後は領内をくまなく探したら、他にも生えている場所は見つかるかもしれない。
「でしたらなるべく小分けにして、教会に寄付をして下さった方々に配りましょう」
「寄付……」
「貴族や上流階級の方々は、必ず何処かに寄付をしなければ後ろ指を指されます。どうせ金を使うなら、少しでも見返りのあるところにしたいのは道理です」
ん~、なんか思い出すな。そういうの、元の世界でもなかったっけ?
「金額に応じて配布する本数を増やせば、より多くの寄付が集まるでしょう」
「それ、上限は設けてね?」
「心得ております」
ニタリと笑ったエミールを見て、何に似ているのか思い出した。
なんとか納税って奴だ。
(まぁ、多分前から寄付金の見返りはあったと思うんだよ。みんながみんな、純粋な福祉の精神だけで金を出すとは思えないもん)
「勿論、ご領主様の分は先にお取り置き下さい」
「ん? ああ、ロクは甘いものが嫌いだから奴の分はいらないよ」
「甘いものがお嫌い? 本当に?」
透かし見るようなエミールの視線に、俺は居心地が悪くなって首を竦めた。
「……本当だよ」
「それは判断を保留にしておきましょう」
そう言うとエミールは踵を返して来た道を戻っていった。
(結局、彼は何をしに来たんだ)
俺は憮然としながらも、甘味の話が嘘じゃないとエミールに示せたことにホッとしたのだった。
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