【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

海野ことり

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56.見えない雪は降り積もる-1

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『神様と丁度良い付き合いって、友達かよ!』
 イチヤがそう叫んでいるのを聞いて、エミールは思わず言わずにおれなかった。

『ゆっくりと浸透させてゆくならそれも良いでしょう』
 そう言いながら、心の内で皮肉気に笑う。

(確かに隣人のように寄り添う神がいてもいいだろう。但しそれでは遅いのだ)
 実はエミールは、イチヤに特級神薬の使用許可を求めに来た。
 どう見ても死ぬ人を大勢の前で治し、神の奇跡を見せ付けたら最高のデモンストレーションになる。
 だがその場合、酷く恐れられてしまうだろう。
 人外の化け物と罵られるか、少しでも機嫌を損ねたら何をされるかわからない暴君として怯えられるか。
 いずれにせよ、人は太刀打ちできない凶悪な存在を前にして、平静でいることなど出来ない。
 恐怖による支配は、しかし従ってさえいれば良い目が見られる。
 そう気付いた民はどうするだろうか?

(こぞって信心するだろうよ)
 エミールは人々が恐怖を捩じ伏せる為に必要なのは、勇気などではなく欲望だと知っていた。
 例え破滅が待っているとしても、目の前にある宝には手を伸ばさずにはいられない。
 人とはそういう生き物なのだ。

(だから怖がられてもいい。力を見せ付けて、恐ろしいが御利益のある神だと報せるつもりだったのに……)
 なのにイチヤはメープルシロップなどという聞いたことも見たこともないものを作り出して、エミールの常識を打ち破った。

(甘い……だがそれだけじゃない。芳しい香りと微かな苦味、深いコクと爽やかな風味がある)
 エミールはメープルシロップを掬った匙をペロペロと舐め、この魅力的な味の秘密を知ろうとしてなかなか止めることが出来なかった。

『ふぅっ……。私は甘味の話など、嘘だと思っておりました』
 どうせ嘘だろうが、詐欺師としては自分の方が上なんだ。利用してやる。
 そう思ってイチヤに従っているつもりでいたのに、嘘じゃなかった。イチヤは本当のことを話していた。
 そしてイチヤもまたエミールが自分の話を信じていない、ただ信じた振りをしているだけだと知っていた。

 互いに不誠実だったと知って、エミールは一から始めようと思った。

(作戦も変更だ。甘味を使って金持ちどもから寄付金を集める。くれてやるのは少し惜しいがな)
 本当は心行くまで食べたかったけれど、甘味はこれが最後ではないと言った。次も、その次も。信仰心が集まれば与えて貰える。
 まだまだ甘味を味わうチャンスがある。

(だからまずはビジネスだ。金を儲けるぞ!)
 そう決意を新たにし、エミールは領主の分の甘味はちゃんと取ってくれと言った。そうしたら、領主は甘いものが嫌いなのだと聞かされた。

(はっ! まさか。甘いものが嫌い? イチヤ様を可愛がっているのに?)
 見た目は人間に近くとも、種族としては獣人であるエミールにはイチヤの甘い匂いが嗅ぎ取れた。
 その匂いは領主が近くにいると強くなるし、こちらが赤面してしまうほど濃厚に領主の匂いを身に纏っていることもあった。
 エミールはついふらふらと引き寄せられそうになり、自分も……と思い掛けては慌てて踏みとどまった。

(暴きたいなどと思ってはいけない。あれは領主の想い人だし自分には金蔓だ。本能に支配されて失う訳にはいかない)
 そう思って抑えても、抑えても、獣欲に支配されそうになって困った。
 だが甘味を口にしたら僅かに欲が満たされた。

 “甘いものは欲しいものの代わりになる”
 だから甘味を口にしている間はイチヤを抱いているような気持ちになれた。
 このように甘いのだろうと噛み締めた。

(なのにご領主様は甘味が嫌い? まさか!)
 この世で一番甘いものを食い散らかしながら、甘味が嫌いとは何の冗談だと思った。
 嫌いなら自分に譲れとも思ってしまった。

(イチヤ様を喰えたら他は全て失くしてもいい)
 そんなことを思ってしまいそうになる自分が嫌だった。
 だからエミールは殊更冷静に距離を取る。
 本当は匙などではなく、イチヤの身体を舐め回したいとしても。
 蕾に舌を差し込んでナカをこそげたいとしても、その気持ちには蓋をしなくてはいけない。

(だから甘いものが嫌いだなどと言わないでくれ)
 でないと……エミールは自分の陽物がイチヤを貫くところを想像してしまう。
 領主の代わりにあの甘い身体を貪る。
 口付けて、味わって、感触を愉しんで堪能する。
 それは想像だけでも堪らなく甘美だった。
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