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85.出張指導ー1
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本当のことを言えば、国王はロクサーン侯爵が本気で王家に牙を剥くとは思っていなかった。
だがあの時は引かざるを得なかった。万が一争いにでもなったらとても敵わないし、臣下の前で無様にやられる姿など見せられない。
国王は歳をとって怖気付いたのだ。
(まさか異世界人にあんな使い道があったとは、知っていれば私が利用したものを!)
国王は自分にはないものを持つ獣人が妬ましく、悔しかった。
獣神の血を引く者として、王となる者として強くあれと教えられたし、自分は誰よりも強いと思っていた。しかし年齢には勝てない。
まだ周囲には気付かせていないが、最盛期よりも筋肉が萎み、身体が一回り小さくなり、精力が衰え覇気が弱くなった。
虚勢がバレるのも時間の問題で、あと少しで王も老いたものだと侮る者が出てくるだろう。
そうなったらお終いだから、普通はそこで王位を次世代に譲る。その為に王太子が決められているのだが、ここにきて国王は譲位するのが惜しくなった。
王太子が今ひとつ物足りないところも理由の一つだったが、何よりも自分以外に相応しい者がいるとは思えなかった。
自分こそが高貴な血を引く者、崇め奉られる者、玉座に座る者だ。誰にもその座は渡さないし、ロクサーン侯爵を変えた力があればそれは可能だった。
(しかし秘薬など嘘ではないのか?)
国王はそう半信半疑であったが、ロクサーン侯爵家から献上された神薬を作ったのはあの異世界人だと言う。
ならば信用してもいいのではないか。いや、他に当てがないというのが本当だろう。
(強くなりさえすれば、叡智王のように永く私の御代が続く)
国王は強い自分の統治の下、永年王国を築くことを目指していた。
その為に使えるものは何でも利用するつもりだった。
(異世界人を手に入れられなかったのは残念だが、機会は幾らでもある。まずは力を手に入れるのだ)
国王は秘薬さえ飲めば、直ぐに強くなれるものと思っていた。
だから効果の弱いものから徐々に身体を慣らす必要があると聞いて、ガッカリしてしまった。
***
「いきなり秘薬を飲んではならぬのか?」
国王に訊かれて俺はなるべく丁寧に説明する。
「お渡しする薬はプロテインと言って、服用すると身体を強く逞しくします。但しそれは痛みと引き換えで、より強くなる為にはより強い痛みに耐える必要があります。陛下にご用意した秘薬は最高峰の肉体をお約束すると同時に、死よりも激しい痛みを齎します」
「死よりも激しい痛み……」
ゴクリと国王の喉が鳴った。
彼はバリバリの武闘派だけど、この国の王様なんだから本当に危険な所には出ていかない。どんなに鍛えていても、戦えたとしても、綺麗な戦い方しか知らない。
つまり異世界風に言うなら “現場を知らないお坊ちゃん” ってところか。
(まあ、ビビってもしようがないよね)
俺はちょっとだけ国王への恐怖が薄れた。
「先ずは初級のプロテインを飲んでみては如何でしょうか? その上でどうしても秘薬に挑まれたいということであれば、反対しません」
「いいだろう。万が一の為に、近衛隊の者にも飲ませるが構わぬな?」
「勿論です」
俺はニコニコと笑いながらそう答えた。
だってうちの領地の警備隊なんて、もうみ~んなムキムキだもんね。
その時、国王がコホンと咳払いをして俺の気を引いた。
「ところで、ロクサーン侯爵は秘薬を飲んだのか?」
「いいえ。御前にて、飲んで見せましょうか?」
ロクが聞き返したら、国王は慌てて飲まなくていいと答えた。
これ以上、ロクに強くなられるのが嫌なんだな。
「最終的に、秘薬は陛下しかお飲みになれないのですから、どうせなら近衛隊全員にプロテインを飲ませては如何でしょう?」
同席していたモリスが余計なことを言いやがった。
わざわざ帝国の兵隊を強くする必要なんて無いのに。
ムカムカするけど、どうせプロテインは一般販売する。
黙ってたって、そのうち王城にも出回るんだ。だったら恩を着せておくのも悪くない。
「ロクサーン侯爵、構わぬな?」
「無論です」
ロクも異論はないようで、あっさりと頷いていた。
さぁ終わった終わった、さっさと帰ろうと思ったら、結果が出るまで城に逗留しろと言われてしまった。
俺たちがいたって何が出来るわけでも無いけど、従わなかったら面倒臭いことになる。
それで仕方なくまた地獄の特訓風景を見ることになったんだけど、近衛隊の中に見知った顔があった。
「ゲッ、レオポルト!」
忘れもしない、最初に俺を喰おうとした獅子型獣人だった。
「イチヤ! 良い匂いがする。もっと嗅がせてくれ!」
ガォオオオーン! と吠えながら飛びかかってきたレオポルトをロクが横から薙ぎ払った。
だがあの時は引かざるを得なかった。万が一争いにでもなったらとても敵わないし、臣下の前で無様にやられる姿など見せられない。
国王は歳をとって怖気付いたのだ。
(まさか異世界人にあんな使い道があったとは、知っていれば私が利用したものを!)
国王は自分にはないものを持つ獣人が妬ましく、悔しかった。
獣神の血を引く者として、王となる者として強くあれと教えられたし、自分は誰よりも強いと思っていた。しかし年齢には勝てない。
まだ周囲には気付かせていないが、最盛期よりも筋肉が萎み、身体が一回り小さくなり、精力が衰え覇気が弱くなった。
虚勢がバレるのも時間の問題で、あと少しで王も老いたものだと侮る者が出てくるだろう。
そうなったらお終いだから、普通はそこで王位を次世代に譲る。その為に王太子が決められているのだが、ここにきて国王は譲位するのが惜しくなった。
王太子が今ひとつ物足りないところも理由の一つだったが、何よりも自分以外に相応しい者がいるとは思えなかった。
自分こそが高貴な血を引く者、崇め奉られる者、玉座に座る者だ。誰にもその座は渡さないし、ロクサーン侯爵を変えた力があればそれは可能だった。
(しかし秘薬など嘘ではないのか?)
国王はそう半信半疑であったが、ロクサーン侯爵家から献上された神薬を作ったのはあの異世界人だと言う。
ならば信用してもいいのではないか。いや、他に当てがないというのが本当だろう。
(強くなりさえすれば、叡智王のように永く私の御代が続く)
国王は強い自分の統治の下、永年王国を築くことを目指していた。
その為に使えるものは何でも利用するつもりだった。
(異世界人を手に入れられなかったのは残念だが、機会は幾らでもある。まずは力を手に入れるのだ)
国王は秘薬さえ飲めば、直ぐに強くなれるものと思っていた。
だから効果の弱いものから徐々に身体を慣らす必要があると聞いて、ガッカリしてしまった。
***
「いきなり秘薬を飲んではならぬのか?」
国王に訊かれて俺はなるべく丁寧に説明する。
「お渡しする薬はプロテインと言って、服用すると身体を強く逞しくします。但しそれは痛みと引き換えで、より強くなる為にはより強い痛みに耐える必要があります。陛下にご用意した秘薬は最高峰の肉体をお約束すると同時に、死よりも激しい痛みを齎します」
「死よりも激しい痛み……」
ゴクリと国王の喉が鳴った。
彼はバリバリの武闘派だけど、この国の王様なんだから本当に危険な所には出ていかない。どんなに鍛えていても、戦えたとしても、綺麗な戦い方しか知らない。
つまり異世界風に言うなら “現場を知らないお坊ちゃん” ってところか。
(まあ、ビビってもしようがないよね)
俺はちょっとだけ国王への恐怖が薄れた。
「先ずは初級のプロテインを飲んでみては如何でしょうか? その上でどうしても秘薬に挑まれたいということであれば、反対しません」
「いいだろう。万が一の為に、近衛隊の者にも飲ませるが構わぬな?」
「勿論です」
俺はニコニコと笑いながらそう答えた。
だってうちの領地の警備隊なんて、もうみ~んなムキムキだもんね。
その時、国王がコホンと咳払いをして俺の気を引いた。
「ところで、ロクサーン侯爵は秘薬を飲んだのか?」
「いいえ。御前にて、飲んで見せましょうか?」
ロクが聞き返したら、国王は慌てて飲まなくていいと答えた。
これ以上、ロクに強くなられるのが嫌なんだな。
「最終的に、秘薬は陛下しかお飲みになれないのですから、どうせなら近衛隊全員にプロテインを飲ませては如何でしょう?」
同席していたモリスが余計なことを言いやがった。
わざわざ帝国の兵隊を強くする必要なんて無いのに。
ムカムカするけど、どうせプロテインは一般販売する。
黙ってたって、そのうち王城にも出回るんだ。だったら恩を着せておくのも悪くない。
「ロクサーン侯爵、構わぬな?」
「無論です」
ロクも異論はないようで、あっさりと頷いていた。
さぁ終わった終わった、さっさと帰ろうと思ったら、結果が出るまで城に逗留しろと言われてしまった。
俺たちがいたって何が出来るわけでも無いけど、従わなかったら面倒臭いことになる。
それで仕方なくまた地獄の特訓風景を見ることになったんだけど、近衛隊の中に見知った顔があった。
「ゲッ、レオポルト!」
忘れもしない、最初に俺を喰おうとした獅子型獣人だった。
「イチヤ! 良い匂いがする。もっと嗅がせてくれ!」
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