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87.新たな旅立ちー1
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香木の煙がまるで狼煙のように空に上がり、ロクと森で過ごした日々を懐かしく思い返していたらチャンカチャンカと聞き覚えのある音が響いてきた。
スルスルと不自然な動きをする雲が近付いてきて、白い子象に乗ったお師匠様の姿が見えた。
「お久し振りです、お師匠様」
「そなたも息災だったようで何よりです」
「それにしても……派手な格好ですね」
お師匠様は金襴緞子っていうの? 重そうな金の袈裟を付けていて、おまけに耳輪だの腕輪だの装飾品もいっぱい付けている。頭に被った冠は五仏宝冠というらしいけど、どう見ても国宝クラスのお宝だ。
「人に呼び出された時のことを考え、派手な衣装を用意しました」
嘘か本当か、人によく見られたいのだというお師匠様に呆れる。
「お師匠様の姿は人には見えませんよ?」
「知っています。ですが神格さえあれば――」
「そんな人は滅多にいませんって」
残念だけれど神は誰にでも見えるものではないし、この世界で神格を得た生き物は物凄く少ない。
その代わり一柱の神の力が強い。
(だからこそ貴重で、元の世界の神も欲しがってるんだろうけどね)
そう思ったところで、俺はハヌマーンがいたじゃないかと気付く。
それは確かに神から堕ちた身ではあるけど、多分強いし間違いなく珍しい。
(日本には色々な神がいるから、差別もされないんじゃないかな)
俺は考えれば考えるほど悪くないように思えた。
それでお師匠様に事情を説明しつつ、ハヌマーンにも異界の神になってみないかと持ち掛けてみた。
「断る!」
ハヌマーンのにべもない一言に俺は慌てる。
「ちょ、どうしてさ? 少しくらい、考えてくれても――」
「考えるまでもないだろう。俺は女のいないところには行かない!」
ドーン! と効果音が聴こえてきそうな仁王立ちで言われたがそれならば問題ない。
神界なら勿論女神がいる筈だし、なんだったら女性のお供も見つかるかもしれない。
「俺は女神には興味がない」
「ええっ!? だってお師匠様を襲ったじゃないか!」
「それは正体を知る前だ。その後、天界で見た女はろくなものじゃなかった」
フンスと鼻息も荒く怒っているハヌマーンを見て、そう言えばハヌマーンは神にモテなかったと聞いたことがあったのを思い出した。
それだけじゃなく、嫌な思いもしたのかもしれない。
そう思ってしんみりとしていたら、そもそも神に性別なんてないと言い出した。
「それは知ってるけど、女性の形をとる神もいるんだろう?」
見た目が女ならそれでいいじゃんと言ったら、お前は何もわかっていないと怒られた。
なんだよ、なんで俺が当たられる訳?
俺は更に説得しようとしてお師匠様に止められた。
「イチヤ、ハヌマーンのことは諦めなさい」
お師匠様にそう言われて頭が冷え、俺はおとなしく引き下がることにした。
そもそも本人にその気がなければ成り立たない話だからな。
「でしたらお師匠様に当てはありませんか?」
「ありません。そなたたちが最有力候補です」
クッ、そう言えばお師匠様は俺たちに見込みがあるから弟子にしてくれたんだよな。
他に育てている弟子はいないのか……。
「何処を探したらいいか、助言も頂けませんか?」
このままでは再びロクと引き離されてしまう。
「そなたが探して見つかるとは思えませんが……作ることは出来るかもしれません」
「え? 作る?」
俺はお師匠様の言葉に吃驚して目を見開いた。
だって神でもない俺が神候補を作るだなんて。
「何を驚いているのです。ロクサーン侯が神格を得たのはそなたのお陰でしょう」
「あっ……!」
そう言えばロクは俺を食べることで資格が生まれた。
その後、天界で修行をしてちゃんと神格を得たんだ。
「自分の体質を忘れてた。でも、ロク以外の男に食べられるのは嫌だよ」
それにそもそも怖くって無理だと思う。
「食べる以外にも方法はあるのではないですか?」
「本当に?」
本当にそんな方法があるのかと訊ねたら、お師匠様は取り敢えず自分と旅に出ようと言った。
「えっ、旅? またどうして急に?」
「そなたはまだここでの使命を終えていない気がするからです」
俺に使命なんてあったの?
「星回り、役目――どう言い換えても構いませんが、まだ残っていますね」
そう言われるとそうなのかなって気がしてくる。
面倒だけど、そういうのって無視してもきっといずれは追いつかれるからなぁ。
「俺が自分の使命を果たしたら、ここにいられると思いますか?」
「収まるべきところに収まるでしょう」
それは俺が望んだ答えじゃなかったけど、どうやらこれが精一杯みたいだ。
俺はチラリとロクを見て、頷くのを確認してからお師匠様に了承の返事をした。
「お師匠様と旅に出ます。出来れば余り長期間にならないといいけど……」
「時間は余り重要ではありません」
うん、知ってた。神様にとって、時間はなんの物差しにもならないし、その御蔭で助かることだってある。
だから “手早く済ませよう” なんて思うのは間違いだった。
俺は全てを人手に渡す決意を固める。
「ロク、エルミールとウィリアムとジェスを呼んでくれる? 多分、俺の事業に関しては、全部任せるって一言が必要だと思うんだよ」
「いいのか?」
「いいよ。俺は後ろを振り返らない男なんだ」
既に捨てると決めたものに未練はない。
俺がそうクールに決めたのに、ハヌマーンが大きな声を出して台無しになった。
スルスルと不自然な動きをする雲が近付いてきて、白い子象に乗ったお師匠様の姿が見えた。
「お久し振りです、お師匠様」
「そなたも息災だったようで何よりです」
「それにしても……派手な格好ですね」
お師匠様は金襴緞子っていうの? 重そうな金の袈裟を付けていて、おまけに耳輪だの腕輪だの装飾品もいっぱい付けている。頭に被った冠は五仏宝冠というらしいけど、どう見ても国宝クラスのお宝だ。
「人に呼び出された時のことを考え、派手な衣装を用意しました」
嘘か本当か、人によく見られたいのだというお師匠様に呆れる。
「お師匠様の姿は人には見えませんよ?」
「知っています。ですが神格さえあれば――」
「そんな人は滅多にいませんって」
残念だけれど神は誰にでも見えるものではないし、この世界で神格を得た生き物は物凄く少ない。
その代わり一柱の神の力が強い。
(だからこそ貴重で、元の世界の神も欲しがってるんだろうけどね)
そう思ったところで、俺はハヌマーンがいたじゃないかと気付く。
それは確かに神から堕ちた身ではあるけど、多分強いし間違いなく珍しい。
(日本には色々な神がいるから、差別もされないんじゃないかな)
俺は考えれば考えるほど悪くないように思えた。
それでお師匠様に事情を説明しつつ、ハヌマーンにも異界の神になってみないかと持ち掛けてみた。
「断る!」
ハヌマーンのにべもない一言に俺は慌てる。
「ちょ、どうしてさ? 少しくらい、考えてくれても――」
「考えるまでもないだろう。俺は女のいないところには行かない!」
ドーン! と効果音が聴こえてきそうな仁王立ちで言われたがそれならば問題ない。
神界なら勿論女神がいる筈だし、なんだったら女性のお供も見つかるかもしれない。
「俺は女神には興味がない」
「ええっ!? だってお師匠様を襲ったじゃないか!」
「それは正体を知る前だ。その後、天界で見た女はろくなものじゃなかった」
フンスと鼻息も荒く怒っているハヌマーンを見て、そう言えばハヌマーンは神にモテなかったと聞いたことがあったのを思い出した。
それだけじゃなく、嫌な思いもしたのかもしれない。
そう思ってしんみりとしていたら、そもそも神に性別なんてないと言い出した。
「それは知ってるけど、女性の形をとる神もいるんだろう?」
見た目が女ならそれでいいじゃんと言ったら、お前は何もわかっていないと怒られた。
なんだよ、なんで俺が当たられる訳?
俺は更に説得しようとしてお師匠様に止められた。
「イチヤ、ハヌマーンのことは諦めなさい」
お師匠様にそう言われて頭が冷え、俺はおとなしく引き下がることにした。
そもそも本人にその気がなければ成り立たない話だからな。
「でしたらお師匠様に当てはありませんか?」
「ありません。そなたたちが最有力候補です」
クッ、そう言えばお師匠様は俺たちに見込みがあるから弟子にしてくれたんだよな。
他に育てている弟子はいないのか……。
「何処を探したらいいか、助言も頂けませんか?」
このままでは再びロクと引き離されてしまう。
「そなたが探して見つかるとは思えませんが……作ることは出来るかもしれません」
「え? 作る?」
俺はお師匠様の言葉に吃驚して目を見開いた。
だって神でもない俺が神候補を作るだなんて。
「何を驚いているのです。ロクサーン侯が神格を得たのはそなたのお陰でしょう」
「あっ……!」
そう言えばロクは俺を食べることで資格が生まれた。
その後、天界で修行をしてちゃんと神格を得たんだ。
「自分の体質を忘れてた。でも、ロク以外の男に食べられるのは嫌だよ」
それにそもそも怖くって無理だと思う。
「食べる以外にも方法はあるのではないですか?」
「本当に?」
本当にそんな方法があるのかと訊ねたら、お師匠様は取り敢えず自分と旅に出ようと言った。
「えっ、旅? またどうして急に?」
「そなたはまだここでの使命を終えていない気がするからです」
俺に使命なんてあったの?
「星回り、役目――どう言い換えても構いませんが、まだ残っていますね」
そう言われるとそうなのかなって気がしてくる。
面倒だけど、そういうのって無視してもきっといずれは追いつかれるからなぁ。
「俺が自分の使命を果たしたら、ここにいられると思いますか?」
「収まるべきところに収まるでしょう」
それは俺が望んだ答えじゃなかったけど、どうやらこれが精一杯みたいだ。
俺はチラリとロクを見て、頷くのを確認してからお師匠様に了承の返事をした。
「お師匠様と旅に出ます。出来れば余り長期間にならないといいけど……」
「時間は余り重要ではありません」
うん、知ってた。神様にとって、時間はなんの物差しにもならないし、その御蔭で助かることだってある。
だから “手早く済ませよう” なんて思うのは間違いだった。
俺は全てを人手に渡す決意を固める。
「ロク、エルミールとウィリアムとジェスを呼んでくれる? 多分、俺の事業に関しては、全部任せるって一言が必要だと思うんだよ」
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