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89.森の中ー1
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「ガハァッ! 何をするっ! やめろっ!」
痛い痛いと大騒ぎをするハヌマーンを見て俺は呆れる。
ハヌマーンの奴、全く反省していないよ。
因みにお師匠様は俺たち以外には姿が見えないが、少し離れた場所にいて手を出すつもりはないようだ。
「えーと、猩々の長? 見ての通りハヌマーンは常識がないし、優しさとも無縁だ。でも気が利かないだけで悪意はないんだよ。きっと手下たちのこともわざと置いてきた訳じゃない。ただどうなるか気にしなかっただけなんだ」
俺は精一杯にハヌマーンを庇ったのだけど、猩々の長は全く気持ちを和らげてくれなかった。それどころか眉間のシワが深くなった気がする。
「やはりな。悪猿に情など期待するだけ無駄なのだ」
う~ん、情がないって訳でもない。ただ、彼は彼なりの理屈というか考えで動いているだけで、それが自分の常識と違うからと言って責めるのは違うと思う。
神の行いを人に(猩々は人じゃないけど)理解することなど出来ないように、堕ちたとはいえ神だったハヌマーンを自分と同じように考えてはいけない。
だがしかし、ハヌマーンを動かせない訳ではない。
「ハヌマーン、行方不明の猩々を探しに行こう」
「何故だ?」
「猩々が辿り着いていない理由が知りたい」
「どういうことだ?」
首を傾げるハヌマーンに、極力わかりやすく言って聞かせる。
「猩々は君の眷属ではないけれど、ずっと一緒にいただけあってそれなりに強いだろう?」
「まあな」
猩々はハヌマーンと比べるから弱く感じるだけで、普通の人から見れば十分に強い。
その猩々が故郷に辿り着けていないのは、何かに邪魔をされたか事故に遭ったからだろう。
俺はその理由が知りたい。
「知ってどうする?」
「それはその時になってから考えるけどさ、俺が旅に出た理由を考えたら、強い奴がいるかもしれないなら確認しておいた方がいいだろう?」
「旅に出た理由? それはなんだ?」
そこからかよっ! もうっ!
「そんなに強い存在なら会ってみたいな~、お友達になりたいな~、なんだったら眷属になっても良いかも~」
俺がまるっきり棒読みでそう言ったら、ハヌマーンがわかりやすく狼狽した。
「強いと言っても、俺ほどではないだろう!」
「わかんないよ~、だってハヌマーンはロクに負けるまで、自分よりも強い獣人がいるなんて考えもしなかっただろ?」
「俺は負けておらぬっ!」
確かに、ハヌマーンとロクの決着は付いていない。
でも、最初に二人が戦った時にロクはまだ神格を身につけていなかった。
それでも互角の勝負をしたのだから、今ならもう間違いなくロクの方が強いと思う。
「だからさ、ちゃんと確認しておこうぜ? ハヌマーンより弱いってわかったら俺も諦めるし」
「本当だな? 眷属にならないな?」
「うん。約束する」
ならば早く出掛けよう、と現金にも踵を返したハヌマーンを慌てて引き止める。
「ちょっと待てよ。何処を探したらいいのか、見当くらいは付けてから行こうぜ」
「そんなもの、我が分身に探させればいい」
「それにしたって範囲が広すぎるってば。猩々の長さん、猩々だけが知る道みたいなものはありませんか?」
ダメ元で当てを訊いたらあると言う。
猩々が幻の種族と呼ばれているように、人に見つからないように暮らしているならそれも当然かもしれない。
「殆どは猩々でないと――それかその悪猿でもないと通れない道だが、何箇所か人の生活圏に重なっている場所がある」
それだって現地の人なら近付かないが、外から善からぬものが入ってきていないとは限らない。
「そこには探しに行ってないの?」
「悪猿が同胞を解放したことを知らなかったからな」
「ああ、そうか」
なんだよ、やっぱり全部ハヌマーンが悪いんじゃん。
これはなんとしても猩々を見つけ出して連れて帰らなければ。
「ロク、早々に厄介事に巻き込まれてごめんね」
「想定内だ。問題ない」
穏やかな口調で言われ、ホッとすると同時にロクの端正な佇まいにうっとりとしてしまう。
俺はロクの恋人だけれど、崇拝にも近い感情を持っているので彼の顔を黙って眺めているだけでも幸せだし、一挙一動に見入ってしまう。そしてロクに優しくされたら、逆らうことなんて出来ない。
男の癖にって恥ずかしく思うけど、甘えてしまう。
「チヤ、森の中を歩くのは大変だから、私が抱えて行こう」
「……恥ずかしいよ」
「大丈夫だ。誰も見ていない」
ロクに片手で掬い上げるように抱き上げられ、キュッと首にしがみつく。
大きな声では言えないが、俺はロクに抱っこされるのが大好きだ。
「ずっと抱かれてると疲れちゃうから、たまに自分の足で歩くね」
「わかった。降りたくなったら言ってくれ」
ついっと太ももを一撫でされてパタパタと足を振りたくなる。
嬉しい、楽しい、大好き。ロクに構って貰えると、俺は嬉しい。
「おい、オス同士でじゃれるな」
ハヌマーンに鬱陶しげに言われたが無視する。
大体、俺は久し振りにロクと旅が出来ると思ってワクワクしていたんだ。
無理矢理にくっついてきたハヌマーンに文句を言われる筋合いはない。
「目障りだと言うなら、ハヌマーンは帰っていいよ。俺とロクで行ってくるから」
「それはいかん! 俺もお前と行く!」
「じゃあこのくらいは我慢してよ」
「うぅ……わかった」
どうやら気に入らないなりに黙認してくれるみたいだ。
俺はロクに抱かれたまま森を移動した。
痛い痛いと大騒ぎをするハヌマーンを見て俺は呆れる。
ハヌマーンの奴、全く反省していないよ。
因みにお師匠様は俺たち以外には姿が見えないが、少し離れた場所にいて手を出すつもりはないようだ。
「えーと、猩々の長? 見ての通りハヌマーンは常識がないし、優しさとも無縁だ。でも気が利かないだけで悪意はないんだよ。きっと手下たちのこともわざと置いてきた訳じゃない。ただどうなるか気にしなかっただけなんだ」
俺は精一杯にハヌマーンを庇ったのだけど、猩々の長は全く気持ちを和らげてくれなかった。それどころか眉間のシワが深くなった気がする。
「やはりな。悪猿に情など期待するだけ無駄なのだ」
う~ん、情がないって訳でもない。ただ、彼は彼なりの理屈というか考えで動いているだけで、それが自分の常識と違うからと言って責めるのは違うと思う。
神の行いを人に(猩々は人じゃないけど)理解することなど出来ないように、堕ちたとはいえ神だったハヌマーンを自分と同じように考えてはいけない。
だがしかし、ハヌマーンを動かせない訳ではない。
「ハヌマーン、行方不明の猩々を探しに行こう」
「何故だ?」
「猩々が辿り着いていない理由が知りたい」
「どういうことだ?」
首を傾げるハヌマーンに、極力わかりやすく言って聞かせる。
「猩々は君の眷属ではないけれど、ずっと一緒にいただけあってそれなりに強いだろう?」
「まあな」
猩々はハヌマーンと比べるから弱く感じるだけで、普通の人から見れば十分に強い。
その猩々が故郷に辿り着けていないのは、何かに邪魔をされたか事故に遭ったからだろう。
俺はその理由が知りたい。
「知ってどうする?」
「それはその時になってから考えるけどさ、俺が旅に出た理由を考えたら、強い奴がいるかもしれないなら確認しておいた方がいいだろう?」
「旅に出た理由? それはなんだ?」
そこからかよっ! もうっ!
「そんなに強い存在なら会ってみたいな~、お友達になりたいな~、なんだったら眷属になっても良いかも~」
俺がまるっきり棒読みでそう言ったら、ハヌマーンがわかりやすく狼狽した。
「強いと言っても、俺ほどではないだろう!」
「わかんないよ~、だってハヌマーンはロクに負けるまで、自分よりも強い獣人がいるなんて考えもしなかっただろ?」
「俺は負けておらぬっ!」
確かに、ハヌマーンとロクの決着は付いていない。
でも、最初に二人が戦った時にロクはまだ神格を身につけていなかった。
それでも互角の勝負をしたのだから、今ならもう間違いなくロクの方が強いと思う。
「だからさ、ちゃんと確認しておこうぜ? ハヌマーンより弱いってわかったら俺も諦めるし」
「本当だな? 眷属にならないな?」
「うん。約束する」
ならば早く出掛けよう、と現金にも踵を返したハヌマーンを慌てて引き止める。
「ちょっと待てよ。何処を探したらいいのか、見当くらいは付けてから行こうぜ」
「そんなもの、我が分身に探させればいい」
「それにしたって範囲が広すぎるってば。猩々の長さん、猩々だけが知る道みたいなものはありませんか?」
ダメ元で当てを訊いたらあると言う。
猩々が幻の種族と呼ばれているように、人に見つからないように暮らしているならそれも当然かもしれない。
「殆どは猩々でないと――それかその悪猿でもないと通れない道だが、何箇所か人の生活圏に重なっている場所がある」
それだって現地の人なら近付かないが、外から善からぬものが入ってきていないとは限らない。
「そこには探しに行ってないの?」
「悪猿が同胞を解放したことを知らなかったからな」
「ああ、そうか」
なんだよ、やっぱり全部ハヌマーンが悪いんじゃん。
これはなんとしても猩々を見つけ出して連れて帰らなければ。
「ロク、早々に厄介事に巻き込まれてごめんね」
「想定内だ。問題ない」
穏やかな口調で言われ、ホッとすると同時にロクの端正な佇まいにうっとりとしてしまう。
俺はロクの恋人だけれど、崇拝にも近い感情を持っているので彼の顔を黙って眺めているだけでも幸せだし、一挙一動に見入ってしまう。そしてロクに優しくされたら、逆らうことなんて出来ない。
男の癖にって恥ずかしく思うけど、甘えてしまう。
「チヤ、森の中を歩くのは大変だから、私が抱えて行こう」
「……恥ずかしいよ」
「大丈夫だ。誰も見ていない」
ロクに片手で掬い上げるように抱き上げられ、キュッと首にしがみつく。
大きな声では言えないが、俺はロクに抱っこされるのが大好きだ。
「ずっと抱かれてると疲れちゃうから、たまに自分の足で歩くね」
「わかった。降りたくなったら言ってくれ」
ついっと太ももを一撫でされてパタパタと足を振りたくなる。
嬉しい、楽しい、大好き。ロクに構って貰えると、俺は嬉しい。
「おい、オス同士でじゃれるな」
ハヌマーンに鬱陶しげに言われたが無視する。
大体、俺は久し振りにロクと旅が出来ると思ってワクワクしていたんだ。
無理矢理にくっついてきたハヌマーンに文句を言われる筋合いはない。
「目障りだと言うなら、ハヌマーンは帰っていいよ。俺とロクで行ってくるから」
「それはいかん! 俺もお前と行く!」
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俺はロクに抱かれたまま森を移動した。
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