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92.天下を取る為にー1
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因幡の白兎に騙されたワニのようにごろんごろんと寝転がった猩々たちを見て、物悲しい気持ちになる。
こいつらって阿呆だよな。
「全ての猩々に獣神の跡があります」
「全部……? 試すなら一匹で良かったんじゃないの?」
「試したい神が多かったのか、回数を重ねたかったのか、或いは量が必要だったのでしょう」
「量?」
俺の言葉にお師匠様は長い睫毛をファサファサと瞬かせて言った。
「量があれば、どれか一つは成功すると思ったのかもしれません」
そんな、ダメ元みたいに気軽に試されたら流石に可哀想なんだけど。
「でも一匹も成功しなかったんだね? まさか連れ去られているってことはないよね?」
「それはないでしょう。ハヌマーンも手下の数くらいは把握しているでしょうし、足りなければ大騒ぎをしています」
「うむ、十二匹全て揃っているぞ!」
ハヌマーンが得意げにそう言ったのでちょっとイラッときたけど、獣神の企みが成功していないなら良かった。
「お師匠様、もう少し何かわかりませんか?」
「私は人の神なので、猩々たちのことはよくわかりません」
お師匠様がそう言ったら子象が鼻をパオ~ンと振り上げ、ドスッドスッと足を振り下ろしながら猩々たちの腹の上を歩いた。
(ひでぇ……)
俺は余りの傍若無人な振る舞いに、ドン引きして止めるのも忘れ、ただ呆然と見ていた。
すると踏まれた猩々たちが『けふっ、けふっ』と煙のようなものを吐き出し、その煙が中空にいつまでも留まっているのを見てお師匠様がついっと手を差し出した。
(おおっ、煙がお師匠様の手のひらの上に集まってきて……チャイニーズ・ファンタジーっぽいな)
俺が元の世界でよく観ていた、妖怪の出てくる中国映画みたいで面白い。
このまま煙が集まって丸薬になればバッチリなんだけどな、と展開を先読みしていたが外れた。
お師匠様の手のひらの上で、集まった煙が凝りかけて消えたんだ。
「消えましたね」
(えっ、神様の残滓なのに? 弱すぎじゃない? 本当に大神が警戒するほどの神なの?)
俺は余りの呆気なさに肩透かしを食らったような気分になったけど、お師匠様は違ったらしい。満足げに微笑んだ。
「これで獣神の企みがわかりました。その昔、大神が泥で出来た人形に息を吹き込んで命を与えたのを真似して、猩々に息を吹き込んで操ろうとしたのでしょう。ですが死体ならばともかく、生きている猩々に神の息を吹き込んでも使えはしません。猩々の霊が邪魔です」
「邪魔って言わないであげて!」
なんか、助かったのがいけないみたいじゃん。
思わずそう詰った俺に、お師匠様は済まなそうに謝ってきた。
「済みません、やはり死体でも上手くいきません。全くの空でも駄目なのです」
「謝るとこ、そこじゃないよっ!」
思わず突っ込んでおいて、こういう人って大学にもいたなと懐かしくなる。
「真面目な話、お師匠様なら眷属の作り方を知ってるんでしょ?」
「ええ。ですが私には作れません」
「それはお師匠様が人の神だから?」
「それもありますが、力が足りません」
むぅ……。お師匠様がどのくらい強い神なのかなんて、人の身である俺にはわからないけど……。
「なら、大神なら作れる?」
「ええ」
やっぱり獣神は大神より劣るのか。
ただ神同士が直接争うことはタブーみたいで、弱くてもやり方次第では強者を出し抜くことが出来る。
だから獣神もこんな風に手を出してきたのかもしれない。
「俺が、下界は俺の縄張りだって言ったら、俺のもんだって主張したら手を出さなくなるかな?」
「下界の君主になるつもりですか?」
流石にお師匠様も吃驚した顔を見せる。
でもロクとハヌマーンはケロッとした顔をしているのがおかしい。
「君主って言うか、別に支配したり臣下が欲しい訳じゃないんだ。ただ他所から手出し出来ないようにしたい」
「なんの為にでしょう?」
なんの為? そんなの、考えてなかったけど……。
「強いて言うなら、自分の為かな。人の力じゃどうにもならない奴らに好き勝手をされるとムカつく。だから奴らの自由にはさせない、俺の管轄に手を出すなってそれだけ」
「随分と単純な理由ですね」
「しようがないじゃん。すっごくムカついて、黙ってられないんだから」
俺は別にそれほど負けず嫌いでもないし、意地とか闘争心も余り無い。
寧ろ争いごとは避けたい。
それでもどうしても嫌だ、許せないってことはあるし、その時は黙っていられない。
前の世界でも、『お前、それほど強くないじゃん。なのにどうして折れないんだ?』って不思議そうに訊かれたことがあったけど、『だって嫌なんだ』としか俺は答えられなかった。
「チヤは頑固だからな」
くすりと笑いながらロクに髪をクシャクシャにされ、ついでに鼻先で擦られてキスをされて気分が良くなる。
頑固でもなんでもロクが受け入れてくれるならそれでいい。
俺にはロクが付いてる。
「まあ私としても、獣神よりはイチヤに天下を取って欲しいです」
「天下って、随分と壮大なことを言うなぁ」
「大神に取り引きを持ち掛けた人間が何を言うのですか」
「確かに」
俺はお師匠様とかハヌマーンでなんとなく慣れてしまったが、そもそも神に行き着ける人間がどのくらいいるのか。しかも取り引きまで成立させた。
それに比べたら、天下を取るくらいは小さなことかもしれない。
「でも、どうしたら天下を取ったことになるの? 戦争とかしたくないし、世界統一なんて現実的じゃないだろう」
「そなたの場合、既に半分くらいは達成しています」
「へっ?」
「神の知己を得て、神に認識され、世界の守護者たろうとする者。残りの半分は外敵を退け、実績を作ることです」
そうか、それだけか。
俺は余りにも淡々と条件を挙げられ、うっかりそのくらいかなんて思ってしまった。
神と争っても勝ち目なんてないって、自分で言ったばかりなのに。
そう思って警戒する俺の前で、お師匠様は案の定、ろくでもないことを言い出した。
こいつらって阿呆だよな。
「全ての猩々に獣神の跡があります」
「全部……? 試すなら一匹で良かったんじゃないの?」
「試したい神が多かったのか、回数を重ねたかったのか、或いは量が必要だったのでしょう」
「量?」
俺の言葉にお師匠様は長い睫毛をファサファサと瞬かせて言った。
「量があれば、どれか一つは成功すると思ったのかもしれません」
そんな、ダメ元みたいに気軽に試されたら流石に可哀想なんだけど。
「でも一匹も成功しなかったんだね? まさか連れ去られているってことはないよね?」
「それはないでしょう。ハヌマーンも手下の数くらいは把握しているでしょうし、足りなければ大騒ぎをしています」
「うむ、十二匹全て揃っているぞ!」
ハヌマーンが得意げにそう言ったのでちょっとイラッときたけど、獣神の企みが成功していないなら良かった。
「お師匠様、もう少し何かわかりませんか?」
「私は人の神なので、猩々たちのことはよくわかりません」
お師匠様がそう言ったら子象が鼻をパオ~ンと振り上げ、ドスッドスッと足を振り下ろしながら猩々たちの腹の上を歩いた。
(ひでぇ……)
俺は余りの傍若無人な振る舞いに、ドン引きして止めるのも忘れ、ただ呆然と見ていた。
すると踏まれた猩々たちが『けふっ、けふっ』と煙のようなものを吐き出し、その煙が中空にいつまでも留まっているのを見てお師匠様がついっと手を差し出した。
(おおっ、煙がお師匠様の手のひらの上に集まってきて……チャイニーズ・ファンタジーっぽいな)
俺が元の世界でよく観ていた、妖怪の出てくる中国映画みたいで面白い。
このまま煙が集まって丸薬になればバッチリなんだけどな、と展開を先読みしていたが外れた。
お師匠様の手のひらの上で、集まった煙が凝りかけて消えたんだ。
「消えましたね」
(えっ、神様の残滓なのに? 弱すぎじゃない? 本当に大神が警戒するほどの神なの?)
俺は余りの呆気なさに肩透かしを食らったような気分になったけど、お師匠様は違ったらしい。満足げに微笑んだ。
「これで獣神の企みがわかりました。その昔、大神が泥で出来た人形に息を吹き込んで命を与えたのを真似して、猩々に息を吹き込んで操ろうとしたのでしょう。ですが死体ならばともかく、生きている猩々に神の息を吹き込んでも使えはしません。猩々の霊が邪魔です」
「邪魔って言わないであげて!」
なんか、助かったのがいけないみたいじゃん。
思わずそう詰った俺に、お師匠様は済まなそうに謝ってきた。
「済みません、やはり死体でも上手くいきません。全くの空でも駄目なのです」
「謝るとこ、そこじゃないよっ!」
思わず突っ込んでおいて、こういう人って大学にもいたなと懐かしくなる。
「真面目な話、お師匠様なら眷属の作り方を知ってるんでしょ?」
「ええ。ですが私には作れません」
「それはお師匠様が人の神だから?」
「それもありますが、力が足りません」
むぅ……。お師匠様がどのくらい強い神なのかなんて、人の身である俺にはわからないけど……。
「なら、大神なら作れる?」
「ええ」
やっぱり獣神は大神より劣るのか。
ただ神同士が直接争うことはタブーみたいで、弱くてもやり方次第では強者を出し抜くことが出来る。
だから獣神もこんな風に手を出してきたのかもしれない。
「俺が、下界は俺の縄張りだって言ったら、俺のもんだって主張したら手を出さなくなるかな?」
「下界の君主になるつもりですか?」
流石にお師匠様も吃驚した顔を見せる。
でもロクとハヌマーンはケロッとした顔をしているのがおかしい。
「君主って言うか、別に支配したり臣下が欲しい訳じゃないんだ。ただ他所から手出し出来ないようにしたい」
「なんの為にでしょう?」
なんの為? そんなの、考えてなかったけど……。
「強いて言うなら、自分の為かな。人の力じゃどうにもならない奴らに好き勝手をされるとムカつく。だから奴らの自由にはさせない、俺の管轄に手を出すなってそれだけ」
「随分と単純な理由ですね」
「しようがないじゃん。すっごくムカついて、黙ってられないんだから」
俺は別にそれほど負けず嫌いでもないし、意地とか闘争心も余り無い。
寧ろ争いごとは避けたい。
それでもどうしても嫌だ、許せないってことはあるし、その時は黙っていられない。
前の世界でも、『お前、それほど強くないじゃん。なのにどうして折れないんだ?』って不思議そうに訊かれたことがあったけど、『だって嫌なんだ』としか俺は答えられなかった。
「チヤは頑固だからな」
くすりと笑いながらロクに髪をクシャクシャにされ、ついでに鼻先で擦られてキスをされて気分が良くなる。
頑固でもなんでもロクが受け入れてくれるならそれでいい。
俺にはロクが付いてる。
「まあ私としても、獣神よりはイチヤに天下を取って欲しいです」
「天下って、随分と壮大なことを言うなぁ」
「大神に取り引きを持ち掛けた人間が何を言うのですか」
「確かに」
俺はお師匠様とかハヌマーンでなんとなく慣れてしまったが、そもそも神に行き着ける人間がどのくらいいるのか。しかも取り引きまで成立させた。
それに比べたら、天下を取るくらいは小さなことかもしれない。
「でも、どうしたら天下を取ったことになるの? 戦争とかしたくないし、世界統一なんて現実的じゃないだろう」
「そなたの場合、既に半分くらいは達成しています」
「へっ?」
「神の知己を得て、神に認識され、世界の守護者たろうとする者。残りの半分は外敵を退け、実績を作ることです」
そうか、それだけか。
俺は余りにも淡々と条件を挙げられ、うっかりそのくらいかなんて思ってしまった。
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