ゆっくり進みながらも振り返ろうとする心情を、人は愛と呼ぶのです

はるた

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こっそり、ふたりで

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「優吾」
「ん? ケイン、どした?」

誰かの気配がすると思えば、鏡越しに見えたのは少し着崩れたケインであった。
あの女子たちの輪から抜け出せるとは。洗面台から続くトイレに向かう気配がないため、手でも洗いたいのかと身体をズラしたが違うらしい。
もしや何かあったのかと十センチ近く上にある顔を見つめれば、少し逡巡したあとホッと息を吐き出された。

「……昼間、あまり体調がよくなさそうだったからな。心配で様子を見にきたんだ」
「え? あ~あれ? はは、お前ホント心配性な。ほら、お前がいないと盛り上がんないだろ? 早く戻ろうぜ」

まさか、ケインがひとりでこの場に来たのが優吾のためだったとは。
心優しい友人への感謝を心の中だけで述べながら、優吾は今日呼ばれた理由を思い出してケインの腕を引こうとした。少し熱い程度の掌でケインの腕を掴み、ほら、と声を掛けようとしたが、その前にケインは優吾の掌に己の掌を重ねてきた。

「ケイン? どした、酔ってる?」
「……優吾、やはり一緒に帰ろう」
「え?」
「俺も、少し飲み過ぎてな。お互いを口実にして抜けないか?」

言うが早いか。ケインは優吾の返事を待たずに腕を外して席へと戻り、かと思えば二人分のバッグを持って帰ってきた。
訳も分からず、理解することもできないまま目を白黒させていると、今度は優吾の方がケインに手首を掴まれる。
痛いほどの力ではないが、引き剥がせるほどやわではない力で持って握られ、そのまま真っすぐ店を出て行かされた。

「ま、ちょっ! ケイン⁈」

後ろから引き留める声が聞こえ、何か言わなければと分かってはいたのだが、ケインのあまりの力強さに、優吾は一言も口から吐き出せずに外へと連れ出されていた。
夜はもう夏の気配を完全に失くし、肌寒く吹きすさぶ風が酒で火照った頬を撫でる。
数分ほど誰もいない裏道を歩いているところで、ようやく優吾はこの状況に整理が付いた。

「……あ~あ、今度早野に怒られるぞ?」
「参加費は置いてきたし、一時間はあの場にいた。これ以上問題が?」
「そう言われたら、ん~まぁ、そうだけど」

バッグを人質に取られながら握られた手首を見つめる。
正直、優吾もあの場の食事は食べ尽くしたし、心から楽しいとは思っていなかったので、こうして二人で抜け出したことに大きな不満はなかった。ケインも同じ気持ちだったのかと考え、誘ったことを悪く思い、ゆっくり彼の手から抜け出す。
そこで思い出したが、参加費は後払い制であった。この様子を見るに優吾の分まで先に支払ってくれたのか、そうまでして帰りたかったのだろうかと、優吾はケインの隣に並び顔を見上げた。
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