10 / 36
こっそり、ふたりで
しおりを挟む「優吾」
「ん? ケイン、どした?」
誰かの気配がすると思えば、鏡越しに見えたのは少し着崩れたケインであった。
あの女子たちの輪から抜け出せるとは。洗面台から続くトイレに向かう気配がないため、手でも洗いたいのかと身体をズラしたが違うらしい。
もしや何かあったのかと十センチ近く上にある顔を見つめれば、少し逡巡したあとホッと息を吐き出された。
「……昼間、あまり体調がよくなさそうだったからな。心配で様子を見にきたんだ」
「え? あ~あれ? はは、お前ホント心配性な。ほら、お前がいないと盛り上がんないだろ? 早く戻ろうぜ」
まさか、ケインがひとりでこの場に来たのが優吾のためだったとは。
心優しい友人への感謝を心の中だけで述べながら、優吾は今日呼ばれた理由を思い出してケインの腕を引こうとした。少し熱い程度の掌でケインの腕を掴み、ほら、と声を掛けようとしたが、その前にケインは優吾の掌に己の掌を重ねてきた。
「ケイン? どした、酔ってる?」
「……優吾、やはり一緒に帰ろう」
「え?」
「俺も、少し飲み過ぎてな。お互いを口実にして抜けないか?」
言うが早いか。ケインは優吾の返事を待たずに腕を外して席へと戻り、かと思えば二人分のバッグを持って帰ってきた。
訳も分からず、理解することもできないまま目を白黒させていると、今度は優吾の方がケインに手首を掴まれる。
痛いほどの力ではないが、引き剥がせるほどやわではない力で持って握られ、そのまま真っすぐ店を出て行かされた。
「ま、ちょっ! ケイン⁈」
後ろから引き留める声が聞こえ、何か言わなければと分かってはいたのだが、ケインのあまりの力強さに、優吾は一言も口から吐き出せずに外へと連れ出されていた。
夜はもう夏の気配を完全に失くし、肌寒く吹きすさぶ風が酒で火照った頬を撫でる。
数分ほど誰もいない裏道を歩いているところで、ようやく優吾はこの状況に整理が付いた。
「……あ~あ、今度早野に怒られるぞ?」
「参加費は置いてきたし、一時間はあの場にいた。これ以上問題が?」
「そう言われたら、ん~まぁ、そうだけど」
バッグを人質に取られながら握られた手首を見つめる。
正直、優吾もあの場の食事は食べ尽くしたし、心から楽しいとは思っていなかったので、こうして二人で抜け出したことに大きな不満はなかった。ケインも同じ気持ちだったのかと考え、誘ったことを悪く思い、ゆっくり彼の手から抜け出す。
そこで思い出したが、参加費は後払い制であった。この様子を見るに優吾の分まで先に支払ってくれたのか、そうまでして帰りたかったのだろうかと、優吾はケインの隣に並び顔を見上げた。
0
あなたにおすすめの小説
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
BL小説家ですが、ライバル視している私小説家に迫られています
二三@冷酷公爵発売中
BL
BL小説家である私は、小説の稼ぎだけでは食っていけないために、パン屋でバイトをしている。そのバイト先に、ライバル視している私小説家、穂積が新人バイトとしてやってきた。本当は私小説家志望である私は、BL小説家であることを隠し、嫉妬を覚えながら穂積と一緒に働く。そんな私の心中も知らず、穂積は私に好きだのタイプだのと、積極的にアプローチしてくる。ある日、私がBL小説家であることが穂積にばれてしまい…?
※タイトルを変更しました。(旧題 BL小説家と私小説家がパン屋でバイトしたらこうなった)2025.5.21
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
デコボコな僕ら
天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。
そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる