お役御免の二代目聖女は異国の毒舌魔法師の手を握る。

千花 夜

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お好きにどうぞ。私も好きにしますので。

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「レスティア。最早貴様は聖女に相応しくない。聖女に真に相応しいのは、エリスだ。君の聖女としての身分をはく奪し、王城から追放する!!!」


 私の目の前に、を庇うようにして立った殿下の言葉を聞いて。


「――承知いたしましたわ。私を要らぬとおっしゃるのでしたら、そのように」


 私は既に癖となっていた穏やかな微笑みを顔から消し、冷たく殿下と女を見据えた。







 私は没落した侯爵家の末娘として生まれた。
 王都の端っこも端っこ、最早王都ともいえないような場所に本邸を構え、それでも「侯爵」というお飾りの身分で周囲の平民たち相手に大きな顔をする私の家は、紛れもなく醜い存在であったと思う。貯蓄に見合わない人数の兄妹たちは皆両親に似て愚かであったから、無断で方々に借金をしては浪費を行い、家計を更に圧迫する始末。

 そんな家で生まれ育った私だって、勿論欲しいものは沢山あった。けれど、その願望のままに動くことを躊躇う程度には、一般常識を備えていた。だから私はなけなしのお小遣いを貯めては(それだって家族が借金で作った金の一部に過ぎなかったのだろうけれど)知識を得るために本を買った。


「あらレスティア、貴女、とんだお馬鹿さんね。高潔な貴族の令嬢に知識なんて不要よ。女は美しいドレスと化粧、そしてダンスの技術を持っていれば幸せになれるのだから」


 なんて姉に苦言を呈されても、私は知識を得ることを止めなかった。
 知識を得て、通っている貴族学園の教授の目に留まる事が出来れば、王城の女官候補として推薦状がもらえるかもしれなかったから。努力して努力して、女官になることが出来れば、安心安全のお金で毎日いい暮らしができるから。


 果たして目論見通りに女官への推薦状を齢16にしてもらうことが出来た私は、歯軋りをする兄妹や両親を放り出して王都に入る事となった。勿論ともに連れて行けだの殿方を紹介しろだのと雑音は沢山聞こえたけれど、それら全て私の輝かしい生活の前では些細な事であった。

 王城の中にある女官の寮(なんと1人1部屋の好待遇だった)に入った私は、とにかく周囲の女官に嫌われないよう立ち回った。彼女ら女官とて貴族の令嬢であるから、陰湿ないじめは常のあったし、私のような辺境の没落貴族はその対象になりやすかった。
 私は先輩には身分が下であれど敬語を使い、同僚には身分に拘らず対等に接することを心掛けた。それが原因で諍いが起こった時は、真摯に相手の部屋に伺って相手の気持ちを聞き、私の気持ちを語って相談をした。


「貴女、いい子ぶって気に入られたいのでしょう。殿下のことを狙っているのではなくて?」
「そのように貴女様が思われたのでしたら、私の至らぬところですわ。ですが、私、正直に申しますと、人並より少しだけいい生活をす目指しているだけですの。お金だけでなく、人間関係も含めて」
「人間関係……?」
「えぇ。女官皆が陰で争うことなく意見を言い合い、目標について話し合って時には馬鹿正直に喧嘩することが出来る関係になれば、きっと心労は減ってより楽しく仕事に励むことが出来ると思うのです。それに私、お友達とお食事を共にすることが夢なのですわ」
「そ、んな、夢物語あるわけがないでしょう……皆、後宮の正妃や側妃候補の世話をしつつも自分がお零れを狙っているのですもの。敵なのよ」
「腹積もりはいくらでもあります。人間ですもの。それと常日ごろから嫌がらせをすることは無関係ですわ。いざという時にやらなければ意味がないもの」
「……今貴女結構怖いこと言った?」
「?」


 話し合いを何度も何度もするうちに、女官の中でも一定の地位を得ることが出来た私は、安寧を手に入れた。それでも知識を得ることはやめず、魔法も生活一般で使える様なものであれば使いこなすことが出来るようになった。
 魔法が使える女官は珍しいようで、嫉妬も買ったが今までの語らいが功を奏したのか嫌がらせを受けることはなく。掃除や皿洗いなどで重宝されるようになった私は、王城の中でもそこそこ名の知れた存在となった。――それこそ、騎士団のヒラ団員や外からくる商人たち何人かとも、仲良くなるくらいには。

 そして。

 そして。

 
「――初めまして。レスティア。わたし、ずっとあなたに会いたかったのよ」
「……――、せいじょ、さま」


 私は、神様のようなお方に出逢ったの。

 
 
 私が聖女様に見初められたという話は、瞬く間に王城を駆け巡った。驚いたことに女官たちは皆祝福してくれ、「貴女が聖女候補と言うのなら納得だわ」と評価してくれた。殿下の妻以外にも国母ともいえる聖女の立場をも狙っていた後宮の令嬢方には睨まれたが、聖女様に逆らえるはずもなく。
 私は女官室から神殿に移り、聖女の訓練を受けることとなった。

 あらゆる欲から身体と思考を切り離し、心身ともに純潔を保つこと。それがどれ程難しい事か。我欲ばっかりのエリス嬢には分からないだろう。
 泣き叫ぶ日もあった。買い物がしたいと、ドレスが香水がお菓子が本が欲しいと、逃げ出そうとした日も。でもその度に神官たちに引きずり戻されては冷たい牢に入れられた。聖女様も労し気に私を慰めつつも、必要な事であると冷厳な姿勢を崩さなかった。

 修行をし、祈り、神について学び、神を国民を愛することを教え込まれた。家族への愛憎をすべて捨て、ただの民として分け隔てなく愛せよと言われた。


 そうしてようやく、私は神の言葉を聴くことが出来たのだ。

 






 それを、こんな、甘やかされてばかりの令嬢が?


「悲しいけれど、それが神の意志であるとがおっしゃるなら仕方ありませんね。私は王都を出て、修行に励みます」
「えッ、違うわ。貴女には神殿で私の世話を」
「いいえ。神の愛から外れた私に、この国の中心である王都にいる資格はありません。増してや神殿なんて――。修行の旅の末には国を出て、余生を大人しく過ごしましょう」
「そ、それは」


 誰が、貴方の世話なんてするものですか。


 聖女じゃなくなったのなら、せいぜい好き勝手やらせてもらいますとも。
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