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ここは、ブリューセルデイン国。周囲には様々な国に囲まれ、貿易の中継点として重要な場所である。
この国は他国と比べて技術力は高いものの、気候は寒さが厳しいせいか、なかなか安定しないのが難点だ。しかし技術者が多いため、宝石職人や町の美術品、街づくりは安定している。…と、子供の頃に教わった。
俺にとって外の世界は馴染みのない場所だが、それでも大事な場所だ。
この国は、あの人が継ぐべきだった、大切な場所だから。
「陛下」
ノックの後に、物腰柔らかそうな雰囲気の、茶髪の青年が俺の私室に入ってくる。
彼の名前は、フェイス・クリストフ。
今のこの国の中枢の要の一人であり、俺が王になるために最も尽力してきたうちの一人だ。
一見、どこにでもいるような平凡で優しげな顔立ちをした青年だが、裏腹に、政治においては、どんな年上の人間に対しても物怖じせず、確かな知識と深い洞察力でこの国を支えてくれている。
俺は勉強しているとはいえ、元々頭が良いわけではないため、いつも彼には助けられている。
「支度が終わりましたら、速やかにお部屋へお越しください。王に見て頂くべき案件が、特に今日は多くございます」
「わかった。…いつもありがとう」
朝食を済ませた後は、一人自室にこもって、王のサインが必要な書類に目を通し、印を押していく作業をする。
簡単なようだが、とにかく量がたくさんあるため一日部屋にこもっていても終わらないことがある。そのうえ、俺は王になったとはいえ、元から帝王学を学んでいたわけではないし、あらゆる学問に精通しているわけではない。そのため、意味を調べるために、書物庫まで調べることもザラである。だから、なかなか作業がはかどらないことも多い。
書物を調べなくても、他の詳しい人間に聞けばよいのかもしれない。
けれど、今の俺にはそれは難しいことであった。
何故なら、俺は宮廷において、王でありながらーー同時に、厄介者でもあったからだ。
三年前、この国の次期国王候補であった俺の兄が、隣国王女の殺人事件の犯人として国外追放された。
レオンハルト・フォン・ブリュックトゥルス。それが、彼の名前ーーーだった。
彼は幼い頃から帝王学を学び、それこそあらゆる学問を勉強していた。
それだけではなく、武勇にも優れ、宮廷の中でも1,2を争う腕の持ち主だった。
でも、そんなことはどうでもよくて。
俺にとって彼はーー兄は、本当に光のような存在だった。
ひとりぼっちだった俺を見つけてくれて、その優しい笑顔で、俺の知らないことを色々と喋ってくれる。
彼が俺の事を見てくれる日々は、とても眩しくて、誇らしくて。
こんな時間が、いつまでも続けばいいと。
ずっと強く、願っていた。
ーーーけれど。
現実の、俺はと言えば。
好きだった兄を、隣国の王女殺しの犯人として。
城から追い出し、僻地へと追いやった。
俺は知っていたーーそれはただの濡れ衣に過ぎないと。
それでも、その偽りを問いただすことはできるほど。
あの頃の自分は、無力なただの替わりの効く、王族の1人だった。
「あ」
「…ちっ」
人目を忍んで俺が書庫へ足を運ぶと、厄介な奴に見つかる。
ロイ・ガーテンベルク。弱冠28歳にして、この国の未来を担う若き将軍だ。
彼は、レオンの兄貴分だった人だ。
彼自身もまた、幼い頃から面倒を見てきた兄を追い出し、地位を得た俺のことを、快く思わない人間の一人だった。
「…こんな真っ昼間から、どちらへ行かれるのですか?」
「昼間は政務をするための時間だ。それ以外に何があるんだ?」
「しかし、政務室とは反対方向だとお見受けいたしますが」
「そのように疑われなくとも、王の責務は恙無く全うする。安心しろ」
目を伏せて、俺はその場を後にする。小さい頃は、俺もあの人には良くしてもらった。勿論、それは兄のおかげだということは分かっている。
自業自得とはいえ、胸が痛むのは、無視した。
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