名を忘れた悪役令嬢

御伽夢見

文字の大きさ
15 / 23

ドレスとシリウス

しおりを挟む
 テーミスの居ない王宮で、シリウスは目の前のドレスをみつめていた。
 染み抜きのプロが作り上げたドレス。赤黒い色を抜き、それでもかすかに残った痕跡は遠目には目立たないが、近寄るとかすかに変色がわかるため、新たに染色を施した。
 
 テーミスが気に入っていたドレス。勝手に染色し、何を思うのか。いや、血の色が消えたところでテーミスがこれをはたして着るのか。アリアドネの血と、落下した時にテーミス自身も血が流れた。曰く付きになってしまったドレス。

 でも、シリウスは勝手に染み抜き、染色しても処分はできなかった。

 持ち主はあくまでテーミスだ。

 ・・・テーミス。無事に公爵家から出てこれるのだろうか?

 両手で頭を抱え、ドレスの前の椅子に座り込む。

 助けたくても間に合わず、落下した彼女に必死に治癒魔法をかけた自分。

 逝くな、逝くな、頼むから!

あの時はひたすらそれだけを思ってありったけの力で治癒魔法を使った。

 未だに夢にあの場面が出てくる。

 ただ、夢と現実が決定的に違うのは、夢では治癒魔法が間に合わず、彼女は再び動くことはなかった。そこで目が覚める。失う恐怖。あの夢ではアリアドネも治療院に間に合わなかったと思う。

 「テーミス・・・アリー・・・。」

 シリウスはボソッと名前を口にした。

 「お呼びですか?」

 突然声がきこえ、驚いてシリウスは頭をあげる。

 「アリー?!」

 「ごめんなさい、さっき一度声をかけたけどシリウスは聞こえてなかったみたいだから。それよりも、そのドレスは・・。」

 「・・・うん。あの日・・・のドレスだよ。色は違うけど。染み抜きを頼んだけど、薄くなっても少し変色が残ってね。目立たないよう他の色で染めたんだ。」

 「テーミスは何て言ってるの?」

 「言ってない。僕が勝手にドレスをいじったんだ。そもそもあの事件の後でテーミスが目を覚ましたとき、隅とはいえ、ドレスはまだそのままでつる下がっていたんだ。テーミスはドレスを確認しようとしたんだろうね、ベッドから滑るように転がり落ちた。その後気絶してる間にドレスは直ぐに部屋から撤去・・・と、いうか染み抜きのプロに託したんだ。」
 
 「なるほどね・・・でもこの色は悪いイメージ消すには充分じゃない?前の色も淡くてテーミスに合っていたけど、この色も明るくなる。」

 トントン

 「失礼します、殿下。ヘリング公爵令嬢がお戻りになられましたが、いかがいたしましょう?」

 ドアの向こうから執事が呼びかける。

 「テーミスが?
 じゃあ無事にここへたどり着けたんだ。」

 シリウスが呟く。そして外へ呼びかける。

 「勿論僕のところに連れてきて!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...