6 / 6
本編 弐
玖苑と宗次郎 弐話
しおりを挟む「与太郎。私の願いを聞いてくれ。」
玖苑は恋文屋の扉を開いて言った。
「…あら。お客様がいらしてしまったわ。」
恋文屋の中には薄い紫の着物を着た優しそうな人がいた。
「…与太郎の恋人は浅葱だけだ。何をしてるんだい。」
玖苑は中にいた女を睨みつけていう。
「私もそう思いますわ…?はて。ご依頼でいらっしゃいますの?」
女は何を言われたかわからない様な顔でこちらを見る。
「与太郎狙いの輩では無いのか?」
玖苑はハッキリと女に聞いてみることにした。
「…うふふ、面白い冗談でございますね。違いますわ。私も依頼に来たのですわ。」
「…名は?」
「小夏でございます。貴女様は?」
「…玖苑。悪かったな。睨んだりして。与太郎を狙っているのかとおもったのだ。」
玖苑は小夏に頭を下げる。小夏は驚いたように「顔を上げてくださいまし。」なんて玖苑のしゃべり方の真似をする。すると扉が開いて浅葱が顔をのぞかせる。
「…っ!小夏さん!玖苑さん!すみません!!」
浅葱は玖苑と小夏をみて慌てた。まさか、毎日あまり客のこない恋文屋に2人も来ているとは思っていなかったのだ。
「大丈夫ですわ。私は急ぎでは無いのです。玖苑様は急ぎの様ですので玖苑様からご依頼になって。また後日来ますわ。」
小夏は笑って浅葱に言う。そして恋文屋をあとにした。
「そうお伝えします!」
浅葱は小夏の後ろ姿に言う。そしてこちらを振り返り笑った。
「…ごめんなさい玖苑さん。待たせてしまったみたいですね。」
浅葱が謝ると玖苑は首を横に振り「大したことないさ。謝る必要も無い。」と笑い返した。
「…で、宗次郎さんですね?」
浅葱は知っていたかのように問う。
「…誰に聞いたのか、まぁいい。そうだ。文を書きたい。与太郎は?」
玖苑は少し驚いた顔をした。だがすぐにまっすぐと浅葱をみて依頼した。
「ここだ。待たせたな。」
いつの間にか恋文屋の扉が開いていてそこには与太郎がいた。
「…与太郎。私の願いを聞いてくれ。」
玖苑は2度目の言葉を与太郎に向けていう。与太郎は「承る。こっちに」と玖苑を机まで案内した。
「では、始めよう。」
そして恋文を認め始めた。
・
・
・
「できた。…渡してこよう。助かった。与太郎ありがとう。」
玖苑は笑顔で与太郎に言うと恋文屋をでた。まるで宗次郎の居場所がわかるかのように。
***
宗次郎は座り込んだ。
やっぱり____伝わらないのかと。
嘆いた。______玖苑の傷は癒せないのだと。
そこに、可愛らしい足音が聞こえた。
「…宗次郎さん、」
それは宗次郎がずっと望んでいたことで___もう叶わないと思っていたものだった。
宗次郎はゆっくり声のする方へ顔を向けた。
「…玖苑ちゃん……」
名前をつぶやくと宗次郎は目に涙を浮かべ「来てくれた。」と嬉しそうに笑った。
「…宗次郎さん、私伝えたい事があったんだ。ずっと____言えなかった。でも昨日一晩悩んで父さんの手紙を読んでわかったんだ…父さんは私が落ち込んでるのを望んでやしないんだ、って。背中を押してくれたのは父さんだ。」
玖苑はそう言って宗次郎に 紙を渡した。
宗次郎は受け取ると「…ありがとう。これは…?」と問う。
「…私が書いた、恋文だ。」
玖苑は顔を真っ赤にしていう。宗次郎はそんな玖苑をみて愛しくおもった。
「…っ。」
抱きしめたい___なんて思ってしまった。でも思った時にはもう遅くて宗次郎は玖苑を抱きしめていた。
2人の上の提灯が静かに揺れた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助
蔵屋
歴史・時代
わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。
何故、甲斐国なのか?
それは、日本を象徴する富士山があるからだ。
さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。
そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。
なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。
それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。
読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる