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公爵家編
12.オチャカイ
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俺は初めて屋敷の外に出て向かったのは、藤棚の下だった。でも藤じゃないバラバージョンの派手なやつの。
夕日のような赤い小さなバラが少し垂れ下がりながら、咲いている。可愛いくて、香りが良くて、青色の空に映えていた。
こんなに天気がいい日に外に出られるなんて、贅沢過ぎる。未だに夢かと疑ってしまうほど焦がれていた青い空に、綺麗な花まである。
屋根のようになっているたくさんのバラの下には、絨毯が敷かれて横に長いソファ、テーブルが設置されていた。
そして、ソファにはルダンさんが先に座っていた。
「何でお父様がいらっしゃるのですか?」
「グレイにお茶会と聞いて、休憩がてら私も参加しようと思ってな。さぁウェインを寄越しなさい」
ルダンさんが両手を広げると、メルさんはほっぺをぷっくり膨らませた。不機嫌ですという態度を取りながら、俺をルダンさんに渡す。
膝の上に横向きで乗せられると、その上から毛布をかけられた。こうしてルダンさんに世話を焼かれるのは、かなり慣れてしまった。
「ズルいですわ!」
「当主の特権だ」
「ズルい~!」
メルさんが何やらスネている。どうしたんだろう?
彼女が何度も同じ言葉を繰り返しているので、俺はそれを真似て発音してみる。
「ズルイ?ズルイ?」
すると、膨らましていた彼女の頬の空気が吹き出て、笑顔になり、ボスッとソファに勢いをつけ、ルダンさんと俺の隣に座る。
「そうよ、お父様はズルいのよ~」
「メル、ズルイ?」
「ふっ」
今度はルダンさんがクスクスと笑う。俺、おかしな事言ってしまったのだろうか?
「違うわよ。ル、ダ、ン、ズ、ル、い」
メルさんの言葉の中にルダンさんの名前を聞いて、真似しても良いものかと悩む。言い淀んでいると、メルさんはゆっくりと発音して、促してくる。
「ル、ダ、ン、ズ、ル、い」
「……ル、ダ、ン、ズ、ル、イ」
真似をすると、ルダンさんとメルさんが顔を見合わして、静かになった。
やっぱりさっきの言葉は真似しちゃ駄目だったのか!?
俺は2人を不安げに見ていると、2人して口元を上げる。
「あー、愛らしい」
「あー、かわい」
2人の言葉がかぶってよく聞こえなかったけど、
メルさんは、またあの言葉を言っていたような気がする。本当にどんな意味があるんだろう?
俺が意味について考えている間に、テーブルには美味しそうなデザートがズラリと並び、3人の陶器製のティーカップが目の前に置かれる。
コポコポとグレイさんがティーポットから、紅茶を入れる音でそのことに気づく。
入れられた紅茶の仕上げとして、メルさんとルダンさんのティーカップに赤い花びらを散らす。俺の方に入れないのは、意地悪とかでは無く、俺が誤飲しないようにするためだ。その代わりに花びらを蜂蜜とミルクをたっぷり入れてくれた。
ルダンさんがティーカップを持たせてくれたので、俺は落として壊さないように慎重に紅茶を飲む。
ティーカップは普通の白いやつではなく、絵柄や金の縁取りがあって高そうな見た目をしていたから気をつけなきゃ。
紅茶は蜂蜜やミルクにも負けないくらいに香りが高くて美味しい。
メルさんは、紅茶には蜂蜜では無く、角砂糖派で3つ入れていた。ルダンさんは何も入れない派みたい。
紅茶の容量が半分になって俺が飲むのを止めて、ルダンさんにティーカップを渡すと、彼はティーカップの受け皿に置いてくれる。
デザートは色と形を見るに、メルさんがショートケーキ、ルダンさんはチョコレートケーキ。黄色くて円錐台の形を見るに、俺のはプリンだと思う。他にもテーブルの奥側にはクッキーや果物があった。
ルダンさんがスプーンでプリンらしきものを掬って俺の口の近くまで寄せる。
「ウェイン、プディンだ。プディン」
「お父様、もっとゆっくりと言葉を言ってあげないと分かりませんわ。ウェイン、プ、ディ、ン」
「プ、ディ、ン」
「プディン」
「プイン!」
真似できると、プリンを口に入れてくれた。とろりと口の中で溶けていく。味はカスタードプリンのかぼちゃ入りって感じだ。かぼちゃもカスタードプリンも好きだから、とっても美味しい。
「美味しいか?」
「プイン!」
「ハハッ、気に入ったか。それは良かった」
またスプーンで掬って、差し出してくれた。
ルダンさんの言葉は分からないけど、多分、食べるか?的な事を言ってるんだと思う。だから俺は返事の代わりに、さっき覚えた言葉を言った。
「美味しいわね」
「プイン!」
「お、い、し、い」
「オ、イ、シ、イ」
「おいしい」
「オーシー」
「プディン、美味しい」
「プイン、オーシー!」
真似するとまた食べさせてくれるので、多分、食べるという意味で合ってるんだろうなぁ。
夕日のような赤い小さなバラが少し垂れ下がりながら、咲いている。可愛いくて、香りが良くて、青色の空に映えていた。
こんなに天気がいい日に外に出られるなんて、贅沢過ぎる。未だに夢かと疑ってしまうほど焦がれていた青い空に、綺麗な花まである。
屋根のようになっているたくさんのバラの下には、絨毯が敷かれて横に長いソファ、テーブルが設置されていた。
そして、ソファにはルダンさんが先に座っていた。
「何でお父様がいらっしゃるのですか?」
「グレイにお茶会と聞いて、休憩がてら私も参加しようと思ってな。さぁウェインを寄越しなさい」
ルダンさんが両手を広げると、メルさんはほっぺをぷっくり膨らませた。不機嫌ですという態度を取りながら、俺をルダンさんに渡す。
膝の上に横向きで乗せられると、その上から毛布をかけられた。こうしてルダンさんに世話を焼かれるのは、かなり慣れてしまった。
「ズルいですわ!」
「当主の特権だ」
「ズルい~!」
メルさんが何やらスネている。どうしたんだろう?
彼女が何度も同じ言葉を繰り返しているので、俺はそれを真似て発音してみる。
「ズルイ?ズルイ?」
すると、膨らましていた彼女の頬の空気が吹き出て、笑顔になり、ボスッとソファに勢いをつけ、ルダンさんと俺の隣に座る。
「そうよ、お父様はズルいのよ~」
「メル、ズルイ?」
「ふっ」
今度はルダンさんがクスクスと笑う。俺、おかしな事言ってしまったのだろうか?
「違うわよ。ル、ダ、ン、ズ、ル、い」
メルさんの言葉の中にルダンさんの名前を聞いて、真似しても良いものかと悩む。言い淀んでいると、メルさんはゆっくりと発音して、促してくる。
「ル、ダ、ン、ズ、ル、い」
「……ル、ダ、ン、ズ、ル、イ」
真似をすると、ルダンさんとメルさんが顔を見合わして、静かになった。
やっぱりさっきの言葉は真似しちゃ駄目だったのか!?
俺は2人を不安げに見ていると、2人して口元を上げる。
「あー、愛らしい」
「あー、かわい」
2人の言葉がかぶってよく聞こえなかったけど、
メルさんは、またあの言葉を言っていたような気がする。本当にどんな意味があるんだろう?
俺が意味について考えている間に、テーブルには美味しそうなデザートがズラリと並び、3人の陶器製のティーカップが目の前に置かれる。
コポコポとグレイさんがティーポットから、紅茶を入れる音でそのことに気づく。
入れられた紅茶の仕上げとして、メルさんとルダンさんのティーカップに赤い花びらを散らす。俺の方に入れないのは、意地悪とかでは無く、俺が誤飲しないようにするためだ。その代わりに花びらを蜂蜜とミルクをたっぷり入れてくれた。
ルダンさんがティーカップを持たせてくれたので、俺は落として壊さないように慎重に紅茶を飲む。
ティーカップは普通の白いやつではなく、絵柄や金の縁取りがあって高そうな見た目をしていたから気をつけなきゃ。
紅茶は蜂蜜やミルクにも負けないくらいに香りが高くて美味しい。
メルさんは、紅茶には蜂蜜では無く、角砂糖派で3つ入れていた。ルダンさんは何も入れない派みたい。
紅茶の容量が半分になって俺が飲むのを止めて、ルダンさんにティーカップを渡すと、彼はティーカップの受け皿に置いてくれる。
デザートは色と形を見るに、メルさんがショートケーキ、ルダンさんはチョコレートケーキ。黄色くて円錐台の形を見るに、俺のはプリンだと思う。他にもテーブルの奥側にはクッキーや果物があった。
ルダンさんがスプーンでプリンらしきものを掬って俺の口の近くまで寄せる。
「ウェイン、プディンだ。プディン」
「お父様、もっとゆっくりと言葉を言ってあげないと分かりませんわ。ウェイン、プ、ディ、ン」
「プ、ディ、ン」
「プディン」
「プイン!」
真似できると、プリンを口に入れてくれた。とろりと口の中で溶けていく。味はカスタードプリンのかぼちゃ入りって感じだ。かぼちゃもカスタードプリンも好きだから、とっても美味しい。
「美味しいか?」
「プイン!」
「ハハッ、気に入ったか。それは良かった」
またスプーンで掬って、差し出してくれた。
ルダンさんの言葉は分からないけど、多分、食べるか?的な事を言ってるんだと思う。だから俺は返事の代わりに、さっき覚えた言葉を言った。
「美味しいわね」
「プイン!」
「お、い、し、い」
「オ、イ、シ、イ」
「おいしい」
「オーシー」
「プディン、美味しい」
「プイン、オーシー!」
真似するとまた食べさせてくれるので、多分、食べるという意味で合ってるんだろうなぁ。
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