13 / 125
Step2 バグった距離感は、矯正不可のようで……
拍子抜けの態度
しおりを挟む
とりあえず、あのままアイザックを拘束し続けていると、何かがあった時の言い訳担当に立ってくれているセレンに申し訳ない。
帰り際にセレンに改めて祝福の意を伝えて、フィレオトールは魔領の自宅へと戻ることにした。
今はこの家以外に安全地帯がないのが歯痒い。
昨日の今日でノクスとどんな風に話せばいいのか分からないのに、一人になろうと個室にこもれば気まずさばかりが際立ってしまうだろう。
(どうしよう……どうしよう……)
テレポートの短い時間で、頭を埋め尽くすのはそればかり。
そうして自宅に戻ると……ふと、鼻先をいい香りがくすぐった。
「あれ…? ノクス、料理でもしてる?」
つい香りに釣られて、リビングに顔を出してみる。
すると、キッチンに立っていたノクスがこちらを振り向いてきた。
「おお、おかえり。畑の野菜、さっさと消費しないと収穫が追いつかないだろー? だから、町で買い出ししてきたんだよ。」
「あ…。朝からいなかったのは、そういうことね。」
気になって鍋の中を覗いてみると、野菜がふんだんに使われたスープが。
他にも、下ごしらえされた食材がいくつも並んでいた。
幼い頃から師匠と各地を転々としてきたからか、ノクスは料理の腕がすこぶるいい。
自分も彼に一通りの料理を習ったけれど、経験値の差なのか彼ほどの味は出せないのだ。
「ほら、味見。」
「……ん、美味しい! いつも思うけど、屋敷のシェフよりもノクスの方が美味しい料理を作るよね。」
「まあ、おれはフィルが好きなものしか作らんからな。」
「いつの間にか、胃袋を掴まれてる…。でも、それがなくともノクスの料理が一番美味しいと思うけどなー。」
「そりゃどうも。ちょうどいいから、そこの洗い物を頼んでいいか?」
「はーい。」
もう慣れた流れなので、スポンジを取って洗い物を始める。
(あれ…? 案外普通にしゃべれてる…?)
そのことに気付いたのは、盛り付けが終わった料理をテーブルに並べている時。
その後に二人で食卓を囲んだけれど、ノクスは至って普段どおりだった。
(そっかぁ…。このままでいれば、いつもどおりなんだ……)
食事の後、川辺で綺麗な月を眺めながら、ぼんやりとそう思う。
今なら、まだ引き返せるから。
ノクスはそう言っていた。
自分がちょっと身を引けばいいだけ。
距離感を考えて行動を自制すれば、それだけでこれまでの関係を維持していられる。
最初はぎこちなくなるかもしれないけれど、慣れればそのぎこちなさも消えていくのだろう。
なんだか拍子抜けだ。
ノクスの態度を見ていると、パニックになってアイザックの元へ駆け込んだ自分が大袈裟に思えてくる。
(先延ばしにし続けることはよくないけど、そんなに慌てて答えを出す必要もないのかな…?)
一度ノクスと顔を合わせて、ある意味気持ちがすっきりした。
ここまで落ち着けば、今後も普通にノクスと話せそうだ。
(よし。多分大丈夫。)
自分にそう言い聞かせたフィレオトールは、ゆっくりと川辺から離れた。
「あ…」
家に戻ったフィレオトールは、リビングのドアをくぐったところで目をしばたたかせる。
ソファーでノクスが横になっていたのだ。
胸の上には、読みかけの本が開きっぱなしで伏せられている。
どうやら、本を読んでいるうちに寝落ちしてしまったようだ。
「あーあ、本を読むとすぐ寝ちゃうのは変わってないなぁ…。無理して僕が読む本を追わなくてもいいのに。」
くすりと微笑んだフィレオトールは、ソファーの背もたれに掛けてあった毛布をノクスにかけてやる。
その流れでつい彼の髪をなでて……そこで、ピタリと手が止まった。
(急に、距離感なんて言われてもなぁ……)
思ったのは、そんなこと。
これまで、距離が近いなんて一言も言ってこなかったじゃん。
自覚がないままに突然あんなことを言われたら、突き放されたようで寂しくなっちゃうよ。
流れるようにそう考えて、自分の気持ちを一つ自覚する。
(そっか……僕、寂しかったんだ。)
本当は毛布をかけたら自室に行こうと思っていたのだけど、今の気付きをさらっと流してはいけない気がする。
そう思ったら、ソファーの手前に腰を下ろしていた。
アイザックやセレンと同じように、ノクスだって自分の生き方を見つけて離れることになるかもしれない。
言われてみれば、それは当たり前のこと。
それなのに、自分はノクスがこの先も当然のように傍にいてくれるものと思って疑っていなかった。
(あー、やだやだ。ここは、貴族思考に染まりきってたかなぁ。将来の右腕って言い続けてた癖が抜けてないんだな。)
父親のように平然と義務だけを押し付ける人間にはなりたくないと思って生きてきたはずなのに、これは情けない。
改めて、今あるものに感謝するという原点に立ち返らないと。
(原点……)
ふと、その単語が引っ掛かる。
アイザックは、自分がノクスに気を許したことには、それだけの理由があると思うと言っていた。
そういえば、自分とノクスはどんな風に仲良くなったんだっけ?
拾ったノクスたちが子爵邸で過ごすことになって、対人恐怖症改善の一手としてノクスの相手をしろと言われたことは覚えている。
始まりはそうだったのだけど……その後、特別なきっかけとなる出来事なんかあっただろうか。
時間経過で気付いたら仲良くなっていたような記憶しかない。
(あ……ノクスの寝顔を見てたら、僕まで眠くなってきた……)
唐突に襲ってきた眠気を振り払おうとするも、今日の睡魔はやれしぶとい。
思えば、昨日から今日にかけては驚くことが多すぎた。
パニックに陥っていたせいで、昨日の夜も目が冴えて眠れなかったっけ。
社畜時代だったらまだしも、今の自分は非常に健康的な生活をしているので、睡魔に抗うことも皆無だったわけで……
(五分だけ…。せめて、ノクスが起きる前には起きないと……)
そんな言い訳を残して、意識は夢の世界に旅立ってしまった。
帰り際にセレンに改めて祝福の意を伝えて、フィレオトールは魔領の自宅へと戻ることにした。
今はこの家以外に安全地帯がないのが歯痒い。
昨日の今日でノクスとどんな風に話せばいいのか分からないのに、一人になろうと個室にこもれば気まずさばかりが際立ってしまうだろう。
(どうしよう……どうしよう……)
テレポートの短い時間で、頭を埋め尽くすのはそればかり。
そうして自宅に戻ると……ふと、鼻先をいい香りがくすぐった。
「あれ…? ノクス、料理でもしてる?」
つい香りに釣られて、リビングに顔を出してみる。
すると、キッチンに立っていたノクスがこちらを振り向いてきた。
「おお、おかえり。畑の野菜、さっさと消費しないと収穫が追いつかないだろー? だから、町で買い出ししてきたんだよ。」
「あ…。朝からいなかったのは、そういうことね。」
気になって鍋の中を覗いてみると、野菜がふんだんに使われたスープが。
他にも、下ごしらえされた食材がいくつも並んでいた。
幼い頃から師匠と各地を転々としてきたからか、ノクスは料理の腕がすこぶるいい。
自分も彼に一通りの料理を習ったけれど、経験値の差なのか彼ほどの味は出せないのだ。
「ほら、味見。」
「……ん、美味しい! いつも思うけど、屋敷のシェフよりもノクスの方が美味しい料理を作るよね。」
「まあ、おれはフィルが好きなものしか作らんからな。」
「いつの間にか、胃袋を掴まれてる…。でも、それがなくともノクスの料理が一番美味しいと思うけどなー。」
「そりゃどうも。ちょうどいいから、そこの洗い物を頼んでいいか?」
「はーい。」
もう慣れた流れなので、スポンジを取って洗い物を始める。
(あれ…? 案外普通にしゃべれてる…?)
そのことに気付いたのは、盛り付けが終わった料理をテーブルに並べている時。
その後に二人で食卓を囲んだけれど、ノクスは至って普段どおりだった。
(そっかぁ…。このままでいれば、いつもどおりなんだ……)
食事の後、川辺で綺麗な月を眺めながら、ぼんやりとそう思う。
今なら、まだ引き返せるから。
ノクスはそう言っていた。
自分がちょっと身を引けばいいだけ。
距離感を考えて行動を自制すれば、それだけでこれまでの関係を維持していられる。
最初はぎこちなくなるかもしれないけれど、慣れればそのぎこちなさも消えていくのだろう。
なんだか拍子抜けだ。
ノクスの態度を見ていると、パニックになってアイザックの元へ駆け込んだ自分が大袈裟に思えてくる。
(先延ばしにし続けることはよくないけど、そんなに慌てて答えを出す必要もないのかな…?)
一度ノクスと顔を合わせて、ある意味気持ちがすっきりした。
ここまで落ち着けば、今後も普通にノクスと話せそうだ。
(よし。多分大丈夫。)
自分にそう言い聞かせたフィレオトールは、ゆっくりと川辺から離れた。
「あ…」
家に戻ったフィレオトールは、リビングのドアをくぐったところで目をしばたたかせる。
ソファーでノクスが横になっていたのだ。
胸の上には、読みかけの本が開きっぱなしで伏せられている。
どうやら、本を読んでいるうちに寝落ちしてしまったようだ。
「あーあ、本を読むとすぐ寝ちゃうのは変わってないなぁ…。無理して僕が読む本を追わなくてもいいのに。」
くすりと微笑んだフィレオトールは、ソファーの背もたれに掛けてあった毛布をノクスにかけてやる。
その流れでつい彼の髪をなでて……そこで、ピタリと手が止まった。
(急に、距離感なんて言われてもなぁ……)
思ったのは、そんなこと。
これまで、距離が近いなんて一言も言ってこなかったじゃん。
自覚がないままに突然あんなことを言われたら、突き放されたようで寂しくなっちゃうよ。
流れるようにそう考えて、自分の気持ちを一つ自覚する。
(そっか……僕、寂しかったんだ。)
本当は毛布をかけたら自室に行こうと思っていたのだけど、今の気付きをさらっと流してはいけない気がする。
そう思ったら、ソファーの手前に腰を下ろしていた。
アイザックやセレンと同じように、ノクスだって自分の生き方を見つけて離れることになるかもしれない。
言われてみれば、それは当たり前のこと。
それなのに、自分はノクスがこの先も当然のように傍にいてくれるものと思って疑っていなかった。
(あー、やだやだ。ここは、貴族思考に染まりきってたかなぁ。将来の右腕って言い続けてた癖が抜けてないんだな。)
父親のように平然と義務だけを押し付ける人間にはなりたくないと思って生きてきたはずなのに、これは情けない。
改めて、今あるものに感謝するという原点に立ち返らないと。
(原点……)
ふと、その単語が引っ掛かる。
アイザックは、自分がノクスに気を許したことには、それだけの理由があると思うと言っていた。
そういえば、自分とノクスはどんな風に仲良くなったんだっけ?
拾ったノクスたちが子爵邸で過ごすことになって、対人恐怖症改善の一手としてノクスの相手をしろと言われたことは覚えている。
始まりはそうだったのだけど……その後、特別なきっかけとなる出来事なんかあっただろうか。
時間経過で気付いたら仲良くなっていたような記憶しかない。
(あ……ノクスの寝顔を見てたら、僕まで眠くなってきた……)
唐突に襲ってきた眠気を振り払おうとするも、今日の睡魔はやれしぶとい。
思えば、昨日から今日にかけては驚くことが多すぎた。
パニックに陥っていたせいで、昨日の夜も目が冴えて眠れなかったっけ。
社畜時代だったらまだしも、今の自分は非常に健康的な生活をしているので、睡魔に抗うことも皆無だったわけで……
(五分だけ…。せめて、ノクスが起きる前には起きないと……)
そんな言い訳を残して、意識は夢の世界に旅立ってしまった。
45
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました
藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。
=================
高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。
ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。
そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。
冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで……
優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる