こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step2 バグった距離感は、矯正不可のようで……

拍子抜けの態度

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 とりあえず、あのままアイザックを拘束し続けていると、何かがあった時の言い訳担当に立ってくれているセレンに申し訳ない。


 帰り際にセレンに改めて祝福の意を伝えて、フィレオトールは魔領の自宅へと戻ることにした。


 今はこの家以外に安全地帯がないのががゆい。


 昨日の今日でノクスとどんな風に話せばいいのか分からないのに、一人になろうと個室にこもれば気まずさばかりが際立ってしまうだろう。


(どうしよう……どうしよう……)


 テレポートの短い時間で、頭を埋め尽くすのはそればかり。
 そうして自宅に戻ると……ふと、鼻先をいい香りがくすぐった。


「あれ…? ノクス、料理でもしてる?」


 つい香りに釣られて、リビングに顔を出してみる。
 すると、キッチンに立っていたノクスがこちらを振り向いてきた。


「おお、おかえり。畑の野菜、さっさと消費しないと収穫が追いつかないだろー? だから、町で買い出ししてきたんだよ。」


「あ…。朝からいなかったのは、そういうことね。」


 気になって鍋の中を覗いてみると、野菜がふんだんに使われたスープが。
 他にも、下ごしらえされた食材がいくつも並んでいた。


 幼い頃から師匠と各地を転々としてきたからか、ノクスは料理の腕がすこぶるいい。


 自分も彼に一通りの料理を習ったけれど、経験値の差なのか彼ほどの味は出せないのだ。


「ほら、味見。」


「……ん、美味しい! いつも思うけど、屋敷のシェフよりもノクスの方が美味しい料理を作るよね。」


「まあ、おれはフィルが好きなものしか作らんからな。」


「いつの間にか、胃袋を掴まれてる…。でも、それがなくともノクスの料理が一番美味しいと思うけどなー。」


「そりゃどうも。ちょうどいいから、そこの洗い物を頼んでいいか?」


「はーい。」


 もう慣れた流れなので、スポンジを取って洗い物を始める。


(あれ…? 案外普通にしゃべれてる…?)


 そのことに気付いたのは、盛り付けが終わった料理をテーブルに並べている時。
 その後に二人で食卓を囲んだけれど、ノクスは至って普段どおりだった。


(そっかぁ…。このままでいれば、いつもどおりなんだ……)


 食事の後、川辺で綺麗な月を眺めながら、ぼんやりとそう思う。


 今なら、まだ引き返せるから。
 ノクスはそう言っていた。


 自分がちょっと身を引けばいいだけ。
 距離感を考えて行動を自制すれば、それだけでこれまでの関係を維持していられる。


 最初はぎこちなくなるかもしれないけれど、慣れればそのぎこちなさも消えていくのだろう。


 なんだか拍子抜けだ。


 ノクスの態度を見ていると、パニックになってアイザックの元へ駆け込んだ自分が大袈裟に思えてくる。


(先延ばしにし続けることはよくないけど、そんなに慌てて答えを出す必要もないのかな…?)


 一度ノクスと顔を合わせて、ある意味気持ちがすっきりした。
 ここまで落ち着けば、今後も普通にノクスと話せそうだ。


(よし。多分大丈夫。)


 自分にそう言い聞かせたフィレオトールは、ゆっくりと川辺から離れた。


「あ…」


 家に戻ったフィレオトールは、リビングのドアをくぐったところで目をしばたたかせる。


 ソファーでノクスが横になっていたのだ。


 胸の上には、読みかけの本が開きっぱなしで伏せられている。
 どうやら、本を読んでいるうちに寝落ちしてしまったようだ。


「あーあ、本を読むとすぐ寝ちゃうのは変わってないなぁ…。無理して僕が読む本を追わなくてもいいのに。」


 くすりと微笑んだフィレオトールは、ソファーの背もたれに掛けてあった毛布をノクスにかけてやる。


 その流れでつい彼の髪をなでて……そこで、ピタリと手が止まった。


(急に、距離感なんて言われてもなぁ……)


 思ったのは、そんなこと。


 これまで、距離が近いなんて一言も言ってこなかったじゃん。


 自覚がないままに突然あんなことを言われたら、突き放されたようで寂しくなっちゃうよ。


 流れるようにそう考えて、自分の気持ちを一つ自覚する。


(そっか……僕、寂しかったんだ。)


 本当は毛布をかけたら自室に行こうと思っていたのだけど、今の気付きをさらっと流してはいけない気がする。


 そう思ったら、ソファーの手前に腰を下ろしていた。


 アイザックやセレンと同じように、ノクスだって自分の生き方を見つけて離れることになるかもしれない。


 言われてみれば、それは当たり前のこと。


 それなのに、自分はノクスがこの先も当然のように傍にいてくれるものと思って疑っていなかった。


(あー、やだやだ。ここは、貴族思考に染まりきってたかなぁ。将来の右腕って言い続けてた癖が抜けてないんだな。)


 父親のように平然と義務だけを押し付ける人間にはなりたくないと思って生きてきたはずなのに、これは情けない。


 改めて、今あるものに感謝するという原点に立ち返らないと。


(原点……)


 ふと、その単語が引っ掛かる。


 アイザックは、自分がノクスに気を許したことには、それだけの理由があると思うと言っていた。


 そういえば、自分とノクスはどんな風に仲良くなったんだっけ?


 拾ったノクスたちが子爵邸で過ごすことになって、対人恐怖症改善の一手としてノクスの相手をしろと言われたことは覚えている。


 始まりはそうだったのだけど……その後、特別なきっかけとなる出来事なんかあっただろうか。


 時間経過で気付いたら仲良くなっていたような記憶しかない。


(あ……ノクスの寝顔を見てたら、僕まで眠くなってきた……)


 唐突に襲ってきた眠気を振り払おうとするも、今日の睡魔はやれしぶとい。


 思えば、昨日から今日にかけては驚くことが多すぎた。
 パニックに陥っていたせいで、昨日の夜も目がえて眠れなかったっけ。


 社畜時代だったらまだしも、今の自分は非常に健康的な生活をしているので、睡魔にあらがうことも皆無だったわけで……


(五分だけ…。せめて、ノクスが起きる前には起きないと……)


 そんな言い訳を残して、意識は夢の世界に旅立ってしまった。

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