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Step2 バグった距離感は、矯正不可のようで……
こうなったのは、故意か天然か…?
しおりを挟む現行犯?
捕まえる?
ノクスの言葉に散りばめられた単語が、とある仮説を作り出す。
「まさか……全部、計画だったの…?」
「今さら気付いたのか?」
ノクスは、しらばっくれなかった。
「だ……だって、ノクス……今ならまだ、引き返せるって……」
「ああ、言ったな。それは嘘じゃない。お前が本当に望まないなら、ちゃんと身を引くつもりだったよ。ただ、お前におれの気持ちと自分の行動を自覚させれば、落とすのは割と簡単なんじゃないかとも思ってた。」
「か、簡単って……」
「だって、そうだろ?」
ノクスの目は、自明の事実を語るように揺るぎなかった。
「アイザックとセレンは結婚して、二人で歩む人生を生きていく。お前のことだから、心から祝福していても寂しく思っていたはずだ。かといってじいちゃんや師匠に甘えられるかといえば無理だし、今から他の奴に目を向けるのは論外。となると、本気で気を抜いて甘えられるのはおれしかいないって結論に至る。どうだ? おれが言ったことに間違いでもあるか?」
「~~~っ」
ぐうの音も出ない。
まったくもってそのとおり。
ノクスが語った自分の思考回路は、現実から寸分の狂いもなかった。
何も反論できないフィレオトールに、ノクスはいやに爽やかな笑顔を向ける。
「お前がおれに恋愛感情を抱くかどうかはともかく、そのうち我慢できなくなってくっついてくるとは確信してた。そしたらもう、後は押し負かすだけだな。そうさせるために、これまで散々甘やかしまくってきたわけだし。ただ……まさか、一日も置かずにギブアップとは思ってなかったな。忠告した意味あったか…?」
「うわーん! もうやめてーっ!!」
いたたまれなくなってきて、フィレオトールはノクスの言葉を遮る。
恥ずかしい。
恥ずかしすぎる。
そりゃ確かに、十分気心知れた相手だと思っていたけど、ここまで見事に全部を見透かされた上で泳がされていたんだと思うと複雑だ。
そして、まんまとこの展開まで誘導されてしまった自分の単純さが死ぬほど恥ずかしくてたまらない。
ノクスの話を聞くに、彼にはちゃんと自分の気持ちを優先してくれるつもりがあったんだろうけど。
それでも……
「なんか……ものすっごくはめられた気分……」
そう思う気持ちは止められない。
「まあ……はめたっていうのも、側面的な事実なんだろうけどさ……」
ノクスは呟き、顔を覆うフィレオトールの手をどかした。
「嫌だったか?」
間近から見つめられ、フィレオトールは思い切り言葉に詰まる。
「あ……えと……その……」
上手い返事が見つからない。
恥ずかしくて、まともな言葉も出てこない。
本音は、今すぐここから逃げ出して一人になりたい気分。
(でも……)
フィレオトールは、おずおずとノクスの瞳を見上げる。
自分を気遣わしげに見つめてくる、菫色の双眸。
宝石を思わせるようなその色に、意識が吸い込まれるようだった。
ここで自分が逃げたら、どうなるのだろう。
もしかして、昨日以上にぎこちない空気になってしまうのだろうか。
ノクスにはそんなつもりがなくても、多分自分の方が変に意識してしまって、まともに話ができなくなる気がする。
ノクスが近付こうとしてきたら、びっくりして逃げてしまうかもしれない。
そしたらきっと、ノクスも自分の気持ちを察して距離を置いてくれるだろう。
だけど……一度そうなってしまったら、もう元の関係には戻れないのではないだろうか。
(もう、戻れない…?)
そう思うと、なんだか居ても立ってもいられなくて……
フィレオトールは、衝動的にノクスの胸の中に飛び込んでいた。
「フィル…?」
「……じゃ、なかった……」
「え…?」
「嫌じゃ……なかった。ノクスに触れない方がやだ。」
恥ずかしいけど、これが自分の素直な気持ちだった。
正直なところ、一線を越えてしまったとはいえ、やはり自分の気持ちはノクスの気持ちに追いつけていないと思う。
やっぱり戸惑いはあるし、今後ノクスをそういう対象として見られる自信もない。
―――でも、ノクスと今以上に離れることは嫌だ。
ノクスが近くにいたら傍にいたくなると、そう自覚してしまったんだもの。
ここで逃げたら、このぬくもりが遠ざかってしまうかもしれない。
とにかく、それが嫌だった。
だって、彼に触れているだけでこんなにも安心するんだ。
この安らぎを手放すには、共に過ごす時間が長すぎた。
服越しに伝わるぬくもりが心地よくて、フィレオトールは顔を赤らめながらもノクスの服をぎゅっと掴む。
それはまるで、このぬくもりを逃すまいと必死にすがりつくよう。
(―――はい、可愛い!!)
ノクスは、心の中でまた悶絶することになる。
(こいつは、天使の皮を被った鬼畜か…っ)
可愛い。
可愛すぎる。
少しは自分の可愛さを自覚してくれ。
半ば本気でそう思ったが、生憎とそれが届かない願いだということは知っている。
昔からずっとそうだったが、フィレオトールは超がつくほどの天然なのだ。
しかも、普段は貴族としての仮面を被っている時間が大半なもんで、素の自分の天然さに気付けるタイミングがほとんどなかったのも痛い。
おかげで、自分を筆頭に彼が気を許している人々がどれだけ悶絶して頭を抱えたことか。
誰からも恐れられる鬼将軍のジェアンをふにゃふにゃにしたのが自分の可愛さだって、こいつは絶対に気付いていないだろう。
―――まあ、もう遠慮などいるまい。
一通り悶絶した後には、やたらと冷静になった自分がいた。
口で言っても伝わらないなら、その分行動で自分の行いの意味を知るといいのだ。
「ノ……ノクス…?」
フィレオトールは戸惑いの声をあげる。
急に、ノクスが痛いほどに抱き締めてきたのだ。
そのまま体を転がされて、ベッドの上に押しつけられしまう。
「フィル……―――アウト。」
体を起こしてこちらを見下ろすノクスは、いつの間にか怖い目をしていた。
「え…? え…? 何が…?」
あれ?
この空気、危なくない?
自分は、また何か変なことでもした?
嫌だったかと訊ねられたから、正直な気持ちで答えただけなのに。
ここは、逃げた方がいいかもしれない。
とっさにそう思ったけれど、残念なことに悲鳴をあげている今の体は上手いこと動かないわけで……
硬直していると、案の定ノクスの唇が噛みつくように迫ってきた。
「んっ……ノクス……ストップ!」
「知らん。」
「む、無理だって! 体しんどい!」
「体がしんどくなきゃいいのか。」
ノクスが軽く指を振ると、全身を柔らかい光が包む。
仄かな熱が体を広がって消えていった後には、体に残っていただるさや疲労感が綺麗になくなっていた。
「治癒をかければいいってわけじゃなくて…っ」
「嫌なら逃げろよ。おれは、やめる気ないからな。」
「そんな……待って……待って……あ―――っ!!」
ベッドに組み敷かれ、フィレオトールは高い声で叫ぶ。
救いを求めるように宙へ伸ばされた手は、虚しく空を掻くだけだった。
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