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Step3 心臓がもたない!止まらない押し一手!!
精霊に愛された者
しおりを挟む「あの子、危ういねぇ……」
フィルと出会ったその日。
厚意で用意してもらった客室に引っ込んだ瞬間、師匠はやけに神妙な顔でそう言った。
「あの子って、フィルのことか?」
「愛称呼び、早くない?」
「名前が長ぇって言ったら、こう呼んでいいって言われた。」
「さすがは子供どうし。」
他愛ないやり取りをしたのも束の間、師匠の表情はすぐに真面目なものに戻る。
「精霊に認められた者と精霊に愛された者。この二者は似て非なるものなんだよね。前者は努力で磨いた力を対価に精霊の力を借りることができるけれど、後者は生まれ持った天性で無条件に精霊の力を借りることができるんだ。」
「それの何が危ういんだ? パッと聞くだけじゃ、得なようにしか思えないけど。」
「精霊が何を好むか、ノクスは知っているかい?」
そう問われて、おれは首を横に振るしかない。
生まれつき見えていた精霊たちを通行人程度にしか考えていなかったおれは、彼女たちと言葉を交わしたことがそこまで多くなかったからだ。
「精霊たちは、とにかく綺麗なものを好むんだ。貴金属や宝石、美しく清浄な場所は分かりやすいね。生き物の場合は、容姿や心や魂の綺麗さが精霊たちを左右する。」
「……ああ。エルフと精霊が密に関係している理由はそれか。」
師匠もそうだが、エルフの奴らは皆が皆美形揃い。
エルフの里に精霊がうじゃうじゃといたのは、そういう背景があってのことだったわけだ。
「まあ、そういうこと。でね、フィル君の場合は真っ先に魂が愛されたと思う。あの加護の強さは、母親のお腹に宿っていた時から精霊がついていないとありえないから。ということは、フィル君の魂は生まれたてなんだろうね。もしかすると、あの子の魂はこれが初めての人生なのかも。」
「……で? 結局、何がどう危ういんだっての。」
この師匠の授業が長ったらしいのは今に始まったことじゃないけど、おれはもう眠いんだ。
久しぶりのふかふかベッドが目の前にあるのに、なんで無駄な子守唄を聞かなきゃいけないんだよ。
「染まりやすく、やわくて壊れやすい。簡潔に言えば、そんなところ。」
そう告げたところで、師匠の声がぐっと温度を落とす。
「あの子は、一流を超える魔法使いになれるだろう。生まれたての柔らかい魂はあらゆる力との親和性が高いから、自分の魔力が少なくなったとしても、身の回りからいくらでも補充ができる。そして、その親和性が命取りになる危険性も孕んでいる。仮にあの子が魔族に見初められてみなよ。魔王がもう一人増えると言っても過言じゃないね。肉体が人間だから、聖属性の攻撃も命を奪うほどの威力にはならない。純粋な魔族よりもかなり厄介だ。」
「それは……やべぇな。」
魔族といえば、力が強大な分聖属性の攻撃にめっぽう弱いのが特徴。
それを克服した魔族は長い歴史の中で一人も現れていないというのに、今日出会った子供がそうなる可能性を宿しているとは。
聖魔法も聖剣も通用しないとなったら、どうやってそいつを倒せというのだ。
「それに、生まれつき精霊に愛された生き物は、周囲に与える魅了作用が強い傾向にもある。現に、フィル君はあの幼さにして人間離れした美しさを醸していたでしょ?」
「んん…? 師匠たちとあまり変わらないような…?」
「あー…。ノクスはエルフで美しさに慣れすぎちゃったから、その辺りはよく分からないか。でも、他の人には強烈なほど魅力的に見えるのさ。それにやられた結果、行きすぎた干渉をしようとする輩もいる。あの子、すでにそういう経験があるんじゃない? ノクスはまだ平気そうでも私に対する警戒が明らかだったってことは、単なる人見知りというより、見知らぬ大人が怖いってことでしょ?」
師匠が問いかけたのは、こちらの様子を見に来ていた精霊たち。
そして、彼女たちの反応は気まずげな表情での無言。
答えを察するには十分だったらしく、師匠は深々と溜め息をつく。
「参ったなぁ…。やわい魂は心の傷への耐性が低くて闇堕ちしやすいのに、あの子はどうしてエルフじゃなくて人間に生まれちゃったんだろう。本音はエルフの里で保護したいけど、血縁がいる貴族なんかノクスみたいに簡単に引き取れないし……」
唸る師匠を目の前にして、おれは驚きを隠せなかった。
いつも飄々としていて大抵の問題は楽勝くらいのノリで解決する師匠がここまで悩ましげにする姿は初めて見たのだ。
「―――よし、決めた。ノクス、しばらくこの町に居座るよ。」
長く思案した結果、師匠はそう述べた。
「はっ!? 居座る!?」
「うん。やっぱり、何度考えてもフィル君はエルフの里で保護すべきだ。心身ともに強くなるまでか、せめて魔王討伐が終わるまではね。その交渉をするには、この家の人たちの信頼を得る時間が必要だ。」
「でも、そんなに長く泊めてくれるのか…? 貴族といえば庶民嫌いじゃん。本当は庶民なんか追い出したいけど、フィルの頼みだから一日だけ仕方なく泊めてくれただけじゃ……」
「フィル君のご家族は、公都の貴族みたく狭量じゃないよ。話せばすぐに分かる。」
「ええ…?」
「それに、フィル君の危うさについてはご家族も知っておくべきだ。魔領との境を守る子爵様なら、お孫さんが魔族に見初められる可能性があると知れば、真剣に話を聞いてくださるだろう。どのくらい時間がかかるかは分からないけど、絶対に説得する。」
「……じゃあ、仲間探しと修行は休みってことか?」
一度決めたことは覆さないのが師匠だ。
自分が意見を挟んだところで意味がない。
そう思うと同時に、割と長めの休息が得られそうで期待したおれだったが……
「それはそれ、これはこれ。修行はこの町でも続けるし、私が大人たちと交渉している間に、ノクスは仲間候補を見繕っておきなさい。」
師匠は、手のひらを返すがの如くそう告げた。
「はあぁっ!?」
「難しいことは言ってないよ。仲間を見つけるって言っても、ノクスは気が合いそうな子と仲良くしてみればいいだけだから。」
「いや、そんな簡単に……」
「まあ、一つ注文するなら―――」
コツン、と。
自分の動揺を和らげるように、師匠が額と額を合わせてくる。
そして、こう言ったのだ。
「ノクスがいいと思うなら、フィル君を気にかけてあげて。大人が怖い分、あの子には近い年代の相手にしか安らぎを見つけられないだろうから。」
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