こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

文字の大きさ
22 / 125
Step3 心臓がもたない!止まらない押し一手!!

攻めが止まらない…っ(汗)

しおりを挟む
 それは、家に戻ってキッチンに立っていた時に起こった。


「ほら、今日は柑橘かんきつを強めにしてみたぞ。」


 よく冷えた野菜をボウルに盛り付けていたら、ずいっと目の前に出されたスプーン。
 頭で考えるよりも先に、スプーンをパクっとくわえていた。


「んん~♪ 今日のドレッシングも最高~。ノクスのレパートリーには際限がないの!? これなら、レストランを開いても十分にやっていけるよ!」


「そうか? そう言ってもらえるのは嬉しいけど、おれは今後もフィルのためだけに料理を作っていたいな。いつもフィルが美味しそうに食べてくれるから、鍛練のかたわらで腕を磨いてきたわけだし。」


 とびきりの優しい微笑みを浮かべて、そっと頭をひとなで。
 こんなこと、今までも散々あったはずなのに……


「………っ」


 ドキリと胸が高鳴ってしまうのは、きっとノクスからの告白があったからで……


(あれ…? ノクスって、こんなにかっこよかったっけ…?)


 いや、ノクスがかっこいいことは知ってるんです。


 見た目だけじゃなくて中身も男前で頼りがいがあるし、自分にはもったいないくらいの親友だって、何度も思ってきたんです。


 だけど、表面上は普通に話せていても裏では意識しまくっている今、ノクスの何気ない表情や仕草が無駄にきらめいて見えてしまう。


「よ、よし…っ。さっそくお昼にしよう!」


 自分でもぎこちないとは思うけど、ここは日常へ逃走するに限る。
 そう思ってノクスに背中を向けると―――


「こら。何を逃げようとしてんだ?」


 後ろから両手を回されて、広い胸にすっぽりと収められてしまった。


「ようやく露骨に意識し始めたな。ちょっとはおれのしんどさが分かってきたかー?」


 耳の間近から吹き込まれる、少し意地悪な雰囲気の声。
 柔らかな吐息が耳朶じだを刺激して、体が否応なしに震えてしまった。


「いいよなぁ、お前は。そんな風に正直に過剰反応できてよ。おれは、そうなるのをずっと我慢してたっていうのにさぁ。」


「あう…」


「別にいいけどさ。もう遠慮する理由もないし、おれも好き勝手にできるから。」


「す、好き勝手にやってる結果がこれですか…?」


 フィレオトールは、ふるふると体を震わせる。


 さっきから、わざと耳元で話してきたり、自分を逃がさないようにぎゅっと抱き締めてきたり、頭に頬をすり寄せてきたり。


 最初の夜が明けてからというもの、ノクスのスキンシップが大胆になっていて困る。


 もしかして、距離感が近いってこういうこと?
 僕、今までの分の仕返しを受けてます?
 少しでもノクスの苦悩を思い知れってこと?


「そうだけど?」


 ノクスは、こちらの指摘をあっさりと認める。


 しかし、〝好き勝手〟と言った意図はこちらが思っているものとは違っているようだった。


「本当は、ずっとこうしたかった。フィルが特別扱いしてるのはおれだけなのに、なんでこうしちゃいけないんだろう。なんでおれは我慢してるんだって、腐るほど悩んだぞ?」


〝ずっとこうしたかった〟


 その言葉に込められた想いの強さを伝えてくるように、ノクスの腕に力がこもった。
 それに、また鼓動が脈打つ。


「それは、その……やっぱり、僕のトラウマを気にして…?」
「まあな。……でも、多分それだけじゃなかったと思う。」


 フィレオトールの頭に自分の顔を傾けたノクスは、そこでものげに目を伏せた。


「よくも悪くも、お前は天然だからな。落とせる自信はあったけど、最終的な判断はお前に任せるって決めてたんだ。ただ、そう決めてたからこそ、なかなか踏み込むことができなくてさ。」


「そ、そうなの…?」


「ああ。お前が無自覚で煽りに煽ってこなければ、この気持ちを打ち明けることもできなかったんじゃねぇかな。」


 少し意外そうなフィレオトールに、ノクスは眉を下げて微笑んだ。


「いっそのことおれのものにしたいとは思っても、おれがそういう意味で好きだって認識した瞬間、お前のトラウマがよみがえってきちまうかもしれない。それがきっかけで、お前との間に溝ができるのだけは嫌だったんだ。そうなるくらいなら、この気持ちを隠し続けようと思うくらいに。」


「ノクス……」


「この先の関係に進んでも、今のままの関係でも構わない。とにかく、フィルとは離れたくない。ってか、離れられない。だから、忠告って形であえて牽制けんせいしたんだ。今思うと、それだけフィルとの関係が崩れるのが不安で怖かったんだろうな。フィルとの付き合いは本当に長いし、おれにとってフィルって存在は別格に特別だったし。」


「………っ」


 フィレオトールは言葉に詰まる。


 ノクスがこの先も当然のように傍にいてくれるものと思って疑っていなかった、数ヶ月前の自分。


 そんな自分を自覚した時にはちょっとした自己嫌悪に陥ったものだけど、ノクスもノクスで離れたくないと思ってくれてたなんて。


(どうしよう……すごく、嬉しいかも……)


 胸がじわじわと締めつけられる感覚がする。


 早く脈打つ鼓動の音がうるさくて、思わずこの場から逃げ出したくなるのに、体が硬直して全く動かない。


 過剰なほどのドキドキで、こちらはすでにいっぱいいっぱい。
 しかし、ノクスの攻めは止まることを知らない。


「だから、告白した後もこうして普通に話せてることにほっとしてるし、好きに触れられるようになって少し浮わついてる自分がいるんだ。」


「ううぅ…っ」


 フィレオトールは、どんどん顔を赤くする。


 こんな時にそんなことを言うのはずるくない?


 ただでさえノクスの気持ちが嬉しくてたまらないのに、追い打ちのごとくそう言われちゃったら、どうすればいいのか分からなくなるじゃないですか。


「なぁ、フィル。」


 狼狽うろたえるフィレオトールに、ノクスは甘い声で語りかける。


「別に、慌てておれに追いつく必要はない。お前はお前のペースで気持ちに整理をつければいい。そうは思ってるけどさ…。もし、おれ以上に気を許せる相手がいないなら……いっそのこと、もっと色んな意味でおれを求めてくれよ。―――そんで、早くおれと同じところまで落ちてこい。」


「~~~っ!!」


 唇を戦慄わななかせるフィレオトール。


 なんという強烈な口説き文句。
 なんという鮮やかな追い詰め方。
 顔が熱くなるどころか、全身の血液が沸騰してしまいそうだ。


 途端にこの距離感が耐えられなくなって、フィレオトールはくるりと体を反転させると、腕を突っぱねてノクスと距離を取った。


「そ……それも計算なの?」


 熟れた果実のような顔で、フィレオトールはノクスを上目遣いで睨む。
 そんなフィレオトールに対して、ノクスは―――


「いや。これは、純粋なおれの本心。」


 優しげに、そして愛しげに微笑むだけだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...