こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step4 辿る歩みはどこに至る…?

出会った当初のこと

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 キシムで暮らしていた時の僕は、少しでも強くなろうと必死だった。


 大人が怖くて外に出ることもできず、引きこもった屋敷の中で読書と自己学習ばかり。


 息が詰まるような閉塞感だけでも苦しいのに、そこに追い打ちをかけるように悪夢の記憶がフラッシュバックする。


 その全てから解放されることができるのは、お祖父様やお母様に武術を習っている時だけだった。


 きっかけはなんであれ、打ち込める何かができたことは大きかったのだろう。


 体力をつけるために家族の助けを借りながら徐々に外へと出始めて、長い時間をかけて町の人々に慣れていった。


 そんなある日、いつもの日課で早朝の走り込みに行こうと庭で体をほぐしていた時だ。


「あれ、フィルじゃん。こんな朝っぱらから何してんだ?」


 ふいに声をかけられたので後ろを振り向くと、まだ少し眠そうなノクスが歩いてくるところだった。


「ノクス、おはよう。昨日はよく眠れた?」
「おかげさまでぐっすり。あんなに上等なベッドで寝たのは初めてだよ。」


「そっか。それはよかった。」
「で? 何してんだ?」


「走りに行く前の準備体操をしてるの。」
「え…? お前、何か武術でもやってんの?」


「お祖父様から剣術を習ってて、お母様から弓術を習ってるよ。」
「へえぇー……意外。」


 その〝意外〟ってどういう意味?
 君も〝花でも持っていた方が似合うのに〟とか言うつもり?


 それなりに回復傾向にあったとはいえ、他人の言動にはまだかなり敏感だ。
 静かに警戒モードに移行する僕の前で、ノクスはこう述べた。


「いや、お前なら魔法の方が才能あるはずなのに、朝は瞑想じゃなくて走り込みなんだって思って。」


「え…?」


「もしかして、キシムって魔法に詳しい奴がいないのか?」


「あ、いや…。いつ魔獣の襲撃があってもいいように、騎士団に一定数の魔法使いはいるよ。才能があるって話もされたし、何度か教わったこともあるんだけど……僕が魔法を発動すると暴発することが多くて、対策を立てないと屋敷が壊れそうだから、訓練は一旦中止になってて……」


 ノクスの発言こそ意外で、つい流されてありのままの実情を話してしまった。
 すると……


「あー、なるほど…。そりゃ、暴発もするだろうなぁー……」


 納得の声をあげたノクスは、微妙そうな表情で視線をくうへ。
 これまた意外な反応だった。


「ノクス、僕の魔法が暴発する理由が分かるの?」
「うん。はっきりと。」


 え、すごい。
 騎士団の魔法使いも、その理由が分からないから訓練を中止したのに。
 僕とそんなに歳も変わらなそうなのに、才能があるのは君の方では?


 普通にノクスを尊敬してしまった僕だった。


「フィル。よければ、おれの師匠に魔法を教わってみないか?」


 しばし空とにらめっこをしていたノクスは、やがてそう提案してきた。


「ノクスの師匠に?」


「うん。お前の場合、一般的な訓練方法は体質に合わないんだ。こういうタイプの魔法使いはエルフに多いから、エルフ式の訓練を習った方がいいと思う。」


「う、うーん……」


 僕は、答えを曖昧あいまいにごすしかなかった。
 

 エルフ式の訓練に興味がないわけじゃない。


 でも、だからといって昨日出会ったばかりの大人に手ほどきを受ける勇気はなかったのだ。


「ま、気楽に考えてみればいいさ。」


 僕が困っていることを感じ取ったのか、ノクスの方から話を切り上げてくれた。


「剣や弓もいいけど、戦える手札は多いに越したことはないだろ? 備えあればうれいなしってやつだな。」


 底抜けに明るい笑顔を浮かべて、ノクスはそう告げる。
 そんなノクスがやたらときらめいて見えて、目がくらむようだった。


 僕が強くなろうとすることを、当たり前のように受け入れてくれる。
 そして、もっと強くなればいいと背中を押してくれる。


 明確にそう言われたわけじゃないけど、僕にはそんな風に感じられて、それがとても嬉しかった。


「なあ、せっかくだから一緒に走ろうぜ。おれも走り込みに来たんだけど、一人で外に出たら迷いそうでさ。何せ、昨日来たばっかの町だから。」


「うん! 走りながら、町を案内してあげるね!!」


 最後に二人で笑い合って、薄暗い町へと駆け出した。


 いつもはどこか追い詰められたような気分で行っていた走り込み。
 それを楽しいと思ったのは、あれが初めてだったと思う。

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