こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step4 辿る歩みはどこに至る…?

引っ掛かる言葉

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「いんや~、結構な腕前で。心配して駆けつける必要もなかったな。」


 魔族を跡形もなく焼き尽くした炎が消えた頃、途中から見物人になっていたゼクが口笛を吹きながら手を叩いた。


「当然でしょ。いくら隠居生活をしてるっていったって、いつ襲われるかも分からない魔領に住んでいる以上、鍛練はおろそかにしないよ。」


「どうやらそのようで。それにしても、戦闘モードのお前は本当にえげつねぇな。仕事モードのお前しか知らない従業員たちに見せてやりてぇぜ。」


「ゼクが僕を怒らせれば見せてあげられるんじゃなーい?」


「命が惜しいからやめとくわ。意味不明な発動句の魔法を使い始めたお前は、勇者パーティーで一番おっかねぇからな。」


「意味不明な発動句って、黒纏こくてんでんとかのこと? 僕は好きだけどな。東方の文献を参考にした発動句なんだけど、語感が綺麗だし詠唱も短くて済むんだよ。」


 同期魔法を実戦で使うにあたり課題になったのが、いかに効率よく魔法を発動させられるかだった。


 どんな魔法を使うにも、魔法陣もしくは発動句が必須。


 魔族を瞬殺するほどの威力を出したいのであれば、魔力をより強力に研ぎ澄ませるための前詠唱も必要となる。


 それ故に、魔法を使用するにあたっては前詠唱や発動句を可能な限り短くすることが望ましい。


 あまりにも長い呪文を唱えていると、秒単位の世界で明暗が分かれる戦闘では不利になるからだ。


 しかも自分の場合は、自分の魔力だけを使う通常魔法と自分以外の力を取り入れる同期魔法で発動句を明確に分ける必要もあった。


 そこで目についたのが、東方で使われる言葉の数々。
 実際に発動句に取り入れてみれば、まあ楽なこと。


 しかも、東方の言葉を知らない人には発動句の意味が分からないので、発動句から魔法を分析されるリスクが低いというメリットまでついてきた。


 自分としては万々歳である。


「ああもう、やっぱ惜しいなぁ。フィル、帝国から解放されてフリーってんなら、俺たちと魔領統一でもしねぇ?」


「断る。商会の可愛い魔族たちならまだしも、不特定多数の魔族の面倒まで見る気はない。」


 にべもなく切り捨てるフィレオトールだが、ゼクはその程度のことで引く様子はない。


「別に、人間みたく丁寧に面倒見なくていいんだって。今回みたいに、天使の笑顔で魔王級の鉄槌を下してやるだけでいいからさー。」


「天使の笑顔で魔王級の鉄槌って…。あのね、前々から疑問だったんだけど、僕をなんだと思ってるの?」


「ギャップが超激しい、怒らせたら世界一やべぇ裏魔王。」


「言ったな、この野郎。手始めに、お前から仕事の奴隷に調教してやろうか?」


「えぇ? 魔族の〝やべぇ〟は最大級の褒め言葉なんだけどな。それに、ギャップが激しいとは言ったが、俺はフィルのそんなところが結構好きだぜー?」


「だあぁっ! くっついてこようとするなーっ!!」


 おちゃらけた雰囲気で両手を広げてくるゼクを、フィレオトールは毛を逆立てた猫のように威嚇する。


 それに構わず、ゼクが距離を詰めたところで……


「何してんだ、この変態魔族ーっ!!」


 渾身の怒鳴り声と共に、フィレオトールとゼクの間に銀と黒の影が割り込んできた。


「あれ、ノクス!?」


 まさかの乱入者に、フィレオトールは目をまんまるに。
 一方のノクスは、爛々らんらんとした目でゼクを睨みつける。


「てめぇ…っ。おれがいない間にフィルにちょっかいを出すとは、いい度胸してんじゃねぇか。」


「いや、ちょっかいは……出してたかもしれねぇが、今回も今までもまともな用で訪ねてんだけどな。ちょっとふざけただけで聖剣を出してくるんじゃねぇよ。」


生憎あいにくと、おれにはお前を生かしてやる義理がないからな。」


「そんなつれないことを言うなよ。一生懸命危険分子を潰してる善良な魔族なのにさー。」


「フィルに手を出す奴は等しく悪だ。」


「どんな判断基準だよ。」


「あの、ノクス…?」


 このまま二人で話させていたら、この辺り一帯が焦土と化す対決に発展してしまいそうだ。


 そんな危機感から、フィレオトールはノクスの服のすそを軽く引っ張る。


「どうしたの? 今日、ギルドの依頼があったんでしょ? てっきり、夜まで帰ってこないと思ったのに……」


「どうしたもくそもあるかぁっ!!」


 ちょっと気を引けたら十分だったのに、効果が覿面てきめんすぎたみたい。
 訊ねた瞬間、ノクスが鬼の形相で詰め寄ってきてしまった。


「魔獣が逃げるレベルの魔法をぶっ放しておいて、おれが異変を察知しないとでも思ったのか!? お前、どんだけの同期率で闇魔法を使いやがったんだ!?」


「えっと、六十五…?」


「このアホ!! たかが雑魚ざこを消すのに、そこまで高い同期率にする必要があったか!?」


「だって、あんまりにも舐めてかかってくるから、徹底的にねじ伏せてやらなきゃと思って……」


「ああもう! なんでお前は、喧嘩上等の倍返し精神までじいちゃんを真似ちまったんだ!! とにかく、ヒール、ヒール、ヒール!!」


 狂ったようにわめくノクスの手からあふれた柔らかな光が、体内に残っている瘴気を瞬く間に押し流していく。


 同期魔法で取り込んだ力は時間経過で排出されるんだけど、ノクスはいつもそれを待たずに回復魔法を使ってくる。


 同期した力が瘴気や魔族の力だった場合はことさらにだ。


「まったく…。相変わらずの過保護っぷりだな、おい。」


「なんとでも言え! フィルを守るのは、おれの誓いであり使命なんだよ!! おれが一緒にいて目を光らせておかないと、こいつは全部一人で抱えて破滅ルートにばく進しちまうんだから!! 可愛いフィルを闇堕ちさせてたまるかーっ!!」


「………っ」


 さも当然のように放たれた言葉。
 それに、心臓が大きな鼓動を刻む。


(守る……誓い……)


 なんだろう。
 今の言葉がやたらと引っ掛かる。


(一人……そうだよ。僕は、何もかも一人でできるようになりたかった。そうなるしかないって思ってた。ノクスに気を許したところで、その気持ちは変わらなかったはずなんだ。なのに……僕は、いつからノクスに甘えるようになったんだろう…?)


 もう少しで大切なことを思い出せそうなのに、あと一歩が届かない。
 それがとてももどかしくて、思わず胸元をくしゃりと握っていた。

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