こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

文字の大きさ
32 / 125
Step4 辿る歩みはどこに至る…?

強くなりたい理由

しおりを挟む

 ―――強く、賢くならなきゃいけない。


 これは、あの事件から助け出された時に深く刻まれた強迫観念みたいなものだった。


 だから、ノクスに強くなる姿勢を肯定された時は嬉しくなったし、ノクスが身につけていた強さにとても憧れた。


 ノクスの師匠と案外早く打ち解けられたのは、彼を通して自分もノクスみたいになりたいと願ったからなのかもしれない。


 その日も、僕はノクスと朝の走り込みに行った後、湖のほとりで打ち合いに勤しんでいた。


「うおっ!? ちょっ……フィル、止まれ!!」


 打ち合いのなか、ノクスがふいに戸惑いの声をあげる。
 しかし、完全に没頭していた僕にはその声が届いていなかった。


「こら、フィル!」
「あ…っ」


 ふとした拍子に剣を弾かれて、体のバランスが一気に崩れる。
 気付けば、柔らかい地面に尻餅をつくことになっていた。


「いったー…。もう、なんで途中でやめちゃうのさ! 僕もノクスもまだ余裕だったじゃーん!!」


「やめるに決まってんだろ! お前、目がおかしくなってたんだよ!! おれが止まれって言ったの、聞こえてたか!?」


「えー、そんなこと言った?」


「ほら見たことか! とりあえず休憩!」


 剣を投げ捨てたノクスは、溜め息をついて隣に腰かけてきた。


「フィルさ、何をそんなに焦ってるんだ?」


 やけに神妙な声で、ノクスがそう訊ねてくる。


「最初は相当な負けず嫌いなのかと思ったけど、それにしちゃお前の食らいつきようは変だ。今も、負ける=死ぬことだって思ってるような目をしてた。一体、何にそこまで追い込まれてるんだ?」


「………っ」


 改めて、ノクスの洞察力に感心させられた瞬間だった。


 物心つく前から孤児院でお兄ちゃん的立場だったノクスは、常に弟妹たちや職員の機微に気を配っていたそうだ。


 実際、キシムに来たノクスは瞬く間に子供たちに懐かれ、大人たちからもかなりの好印象を持たれている。


 そんなノクスに嘘をついても、きっとばれてしまうのだろう。


 そう思った僕は……


「ノクスは、僕とお母様がどうして帝国から引っ越してきたのか聞いた?」


 思いきって、自分の深淵しんえんを占領する出来事について話してみることにした。


「ああ、まあ……」


 途端に、気まずそうな顔で明後日の方向に目を向けるノクス。
 その態度だけで、答えを察するには十分だった。


「あの時に、僕は思い知ったんだ。僕は貴族の一人息子で、僕に何かがあった時に助けてくれる人はたくさんいる。だけど……大きな恐怖に直面した時、人は結局一人で戦わなきゃいけない。」


「そんなこと……」


「あるんだよ。実際のところ、突然知らない人に誘拐された僕は、母さんたちが乗り込んでくるまで一人だったんだから。」


 ああ、嫌な気分だ。
 思い出すことが減ってきたところで、完全に忘れられるわけじゃないのだ。
 一度意識を向けた恐怖の記憶は、当時の鮮明さを残したまま脳内で荒れ狂う。


「あの時の僕は、ただ泣いて震えることしかできなかった。あの人が乱暴なことはしてこなかったから無傷で助け出されたけど、最悪の場合は何もできないまま殺されてたと思う。」


「………」


 ノクスは、何も言わない。


 ノクスとしては、気まずくてたまらなかったんだと思う。
 でも、僕は下手ななぐさめや勇気づけがない沈黙がありがたかった。


「いっそのこと自分の顔を変えられたならいいんだけど、それは無理じゃん? なら、何があっても対処できるように、強くて賢くならなくちゃいけない。……少しでも早くね。」


 後から思えば、僕はそれだけ外の世界が怖かったんだろう。


 お祖父様やお母様を信用していないわけじゃない。
 屋敷のみんなだって、自分を大事にしてくれているのは分かっている。


 でも、やっぱり大人という存在はどうしようもなく怖くて、彼らが伸ばしてくる大きな手に寒気がしてしまう。


 その恐怖を克服するには、自分が優位に立つしかない。
 権力ではなく、純粋なる力と知恵で。


 誰からも尊敬されていて、自信と威厳があふれる堂々たる姿のお祖父様。
 そんなお祖父様が持つ圧倒的な強さを見て、そんな風に思った。


 だから、あの境地に辿り着くことは、これから生きていく上で必ず成し遂げないといけないことなのだ。


「フィル……その……ああもう!!」


 しばらく返答に困っていたノクスが、急に大声をあげた。
 それではたと我に返って隣を見ると、ノクスはガリガリと髪の毛を掻き回している。


「あ、ごめん…。困らせちゃったよね?」
「違う違う! そうじゃなくて、えーっと……―――ああ、そうだ。」


 何かをひらめいたらしいノクスは、地面に手をついて身を乗り出してくる。




「フィル。お前、おれの仲間になれ。」




 ノクスから告げられた言葉。
 正直、今の話からどうしてそんな展開になるのかが分からなかった。


「えっと……どういう意味?」


「おれもフィルも、強くなりたいのは同じだろ? それは、仲間だってことじゃん。だから、これからもおれと一緒に師匠の修行を受けて強くなっていこうぜ。そんで、これからはお互いにお互いを守り合うんだ。」


「お互いに、お互いを…?」


「そう。大人が怖いってんなら、代わりにおれがいつも傍にいるよ。同じ子供なんだ。もしお前を誘拐しようとする悪い大人がいたなら、きっとおれも一緒に誘拐すると思う。」


「た、確かに…。僕を誘拐する時にノクスが一緒にいたら、ノクスに顔を見られちゃうもんね。そんなノクスが警備隊を呼んだら、すぐに捕まっちゃう。」


「お、おう…? 大人がそこにいた子供を全員誘拐するのって、そういう意味…? まあ、細かいことはいいや。」


 一度謎に満ちた顔をしたノクスは、すぐに真剣さを取り戻してこちらをまっすぐに見つめてくる。


「ともかく、一緒に誘拐されれば一人じゃなくて二人で戦えるだろ?」
「あ…」


 その言葉は、確かに心を大きく揺らした。
 僕の反応を見て手応えを得たらしいノクスは、さらに畳み掛けてくる。


「この先、フィルに何かが起こったらおれが守ってやる。だから、おれに何かがあったらフィルが守ってくれよ。」


「で、でも……」


「なんだよ。おれの強さじゃ足りないか?」


「ち、違うよ! ただ、本当にいいのかなって…。貴族って面倒なこととか大変なことがたくさんあって嫌になるって、お祖父様やお母様がよく言ってたから……」


「それでもいいから言ってんだろ? おれがフィルの傍にいたいんだよ。その面倒なことや大変なことも、二人でどうにかすりゃいいじゃん。」


「………っ」


 その時感じたものを、どう表現すればよかっただろう。
 胸がきゅっと締め付けられて、悲しくないはずなのに無性に泣きたくなった。


「な? 今日から、おれたちは仲間な?」


 満面の笑顔で、再び告げられた言葉。
 それを拒もうだなんて、つゆほどにも思わなかった。


「うん!!」


 涙目で頷いて、差し出された手を強く握り返す。




 それが、自分を取り巻く世界が一変するきっかけだったんだ―――……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

天使のような子の怪我の手当てをしたら氷の王子に懐かれました

藤吉めぐみ
BL
12/23後日談追加しました。 ================= 高校の養護教諭の世凪は、放課後の見回り中にプールに落ちてしまう。カナヅチの世凪は、そのまま溺れたと思ったが、気づくと全く知らない場所にある小さな池に座り込んでいた。 ここがどこなのか、何がどうなったのか分からない世凪に、「かあさま」と呼んで近づく小さな男の子。彼の怪我の手当てをしたら、世凪は不審者として捕まってしまう。 そんな世凪を助けてくれたのは、「氷の王子」と呼ばれるこの国の第二王子アドウェル。 冷淡で表情も変わらない人だと周りに言われたが、世凪に対するアドウェルは、穏やかで優しくて、理想の王子様でドキドキしてしまう世凪。でも王子は世凪に母親を重ねているようで…… 優しい年下王子様×異世界転移してきた前向き養護教諭の互いを知って認めていくあたたかな恋の話です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...