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Step4 辿る歩みはどこに至る…?
もし、彼が傍にいなかったら……
しおりを挟むああ、そうだった。
そうだったんだ。
別にそこまでするつもりじゃなかったのに、あれで使徒契約が成立しちゃって。
自分は急に精霊たちが見えるようになって驚いて、ノクスはノクスで何が起こったのか分からずにテンパっちゃって。
慌てて屋敷に帰れば、使徒契約の成立を察した師匠は何故かガッツポーズを決めるわ、祖父や母は卒倒しそうになるわ。
あまりの慌ただしさですっかり抜け落ちていたけれど、使徒契約が成立する前にはあんなやり取りがあったんだった。
(どうりで使徒契約が成立したわけだよ。あんなことを言ってくれたの、ノクスが初めてだったんだもん。)
夜中に目覚めたフィレオトールは、当然のように隣で眠っているノクスを見つめながらそう思った。
勇者との使徒契約を結べる条件は、大きく二つ。
一つは、使徒として与えられる神の加護を受け入れられるだけの素質を持っていること。
そしてもう一つは、互いに決して裏切れないほどの強い信頼関係を築いていること。
その条件を満たした上で勇者が懐に招き入れることを宣言し、相手がそれを承諾すると使徒契約が成立するという。
第一条件は生まれつきクリアしていたとして、第二条件をクリアしたのは確実にその直前のやり取りがきっかけだ。
いつも傍にいて、何かがあったら守ってやると言ってくれた。
それだけじゃなくて、自分に何かがあったらお前が守ってくれと頼りにしてくれた。
そのことがどんなに魂を揺さぶったか、ノクスはきっと知らないだろう。
そして、何もかも一人で対処できるようにならなきゃいけないと思っていたところに、二人でどうにかすればいいと差し伸ばされた手を、あの時の自分は掴まずにいられなかった。
ノクスがそう言ってくれるなら、自分だっていくらでもノクスを守ってやる。
絶対に彼を危険な目になんか遭わせない。
初めての出来事に感動した自分は、そんな大袈裟なことを本気で誓ったんだ。
でも、今改めて考えると不思議でもある。
自分の信頼感はあの時に確立されたとして、それと同時に使徒契約が成立したということは、ノクスはそれよりも前に自分を信頼していたことになる。
それは、一体どうしてなのだろうか。
(ノクスが傍にいてくれなかったら……今頃、僕はどう過ごしてたんだろう…?)
ノクスの寝顔を見つめているうちに、ふとそんなことを思った。
自分が第一の使徒になってから、ノクスはキシムで残りの使徒を捜した。
そうして自分と共にあり続けて、自分がヴァリアに連れていかれる時も、祖父と結託してついてきてくれて。
よくよく考えてみると、ノクスは自分との約束を守るためにかなり気を回してくれていた。
「………」
フィレオトールは、そっとノクスの髪に触れる。
自分が容姿に注目することが大嫌いなのが原因の大半なのだけど、こうしてノクスの容姿をまじまじと見るのは初めてかもしれない。
猫っ毛の黒髪は触り心地が最高で、眉は形が整っているし、睫毛も意外と長い。
その他の顔のパーツもバランスよく配置されている。
こうなると、吸い込まれそうなほどに綺麗な菫色の瞳が今は見られないのが残念だ。
見慣れすぎて感覚が麻痺していたけれど、改めて見ると本当に精悍な顔立ちだと思う。
身長もすらりと高くて、細身の割にかなり筋肉質な体つき。
自分も背が高い方だけどノクスには五センチほど届かなかったし、どれだけ鍛えてみても、ノクスのようなしっかりとした体つきにはならなかった。
そう考えると、筋骨隆々な祖父に憧れていた自分としてはかなり羨ましい。
自分が〝綺麗〟という部類に入るとすれば、ノクスは明らかに〝かっこいい〟という部類に入るだろう。
どこか野性味を感じさせる雰囲気に違わず、ノクスは自分と似て割と容赦のない性格をしている。
自分以外には無口かつぞんざいな態度を徹底しているけれど、自分に有害だと分かった途端にかなり攻撃的になるので、ヴァリアでは番犬(猛獣)なんて囁かれてたっけ。
(あったかい……)
頬に触れると、そこから優しい温かさが伝わってきて無条件でほっとする。
このぬくもりがなかったら、自分はどうしていたのだろう。
いつかは、別の誰かにそれを求めていただろうか。
―――多分、そんなことはなかったと思う。
だって、ノクスと出会った時の自分は、キシムですでに三年もの時間を過ごしていた。
その間に、祖父や母を始め、キシムの人たちが自分を好いてくれていることは理解していた。
アイザックやセレンとだって、それなりに打ち解けていたはずだ。
でも、ノクスと出会うまでの自分は、あくまでも一人で戦えるようになることが目標で、誰かに頼ることなんか毛頭も考えていなかった。
その認識を変えてくれたのは、後にも先にもノクスだけなのだ。
そして、ノクスが初めから内面だけを見てくれる人だったからこそ、彼の言葉を素直に受け入れることができた。
そう考えると、ノクスと出会っていなかったら、自分は今も一人でいたような気がする。
それなら……この先、もしもノクスと離れて生きていくことにでもなったら、自分はどうなるの―――?
「んん…」
微かに唸ったノクスが顔をしかめたのは、その時のことだった。
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