こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step4 辿る歩みはどこに至る…?

あの言葉に込められた想い

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「あ、ごめん。起こしちゃった?」


 フィレオトールは、ノクスの頬から慌てて手を引っ込める。


「いや、気にすんな。」


 ノクスは仰向けに寝返りをうち、大きな欠伸あくびを一つ。


「どうした? 眠れないのか?」
「ちょっと、目が覚めちゃって……」
「ん?」


 起こしてしまった気まずさもあって躊躇ためらいがちにそう言うと、途端にノクスの目が覚醒した。


「何か、嫌な夢でも見たのか?」


 まっすぐにこちらを見つめてくる、心配そうなすみれ色の瞳。
 それを見ていると、なんだか不安が煽られて……


「ねぇ、ノクス。あの時、なんで僕に仲間になれって言ってくれたの?」


 思わず、そんなことを訊ねていた。


「あの時って、うっかり契約しちまった時のことか? また急だな……」


 少し戸惑った風のノクス。
 それでも、彼はすぐ真面目な表情になってうなる。


「―――どうしても、放っておけなかったんだよ。」


 やがて、彼の唇が当時の想いをつむぎ始めた。


「昔話したことがあると思うけど、孤児院にいた時のおれって何故か兄貴分でさ。だからか、フィルが一人でどうにかしなきゃって焦る気持ちが、少しだけ理解できたんだ。」


 くうを見上げるノクスが、遠い目をする。


「もちろん、頼られるのは嬉しかったし、孤児院のみんなが大切だったから頑張ったさ。ただ……心のどこかでは、いつもしんどいなって思ってて。そのしんどさが、割と限界に近かったのかな? 師匠に引き取られて、エルフの里に連れていかれて、そこで〝一人で頑張らなくていい〟って言われた時……馬鹿みたいに安心して大泣きしたんだ。」


「ノクスが大泣き……想像つかないや。」


「だろうな。とまあ、そんな経験があったもんで、フィルのことを知れば知るほどに、おれの方が不安になっちまってよ。」


 そう告げたノクスの瞳に宿るのは、うれいの色。


「それまでの自分が自惚うぬぼれてたみたいで複雑だけど、おれ以上に努力してると思えた奴はフィルが初めてだった。貴族教育に加えて剣や弓までこなしてて、ただでさえストレス浸けだろうにトラウマまで抱えてて。それでも、ストレスが限界を超えた時に他人には感情をぶつけない。おれから見たフィルは、優しくて芯が通ったすげぇ奴だったよ。本気で尊敬してた一方で……昔のおれを見てるみたいで、かなり心配だった。」


「だから、仲間になろうと思った…?」


「というより、せめておれだけでも一緒に頑張ってやりたいと思ったんだ。一人で頑張るしんどさも頼れる人ができた時の安心感も知ってるのに、自分と似た奴を放置できねぇもん。でも、二つしか歳が変わらないおれが頼れって言っても説得力がないし、貴族の傍にいられる立場なんか知らないし、なんて言えばフィルに受け入れてもらえるのかって考えまくった結果、出た言葉があれだった。」


「そっか……そうだったんだね。」


 フィレオトールは穏やかに表情を緩める。


 背景は違えど、ノクスも自分と似たような苦しみを味わっていたのか。
 今さらながらの親近感とノクスの優しさに、胸が温かくなるようだった。


「あの時も今までも、本当にありがとう。」


「え…? また急にどうした…?」


「改めて、ちゃんと言わなきゃと思ったの。最近、色々と昔のことを思い出すんだけどさ……ノクスが傍にいてくれなかったら……僕、生きていくことに耐えられなかったと思うんだ。」


「フィル……」


 自分がトラウマに飲まれそうだと思ったのか、ノクスが気遣わしげに頬に触れてくる。


 その手に自分のそれを重ねて、フィレオトールは困ったように笑った。


「なんだか、僕って出会った時からノクスに甘えっぱなしだね。ノクスにはノクスの人生があるって分かってはいるんだけど……今さらもう、ノクスなしでは生きていけない気がする。」


 仲間になろうと言ってくれたのもノクスで、ヴァリアについていくと言ってくれたのもノクスで。


 自分はただノクスを受け入れただけだと言えば、それは側面的な事実なのだけど……実際はどうだろうか。


 ノクスの優しさに甘えて、自分は彼にかなり依存していなかった?
 それこそ、ノクスならどこに行っても一緒だと思って疑わないほどに。


 その証拠に、考えてもみなよ。


 仮にノクスが自分から離れて生きていくと言ってきたら、自分は素直に彼を見送れる?




 多分、そんなことできない……




「フィル……何度も思ってきたが、今日は訊くぞ? 誘ってんのか?」


 すでに噛みついてきそうな顔をしているノクス。


 いつもなら思わず逃げ出したくなるところなんだけど、なんだか今日はそんなノクスも可愛く見えてしまった。


 だから、フィレオトールは柔らかく微笑むだけ。


「ん……今日は、もしかしたらそうかも。」
「おまっ……言ったな?」


 パッと顔を赤くしたノクスが、次の瞬間にはわった目つきになる。


 近付いてくる唇を、今日は自ら受け入れる。
 息継ぎの合間に薄く口を開くと、示し合わせたかのように舌が忍び込んできた。


(なんだろ……いつもと感覚が……)


 なまめかしく舌が触れ合うと、まだ足りないと言わんばかりに舌を絡め取られる。


 もう離れられないって、そう実感したばかりだからだろうか。


 ノクスが求めてくれていると伝わってくることに、どうしようもなく安心してしまう自分がいる。


 そして、そんなささやかな気持ちの変化は、唇を重ねているノクスには筒抜けだったらしい。


「フィル……今日のお前、なんかいつになく積極的じゃないか?」


 ノクスも少し戸惑っているよう。


「あ……えっと……」


 自分でもいつもと違うと感じていただけに、言葉にして表現されると、途端に気恥ずかしくなる。


「よく分かんないんだけど……今日はやたらと安心するっていうか…。多分……嬉しい、のかな…?」


 多分と言いながら、嬉しいという言葉は今の自分にピッタリと当てはまったような感じがした。


(そっか……嬉しかったんだ……)


 ノクスには失礼かもしれないけど、キスでそう思ったのはこれが初めてかもしれない。


 なんだろう……そう自覚したら、変に気持ちがそわそわとしてきた。


 ―――もっとしてほしい。


 自然にそう思ってしまって、とっさにその気持ちを飲み込む。


 自分は、なんてはしたないことを考えているのだろう。
 顔に熱が集まってきて、ノクスの顔を直視できなくなる。


 ノクスにいつもと違うと指摘された恥ずかしさもあって、フィレオトールはノクスから顔をらした。


 それでも恥ずかしさを処理しきれないのか、手持ち無沙汰になった指がもじもじとしている。


 それを直視することになったノクスの唇が、にわかに戦慄わなないた。

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