こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step6 事件発生!思いつきの船旅で大ピンチ!?

現実に返るのは一瞬

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 なんとか精霊たちをなだめた後、周囲と人々から逃げるように船内へ。
 着替えた後は、気の向くままあっちへ行ったりこっちへ行ったり。


 どのレストランも美味しそうだったし、ホールで開かれる催し物も面白そうだった。


 ヴァリアではバカ皇太子のフォローに大忙しだったので接待以外で外食することは少なかったし、こういう催し物にもあまり縁がなかった。


 仕事やら責務やらがない今、こういうことを楽しんでもいいんだよね。


 そう思ったら、色んなものが自分を手招いているように見えてしまって……気付いたら、二週間の予定がほぼいっぱいになってしまった。


「おい、フィル……これ、いつ休むんだ?」


 手帳にスケジュールを書き留めていたノクスが、それを眺めて苦言を呈した。


「あはは、ちょっと詰め込みすぎたかな…。でも、ほとんど座ってるだけだし、大丈夫かなぁって。」


「うーん……だめだ。」


 手帳を睨んでいたノクスは、首を横に振る。


「体力はともかく、気力がもたないだろ。ブルペノンに着いてからが本番なのに、船で気力を使い果たしてどうする。」


「そこはノクスの回復魔法でごまかして……」


「アホか。回復魔法も万能じゃないんだぞ。そこまで気に入ったなら、また乗ればいいだろ。とりあえず、飯でも食いながら調整するぞ。いくつかは諦めてもらうからな。」


「……はーい。」


 無言の押し引きの結果、フィレオトールはしょんぼりと肩を落とす。


(そっか……また来ても大丈夫なんだ。)


 勝手に今回きりだと思っていたけど、考えてみればそのとおりだ。


 ルルウェルで活動する元グレイス商会の人々の情報によると、ルルウェルでは自分やノクスの捜索がほとんど行われていないらしい。


 ヴァリアからの捜索依頼は出ているが、犯罪者の指名手配でもないし報償金もささやかなので、どうせ貴族の放蕩ほうとう息子が気まぐれに行方をくらませたんだろうと、皆が一笑と共に依頼を投げたそうだ。


 それは、聞けば納得の流れ。


 自分たちを他国に引き抜かれたくないと仮定するなら、ヴァリアは自分たちの功績を伏せて捜索依頼を出すしかない。


 とはいえ、下手に報償金を上げたり皇室の名前を使うと、捜索理由を詮索しようとする者が現れるだろう。


 おそらく、捜索依頼は父が息子を捜しているという建前を取って出されたもののはずだ。


 となると、ヴァリアから遠く離れたルルウェルではまともな捜索などされまい。


 なんにせよ、ルルウェルでは割と自由に動けそうでラッキーだ。


 今回諦めなければいけないものがあるというのは残念だけど、次の楽しみに取っておけると思えば、悪いことではないだろう。


 そう考えた結果、ちょっと残念そうにしながらも楽しそうという、なんとも複雑な表情になってしまうフィレオトールであった。


「あの……」


 廊下の端で立ち止まるフィレオトールとノクスに、誰かが声をかけたのはその時。


 声の方へと目を向けると、若い女性の二人組がいた。
 格好や雰囲気から察するに、貴族というわけではなさそうだ。


 しかし、この若さでこの観光船に乗っているくらいだ。
 貴族とまではいかないが、それなりに金を持った人物の娘さんといったところか。


 貴族時代に染み着いた癖というか、一目見ただけで勝手にその人の背景を分析してしまう自分がいた。


「急にすみません。今回は、お二人で船に乗られたのですか?」
「はい、そうですけど……」


 答えると、彼女たちは何故か嬉しそうに表情を輝かせた。


「そうなんですね! 実は、さっきお見かけしてから、お二人ともすごくかっこいいなぁって思ってて…。もしよかったら、どこかのタイミングでお食事でも一緒にどうかなって。」


 女性連れではないと分かって安心したのか、彼女たちはわくわくした様子。


(あーあ…。やっぱ引っ掛かったな……)


 きょとんと目をしばたたかせるフィレオトールの隣で、ノクスは細く息を吐いた。


 変装具といっても、一般的なそれは髪や目の色を変える程度。


 フィレオトールがグレイス商会で開発した高級品は髪の長さや顔立ちを変えることもできるのだが、本人が持つ素質から大きくかけ離れたものにはならない。


 つまるところ、フィレオトールが変装具で別人の仮面を被ったとしても、美麗なものは美麗なのである。


 船に乗ってから数時間経つが、何人の人が自分たちとすれ違っては二度見していったことか。


(うーん……どう断るかなぁ……)


 無表情の裏で、ノクスは悩む。


 この後の予定も詰まっているし、フィレオトールに下手に気力を使わせるような展開はごめん被りたい。


 それに、二人きりの旅行に水を差されるのは絶対に嫌だ。


「ありがとうございます。」


 ふと鼓膜を叩いたフィレオトールの声。
 それで隣を見ると、彼はその顔に柔らかな笑みをたたえていた。


「誘ってくれたのは嬉しいんですけど、ご遠慮させてください。僕にはもう心に決めた人がいるんです。その人を不安にさせるようはことはできないので。」


「そ、そうですか……」


「でも、こうして同じ船に乗ったのも何かの縁ですし、ささやかながら、あなた方の旅がすばらしいものになるようお祈りしていますね。」


 フィレオトールが爽やかな笑顔で笑いかけて優雅に礼をすれば、それだけで女性たちは完全に惚けてしまう。


 さすがは常に誰かしらに狙われていたフィレオトール。
 誘いを断るのは慣れたことのようで。


「ノクス、行こう。」
「おう。」


 フィレオトールに腕を引かれ、ノクスは女性たちに背を向ける。


(おれの出る幕なんてなさそうだな。よかったよかった。)


 スローライフに興じているうちに鉄壁ガードを忘れていたら。
 以前そんな不安をいだいたが、これは安心してよさそうだ。


 そう思うと同時に、フィレオトールがはっきりと心に決めた人がいると言ったことに、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。


 思わずにやけそうになる顔を我慢していると……


 ―――ぎゅっ


 ふと、こちらの腕を掴む手に力がこもった。


 違和感を覚えてフィレオトールの顔を覗き込んでみると、彼は思い切り不機嫌な表情で爪を噛んでいる。


「そういえば、こんなんだった…。変装具をつけたところで、結局声をかけられるんだよね…。くそ、どうするか…。変装具の改良はもう限界だし、やっぱり特殊メイクでも覚えるべき? いや、それ以前に緩みまくってた気を引き締めろって話だけど。あー、胃がムカムカする…っ」


 じゅのように独り言を呟きながら床を睨むフィレオトールだが、周囲の気配にはかなり敏感になっているらしい。


 表情はどこか強張っており、誰かとすれ違う度に小さく肩を震わせ、その誰かが立ち止まった気配を察するや否や歩みが早くなる。


 先ほどまでの楽しげな様子が嘘のよう。


 しきりに人の気配を気にするフィレオトールは、耳をピンと立ててしっを丸めた猫さながらといった雰囲気であった。


 これは好都合だ。


 ハイテンションのままどこかに消えていかれても困るので、ぜひともそのまま猫化していてくれ。


「よしよし、落ち着け。感覚を取り戻すまではおれが追い払ってやるから、おれの傍から離れるなよ?」


「……うん、分かった。」


「とりあえず、一旦部屋に戻るか。お茶でも飲みながら精霊たちと話してれば、そのうち胃痛も収まるだろ。飯もルームサービスで手配するか。」


「そうしようかな…。何から何までごめん。」


 突如強制的に警戒モードへと切り替わざる得なくなったフィレオトールは、こちらの提案に異を唱えることなく頷いた。


 非常によろしい傾向なことで。
 これは、予定の調整もスムーズに進みそうだ。


 気をよくしたノクスは、さりげなくフィレオトールの肩を引き寄せて部屋への道を進む。


「………」


 そんな二人を、壁の陰からそっと見つめている人物がいた。

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