こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!

チャンスは逃さない男

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 それからまた雲が出てきたので、露天風呂はこのくらいにしようと内風呂へ戻ることに。


「ふう……」


 普通に自分で髪を洗ったフィレオトールは、顔に流れてくる水滴を手で払いのける。


「なんか、水の感触が違うなぁ…。ノクスもそう思わない?」
「んー? おれにはよく分からん。」


 隣から、あまり興味がなさそうな軽い相づちが。
 次の瞬間、なんの前触れもなく視界が揺れた。


「わっ!?」


 どうやら、ノクスが椅子を引いてきたらしい。
 くるりと椅子を回されて、ノクスに背中を向ける構図へと変えられる。


「何?」
「せっかくの機会だから、こういうのもありかなと思ってさ。」


 後ろから石鹸せっけんの香りが漂ってきて、背中に泡立ったタオルが当てられる。


 どうやら、背中を流してくれるということらしい。


 少しばかりこそばゆい感じもしたが、フィレオトールは特に異を唱えることはしなかった。


「そういえば、誰かに洗ってもらうなんて何年ぶりだろ…? 十年は前な気がする。」


「それ、貴族としてはかなりの少数派だぞ。」


「お風呂で回収した髪の毛を売りさばかれたり、ほくろの位置をおしゃべりのネタにされてみな? 一人で入る以外の選択肢がなくなるから。」


「えぐいな…。だから、部屋の掃除とかも自分でやってたのか。しかしまあ……改めて見ると、本当に肌が白いな。出身はおれの方が北のはずだけど、お前の方が圧倒的に白いわ。こっちの服を着たお前がもはや現地民だったからさ、本場の雪国の連中と同じ白さってどういうことなんだって思ってたんだよなぁ……」


「ああ…。確かに、何度か地元の人と間違えられたもんね。」


 フィレオトールは自分の両腕を見下ろす。


 これまで商会のオーナーとして多くの人と接してきたが、ここまで肌が白い人にはあまり出会わなかった。


 それが、ブルペノンに来てからはどうだろう。


 透き通るような白い肌に、色素が薄い髪や瞳。
 そういった特徴を持った人々がほとんどを占めていたのだ。


 誰が観光客かなんて一目瞭然レベル。
 正反対とも言える色彩を持つノクスが、ものすごく浮いて見えるほどだった。


 そして、ノクスとは対照的に、自分は背景の一部にでもなれそうなくらいにブルペノンの人々に溶け込んでいたのである。


 そこでふと、思い出したことが。


「そういえば、カランディア家って北方からヴァリアに流れてきたらしいんだよね。もしかしたら、先祖のルーツはこっちの大陸なのかも。」


「なるほど。どうりであんなに馴染んでたわけだ。」


「僕も、なんだか故郷にでも帰ってきた気分だったよ。ちょっと変な感じだけど。」


「確かに。生まれ故郷より故郷っぽいって、笑っちまうな。」


 面白おかしく笑ったノクスの手が、背中から離れる。


 次はお湯がかけられるんだろうなと、のんびりそれを待っていると……


「わっ…」


 フィレオトールは驚いた声をあげる。
 突然、泡にまみれたノクスの手が腹に回ってきたのだ。


「ちょっ……背中だけでいいよ! さすがに子供じゃないんだから!」
「………」


「あれ? ノクス?」
「いやぁ、油断してるところ悪いなぁ……」


 ぎゅっと腕に力を込めたノクスが、背中にぴったりと寄り添ってくる。




「おれ、チャンスはのがさない男なんだわ♪」




 耳元でささやかれたのは、明らかに何かを企んでいる声だった。


「~~~っ!?」


 一瞬で脳内はパニック。


 そんな!?
 さっきまで、そんな空気全然なかったじゃないですか!!


 違和感はあったけど、ノクスに失礼だと思って無視したのに。
 やっぱり、ノクスはノクスだった!!


 声にならない悲鳴をあげて逃走を図るフィレオトールを、ノクスは満面の笑みで胸の中に閉じ込める。


「残念でした。自分の直感を信じておくんだったな?」


「うわーっ!? ばれてたーっ!!」


「食事の時から、もろに顔に出てたぞ? 可愛かったから、あえて泳がせたけど。そしたら、あっさりと警戒を解いちゃってなぁ?」


「だって! 旅行中はこういうことをしないのかと……」


「ん? じゃあ、家の風呂ではさせてくれるのか?」


「無理ですーっ!!」


「だから、こうしてチャンスを待ってたんじゃないの。」


 心底楽しそうなノクス。


 また遊ばれた!
 全てはノクスの手のひらの上だったのか。
 一体、何度このくだりをやれば気が済むんだろう。


 でも、ノクスを警戒するなんて、今となっては逆に難しい。


 それに、ノクスをずっと警戒しているのはやっぱり申し訳ないし、自分も非常に疲れる。


 じゃあ結局、自分は彼に遊ばれるのを容認するしかないのか。


 そんな悩みはどうでもよくて、今はとにかく……


「うわーん、だまされたぁ! いやーっ!!」


 無駄だと知りつつも、羞恥しゅうちに耐えられないフィレオトールは、情けない声でわめいてじたばたと可愛い抵抗を続ける。


 そんなフィレオトールを見るノクスは、それはもうご満悦だ。


「そういや、これはお前のためとか関係なく、純粋におれがやりたいことだな。」


「あ…」


「気付いたか? お前が何を気にしてへこんでたのかは知らんけど、おれは自分がやりたいことを遠慮なくしてるぞ?」


「ほんとだーっ!?」


 思えば、自分に迫ってくるようになってから、ノクスは遠慮なんてしたことがない気がする。


 今だって、後ろで活き活きしているのが口調から伝わってくる。


「……って、やりたいことって、もっと他にあるでしょ!? なんでこういうことばっかりなの!?」


「テンパってるお前が可愛いから♪」


「やっぱりドSじゃーん!!」


「ほらほら。そろそろ観念しろ。どうせ、逃げられないんだから。」


 その瞬間、ノクスの声がぐっと甘くなった。

    
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