こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!

絡む想いは、より深まって―――

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〝期待していた〟


 もしかしたら、その指摘はあながち間違っていなかったのかもしれない。


 ベッドに倒れると同時に重なった唇。
 その隙間から、ごく自然な流れで柔らかい舌が忍び込んでくる。
 それを受け入れれば、気付かぬうちに自分も舌を絡めていた。


 なんだろう。
 初めは戸惑ってばかりだったはずなのに、今はこの触れ合いがたまらなく嬉しい。
 いつもより深く交わっている感覚に安心して、頭がくらくらする。


 そうやって甘い快感に流されていくことを、心の奥が望んでいる。
 そんな気がするんだ。


「ふ……んう……あ…っ」


 ゆっくりと唇が離れると、嫌だと訴える無意識につられて切ない声が漏れ出てしまった。


「なんだよ。そんな物欲しそうな顔して。もっとしてほしかったか?」


 目が合ったノクスが、笑いながらそんなことを言ってくる。


 ……意地悪。


 素直になれない自分が悪いって話だけど、そんな風に訊かれたら〝うん〟とは言えないって知ってるくせに。


「ううぅ……」
「んな、むくれるなよ。好きなだけしてやるっての。」


 どこか困ったような笑い声をあげたノクスが、子供をあやすような手つきで髪をなでてくれる。


 なんかもう、これだけで十分に満たされるからいいやって思ってしまうのは単純すぎるだろうか。


 額や頬にたわむれるようなキスが降る中、シャツのボタンを外そうとしたノクスの手が腰から脇腹辺りをかすめる。


「んんっ…」


 たったそれだけのことで、脳裏が白く弾けた。


「ふふ…。風呂場で中途半端にお預けにしたせいか? いつもより敏感になってんな。」


「うう……そんなこと……」


「ないのかなぁ? そんなに目ぇとろとろにさせといて?」


「~~~っ!!」


 くすぐるように体のラインをなぞられ、体が勝手にびくびくと痙攣けいれんしてしまう。


「口より、体の方が素直だな?」


 にやにやとしてこちらを見下ろすノクスは、もはや悪人顔。
 フィレオトールは、うるむ目元を歪めて唇を戦慄わななかせる。


「い、意地悪…っ」
「そんなおれに惚れたのはお前だ♪」


「ノクスが落としたんじゃん!!」
「おうよ。こんなにチョロいなら、もっと早く落とせばよかったぜ。」


 ノクスが爽やかに笑みを深めれば、悪人顔にますます磨きがかかる。


 どこまでもノクスの独壇場どくだんじょつ
 ドSの本性を隠す気ゼロだ。


「ひどいよぉ…。ノクスが僕をいじめるぅ……」
「じゃあ、おれのことを嫌いにでもなるか?」
「それこそひどい質問!!」


 フィレオトールは、たまらず顔を覆う。


 なんてことを訊いてくるのだ。
 そんなの、無理に決まってるじゃないか。


 別にいじめられるのが好きなわけじゃないけど、相手がノクスならもうオールオッケー。


 どんなに意地悪をされたって、許す以前に怒ってすらいないんだから、彼を嫌いになれる余地なんてない。


 馬鹿みたいにベタ惚れなんだから、仕方ないじゃん!?
 笑うなら笑ってよ!
 どうせ、全部分かってるくせに!!


 心の中だけでそうわめいて、フィレオトールは恥ずかしさで縮こまる。
 すると……


「くくっ…」


 さっきまでも十分笑っていたくせに、ノクスが肩を震わせて噴き出した。


「悪い悪い。ちょっといじめすぎたか。お前があんまりにも期待どおりの反応してくれるもんで、つい追い込んじまうんだよなぁ……」


「ううぅー…。ここに、ドSの大魔王がいるよぉ……」


 何がつい、だ。
 ほぼほぼ確信犯のくせに。


 これが伝説でうたわれる聖剣の勇者だなんて、神話しか知らない世の中は信じてくれないって。


「まあまあ。」


 悪いと言いながら、ノクスに悪びれた様子は皆無。


 自分が複雑な心境になっているとは知らず、ようやく笑い声を引っ込めたノクスがまた頭をなでてくる。


「いじめたにはいじめたかもしれねぇけどさ。……おれは、結構嬉しいんだけどなぁ……」


「っ!!」


 その瞬間、頭が理解するよりも先に体が跳ねる。


「さっきの物足りなさそうな顔もそうだし、こんな風に可愛く反応してくれる体もそうだし…。フィルって、触れれば触れるほどおれ好みになってくんだよな。」


「あ……あ…っ」


 片手で柔らかく耳をくすぐりながら、もう片方の手が器用にシャツのボタンを外していく。


 そんなことをされたら、恥ずかしさを紛らわそうとして別方向に飛んでいた意識が、途端にそこに集中してしまう。


「ほんとにもう、どこまでいじらしいんだかな。今のままで十分すぎるくらいに可愛いってのに、まだおれを夢中にさせる気なのか?」


「ああっ!」


 シャツがはだけて、ノクスの手が直に素肌に触れる。
 それだけでもう、胸がいっぱいいっぱいだった。


「フィル、こんなんで満足するなよ。」


 何を感じ取ったのか。
 ノクスの声がすっと低くなって、口調に真剣な響きがこもった。
 指を絡めて手を握ってきた彼のすみれ色が、まっすぐに自分を見つめてくる。


「どうせなら、色んな意味でおれを求めてくれって言ったろ? このままおれにぐずぐずに甘やかされて、どんどんわがままになっちまえ。」


 吐息が触れ合うほどの近距離からささやかれる、甘い甘い言葉。
 どうしようもなく胸が高鳴って、ノクスの瞳から目をらせなくなる。


「わがままって…? 僕、もう十分―――」
「足りない。」


 とっさに言いかけた言葉は、すぐさまノクスにさえぎられてしまった。


「全然足りねぇよ。おれがここまでお前を縛ってんだから、お前も同じくらいおれを縛りつけてこい。」


「………?」


 フィレオトールは、きょとんとして小首を傾げる。


 どうしよう。
 よく意味が分からない。


 だって、自分はすでにノクスに甘えまくっているし、彼のことを散々自分に縛りつけていると思う。


 もう離れていかないでって。
 自分はノクスにそう言った。


 それまでは単純に彼と共にいることが普通だと思っていたけど、それが普通じゃないと悟った分、あの言葉の重みは遥かに増したはずだ。


 これ以上のわがままって何…?


「……やっぱり、お前にはストレートに言わないと伝わらないようだな。」


 自分がちんぷんかんぷんになっていることを察したらしく、途端にノクスが半目になった。


「ようは、船の時みたいなおねだりをもっとしてこいって意味だよ。」
「…………ぴゃっ!?」


 宣言どおりストレートな物言いに、意味を履き違えられなかったフィレオトールは顔を真っ赤にするしかない。


「そんな……そんな……あうぅ…っ」


 また目を回し始めるフィレオトールに、ノクスが畳み掛ける。


「お前は、満足するラインが低すぎるんだよ。いつも隣にくっつくだけで、もう胸いっぱいって顔しやがって。」


「だ、だって……実際……」


「だから、その幸せの容量を増やせって言ってんの。まったく、これまで勇者パーティーだから貴族だからって、スケールがでかい問題ばかりこなしてきたせいか…? こういう小さなことには、とんと無頓着なんだから。」


「あう…」


 そう言われたら、返せる言葉がない。


 あれ?
 もしかして、自分が変なの?


 好きな人に傍にいてもらえるだけで十分に幸せじゃない。
 一般的な〝好き〟って、もっと色んなことを要求するものなの?


 やはりちんぷんかんぷんのフィレオトールは、周囲に大量の疑問符を飛ばしまくり。


 そんなフィレオトールを見つめて、ノクスはこの世の終わりかと思うような深い溜め息をつく。


「だよなぁ。言ったって伝わらんよなぁ……―――だからこうして、体に仕込んでいってるわけだし。」


「あっ…」


 止まっていた愛撫の手が、なんの前触れもなく動き始める。


「お前はいっそ、体の快楽に引きずられちまった方が早い。覚悟してろよ? ちょっとやそっとじゃ満足できねぇ体にしてやるから。」


「あ……んっ……待っ…て…っ」


「そこを〝待って〟じゃなくて〝もっと〟って言わせるのが、当面の目標だな。」


 あやしく微笑むノクス。
 その唇がぐっと迫ってきて、耳元に熱を帯びた吐息がかかる。


「ああっ!!」


 せつの間に強烈な電流が爆発して、あっという間に頭が熱で溶けそうになる。


 素直に息を上げるフィレオトールの耳に、ノクスが吹き込むのは甘い毒。


「お前はなぁんも悪くない。おれがお前を落として、お前の体を好き勝手に調教してるだけだからな。」


「あ、あ……ああ…っ」


「まずは、体からおれに触られないと狂うようにしてやるよ。」


「そん……な…っ」


「責めたきゃ責めていいぜ? お前にはその権利がある。おれがお前をこんな風にしたんだって……そうやって、おれを求めるようになっちまえばいい。」


「やっ……あっ……」


「安心しろ。おれはどこにも行かない。責任は取ってやるよ。」


「んう…っ」


 深く唇を貪られ、反論の全てを奪われる。


「フィルは、こういうことをされて嬉しくないか?」
「………っ」


 ふいに問いかけられて、呼吸も心臓も止まりそうになった。


 嬉しくないか、なんて。
 そんなの、嬉しいに決まってる。


 そもそも、今まで生きてきて、ノクスにされて嫌だったことなんて一つもないのだ。
 意地悪をする時も、本気で怒る時も、その根底にある想いはたった一つ。


 お前が何よりも大事だって。
 それだけだから。


「別に、いきなりあの時レベルのおねだりをしてこいとは言わない。小さなことからでいい。そうだな、たとえば……」


 少し考えたノクスは、すぐに表情をやわらげる。




「傍にいたい時にすり寄って終わりじゃなくて―――思いっきり抱きついてこい。」




 どこか妖艶な笑顔でそう言われたら、完全にノックアウト。


 なんなの、その色気。
 頭が余計にくらくらして、視界がチカチカと明滅するようだ。


 さっきの言葉を、そっくりそのままお返ししてやる。


 一体全体、彼は自分をどこまで夢中にさせて、深みに溺れさせるつもりなのだろう……


「―――っ!!」


 衝動に突き動かされるまま、自分を迎え入れてくれる胸にすがりつく。


 力強く抱き締め返されれば、溶けてしまいそうなくらいに甘くて幸せな気持ちになった。


 もう十分だよ。


 これ以上何かしなくても、自分の体も心も、すでにノクスに触れられないと狂うようになってるから……


 口では言えなかったけど、きっとノクスには、そんな気持ちも伝わっていたんじゃないかって。


 熱く口づけを交わしながら、そんなことを思った。

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