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Step9 今さらの初デートは、何かがおかしいような…?
謎すぎる仕組み
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あの後、ほぼ朝方まで張り切ってしまったわけだが、自分が起きたのは九時よりも手前。
こういう時は、師匠に鍛えられたおかげで得たショートスリーパー体質が非常にありがたい。
おそらく、フィレオトールは昼過ぎまで起きないだろう。
そして、目覚めたと同時に昨夜のことを思い出し、狂ったように喚くに違いない。
そこに自分がいたら、余計にいたたまれないはずだ。
昨日はかなりいい思いをさせてもらったので、さすがに空気は読む。
そういうわけで、早々に寝室から抜け出して、聖剣を振ったり本を読んだりしながら、のんびりとフィレオトールの復帰を待つことにした。
そんなフィレオトールが起きてきたのは、昼前のことだった。
おや、これは意外な展開だ。
睡眠時間はともかく、羞恥心を落ち着けるのに悪戦苦闘した結果、夕方までは寝室から出てこないと思っていたのに。
ちょっとばかり違和感を持ちつつも、時間もちょうどよかったので昼食を用意してもらった。
食事をしている間も、フィレオトールは至って平常運転。
無理をしている香りもなく、いつもの柔らかい雰囲気も自然そのもの。
やっぱり、何かおかしい。
そんなノクスの疑問は、この後割とすぐに解消される。
「ねぇ、ノクス……」
食後のティータイム。
ホテルの従業員がしばらくは来ないというタイミングになってから、フィレオトールが口を開いた。
「どうした?」
「えっと、ね……昨日なんだけど……」
いいのか?
こっちが空気を読んで黙っているのに、自分から黒歴史に踏み込んで。
そんな風に突っ込みたい気持ちをこらえ、ノクスは待ちに徹する。
「あの……僕、変なことしなかったかな…?」
「……………は?」
完全に想定外の質問に、ノクスは目を点にする。
すると、フィレオトールがにわかに慌て始めた。
「いや、あの…っ。だから……」
「お、おう……」
「そのぉ……」
指をもじもじさせていたフィレオトールが、ふとした拍子に溜め息。
その次に両手で頬を挟んだフィレオトールの顔が、ほんのりと赤くなった。
「実は昨日……ノクスに抱きついた辺りから、記憶が全然なくて……」
「……何ぃっ!?」
心底驚くと同時に納得した。
昨日のことを覚えてないから、すんなりと起きてきたのか!
目をしばたたかせるノクスの前で、フィレオトールはほうと息をつく。
「いやね、覚えてないのがもったいないくらい幸せだったのは分かるんだよ? ただ……はあ。お酒を飲みすぎたせいかなぁ…?」
いや。
多分、覚えてなくて正解。
悶絶しなくて済んでよかったな。
そんなことはどうでもよくて……
(お前の記憶が吹っ飛ぶ仕組みが謎すぎる!!)
一番のツッコミどころはそこだ。
嘘だろ?
媚薬を盛られた時ですら、あんなに鮮明に覚えていたのに?
確かに、お前はそこまで酒に強くないよ?
昨日はおれに合わせて、それなりに飲んではいたもの事実だよ?
だけど、根本的に人間不信であるフィレオトールの警戒心と理性は、その程度で吹き飛ぶほどやわいものじゃない。
おそらく、理性を手放して無防備になるのは、無意識でかなり怖いのだろう。
どんなに気を抜いている時でも、ほろ酔いの段階から自動セーブがかかるのである。
そんなフィレオトールが、記憶をなくすほど酔っぱらうわけがない。
まさか、幸せすぎると記憶が飛ぶのか?
そっちの免疫もゼロだとでも?
というか、あのくらいで記憶が飛ぶくらいに幸せだなんて。
いくらなんでも、満足ラインが下すぎるだろ。
ああ、どうすればいい。
脳内ツッコミが止まらない。
軽く思考がショートして、無言になってしまうノクス。
そんなノクスを見るフィレオトールが、またおろおろとし始める。
「やっぱり、なんかやっちゃってた?」
「……へっ!?」
「何か迷惑かけてたかな? だったら、今後の教訓にしたいから、はっきりと―――」
「ち、違う!!」
あっという間に反省モードに落ちていこうとするフィレオトールに、ノクスは大慌てでストップをかける。
「安心しろ! なんもしてねぇから!!」
「ほんと…? 何か隠してない?」
「隠してねぇよ! いつもど~り、おれが美味しくいただいただけだから!」
「なら……いいんだけど……」
「だーっ! そう言う割には、ガッツリ疑ってるな! よく考えてみろ!!」
ノクスはフィレオトールの前に指を突きつける。
「普段寝ぼけてる時も、猫みたくすり寄ってくる程度のお前だぞ!? 酔って正体をなくしたくらいで、変な行動をするとでも!?」
「いや、それが分からないから訊いてるんだけど……」
「じゃあ、昨日の状況を考えてみろ! あの真っ最中で、お前が何をできる!? 何か!? 行動が大胆になって、逆におれを襲ってくれるとか!?」
「それは……さすがに……」
「だろ!? 加えて、おれの性格も考えてみろ。お前が何かやらかしてたなら、思いっきりからかってるわ!!」
「あ……言われてみれば、確かに。」
勢いに任せてほんのり本当のことを言ってしまったが、自分の性格を話題にすることで回収に成功。
フィレオトールが、すんと納得した。
「よかったぁ…。黒歴史でも作ってたら、どうしようかと……」
「お前に限って、それだけはないわな。」
「あはは……」
普段から、色んな人々にお堅いだの真面目すぎるだのと言われてきたせいだろう。
フィレオトールは、苦笑いで頬を掻いた。
「あ、じゃあ……」
「ん?」
くいくいと袖を引かれて、ノクスは首を捻る。
「あのね……僕も愛してるよ。」
「!!」
この展開を予期していなかったノクスがパッと顔を赤くすると、フィレオトールも照れが半分、嬉しさが半分といった感じではにかむ。
「昨日ああ言ってもらえて、本当に嬉しかったんだ。だから、僕もちゃんと伝えなきゃと思って。」
そりゃ、昨日のことを覚えていないなら、お返しだってまだだと思うよな。
律儀で真面目なフィレオトールらしい。
そして昔から変わらず、天然の不意打ちが得意なことで。
「―――よし、もう一泊するか。」
そんなの、こうなるに決まってるだろ?
「ぴゃ…っ!?」
さすがに、もう今後の流れが分かるようになったのだろう。
ノクスの肩に担がれることになったフィレオトールが、顔を真っ赤にしながらも青筋を立てるという、なんとも複雑な表情をした。
「ま、待って!! そんなつもりで言ったんじゃ…っ」
「もう諦めろ。お前がおれのスイッチをコントロールできるようになる日は、永遠に来ねぇから。」
「そんなーっ!!」
ささやかな抵抗を片手でいなしながら、ノクスは忍び笑いをひとつ。
実験の結果は予想外だったが、いいことを知られてラッキーだ。
べた甘モードは、頃合いを見て再検証といこう。
こういう時は、師匠に鍛えられたおかげで得たショートスリーパー体質が非常にありがたい。
おそらく、フィレオトールは昼過ぎまで起きないだろう。
そして、目覚めたと同時に昨夜のことを思い出し、狂ったように喚くに違いない。
そこに自分がいたら、余計にいたたまれないはずだ。
昨日はかなりいい思いをさせてもらったので、さすがに空気は読む。
そういうわけで、早々に寝室から抜け出して、聖剣を振ったり本を読んだりしながら、のんびりとフィレオトールの復帰を待つことにした。
そんなフィレオトールが起きてきたのは、昼前のことだった。
おや、これは意外な展開だ。
睡眠時間はともかく、羞恥心を落ち着けるのに悪戦苦闘した結果、夕方までは寝室から出てこないと思っていたのに。
ちょっとばかり違和感を持ちつつも、時間もちょうどよかったので昼食を用意してもらった。
食事をしている間も、フィレオトールは至って平常運転。
無理をしている香りもなく、いつもの柔らかい雰囲気も自然そのもの。
やっぱり、何かおかしい。
そんなノクスの疑問は、この後割とすぐに解消される。
「ねぇ、ノクス……」
食後のティータイム。
ホテルの従業員がしばらくは来ないというタイミングになってから、フィレオトールが口を開いた。
「どうした?」
「えっと、ね……昨日なんだけど……」
いいのか?
こっちが空気を読んで黙っているのに、自分から黒歴史に踏み込んで。
そんな風に突っ込みたい気持ちをこらえ、ノクスは待ちに徹する。
「あの……僕、変なことしなかったかな…?」
「……………は?」
完全に想定外の質問に、ノクスは目を点にする。
すると、フィレオトールがにわかに慌て始めた。
「いや、あの…っ。だから……」
「お、おう……」
「そのぉ……」
指をもじもじさせていたフィレオトールが、ふとした拍子に溜め息。
その次に両手で頬を挟んだフィレオトールの顔が、ほんのりと赤くなった。
「実は昨日……ノクスに抱きついた辺りから、記憶が全然なくて……」
「……何ぃっ!?」
心底驚くと同時に納得した。
昨日のことを覚えてないから、すんなりと起きてきたのか!
目をしばたたかせるノクスの前で、フィレオトールはほうと息をつく。
「いやね、覚えてないのがもったいないくらい幸せだったのは分かるんだよ? ただ……はあ。お酒を飲みすぎたせいかなぁ…?」
いや。
多分、覚えてなくて正解。
悶絶しなくて済んでよかったな。
そんなことはどうでもよくて……
(お前の記憶が吹っ飛ぶ仕組みが謎すぎる!!)
一番のツッコミどころはそこだ。
嘘だろ?
媚薬を盛られた時ですら、あんなに鮮明に覚えていたのに?
確かに、お前はそこまで酒に強くないよ?
昨日はおれに合わせて、それなりに飲んではいたもの事実だよ?
だけど、根本的に人間不信であるフィレオトールの警戒心と理性は、その程度で吹き飛ぶほどやわいものじゃない。
おそらく、理性を手放して無防備になるのは、無意識でかなり怖いのだろう。
どんなに気を抜いている時でも、ほろ酔いの段階から自動セーブがかかるのである。
そんなフィレオトールが、記憶をなくすほど酔っぱらうわけがない。
まさか、幸せすぎると記憶が飛ぶのか?
そっちの免疫もゼロだとでも?
というか、あのくらいで記憶が飛ぶくらいに幸せだなんて。
いくらなんでも、満足ラインが下すぎるだろ。
ああ、どうすればいい。
脳内ツッコミが止まらない。
軽く思考がショートして、無言になってしまうノクス。
そんなノクスを見るフィレオトールが、またおろおろとし始める。
「やっぱり、なんかやっちゃってた?」
「……へっ!?」
「何か迷惑かけてたかな? だったら、今後の教訓にしたいから、はっきりと―――」
「ち、違う!!」
あっという間に反省モードに落ちていこうとするフィレオトールに、ノクスは大慌てでストップをかける。
「安心しろ! なんもしてねぇから!!」
「ほんと…? 何か隠してない?」
「隠してねぇよ! いつもど~り、おれが美味しくいただいただけだから!」
「なら……いいんだけど……」
「だーっ! そう言う割には、ガッツリ疑ってるな! よく考えてみろ!!」
ノクスはフィレオトールの前に指を突きつける。
「普段寝ぼけてる時も、猫みたくすり寄ってくる程度のお前だぞ!? 酔って正体をなくしたくらいで、変な行動をするとでも!?」
「いや、それが分からないから訊いてるんだけど……」
「じゃあ、昨日の状況を考えてみろ! あの真っ最中で、お前が何をできる!? 何か!? 行動が大胆になって、逆におれを襲ってくれるとか!?」
「それは……さすがに……」
「だろ!? 加えて、おれの性格も考えてみろ。お前が何かやらかしてたなら、思いっきりからかってるわ!!」
「あ……言われてみれば、確かに。」
勢いに任せてほんのり本当のことを言ってしまったが、自分の性格を話題にすることで回収に成功。
フィレオトールが、すんと納得した。
「よかったぁ…。黒歴史でも作ってたら、どうしようかと……」
「お前に限って、それだけはないわな。」
「あはは……」
普段から、色んな人々にお堅いだの真面目すぎるだのと言われてきたせいだろう。
フィレオトールは、苦笑いで頬を掻いた。
「あ、じゃあ……」
「ん?」
くいくいと袖を引かれて、ノクスは首を捻る。
「あのね……僕も愛してるよ。」
「!!」
この展開を予期していなかったノクスがパッと顔を赤くすると、フィレオトールも照れが半分、嬉しさが半分といった感じではにかむ。
「昨日ああ言ってもらえて、本当に嬉しかったんだ。だから、僕もちゃんと伝えなきゃと思って。」
そりゃ、昨日のことを覚えていないなら、お返しだってまだだと思うよな。
律儀で真面目なフィレオトールらしい。
そして昔から変わらず、天然の不意打ちが得意なことで。
「―――よし、もう一泊するか。」
そんなの、こうなるに決まってるだろ?
「ぴゃ…っ!?」
さすがに、もう今後の流れが分かるようになったのだろう。
ノクスの肩に担がれることになったフィレオトールが、顔を真っ赤にしながらも青筋を立てるという、なんとも複雑な表情をした。
「ま、待って!! そんなつもりで言ったんじゃ…っ」
「もう諦めろ。お前がおれのスイッチをコントロールできるようになる日は、永遠に来ねぇから。」
「そんなーっ!!」
ささやかな抵抗を片手でいなしながら、ノクスは忍び笑いをひとつ。
実験の結果は予想外だったが、いいことを知られてラッキーだ。
べた甘モードは、頃合いを見て再検証といこう。
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