こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step10 求婚事件で破局の危機!?

不機嫌の理由

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 それは、長らく家を空けていたノクスが戻ってきた日のことだった。


 やたらと機嫌が悪いノクスをなだめながら、彼が手土産で持ってきた料理を並べて食事をしていると……


「ええっ!? 護衛対象の家の娘さんから、プロポーズされてるぅ!?」


 まさかの報告を彼の口から聞くことになった。


「あんにゃろ…。報酬がよくなきゃ、依頼なんざとっくの昔に蹴ってるわ。」


 過去のやり取りを思い出してか、ノクスの不機嫌さが一気に増す。


 依頼主は、骨董こっとう品を集めるのが趣味の資産家。


 入手困難な逸品ものを手に入れ、自慢したいばかりに邸宅でのお披露目パーティーを公表したのが事の発端だったという。


 邸宅に送りつけられたのは、ブルペノンの貴族や冒険者の間ではちょっと名高い盗賊団からの予告状。


 それを受け取った時点でパーティーなんかやめろという話だが……この主人、なかなかの愉快者。


 パーティーを中止するどころか、パーティーまでにこの逸品を盗み出せたら譲ってやると大豪語しやがった。


 そうして邸宅に集められたのが、近場のギルド屈指の冒険者たち。


 普段は指名依頼を断っているノクスも、専任契約やパーティーへの勧誘をしつこく受けるほどの実力がうわさになっていたせいで、ギルドに顔を出した時に巻き添えでしょっぴかれたそうだ。


「それで…? 何があって、プロポーズなんてことに?」
「よく分からんが、そこのご令嬢が強い男にとかく目がないらしい。」
「あっ…」


 はい、察しました。
 フィレオトールは、それ以上の言及を即座にやめる。


 まず間違いなく、集められた冒険者たちの中で一番強いのはノクスだろう。


 その上このルックスとなれば、お嬢様としてはなんとしてもゲットしたいに違いない。


 お父様が〝娘のお眼鏡に叶えば家柄は気にしない〟という考えだとしたらなおさらだ。


 今回の盗賊団との真っ向勝負。
 裏には、娘婿の選定があると見た。


(改めて考えると、ノクスほど完璧な人間もいないよねぇ……)


 不機嫌丸出しで料理を口に放り込むノクスを眺めながら、しみじみと思う。


 見た目も中身も、その能力も申し分なし。


 血筋こそ庶民ではあるものの、魔王を打ち倒した勇者であることをおおやけにすれば、貴族を超える権力を簡単に手にできる。


 こんな逸材に食いつかない方がおかしいだろう。


「依頼はいつまでなの?」


「あと二ヶ月。」


「なっがー…。他の人もいるんでしょ? そこまで不愉快なら、依頼をキャンセルしちゃいなよ。キャンセル料なら商会で出すからさ。」


「ジオンドの野郎に、今回の依頼だけは達成してくれって頼まれてんだよ。お宝運びでギルドに護衛依頼をよく出す常連らしくて、その繋がりから支援を受けたギルドも多いらしくてな。」


「あー…。ギルドとしては、下手に機嫌を損ねて縁を切られたくないわけか。」


「まあ、おれ個人としてはそんなの知らんって話だけど、おれが商会の一員でもあるって知られた時に、フィルたちに迷惑がかかるのは面倒だろ。」


「それくらい、こっちは気にしないのに。さっさと弱みを握ってやればいいだけの話だし。」


「お前はよくても、おれが嫌なの。ま、その分いい報酬をくれるって話になったし、めんどくせぇけど気合いでスルーするわ。」


 そう言いながら立ち上がったノクスは、空になった食器類を片付け始める。


 まあ、きっかけはどうであれ、本人が依頼を最後までやりきると言うなら、それを止めるつもりはない。


 キシムやヴァリアでもご令嬢方のアプローチに見向きもしなかったノクスだから、今回も念仏程度のものと割り切ってあしらうのだろう。


 そう分かってはいるのだけど……


(なんか……気に食わないな……)


 何故か、胸がもやもやとする。


 ノクスがモテるのなんて、今さら珍しいことでもないのに。
 一体どうしたのだろう。


「さーて、フィル。」
「ん?」


 ぽんと、肩に手を置かれる。
 それで声の方を見上げると、ノクスが満面の笑みを浮かべていた。


「聞いてのとおり、おれはかなりのストレスに耐えることになるわけだ。」
「あ……うん。」
「だからな?」


 まぶしいほどに輝くノクスの笑顔。


「とりあえず、今日までのストレスをめいいっぱい癒してくれ♪」
「…………あ。」


 何を求められているのかを察したフィレオトールは、顔を赤ではなく青くする。


 そんなフィレオトールを軽々と抱き上げ、ノクスは音符を飛ばしながら寝室へ向かう。


(あれー…。これ、他人事じゃないかも…?)


 疲れているノクスを労いたい気持ちは大いにある。
 こんなことで癒しになるなら、いくらでも協力したいとも思う。


 だけど……身がもつだろうか。


 背筋に薄ら寒い懸念を抱きつつ、抵抗なんて無駄なことはせずに、素直に連行されるフィレオトールなのであった。

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