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Step10 求婚事件で破局の危機!?
彼が欲しかった報酬とその理由
しおりを挟む「いやはや。この度はご迷惑をおかけしまして……」
場所はまたまた応接室。
再び快晴となった空を横目に、少女の父親ことこの屋敷の主人は、額の汗をハンカチで拭う。
あんな凄惨な光景を見せられた後だ。
ノクスの本来の雇用主となっているフィレオトールと事を構えるのは、あらゆる面で分が悪いと判断したのだろう。
「―――と、いうことで。盗賊団は全滅させましたし、これにて依頼完了ということでよろしいですね?」
にっこりと笑ってそう告げるフィレオトール。
当然、それに相手が否を唱えられるわけがなかった。
これでも、依頼最終日までは待ったのだ。
最低限の義理どころか、かなり譲歩してやったのだと理解していただきたい。
「では、こちらを…。お約束していた報酬の品です。」
早く出す物を出せ、と。
無言で訴えるフィレオトールとノクスの威圧に負け、主人が一つの箱を差し出す。
箱を開けてみると、そこには一つのグラスが納められていた。
「わあぁ……」
グラスを取り上げ、フィレオトールは思わず溜め息。
細身のシルエットをした純銀製のグラス。
繊細な彫刻も去ることながら、美しくちりばめられた宝石もすばらしい技術でカットされている。
これは確かに、逸品中の逸品だ。
この主人、審美眼だけは本当にお高いらしい。
―――――って……
「ええぇーっ!? まさか、これのために我慢して依頼をこなしてたの!? 信じらんなーい!!」
あんなに報酬に固執していたから、どんな大層な物が出てくるのかと思ったら……
隣を見て、不満爆発のフィレオトール。
一方のノクスは、ほんのりと頬を染めて頭を掻いた。
「だってお前、そういうの好きじゃん…。一目で気に入ったくせに……」
「そ、そうだけど…。でも、何も嫌な依頼を我慢してまで手に入れなくても……」
「だって、今年の誕生日プレゼントにしようと思ってたから、引くに引けなくて。かといって、正直にお前のプレゼントのためだって言うこともできないだろ? ……まあ、結果的に秘密にした意味もなくなっちまったけど。」
「あう…っ。なんてずるい言い方を……」
ノクスの発言を聞いたフィレオトールはたじろぐしかない。
秘密にした意味がなくなったなんて。
お前に見られた以上、それを誕生日プレゼントにはできないなって、そう言っているようなもんですよ!?
「まあまあ。報酬は受け取ったし、さっさと帰ろうぜ。」
途端に気まずげになったフィレオトールをフォローしようと、ノクスが話題を変える。
彼が言うとおり、早くここを去りたいのも事実。
長居する理由もないし、あの少女がノクスにアプローチする現場なんて見たくないし。
「……うん、そうだね。」
ここは切り替え。
フィレオトールは一瞬で表情を冷静に戻し、ノクスと共にソファーから立ち上がった。
「では、失礼いたします。」
一応礼儀程度に頭を下げておき、そそくさと彼らの側を通り過ぎる。
「フィリオル様!!」
その時、後ろから自分を呼び止める声が。
何事かと思って振り向くと同時に、ガシッと両手を掴まれた。
「フィリオル様!! 私と、ぜひとも結婚してくださいませんか!?」
キラキラとした少女の双眸が、ほぼ眼前にまで迫ってくる。
「……へ? 僕?」
突然のことに、フィレオトールは目を点に。
「……ああ!? ふざけんじゃねぇぞ、この大馬鹿令嬢!!」
一方、立場が逆転したノクスは怒りを露わにして大声を張り上げる。
「だって、ノクス君にはお相手がいるって話だもの。失恋の傷は、次の恋で洗い流してしまうに限るわ!!」
そのお相手がフィレオトールだと知らない少女は、ノクスに向けていた熱意をフィレオトールへとぶつけまくる。
「フィリオル様、以前は大変失礼いたしました。お恥ずかしながら、あの時はあなた様の実力を存じていなくて…。ですが、今は違います!! 先ほどの華麗な身のこなし、本当に惚れ惚れいたしましたわ!!」
「は、はあ…? というか、僕は名乗った記憶なんかないんですけど……」
「そんなの、契約書にある商会名から調べればすぐに分かりますわ。」
「あー……そりゃ調べるか。」
「冒険者ギルドのジオンドさんとは、それなりに懇意にしているそうですわね。その若さであれほどの商会を率いるとはすばらしいですわ。それに所作を見るところ、フィリオル様も名家のご出身なのでしょう!? まずはお互いの両親も含めてご挨拶をして、婚約式の段取りといきましょう!!」
「ちょっと待てぃ!! その流れ、おれがかなり複雑な立場にならねぇか!? お前も、フラれた男がすぐ傍にいるって嫌じゃね!?」
自分がフッた相手が雇用主と結婚しようとしているにしろ、恋人と結婚しようとしているにしろ、とんでもないカオスじゃないか。
「私は構わないわ。」
怒鳴るノクスに、少女はあっさりとそう言う。
「私は行く行く、この家を受け継ぐのよ。家を守る者として、より強い方を婿に迎える必要があるわけ。そこに、あれこれ夢を見ていられないわ。強いにかっこいいが備わっているなら、とにかくゲットしなきゃ!!」
なんと。
この少女、案外強かである。
「それに思ったのですけど、フィリオル様と結婚したら連動してノクス君も手に入って、一石二鳥じゃない?」
「うわ、すごい…。的確に状況判断をした上で乗り換えに来てる……」
「やだ、フィリオル様ったら。資産家の娘として、このくらいの賢さと割り切りは当然の心得ですわ。」
「まあ、否定はしないけど……それも状況によっては迷惑になるというか……僕の意見も聞いてほしいというか……」
「ええ、もちろんですわ! 結婚までの間、ゆっくりとお互いを知っていきましょう!!」
「いや、そもそも結婚前提で話を進めないでね? 僕は―――」
「門前払いなんて、やめてくださいな!!」
どうにか断ろうとする雰囲気を察したのか、少女がフィレオトールの言葉を強引に遮った。
戸惑うフィレオトールに詰め寄った彼女は、可愛らしく頬を染める。
「私、フィリオル様のルックスもかなり好みなんですの。せっかくの出会いですもの。まずは距離を縮めるチャンスをくださいな。」
きらめく少女の笑顔。
とにかく、この場では勝ちを譲る気がないらしい。
「………」
あまりの押しの強さに、フィレオトールは返す言葉を見つけられない。
その隣で、深くうつむいていたノクスがふるふると震え出す。
彼は力任せにフィレオトールを少女から引き剥がすと―――問答無用で、フィレオトールの唇を自分のそれで塞いだ。
「~~~っ!?」
何が起こったのかを理解した瞬間、フィレオトールの顔が沸騰する。
少女に長時間キスシーンを見せつけたノクスがフィレオトールを解放すると、ぐるぐると目を回したフィレオトールが後ろへとひっくり返った。
「こういうことだよ!! 諦めろ、この馬鹿!! もう二度と来ねぇからな!?」
真っ白になっている少女とその父親に捨て台詞を叩きつけ、ノクスはフィレオトールを抱えて応接室を後にする。
もちろんその後、この屋敷の関係者からはフィレオトールとノクスに関する記憶が上手い感じに改ざんされた。
元々そのつもりだったのだが、羞恥で半狂乱になったフィレオトールがノクスに土下座までして頼み込んだのも大きかったという。
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