悪魔の俺が天使に一目惚れしてハードモードなんだが!?

萌葱 千佳

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第27話

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「初めての魔界プロジェクト! スタート!」
 天使長の声が広い会議室に響き渡る。俺たちの地道な天界デートが功を奏したのかどうかはわからないが、一時はどうなることかと思った天使たちの悪魔との共存への意見も賛成が多数を占めるようになってきた。
 もう既にそれぞれ魔界と天界を自由に行き来すること自体は可能だが、魔界には興味があるがまだ足を踏み出せていないという天使が多いらしい。

 そこで魔界の祭りの日にあわせて、「初めての魔界プロジェクト」が立ち上がった。俺たちが引率を行ってツアー形式で天使たちを引き連れて天界から魔界へと向かい、魔界での案内役は悪魔たちにバトンタッチする。
 ありがたいことに多くの同期たちが案内役に立候補をしてくれた。こうして悪魔の知り合いを広げ、魔界を楽しんでもらうというのが今日のプロジェクトの内容だ。


「はい、では魔界に向かいます。みなさん、はぐれないでくださいね」
 エリオットと共に天使たちの列の先頭を進む。
「……実は私も今日の祭りが楽しみなんだ。初めて私が魔界に行った時、あまりの華やかさに今日はお祭りなの? って思わずレヴァンに聞いたの覚えてる?」
「あぁ、俺もやっと魔界の真の賑やかさをエリオットに見せられると思うと楽しみだ。ごった返すから、手だけは離さないように気を付けてくれ」
「わかった。ずっと君の手を握っておくよ」

 魔界に着くと、案内役としてスタンバイしてくれていた悪魔たちに引き継ぐ。俺たちの仕事はここで終わり、これからは自分たちも祭りの参加者として会場に向かう。すると、大輪の花火が次々と夜空を彩った。
「ほら、始まった」
「すごい……綺麗だ……」
 花火だけでは終わらない。夜の闇なんてちっとも気にしないというかのように、色とりどりの電飾で広場は彩られ、賑やかな音楽が鳴り響いている。

「あ! レヴァンあれ、ドラゴン!」
 エリオットの指差す先には、長い身体をくねらせながら夜空を舞う大きな竜がいた。
「……ありゃ、ラザラスの幻影だ。あいつ、祭りの度に張り切ってんだよ。今回もすごいな」
 ひしめき合う出店の間をエリオットと手を繋ぎながらゆっくりと歩く。
「君の言ってる意味がわかったよ。いつもの魔界も賑やかだけど、今日の祭りは格別だ」
「悪魔はお祭り好きな奴らばかりだからな。たまにエスカレートしてしまう時もあるが、基本的には誰かを楽しませたい気の良い奴らだ」
 これまでの悪魔との関わりを思い出しているのか、エリオットが小さく笑う。

「本当にそうだね。私も、こうして魔界によく足を運ぶようになって、いつもあたたかさを実感しているよ。親切にしてもらってばかりだ」
「そりゃエリオットは魔界にとって天使のお客様第一号だからな。みんなエリオットのことが好きなんだ」
「君は?」
 いたずらっぽくエリオットが笑う。
「もちろん、ここにいる奴ら全員の愛をかき集めたって足りないくらい、エリオットが好きだ」
「ふふ、知ってる」
「ならよかった」
 頬にそっとキスを落とすと、出店の店主に冷やかされる。エリオットの手を引っ張りながら、祭りの中心へと歩みを進めた。


「すごい! みんな踊ってる」
「悪魔はみんなダンスが好きだからな。俺たちも行くぞ!」
 広場では音楽に合わせて2人1組となって大勢の悪魔たちが踊っている。よく見てみると、天界から一緒に来た天使たちもちらほら参加しているようだ。
「待ってくれ、私は、ダンスはあんまり」
「大丈夫だ。振付なんてあってないようなもんだし、適当に踊ってりゃいい」

 慌てふためくエリオットをリードするように手を引いていく。最初はぎこちないエリオットだったが、音楽への乗り方がわかってきたのか次第に息が合ってきた。
「なんだ、ダンスも上手いじゃないか」
「君がリードしてくれるからだよ」
 俺たちのような長身2人が踊っているとさすがに目立つ。でもエリオットの生き生きとした表情には恥じらいはなく、ただひたすらにこの場を楽しんでいるのが伝わってきた。音楽はより一層の盛り上がりを見せ、そしてフィナーレを迎える。

「なんで悪魔たちがこうやって祭りで踊るか知ってるか?」
 エリオットの腰を抱き寄せると、頬に手を添えてぐっと唇を重ねる。
「……こうやって、どさくさに紛れてキスしてもバレないからだ。大丈夫、みんな自分のダンスの相手しか見てない」
 促すように顔を近付けると、もう一度エリオットとキスを交わす。俺たちは次の曲が始まるまで、甘い口付けに酔いしれていた。


「こんなに踊ったの、初めてだ。なんだか足元がふわふわする」
 祭りの終わり際、エリオットと会場を後にする。照明は落ち、出店も片付けを始めているが、熱い余韻は残ったままの空気が祭りの後を物語っていた。
「……それに、レヴァンが曲の合間に毎回あんなキスをするから」
「嫌だったようには見えなかったが?」
「そんな、嫌なわけない。ただすごく、ドキドキした……」

 エリオットがぎゅっと繋いだ手に力を込める。婚姻の証を結んで、一緒に暮らして、そんなお互いが当たり前に隣にいるようになった今でも、こうして自分にドキドキしてくれるのが嬉しくてたまらない。
 早く部屋に帰ってその身体を抱き締めようと思っていたその時、暗闇の中で誰ともわからない天使と悪魔が名残惜しそうに抱き合っているのが見えた。街灯の下、2つの影がひとつに重なっている。エリオットも気付いたのか、自然と歩みを止めた。

「……ったくあのバカ天使長。恋だの愛だの、誰かが手本を見せなくたって勝手に始まるもんなんだよ」
「そうだね。いつかの私たちのような恋が、こうして始まっていくんだ」
 エリオットが手を取ったまま真正面に立ち、俺の瞳を見つめる。

「君は、天使と悪魔の恋が、私たちだけのものでなくなってしまうのが寂しい?」
「まさか。天界と魔界のわだかまりが消えるのは嬉しいに決まってる。それにどれだけ次の世代の俺たちが生まれたからって、俺たちの愛が薄まるわけじゃないだろ」
「そうだね。私たちの愛は深まる一方だ」

 帰ろうか、俺たちの暁宵城に――そうして俺たちは新しい恋の芽生えを邪魔しないようにと、静かに自分たちの帰る家へと歩き出す。夜空にはまだ花火の残り香が漂っていた。
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