1 / 1
べんりな時代
しおりを挟む
移動中の煩わしさも遅刻の心配も無くなった少し今とは違う先の時代の事。我々はどこでもドアを手放せなくなった。これがあれば自分が知っている場所ならどこへだって行けるようになっていた。得た物しかなかった。というよりは感じなかったという方が正解であろうか。いやそうでは無い。カップル達はデートの移動中の電車内では会話の内容に困らなくなり、疲れたら家の前までドアを敷けばいいので、公園からはベンチが消えた。そもそも公園など見なくなった。車というものが走る場所もなくなり、人もその辺を歩かない。我々の祖父母がまだ若い頃はあったという「道路」とやらも今は無いらしい。
どこでもドアが使われるようになって困った人もいるだろうがそんなことは知らない。自動車を作る会社はバタバタ倒産したし、世界中で密輸が頻発して警察もさぞお困りだろう。そもそも車って何なんだろうか。初めて祖父に連れて行かれた自動車歴史博物館では鉄の塊が綺麗に並べられていた。あんな大きく重いものがこの国のあちらこちらを走っていたというのか。しかも祖父の若い頃はそれが中古であっても今のどこでもドアの数倍の値段はしたのだという。全く訳が分からない。こんなに不便なものはない。不便だけならまだしも、これが人と衝突し、事故が多発し犠牲になった人も後を絶たなかったという。どこでもドアは人を殺すこともなければ、それを使うための免許も要らない。当然だ。その場所の事を考えてドアを開けるだけなのだから。
最近はどこでもドアにさらに便利な機能が付いたらしい。それは人の顔と名前とその人のパーソナルナンバーを思い浮かべればその人にすぐに会う申請ができる。そして、その相手が申請を承認すればその場で会うことができるというものだ。実に便利だと思う。早く自分のドアをアップデートしたい。すると電話も必要なくなるだろう。こうなればと私は家に帰り早速アップデートの準備を済ませ、その時を待った。
朝起きるとスマートフォンに一件の通知が来ていた。「あなたのどこでもドアは最新です。」ということだった。ワクワクした気持ちでドアの前に立ち、早速離れて暮らす母に会いに行くことにした。どこでもドアの前に立ち母の個人情報を思い浮かべ、ドアを開いた。するとドアの隙間から光が差し、凄まじい轟音と共に揺れ出した。ドアは倒れ、その瞬間に急に先程の轟音は止み、光も消えた。私はもう一度ドアを起こし、ドアを開いた。すると驚いた事に辺りは真っ暗。周りには何もなく、地と空間の境すら分からない場所だった。これも機能の中のひとつで場所のアップロードに時間がかかっているのかと、その空間に佇んで待っていた。しかし、待てど暮らせどその闇は晴れず、母のいる場所には行かない。はてどうしたものかと思い、ドアを開いて家に帰ろうとするが、ドアは開かなかった。
カメラのフラッシュが眩しかった。私はどこでもドアの機能に「人に直接会いに行ける機能」を搭載しているバージョンを開発した張本人で、今日はその開発成功に関する会見場にいた。記者達のカメラの執拗さはどうも好きになれないが、ラボの室長にどうしてもと頼まれ、参加することになった。たくさんの質問や今後の更なる利便の開発への期待の言葉を頂いた。悪くない時間だった。会見を終え、祝賀会と称した食事会へ参加した。すると一人の同僚から聞かれた冗談のような質問で盛り上がった。「いつかあの世へも行けるようになって、死人にも会えたりしちゃってな。」私は笑って答えた。「それがありえるのはさらに二百年後とかじゃないかな。」
どこでもドアが使われるようになって困った人もいるだろうがそんなことは知らない。自動車を作る会社はバタバタ倒産したし、世界中で密輸が頻発して警察もさぞお困りだろう。そもそも車って何なんだろうか。初めて祖父に連れて行かれた自動車歴史博物館では鉄の塊が綺麗に並べられていた。あんな大きく重いものがこの国のあちらこちらを走っていたというのか。しかも祖父の若い頃はそれが中古であっても今のどこでもドアの数倍の値段はしたのだという。全く訳が分からない。こんなに不便なものはない。不便だけならまだしも、これが人と衝突し、事故が多発し犠牲になった人も後を絶たなかったという。どこでもドアは人を殺すこともなければ、それを使うための免許も要らない。当然だ。その場所の事を考えてドアを開けるだけなのだから。
最近はどこでもドアにさらに便利な機能が付いたらしい。それは人の顔と名前とその人のパーソナルナンバーを思い浮かべればその人にすぐに会う申請ができる。そして、その相手が申請を承認すればその場で会うことができるというものだ。実に便利だと思う。早く自分のドアをアップデートしたい。すると電話も必要なくなるだろう。こうなればと私は家に帰り早速アップデートの準備を済ませ、その時を待った。
朝起きるとスマートフォンに一件の通知が来ていた。「あなたのどこでもドアは最新です。」ということだった。ワクワクした気持ちでドアの前に立ち、早速離れて暮らす母に会いに行くことにした。どこでもドアの前に立ち母の個人情報を思い浮かべ、ドアを開いた。するとドアの隙間から光が差し、凄まじい轟音と共に揺れ出した。ドアは倒れ、その瞬間に急に先程の轟音は止み、光も消えた。私はもう一度ドアを起こし、ドアを開いた。すると驚いた事に辺りは真っ暗。周りには何もなく、地と空間の境すら分からない場所だった。これも機能の中のひとつで場所のアップロードに時間がかかっているのかと、その空間に佇んで待っていた。しかし、待てど暮らせどその闇は晴れず、母のいる場所には行かない。はてどうしたものかと思い、ドアを開いて家に帰ろうとするが、ドアは開かなかった。
カメラのフラッシュが眩しかった。私はどこでもドアの機能に「人に直接会いに行ける機能」を搭載しているバージョンを開発した張本人で、今日はその開発成功に関する会見場にいた。記者達のカメラの執拗さはどうも好きになれないが、ラボの室長にどうしてもと頼まれ、参加することになった。たくさんの質問や今後の更なる利便の開発への期待の言葉を頂いた。悪くない時間だった。会見を終え、祝賀会と称した食事会へ参加した。すると一人の同僚から聞かれた冗談のような質問で盛り上がった。「いつかあの世へも行けるようになって、死人にも会えたりしちゃってな。」私は笑って答えた。「それがありえるのはさらに二百年後とかじゃないかな。」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる