上 下
91 / 161
トゥランクメント族の呪【シュ】

しおりを挟む
次の日佐々木さんが持ってきた手紙には、

『しばらくこちらでご厄介になります。ソフィア様には御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします』

とキレイな文字で書かれていた。

佐々木さんはツヤツヤしている。

「いや…もう…最高だった…」

ニヤニヤする佐々木さんを取り敢えず蹴飛ばす。ここ、州知事の妻の実家!淫靡な雰囲気を朝から醸し出すのはやめなさい。

「佐々木さん、ボールドウィン伯爵、大丈夫なんだよね」

「うん…ちょっと、今朝は立てない感じだったかな…ごめん、あまりに可愛すぎて…あれで年上とか、もー、すべてが可愛すぎてツラい!」

ツラいのはボールドウィン伯爵でしょ、と思いつつニヤニヤする佐々木さんをもう一度蹴飛ばす。

「ちゃんと食事させてね。ダメだよ、追い込んじゃ。初めてなんだから」

「わかってます、わかってます。…我慢が利くかは別だけど」

「今すぐ連れて帰ってもいいんだよ」

「…自重します」

ニコニコしながら帰る佐々木さんを見送りながら、でもまだ帰れないんだよね、と呟く。

昨夜悪魔は、部屋に戻ってこなかった。

『しばらくの間、橘さんと行動します。何かあったら連絡してください』

と書き置きがあり、今朝も早くから出掛けてしまったそうだ。ここ3ヶ月、また一緒に寝ていたからなんとなく寂しかった。

左手の指輪をそっと見る…自分に気がつき、叫びだしたくなった。

寂しいってなに!?私しかいないから仕方ない、人命救助だ、とか偉そうに思ってたくせに!?

…悪魔の呪いが解けたら、もう私は必要なくなるのに。バカだな。

こんなふうに指輪を贈ってくれたのも、私しか人間に見えないからなのに。せっかく、呪いが解けるかもしれない、そのヒントがもたらされたのに。

「フィー」、と呼んでくれるあの声が、他の女性の愛称を呼び、真っ直ぐに愛情を注ぐのかと思うと心が乱れた。

特に何もすることがないから鬱々としてしまうのかもしれない。撫子さんとともに玄武州知事の城に行き、図書室を借りることにした。

背表紙を見ながらも、探してしまうのはトゥランクメント族の呪【シュ】について書かれているのではないか、という本ばかり。解けて欲しい、でも欲しくない、という自分の醜さを突き付けられているようで余計に落ち込んだ。なんでこんなふうになっちゃったんだろう…今まで慕ってくれていた近所の高校生に彼女ができて寂しい、みたいな感傷なのかな。情けない。

苦しんできたのは悪魔なのに。それを願ってあげられない自分に腹がたった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

双子の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:28

【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:844pt お気に入り:3,465

【完結】旦那様は元お飾り妻を溺愛したい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:2,701

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:686

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,201pt お気に入り:33

処理中です...