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番外編~レインとリオン
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あの騒動から一週間。未だに私とレインは離宮から出してもらえていない。悪魔は怒り心頭の様子で、「話をするまで」と言いながら私とレインを離宮に置くと、そのまま王宮に引き返してしまった。その後一度も来ていない。
「母上、…申し訳ありません」
「レイン、大丈夫だから。ね、お父様が来たら一緒に謝ろう」
「俺、話します、父上にも。キチンと話します。前世の記憶があることとか、婚約者のこととか、母上に好き好き言い過ぎだ、聞いててイライラする、甘えため、って言います」
…そこまでは言わなくてもいいような気がするのだが。
アネットさんにお世話になりながら、一週間後、リオンがやってきた。
「ははうえー」
リオンはニコニコして私に抱きつくと、隣にいたレインの頭をひっぱたいた。
「な、」
「レイン、ははうえにいたいことした。このくらいされてあたりまえ。もういっかいやる」
と言って、今度はレインの足を蹴っ飛ばした。
「痛いだろ!」
「いたくない。いたくないから、あんなひどいことできるんでしょ。やられていたいのがわかるなら、あんなことしない。じぶんがいたい、ってわからないからやる。だから、わたしがレインにいたいのをおしえてやる。ははうえにあんなことしないようになるまでいたいのをおしえこんでやる」
「リオン、それはわたくしの仕事です。リオンはたまにやりなさい」
「…ギデオンさん」
悪魔は冷たい瞳で私を見ると、そのままレインに視線を移した。
「なんであんなことをしたのか話す気になりましたか」
コクリ、と頷くレインを抱き上げると、「では男同士腹を割って話しましょう」と、私が以前離宮で使っていた寝室に入っていった。こちらをまったく見ようとしない悪魔に、胸がツキリとする。すごく、怒らせちゃったんだな…。
なんとなく落ち込んでいると、キュッ、と手を握られた。
「リオン」
「ははうえ、あいたかったです。でも、ちちうえがなきながら、わたくしもあいたいけど、がまんしますからリオンもがまんしてください、っていうので、こどもにがまんさせるりゆうがおかしいとおもいましたが、まいばんないているちちうえがかわいそうなのでがまんしました」
…子どもにこんなふうに言われてしまうなんて。なんだか申し訳ない。
「ごめんね、」
「ははうえがあやまることないです。わるいのはレインとちちうえです」
悪魔も悪者になってるんだ。
「リオン様、どうぞ。離宮で取れたりんごのジュースですよ。ソフィア様もどうぞ」
アネットさんが出してくれたジュースをリオンは嬉しそうに飲みながら、
「アネットさんは、つよいひとですか」
と言ってじっとアネットさんを見つめた。
「どうしてですか?」
「リオンは、これからつよくなりたいからです。レインのアホからははうえをまもります」
「レイン様も、たぶんもう同じことはしないのではないでしょうか?」
「それはわかりません。わかりませんから、つよくなります。ちちうえが、けんをおしえてくれるといいました。まずははしることからだそうです。あしたからやります。たのしみです。けんのほかにも、なにかやりたいといったらアネットさんにはなしをきいてみなさいといわれました」
なるほど、と頷いたアネットさんは、
「私はソルマーレ国の王族に仕える影ですから、小さい時から訓練も受けてきましたし…自分が強くなければ皆様を守ることはできませんから」
「わたしもつよくなります。アネットさん、わたしにくんれんしてください」
「しかし、リオン様は王族…王太子殿下の姫様です。訓練なんて、」
「ちちうえと、おばあさまにきょかをとりました。おばあさまは、すごくよろこんでおうえんするっていってくれました。おじいさまはおこっていましたが、おばあさまがだまらせてくれました。だから、おねがいします」
…こんな小さいのに、チンピラと王妃様の力関係をもう把握してるってこと?
「…わかりました。では、剣の修行の他に何をするか考えておきますね。先ほどギデオン様が走ると仰ってましたから、それ以外でどんなふうに体力をつけていくか、訓練内容を作成します」
「おねがいします」
リオンはペコリと頭を下げると、私の膝の上に乗り、ギュウッと抱きついてきた。そして、お腹にスリスリする。
「ははうえ、あかちゃんがいますね」
「…え?」
「あかちゃんがいます。またふたりです。こんどはおとこがふたり。わたしがくんれんしてやります」
「…え?」
確かに、言われてみれば生理がきてなかったかも…?
「あかちゃんのなまえ、なんにしますか。たのしみです。アリスさまにもおしえます。アリスさま、きっとすごくよろこんでくれますね。あかちゃんをとりだすひとになりたいといっていました」
…王女なのに、産婆になるって?そんなわけにいかないと思うんだけど。それこそチンピラに首をしめられる、私が。
焦っていると、後ろからそっと抱き締められた。
「フィー、話をしましょう」
「ちちうえ、ははうえのおなかにあかちゃんがいます。いたいことしないでくださいね。ギュウッてするのもダメです、おなかには」
「…え?」
悪魔も私と同じ反応だ。当たり前だけど。
「母上、赤ちゃんができたのですか」
レインも私の前に来ると、「おまえ、おりろ」とリオンを引き摺りおろし、自分が膝に乗ってきた。
「母上、大好きです。母上に、もうあんなことしません。これから毎日一緒に寝ます」
「な、何を言ってるんですか!絶対にダメです、同年代だと知ったいま、余計にダメです!これからフィーとお風呂なんて絶対ダメですよ!」
「俺は母上の子どもですよ。一緒に入ってなんの問題もありません。そんな、父上みたいにやらしい目で母上を見たりしませんよ」
「…っ、やらしくありません!普通です!」
悪魔はレインを私から引き剥がすと、レインとリオンを抱き上げ、
「アネットさん、このふたりを王宮に連れて行ってください!わたくしはフィーと大事な話があります!」
と出て行った。
「ちちうえ!まだははうえとはなしをしていません!」
「父上、卑怯ですよ、だから甘えただと言うんです!」
「わたくしは一週間も我慢したんです!今日のために仕事だってだいぶ先まで進めてきたんですから!ディーンとゼインの子育ての練習のためにあなたたちふたりを貸し出します、楽しく生活しなさい」
「ちちうえ、あしたからけんをおしえてくれるといいました!」
「ディーンに教えてもらいなさい!」
「父上、子どもみたいな我儘はやめてください!我が子を他人に預けるなんて、なんのつもりですか!」
「他人ではありません、わたくしの弟です!ではご機嫌よう」
ギャーギャー騒ぎながら、悪魔はふたりを馬車に突っ込んでしまったらしい。アネットさんはため息をつくと、
「…ギデオン様は変わりませんね」
とポツリと呟いた。…すみません。
【番外編~レインとリオン 了】
「母上、…申し訳ありません」
「レイン、大丈夫だから。ね、お父様が来たら一緒に謝ろう」
「俺、話します、父上にも。キチンと話します。前世の記憶があることとか、婚約者のこととか、母上に好き好き言い過ぎだ、聞いててイライラする、甘えため、って言います」
…そこまでは言わなくてもいいような気がするのだが。
アネットさんにお世話になりながら、一週間後、リオンがやってきた。
「ははうえー」
リオンはニコニコして私に抱きつくと、隣にいたレインの頭をひっぱたいた。
「な、」
「レイン、ははうえにいたいことした。このくらいされてあたりまえ。もういっかいやる」
と言って、今度はレインの足を蹴っ飛ばした。
「痛いだろ!」
「いたくない。いたくないから、あんなひどいことできるんでしょ。やられていたいのがわかるなら、あんなことしない。じぶんがいたい、ってわからないからやる。だから、わたしがレインにいたいのをおしえてやる。ははうえにあんなことしないようになるまでいたいのをおしえこんでやる」
「リオン、それはわたくしの仕事です。リオンはたまにやりなさい」
「…ギデオンさん」
悪魔は冷たい瞳で私を見ると、そのままレインに視線を移した。
「なんであんなことをしたのか話す気になりましたか」
コクリ、と頷くレインを抱き上げると、「では男同士腹を割って話しましょう」と、私が以前離宮で使っていた寝室に入っていった。こちらをまったく見ようとしない悪魔に、胸がツキリとする。すごく、怒らせちゃったんだな…。
なんとなく落ち込んでいると、キュッ、と手を握られた。
「リオン」
「ははうえ、あいたかったです。でも、ちちうえがなきながら、わたくしもあいたいけど、がまんしますからリオンもがまんしてください、っていうので、こどもにがまんさせるりゆうがおかしいとおもいましたが、まいばんないているちちうえがかわいそうなのでがまんしました」
…子どもにこんなふうに言われてしまうなんて。なんだか申し訳ない。
「ごめんね、」
「ははうえがあやまることないです。わるいのはレインとちちうえです」
悪魔も悪者になってるんだ。
「リオン様、どうぞ。離宮で取れたりんごのジュースですよ。ソフィア様もどうぞ」
アネットさんが出してくれたジュースをリオンは嬉しそうに飲みながら、
「アネットさんは、つよいひとですか」
と言ってじっとアネットさんを見つめた。
「どうしてですか?」
「リオンは、これからつよくなりたいからです。レインのアホからははうえをまもります」
「レイン様も、たぶんもう同じことはしないのではないでしょうか?」
「それはわかりません。わかりませんから、つよくなります。ちちうえが、けんをおしえてくれるといいました。まずははしることからだそうです。あしたからやります。たのしみです。けんのほかにも、なにかやりたいといったらアネットさんにはなしをきいてみなさいといわれました」
なるほど、と頷いたアネットさんは、
「私はソルマーレ国の王族に仕える影ですから、小さい時から訓練も受けてきましたし…自分が強くなければ皆様を守ることはできませんから」
「わたしもつよくなります。アネットさん、わたしにくんれんしてください」
「しかし、リオン様は王族…王太子殿下の姫様です。訓練なんて、」
「ちちうえと、おばあさまにきょかをとりました。おばあさまは、すごくよろこんでおうえんするっていってくれました。おじいさまはおこっていましたが、おばあさまがだまらせてくれました。だから、おねがいします」
…こんな小さいのに、チンピラと王妃様の力関係をもう把握してるってこと?
「…わかりました。では、剣の修行の他に何をするか考えておきますね。先ほどギデオン様が走ると仰ってましたから、それ以外でどんなふうに体力をつけていくか、訓練内容を作成します」
「おねがいします」
リオンはペコリと頭を下げると、私の膝の上に乗り、ギュウッと抱きついてきた。そして、お腹にスリスリする。
「ははうえ、あかちゃんがいますね」
「…え?」
「あかちゃんがいます。またふたりです。こんどはおとこがふたり。わたしがくんれんしてやります」
「…え?」
確かに、言われてみれば生理がきてなかったかも…?
「あかちゃんのなまえ、なんにしますか。たのしみです。アリスさまにもおしえます。アリスさま、きっとすごくよろこんでくれますね。あかちゃんをとりだすひとになりたいといっていました」
…王女なのに、産婆になるって?そんなわけにいかないと思うんだけど。それこそチンピラに首をしめられる、私が。
焦っていると、後ろからそっと抱き締められた。
「フィー、話をしましょう」
「ちちうえ、ははうえのおなかにあかちゃんがいます。いたいことしないでくださいね。ギュウッてするのもダメです、おなかには」
「…え?」
悪魔も私と同じ反応だ。当たり前だけど。
「母上、赤ちゃんができたのですか」
レインも私の前に来ると、「おまえ、おりろ」とリオンを引き摺りおろし、自分が膝に乗ってきた。
「母上、大好きです。母上に、もうあんなことしません。これから毎日一緒に寝ます」
「な、何を言ってるんですか!絶対にダメです、同年代だと知ったいま、余計にダメです!これからフィーとお風呂なんて絶対ダメですよ!」
「俺は母上の子どもですよ。一緒に入ってなんの問題もありません。そんな、父上みたいにやらしい目で母上を見たりしませんよ」
「…っ、やらしくありません!普通です!」
悪魔はレインを私から引き剥がすと、レインとリオンを抱き上げ、
「アネットさん、このふたりを王宮に連れて行ってください!わたくしはフィーと大事な話があります!」
と出て行った。
「ちちうえ!まだははうえとはなしをしていません!」
「父上、卑怯ですよ、だから甘えただと言うんです!」
「わたくしは一週間も我慢したんです!今日のために仕事だってだいぶ先まで進めてきたんですから!ディーンとゼインの子育ての練習のためにあなたたちふたりを貸し出します、楽しく生活しなさい」
「ちちうえ、あしたからけんをおしえてくれるといいました!」
「ディーンに教えてもらいなさい!」
「父上、子どもみたいな我儘はやめてください!我が子を他人に預けるなんて、なんのつもりですか!」
「他人ではありません、わたくしの弟です!ではご機嫌よう」
ギャーギャー騒ぎながら、悪魔はふたりを馬車に突っ込んでしまったらしい。アネットさんはため息をつくと、
「…ギデオン様は変わりませんね」
とポツリと呟いた。…すみません。
【番外編~レインとリオン 了】
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