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婚約者編
状況整理①
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夜になり、エイベル家の面々が帰宅してくる。
「ただいま帰りました」
と居間に入ってきたジークハルトの長男ジェライトは、目に入ってきた光景にしばし呆然とした。抱き上げられているいつも冷静な伴侶のアキラも、「…え」と困惑気味に声をあげる。
居間のソファに、アレクサンドライトが仰向けで寝ころんでいる。今まで見たことのない光景だ。アレクサンドライトが、まず居間にいた試しがないからだ。ルヴィアが焼いたお菓子があるときは別だが、それがなければ夕飯まで部屋から出てこない。もし居間にいても、ソファに姿勢正しく座り、菓子を口にいれながらひたすら本を読み漁り、周囲に目を向けたりしない、それがアレクサンドライトなのだ。「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と挨拶はしてくれるが、目を向けても表情はまったく無のまま。
そのアレクサンドライトが、ニコニコしている。いや、ニコニコというより、デレデレ、という言葉のほうが正しいかもしれない。デレデレしている視線の先には、アレクサンドライトにうつ伏せで乗っている黒髪の少年がいた。
デレデレ顔のアレクサンドライトは、ジェライトとアキラに気づくと瞬時に無表情になり、人差し指を自分の顔の前にスッと立てた。どうやら少年は眠っているようだ。また顔を緩ませたアレクサンドライトは、もう二人を見なかった。ジェライトはアキラを抱き上げたまま、食堂へ向かう。
「…ただいま、かえりました」
「おかえりなさい、ジェライト、アキラさんも」
にこやかに迎えるルヴィアに、
「…母上、アレクはどうしたんですか?頭でも打ったんですか?というより、あの男の子は誰です、…黒髪ということはエイベル家の血筋ですよね、」
「ジェライト、とりあえず座れ。話はそれからだ」
詰め寄るようにルヴィアに近づいたジェライトの前にジークハルトが立ち塞がる。ギッ、と鋭い視線を向けられたジェライトは、(興奮しすぎて母上との距離感を間違えた…)と反省し、慌てて距離を取った。父はいくつになろうが母を大好きな変質者であり、たとえ息子であっても成長したいま、あまり近付くのを良しとしない。ある意味獣の本能みたいなものなのだろう。アキラを座らせ、自分も腰を降ろしたジェライトを見てジークハルトも席についた。
少し経つと、ナディール、アルマディン夫妻と、二人の娘のオパール、それから居候中の二人…現女王アズライトの弟テオドールと、その伴侶のリアムが入ってきた。テオドールはサヴィオンの後を継いで海軍総督になり、リアムは第1部隊の隊長になっている。各々が席につくと、サヴィオンがやって来た。
「父上、サフィア夫人と話は付いたんですか」
ジークハルトをジロリと睨むと、サヴィオンはそのまま空いている椅子にドカリと座り、キョロキョロと視線を動かした。
「…ランベールはどうした?」
「寝てます。とりあえず心配ありません、アレクがついてますから」
ジークハルトの言葉に、サヴィオンは「…ありがとよ」とポツリとこぼした。
「じゃ、いただきますか」
ジークハルトの言葉で食事が始まる。
「父上、アレクはどうしたんですか。あんな顔、いままで見たことありませんが」
ジェライトの質問に、ジークハルトは淡々と、
「アレクの運命の香りが見つかったからだ」
と答える。
「…あの、少年が、ですか」
「おいジーク、まさかランベールのことを言ってんのか?」
反応したサヴィオンにジークハルトはコクリと頷いた。
「そうです。ランベール君も、アレクから匂いがすると言いました。清涼感の中に優しい甘さのある香りだそうです。とてもいい気持ちになって、安心するのだと。アレクに触れられても、密着されても、嫌悪感を見せたり怖がったりすることなく、むしろ自分からアレクに触れていました」
そう言ったジークハルトは、サヴィオンから視線を外すと、
「いま言ったランベール君というのは、サヴィオン父上の長女、ミアの生んだ息子だ。両性具有者で、彼女から虐待されていた」
虐待、という言葉に部屋の空気が一瞬にして重くなる。
「…サヴィオン様、まさか見て見ぬふりをしてきたのですか」
鋭く睨み付けるテオドールに、サヴィオンは「…見て見ぬふりをしてきたのと同じようなもんだな」と力なく呟いた。
「テオ君、見て見ぬふりをしてきたのは僕なんだよ」
「…ナディール様が?」
うん、と頷いたナディールは、
「サヴィオン兄さんの娘が嫁いだモロゾフ公爵家を諜報部では監視していたんだ。その中でランベール君が虐待されているのは報告であがってきていたけれど、誰か…その場面を見ていたりランベール君の状態に気付いて通報してくれる、そうならないとこちらからは手の出しようがない。申し訳ないが、諜報部としては何もできなかったんだ」
淡々とした言い方ながら悲しそうな色がナディールの横顔に見えて、テオドールはそれ以上何も言えなかった。
「今朝、ギルバートが俺やルヴィアのように巻き戻ってきたようだと、ギルバートの父親、カーティス君がギルバートを我が家に連れてきたんだよ」
「…巻き戻った?ギルバートが、ですか?」
ジェライトに頷いてみせたジークハルトは、今朝からのことを順を追って話し出した。「サヴィオン父上とナディール叔父上は再度になりますから、足りないところがあれば補ってください」と付け加えて。
「ギルバートは、いま10歳だが19歳で死んだらしい。本人はわかっていないようだが、10年前のマリアンヌさんの話からすると魔力が暴発し、亡くなったと思われる。
魔力が暴発した原因は、マリアンヌさんの娘さん…いまのクローディア嬢だが、ギルバートの運命の香りである彼女が亡くなったことによる。
ギルバートはトゥリエナ帝国から送り込まれた女に魅了をかけられ、クローディア嬢を徹底的に痛め付けたらしい」
「…魅了をはじく指輪はどうしたんですか」
自分の指に光る指輪に視線を向けながらリアムが訪ねる。
「アズライト陛下が指輪を禁止したそうだ」
「…は?禁止?」
うん、と頷くと、ジークハルトはため息をついた。
「アズライトちゃんと夫のカーティス君はさ、お互い大好きなくせに変に拗れてるじゃん。両片思い、ってやつ?周りはわかりすぎるくらいわかってるのに、あの二人はお互いに遠慮があるというか…そういうのが積み重なって、その寂しさにアズライトちゃんはつけこまれたみたいだな、モロゾフ公爵とやらに。モロゾフとアズライトちゃんに肉体関係があったのかは不明だが、未来でカーティス君はアズライトちゃんと離縁し、ギルバート以外の息子3人を連れて国を出ていくらしいよ」
「その前にハルト君が魔術師団団長を罷免されて、みんなを連れて出ていっちゃったからでしょ。サヴィオン兄さんも海軍解体して、夫人とも離縁して出ていくらしいよ。たぶん僕たちも、ハルト君が連れて行った『みんな』に入っているんだろうね」
「…父上が、…罷免される?」
呆然と呟くジェライトに、「アズライトちゃんの、色持ちへのコンプレックスが爆発したかららしいよ」とジークハルトは答えた。
「今回その話を聞いて、叔母上…エカテリーナ前女王陛下が、アズライトちゃんを女王から降ろすと決めた。カーティス君がまだ戻ってこないから、アズライトちゃんとどうなったのかは不明なまま。そこは置いといて、話、続けるよ。
モロゾフがアズライトちゃんに指輪の禁止を持ちかけたのは、自分達の息子で黒髪のランベール君を王位に就けんと画策したかららしい。魅了の女を使ってギルバートをダメにして、」
「それなんだがよ」
ジークハルトの話を遮り、サヴィオンが口を開いた。
「あの後、意識を戻したギルバートに話を聞いたんだが、ランベールはどうやらギルバートを好きだったらしいな。魅了の女については父母に言われたのと、ギルバートの婚約者をどうにかしたくて…ギルバートに、婚約者は運命の香りだと聞いちまったから余計に憎らしく思ったんじゃないか、ってことをギルバートは言っていた。自分がギルバートの子どもを生んでやると嬉しそうに話していたらしい」
「…ということは、ランベール君は前回はアレクに会わなかったんでしょうね。今日の状態を見るに、アレクに出会っていたらギルバートに恋慕するわけがない」
ジークハルトの言葉に頷いたサヴィオンは、
「学園に入るまで、あの鳥籠から出してもらえなかったんだろうから、呪いのように名前を出されるギルバートに歪んだ執着を抱いちまったのかもしれねぇな」
「その、ランベール君とやらを、王位に就けたかったのは誰なんですか」
アキラの質問に「俺のバカ娘だ」とサヴィオンが答える。
「あのバカは、なぜか王族ってことに拘ってて、公爵家に嫁いだのにも関わらず息子を使っていま一度王族に返り咲こうとしたらしいな」
「そうですね。愛情と盲執の掛け違いで起きる悲惨な未来です」
頷くジークハルト。
「父上、悲惨な未来とは…?」
「ギルバートは死んでしまったからわからないと言ったが、たぶんカーディナル魔法国はトゥリエナ帝国の属国になったのではないかと。俺たちが出て行ったあと、セグレタリー国とは国交を断たれたそうだ。たぶん俺たちがセグレタリーに行ったからだろう。トゥリエナに攻め込まれても戦う術はなかったはずだ。何しろ魔術師団団長がそのモロゾフとやらになっていたし、モロゾフもアズライトちゃんもその場でギルバートの魔力暴発に巻き込まれて死んだんだろう…指揮を取るものが果たしていたのかどうかも疑問だからな」
「…また、トゥリエナ帝国が絡んでくるのか」
アキラが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今回…未来に関しては我が国のバカ貴族、モロゾフ公爵が積極的に引き入れてますからね。トゥリエナ帝国の恐ろしさを、平和ボケしてわからなくなってるのかな…」
「ちがうよ、ハルト君。キミが学園の時の話だけど、結局あれは公にしていない。一部の人間しか知らず、トゥリエナ帝国の名前は前面に出ていない。だから知らないのも無理はないんだよ。…きちんと知らしめなかった僕たち上層部の責任だ」
ナディールの言葉に、しばし沈黙が落ちた。
「ただいま帰りました」
と居間に入ってきたジークハルトの長男ジェライトは、目に入ってきた光景にしばし呆然とした。抱き上げられているいつも冷静な伴侶のアキラも、「…え」と困惑気味に声をあげる。
居間のソファに、アレクサンドライトが仰向けで寝ころんでいる。今まで見たことのない光景だ。アレクサンドライトが、まず居間にいた試しがないからだ。ルヴィアが焼いたお菓子があるときは別だが、それがなければ夕飯まで部屋から出てこない。もし居間にいても、ソファに姿勢正しく座り、菓子を口にいれながらひたすら本を読み漁り、周囲に目を向けたりしない、それがアレクサンドライトなのだ。「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と挨拶はしてくれるが、目を向けても表情はまったく無のまま。
そのアレクサンドライトが、ニコニコしている。いや、ニコニコというより、デレデレ、という言葉のほうが正しいかもしれない。デレデレしている視線の先には、アレクサンドライトにうつ伏せで乗っている黒髪の少年がいた。
デレデレ顔のアレクサンドライトは、ジェライトとアキラに気づくと瞬時に無表情になり、人差し指を自分の顔の前にスッと立てた。どうやら少年は眠っているようだ。また顔を緩ませたアレクサンドライトは、もう二人を見なかった。ジェライトはアキラを抱き上げたまま、食堂へ向かう。
「…ただいま、かえりました」
「おかえりなさい、ジェライト、アキラさんも」
にこやかに迎えるルヴィアに、
「…母上、アレクはどうしたんですか?頭でも打ったんですか?というより、あの男の子は誰です、…黒髪ということはエイベル家の血筋ですよね、」
「ジェライト、とりあえず座れ。話はそれからだ」
詰め寄るようにルヴィアに近づいたジェライトの前にジークハルトが立ち塞がる。ギッ、と鋭い視線を向けられたジェライトは、(興奮しすぎて母上との距離感を間違えた…)と反省し、慌てて距離を取った。父はいくつになろうが母を大好きな変質者であり、たとえ息子であっても成長したいま、あまり近付くのを良しとしない。ある意味獣の本能みたいなものなのだろう。アキラを座らせ、自分も腰を降ろしたジェライトを見てジークハルトも席についた。
少し経つと、ナディール、アルマディン夫妻と、二人の娘のオパール、それから居候中の二人…現女王アズライトの弟テオドールと、その伴侶のリアムが入ってきた。テオドールはサヴィオンの後を継いで海軍総督になり、リアムは第1部隊の隊長になっている。各々が席につくと、サヴィオンがやって来た。
「父上、サフィア夫人と話は付いたんですか」
ジークハルトをジロリと睨むと、サヴィオンはそのまま空いている椅子にドカリと座り、キョロキョロと視線を動かした。
「…ランベールはどうした?」
「寝てます。とりあえず心配ありません、アレクがついてますから」
ジークハルトの言葉に、サヴィオンは「…ありがとよ」とポツリとこぼした。
「じゃ、いただきますか」
ジークハルトの言葉で食事が始まる。
「父上、アレクはどうしたんですか。あんな顔、いままで見たことありませんが」
ジェライトの質問に、ジークハルトは淡々と、
「アレクの運命の香りが見つかったからだ」
と答える。
「…あの、少年が、ですか」
「おいジーク、まさかランベールのことを言ってんのか?」
反応したサヴィオンにジークハルトはコクリと頷いた。
「そうです。ランベール君も、アレクから匂いがすると言いました。清涼感の中に優しい甘さのある香りだそうです。とてもいい気持ちになって、安心するのだと。アレクに触れられても、密着されても、嫌悪感を見せたり怖がったりすることなく、むしろ自分からアレクに触れていました」
そう言ったジークハルトは、サヴィオンから視線を外すと、
「いま言ったランベール君というのは、サヴィオン父上の長女、ミアの生んだ息子だ。両性具有者で、彼女から虐待されていた」
虐待、という言葉に部屋の空気が一瞬にして重くなる。
「…サヴィオン様、まさか見て見ぬふりをしてきたのですか」
鋭く睨み付けるテオドールに、サヴィオンは「…見て見ぬふりをしてきたのと同じようなもんだな」と力なく呟いた。
「テオ君、見て見ぬふりをしてきたのは僕なんだよ」
「…ナディール様が?」
うん、と頷いたナディールは、
「サヴィオン兄さんの娘が嫁いだモロゾフ公爵家を諜報部では監視していたんだ。その中でランベール君が虐待されているのは報告であがってきていたけれど、誰か…その場面を見ていたりランベール君の状態に気付いて通報してくれる、そうならないとこちらからは手の出しようがない。申し訳ないが、諜報部としては何もできなかったんだ」
淡々とした言い方ながら悲しそうな色がナディールの横顔に見えて、テオドールはそれ以上何も言えなかった。
「今朝、ギルバートが俺やルヴィアのように巻き戻ってきたようだと、ギルバートの父親、カーティス君がギルバートを我が家に連れてきたんだよ」
「…巻き戻った?ギルバートが、ですか?」
ジェライトに頷いてみせたジークハルトは、今朝からのことを順を追って話し出した。「サヴィオン父上とナディール叔父上は再度になりますから、足りないところがあれば補ってください」と付け加えて。
「ギルバートは、いま10歳だが19歳で死んだらしい。本人はわかっていないようだが、10年前のマリアンヌさんの話からすると魔力が暴発し、亡くなったと思われる。
魔力が暴発した原因は、マリアンヌさんの娘さん…いまのクローディア嬢だが、ギルバートの運命の香りである彼女が亡くなったことによる。
ギルバートはトゥリエナ帝国から送り込まれた女に魅了をかけられ、クローディア嬢を徹底的に痛め付けたらしい」
「…魅了をはじく指輪はどうしたんですか」
自分の指に光る指輪に視線を向けながらリアムが訪ねる。
「アズライト陛下が指輪を禁止したそうだ」
「…は?禁止?」
うん、と頷くと、ジークハルトはため息をついた。
「アズライトちゃんと夫のカーティス君はさ、お互い大好きなくせに変に拗れてるじゃん。両片思い、ってやつ?周りはわかりすぎるくらいわかってるのに、あの二人はお互いに遠慮があるというか…そういうのが積み重なって、その寂しさにアズライトちゃんはつけこまれたみたいだな、モロゾフ公爵とやらに。モロゾフとアズライトちゃんに肉体関係があったのかは不明だが、未来でカーティス君はアズライトちゃんと離縁し、ギルバート以外の息子3人を連れて国を出ていくらしいよ」
「その前にハルト君が魔術師団団長を罷免されて、みんなを連れて出ていっちゃったからでしょ。サヴィオン兄さんも海軍解体して、夫人とも離縁して出ていくらしいよ。たぶん僕たちも、ハルト君が連れて行った『みんな』に入っているんだろうね」
「…父上が、…罷免される?」
呆然と呟くジェライトに、「アズライトちゃんの、色持ちへのコンプレックスが爆発したかららしいよ」とジークハルトは答えた。
「今回その話を聞いて、叔母上…エカテリーナ前女王陛下が、アズライトちゃんを女王から降ろすと決めた。カーティス君がまだ戻ってこないから、アズライトちゃんとどうなったのかは不明なまま。そこは置いといて、話、続けるよ。
モロゾフがアズライトちゃんに指輪の禁止を持ちかけたのは、自分達の息子で黒髪のランベール君を王位に就けんと画策したかららしい。魅了の女を使ってギルバートをダメにして、」
「それなんだがよ」
ジークハルトの話を遮り、サヴィオンが口を開いた。
「あの後、意識を戻したギルバートに話を聞いたんだが、ランベールはどうやらギルバートを好きだったらしいな。魅了の女については父母に言われたのと、ギルバートの婚約者をどうにかしたくて…ギルバートに、婚約者は運命の香りだと聞いちまったから余計に憎らしく思ったんじゃないか、ってことをギルバートは言っていた。自分がギルバートの子どもを生んでやると嬉しそうに話していたらしい」
「…ということは、ランベール君は前回はアレクに会わなかったんでしょうね。今日の状態を見るに、アレクに出会っていたらギルバートに恋慕するわけがない」
ジークハルトの言葉に頷いたサヴィオンは、
「学園に入るまで、あの鳥籠から出してもらえなかったんだろうから、呪いのように名前を出されるギルバートに歪んだ執着を抱いちまったのかもしれねぇな」
「その、ランベール君とやらを、王位に就けたかったのは誰なんですか」
アキラの質問に「俺のバカ娘だ」とサヴィオンが答える。
「あのバカは、なぜか王族ってことに拘ってて、公爵家に嫁いだのにも関わらず息子を使っていま一度王族に返り咲こうとしたらしいな」
「そうですね。愛情と盲執の掛け違いで起きる悲惨な未来です」
頷くジークハルト。
「父上、悲惨な未来とは…?」
「ギルバートは死んでしまったからわからないと言ったが、たぶんカーディナル魔法国はトゥリエナ帝国の属国になったのではないかと。俺たちが出て行ったあと、セグレタリー国とは国交を断たれたそうだ。たぶん俺たちがセグレタリーに行ったからだろう。トゥリエナに攻め込まれても戦う術はなかったはずだ。何しろ魔術師団団長がそのモロゾフとやらになっていたし、モロゾフもアズライトちゃんもその場でギルバートの魔力暴発に巻き込まれて死んだんだろう…指揮を取るものが果たしていたのかどうかも疑問だからな」
「…また、トゥリエナ帝国が絡んでくるのか」
アキラが苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今回…未来に関しては我が国のバカ貴族、モロゾフ公爵が積極的に引き入れてますからね。トゥリエナ帝国の恐ろしさを、平和ボケしてわからなくなってるのかな…」
「ちがうよ、ハルト君。キミが学園の時の話だけど、結局あれは公にしていない。一部の人間しか知らず、トゥリエナ帝国の名前は前面に出ていない。だから知らないのも無理はないんだよ。…きちんと知らしめなかった僕たち上層部の責任だ」
ナディールの言葉に、しばし沈黙が落ちた。
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