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婚約者編
キミにしたことを
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ギルバートの告白に一瞬カラダの動きを止めたクローディアは、じっとギルバートを見つめた。
「ギル様」
「…ご、めん、…前回のことがあるのに、言うべきじゃなかった」
「ギル様」
青ざめるギルバートの手を握ったクローディアは、告白を受けた少女とは思えない冷静さでギルバートと目を合わせる。
「私の母は、私が死んだこと…ギル様が言う前回で私が死んだことは知っていますが、なぜ死んだのかは知りませんでした。理由を知る前に母も亡くなったからです。私に何があって死んだのか、ギル様は御存知なのですよね…教えていただけませんか」
「…え」
「前回のことがあるのに、言うべきじゃなかったと、いま仰いましたね。ギル様は前回私と結婚はしましたが別な女性を愛していらっしゃったとか?」
「…どうしてそれを」
「城に呼び出されたとき、父が言ったそうです。『なぜ愛妾が死んでいるのか』と。愛妾…愛する女性がいたのでしょう。なぜ私と結婚したのか、なぜ私が死んだのか、それを教えてください。私を好きではなかったのに、婚約者だったから結婚したのですか」
前回、シャロンにしたことを話せと言われ、ギルバートはカラダがガタガタと震え出した。
「…い、やだ」
「ギル様」
「いやだ、話したくない」
「なぜですか」
「俺が、」
「ギル様」
震えるギルバートをなだめるように、クローディアがそっとギルバートのカラダを抱き締めた。
「大丈夫ですから」
クローディアのカラダから甘い香りがたちのぼり、自分を包み込むのを感じ、ギルバートの瞳から涙が零れ出す。
「大丈夫じゃ、ない」
「ギル様」
「俺が、…俺が、キミを、殺した」
その一言を口にしたギルバートは、もう涙を止めることができなかった。
「俺が…っ、俺が、キミを殺したんだ…っ!」
「そんなに私が憎らしくて?」
「ち、がう…っ、キミを、好きだったのに、ずっと好きだったのに…っ!!高等部の入学式でぶつかった女に、魅了をかけられて…っ!!キミに、酷いことをした、キミを毎日犯して、裸で鎖につないで、食事も満足にさせず、人間の生活じゃなかった、キミを、好きだったのに、大事にしないどころか…っ」
「なぜ、私を好きだったのですか」
「…え?」
クローディアはハンカチを取り出すとギルバートの目にそっと当てる。
「母は、第1王子の誕生日パーティーで私とギル様が初めて会ったと言っていました。それまで交流はまったくなかったと。なぜ私を見初めたのですか。私の何がギル様の琴線に触れたのですか」
自分をじっと見るクローディアのオレンジの瞳に吸い込まれるように、ギルバートは息を吐き出しながら溢した。
「…キミは、俺の運命の香りなんだ」
「運命の香り」
自分の言葉を繰り返すクローディアに、「…うん」と頷いたギルバートは、
「エイベル家の血筋に現れる…。自分の相手から、香りがするんだ。キミから、甘い香りがするんだ…。さっきキミが言った、誕生日パーティーで、俺はキミから香りを感じて、…それで、」
「そのことを前回、私に告げたのですか」
「…言ってない」
「なぜです」
真っ直ぐな瞳に貫かれるようで、ギルバートは誤魔化す術を持たず正直に告げるしかなかった。
「…だって、運命の香りなんて、俺にしかわからないんだ、キミは、言われても困るだろう」
「困るのは私ではなくギル様だったのではありませんか。自分は私を運命の相手だとわかっているのに、私はわからない。私がギル様を好きにならなかったら、って思ったのではありませんか。困るのはギル様でしょう」
核心を突かれて、ギルバートは自分の顔が赤く染まっていくのを感じ顔を俯かせるしかなかった。
「…そうだ」
「私がギル様を好きになるように、私と過ごしてくだされば良かったのではありませんか。月に一度、お茶を飲んだだけと聞いていますが」
「会いたかったけど、…俺ばっかり、」
「ギル様」
頬を挟まれ顔を上げさせられたギルバートは、なかなかクローディアの目を見ることができずにいたが、「ギル様」と強い口調で呼ばれノロノロと瞳を向けた。予想に反し、クローディアは優しい瞳でギルバートを見つめていた。
「ギル様は、人の気持ちを見ることができるのですか」
「…どういうこと?」
「私の気持ちより、ギル様の気持ちの方が大きいだなんてなぜわかるのですか?」
「…それは」
クローディアはふんわりと微笑むと、また「ギル様」と名前を呼んだ。
「私の母は、前回を悔いて父の情交現場に乗り込んだそうです」
「…え?」
「そのときに、つらかったけど父と向き合ってたくさん話をして良かったと言っていました。相手が考えていることなどわからないのですから、伝え合う努力をしないと…その相手と関係を構築していきたいと望むのであれば」
うふふ、と微笑んだクローディアは、
「私はギル様から香りを感じませんが、それでもギル様を好きになりましたよ」
「…え?」
ポカンと口を開けたギルバートを見て、クローディアはまた「うふふ」と悪戯っぽく笑った。
「どうでもいい人のために、私は時間は割きません。ギル様にたとえ嫌われたとしても、それでもギル様に幸せになって欲しかったから厳しいことを言いました。イヤなことも。でも、後悔はしていませんわ。ギル様を、守れましたから」
「ま、もれ、た、」
「ええ。死のうとする自棄っぱちな心からギル様を守れました」
「ギル様」
「…ご、めん、…前回のことがあるのに、言うべきじゃなかった」
「ギル様」
青ざめるギルバートの手を握ったクローディアは、告白を受けた少女とは思えない冷静さでギルバートと目を合わせる。
「私の母は、私が死んだこと…ギル様が言う前回で私が死んだことは知っていますが、なぜ死んだのかは知りませんでした。理由を知る前に母も亡くなったからです。私に何があって死んだのか、ギル様は御存知なのですよね…教えていただけませんか」
「…え」
「前回のことがあるのに、言うべきじゃなかったと、いま仰いましたね。ギル様は前回私と結婚はしましたが別な女性を愛していらっしゃったとか?」
「…どうしてそれを」
「城に呼び出されたとき、父が言ったそうです。『なぜ愛妾が死んでいるのか』と。愛妾…愛する女性がいたのでしょう。なぜ私と結婚したのか、なぜ私が死んだのか、それを教えてください。私を好きではなかったのに、婚約者だったから結婚したのですか」
前回、シャロンにしたことを話せと言われ、ギルバートはカラダがガタガタと震え出した。
「…い、やだ」
「ギル様」
「いやだ、話したくない」
「なぜですか」
「俺が、」
「ギル様」
震えるギルバートをなだめるように、クローディアがそっとギルバートのカラダを抱き締めた。
「大丈夫ですから」
クローディアのカラダから甘い香りがたちのぼり、自分を包み込むのを感じ、ギルバートの瞳から涙が零れ出す。
「大丈夫じゃ、ない」
「ギル様」
「俺が、…俺が、キミを、殺した」
その一言を口にしたギルバートは、もう涙を止めることができなかった。
「俺が…っ、俺が、キミを殺したんだ…っ!」
「そんなに私が憎らしくて?」
「ち、がう…っ、キミを、好きだったのに、ずっと好きだったのに…っ!!高等部の入学式でぶつかった女に、魅了をかけられて…っ!!キミに、酷いことをした、キミを毎日犯して、裸で鎖につないで、食事も満足にさせず、人間の生活じゃなかった、キミを、好きだったのに、大事にしないどころか…っ」
「なぜ、私を好きだったのですか」
「…え?」
クローディアはハンカチを取り出すとギルバートの目にそっと当てる。
「母は、第1王子の誕生日パーティーで私とギル様が初めて会ったと言っていました。それまで交流はまったくなかったと。なぜ私を見初めたのですか。私の何がギル様の琴線に触れたのですか」
自分をじっと見るクローディアのオレンジの瞳に吸い込まれるように、ギルバートは息を吐き出しながら溢した。
「…キミは、俺の運命の香りなんだ」
「運命の香り」
自分の言葉を繰り返すクローディアに、「…うん」と頷いたギルバートは、
「エイベル家の血筋に現れる…。自分の相手から、香りがするんだ。キミから、甘い香りがするんだ…。さっきキミが言った、誕生日パーティーで、俺はキミから香りを感じて、…それで、」
「そのことを前回、私に告げたのですか」
「…言ってない」
「なぜです」
真っ直ぐな瞳に貫かれるようで、ギルバートは誤魔化す術を持たず正直に告げるしかなかった。
「…だって、運命の香りなんて、俺にしかわからないんだ、キミは、言われても困るだろう」
「困るのは私ではなくギル様だったのではありませんか。自分は私を運命の相手だとわかっているのに、私はわからない。私がギル様を好きにならなかったら、って思ったのではありませんか。困るのはギル様でしょう」
核心を突かれて、ギルバートは自分の顔が赤く染まっていくのを感じ顔を俯かせるしかなかった。
「…そうだ」
「私がギル様を好きになるように、私と過ごしてくだされば良かったのではありませんか。月に一度、お茶を飲んだだけと聞いていますが」
「会いたかったけど、…俺ばっかり、」
「ギル様」
頬を挟まれ顔を上げさせられたギルバートは、なかなかクローディアの目を見ることができずにいたが、「ギル様」と強い口調で呼ばれノロノロと瞳を向けた。予想に反し、クローディアは優しい瞳でギルバートを見つめていた。
「ギル様は、人の気持ちを見ることができるのですか」
「…どういうこと?」
「私の気持ちより、ギル様の気持ちの方が大きいだなんてなぜわかるのですか?」
「…それは」
クローディアはふんわりと微笑むと、また「ギル様」と名前を呼んだ。
「私の母は、前回を悔いて父の情交現場に乗り込んだそうです」
「…え?」
「そのときに、つらかったけど父と向き合ってたくさん話をして良かったと言っていました。相手が考えていることなどわからないのですから、伝え合う努力をしないと…その相手と関係を構築していきたいと望むのであれば」
うふふ、と微笑んだクローディアは、
「私はギル様から香りを感じませんが、それでもギル様を好きになりましたよ」
「…え?」
ポカンと口を開けたギルバートを見て、クローディアはまた「うふふ」と悪戯っぽく笑った。
「どうでもいい人のために、私は時間は割きません。ギル様にたとえ嫌われたとしても、それでもギル様に幸せになって欲しかったから厳しいことを言いました。イヤなことも。でも、後悔はしていませんわ。ギル様を、守れましたから」
「ま、もれ、た、」
「ええ。死のうとする自棄っぱちな心からギル様を守れました」
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