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第五章
『天然』と書いて『ルヴィア嬢』と読む。(サヴィオン視点)
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カティの執務室に飛ぶと、アンジェがまだ泣いていた。
こりゃヤベーな…。
いくら必要なことだったとは言え、こんなに悲しまれちまうと…。
アンジェの傍らにいるカイルセンは、目を真っ赤にしてジークを見ている。
そんな中、ルヴィア嬢はひとりポツンと椅子に座っていた。ケイトリンは部屋の中にいなかった。
俺に気づくと「サヴィオン様」と言って立ち上がる。
その声を聞いて、アンジェが顔を上げ「サヴィオン…!」と俺を睨み付けるとジークの側から移動して俺の胸ぐらを掴んだ。
「ねぇ!どうして?どうして、ジークを止めてくれなかったの!
どうして、こんな…ちょっと前まで、あんなに嬉しそうだったのに…!バカ!サヴィオンのバカ!私だって、ようやくジークに会えたのに…!」
そう言って、俺の胸に顔を埋めると大声で泣き出した。
「母上…」
カイルセンがアンジェの後ろに立ち、「座りましょう。ね?」と椅子に座らせる。自らも隣に座り、宥めるように背中をさすった。
アンジェはボロボロと涙をこぼし、カイルセンも目を真っ赤にしながら嗚咽を堪えている。
ルヴィア嬢はジークの元に歩いて行くと、その隣にペタリと座り、振り返って俺を見た。
「サヴィオン様」
「なんだい、ルヴィア嬢」
「殿下の胸に刺さっている剣は、抜いても大丈夫でしょうか?」
「ルヴィちゃん!?」
アンジェは慌ててルヴィア嬢の元に駆け寄ると、「大丈夫?ジークが死んでしまってショックなのかもしれないけど、落ち着いて」とルヴィア嬢の背中をさする。
ルヴィア嬢はアンジェを見上げると、不思議そうな顔をした。
「ショック、ですか?」
「ええ、ジークと心が通じたのに…っ」
そういうとルヴィア嬢を抱き締めて「目の前で好きな相手が死んじゃうなんて…」とまた泣きはじめた。
ルヴィア嬢は、そっとアンジェの背中に手を回すと、「王妃陛下」と呼んだ。
「なぁに、ルヴィちゃん」
顔を上げ、ルヴィア嬢を見るアンジェと目を合わせると、
「王妃陛下、私は、殿下のことは好きではありませんよ」
と言った。
「…え?」
呆けたようになったアンジェの横にサッと移動してきたカイルセンが、
「義姉上!?あまりにもショックが大きすぎて、兄上への気持ちを閉じ込めようとしているのですか!?」
不憫な…!と言うと、「兄上…!義姉上を置いて逝ってしまうなんて…!!」とジークにしがみついて泣き声をあげる。
ルヴィア嬢はそのふたりを困惑気味に見て、俺の方に視線を戻した。
「サヴィオン様、抜かないほうがいいんでしょうか」
俺はルヴィア嬢が何を言いたいのかわからず、彼女の元に向かう。ルヴィア嬢は、黙って俺を見ていた。その視線は澄んでいて、悲しみや焦燥など一切の感情がなかった。ただ穏やかに凪いでいた。
「ルヴィア嬢、なぜ剣を抜こうとしてるんだい」
「刺さっていると、苦しいかと思いまして」
そう答えたルヴィア嬢を「ルヴィちゃん!!」と言ってまたアンジェが抱き締める。
「好きな人が死んでも苦しむのはツラいってことよね、わかるわ…!!」
オイオイ声をあげ泣くアンジェをそっと抱き締めるルヴィア嬢の顔は、「困惑」一色であり、「王妃陛下、ですから…、私は殿下を好きではないんですよ」と。また。また、言った。
こっちはこっちでヤベーな…主にルヴィア嬢が…。
そろそろどうにかしないと、と焦る俺の気持ちを知ることもなく、ルヴィア嬢が爆弾を炸裂させた。
「私と殿下は友だちでもありません、」
殿下が嫌だと言いましたから、と言うルヴィア嬢の声の最後は、爆音でかき消され誰の耳にも届かなかった。
ごめんな、ルヴィア嬢。これは俺もどうにもできねぇわ。
こりゃヤベーな…。
いくら必要なことだったとは言え、こんなに悲しまれちまうと…。
アンジェの傍らにいるカイルセンは、目を真っ赤にしてジークを見ている。
そんな中、ルヴィア嬢はひとりポツンと椅子に座っていた。ケイトリンは部屋の中にいなかった。
俺に気づくと「サヴィオン様」と言って立ち上がる。
その声を聞いて、アンジェが顔を上げ「サヴィオン…!」と俺を睨み付けるとジークの側から移動して俺の胸ぐらを掴んだ。
「ねぇ!どうして?どうして、ジークを止めてくれなかったの!
どうして、こんな…ちょっと前まで、あんなに嬉しそうだったのに…!バカ!サヴィオンのバカ!私だって、ようやくジークに会えたのに…!」
そう言って、俺の胸に顔を埋めると大声で泣き出した。
「母上…」
カイルセンがアンジェの後ろに立ち、「座りましょう。ね?」と椅子に座らせる。自らも隣に座り、宥めるように背中をさすった。
アンジェはボロボロと涙をこぼし、カイルセンも目を真っ赤にしながら嗚咽を堪えている。
ルヴィア嬢はジークの元に歩いて行くと、その隣にペタリと座り、振り返って俺を見た。
「サヴィオン様」
「なんだい、ルヴィア嬢」
「殿下の胸に刺さっている剣は、抜いても大丈夫でしょうか?」
「ルヴィちゃん!?」
アンジェは慌ててルヴィア嬢の元に駆け寄ると、「大丈夫?ジークが死んでしまってショックなのかもしれないけど、落ち着いて」とルヴィア嬢の背中をさする。
ルヴィア嬢はアンジェを見上げると、不思議そうな顔をした。
「ショック、ですか?」
「ええ、ジークと心が通じたのに…っ」
そういうとルヴィア嬢を抱き締めて「目の前で好きな相手が死んじゃうなんて…」とまた泣きはじめた。
ルヴィア嬢は、そっとアンジェの背中に手を回すと、「王妃陛下」と呼んだ。
「なぁに、ルヴィちゃん」
顔を上げ、ルヴィア嬢を見るアンジェと目を合わせると、
「王妃陛下、私は、殿下のことは好きではありませんよ」
と言った。
「…え?」
呆けたようになったアンジェの横にサッと移動してきたカイルセンが、
「義姉上!?あまりにもショックが大きすぎて、兄上への気持ちを閉じ込めようとしているのですか!?」
不憫な…!と言うと、「兄上…!義姉上を置いて逝ってしまうなんて…!!」とジークにしがみついて泣き声をあげる。
ルヴィア嬢はそのふたりを困惑気味に見て、俺の方に視線を戻した。
「サヴィオン様、抜かないほうがいいんでしょうか」
俺はルヴィア嬢が何を言いたいのかわからず、彼女の元に向かう。ルヴィア嬢は、黙って俺を見ていた。その視線は澄んでいて、悲しみや焦燥など一切の感情がなかった。ただ穏やかに凪いでいた。
「ルヴィア嬢、なぜ剣を抜こうとしてるんだい」
「刺さっていると、苦しいかと思いまして」
そう答えたルヴィア嬢を「ルヴィちゃん!!」と言ってまたアンジェが抱き締める。
「好きな人が死んでも苦しむのはツラいってことよね、わかるわ…!!」
オイオイ声をあげ泣くアンジェをそっと抱き締めるルヴィア嬢の顔は、「困惑」一色であり、「王妃陛下、ですから…、私は殿下を好きではないんですよ」と。また。また、言った。
こっちはこっちでヤベーな…主にルヴィア嬢が…。
そろそろどうにかしないと、と焦る俺の気持ちを知ることもなく、ルヴィア嬢が爆弾を炸裂させた。
「私と殿下は友だちでもありません、」
殿下が嫌だと言いましたから、と言うルヴィア嬢の声の最後は、爆音でかき消され誰の耳にも届かなかった。
ごめんな、ルヴィア嬢。これは俺もどうにもできねぇわ。
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