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第五章
それぞれの再出発④(エカテリーナ視点)
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「オーウェン…」
いきなり現れた弟にため息をつく。
「姉さん、いま植物魔法使ったの誰?」
「よぉ、オーウェン、久々だなぁ」
「あれ、サヴィオン兄さん。アンジェリーナ姉さんまで。どうしたの?なんでいるの?それより、今の誰?ケビンさんとおんなじ魔力の発現法だった…!」
部屋の中を見渡して、「キミ、」とルヴィア嬢を見たかと思うと、次の瞬間ルヴィア嬢の前に立っていた。
「僕があんなにお願いしても教えてもらえなかったのに!キミ、ケビンさんとどういう関係なのさ!」
「オーウェン、やめろ!」
いきなりのことに呆気にとられるルヴィア嬢の肩に、オーウェンが触れた…と思ったら、ガクリと膝をついた。
「…オーウェン?」
「ジークの呪いはすげぇなぁ…」
兄上を見ると、自分の左手薬指をさして「これだ」と言う。
「…誓約魔法」
「腐っても王族のオーウェンにこれだけダメージ与えるんだ。魔力が低いヤツがルヴィア嬢に触れたら下手したら昇天かもな」
ルヴィア嬢は何が起きたのかわからずに呆然として、目の前にへたりこむオーウェンを見る。
「ルヴィア嬢、愚弟が突然すまなかった」
「愚弟…」
「ああ、こいつは、私のふたつ下の弟で、オーウェン・エイベルという。キミの、というか、サムソン伯爵家の王都の執事、ケビン・レドモンドを、その…」
我が家は変質者が生まれやすい家系なのだろうか。
父上、母上はまともだったはずなのに。
「愛してやまない、変質者なんだ」
「カティ、言い方…」
「でも、それしか言い様がねぇよな。しばらく会わないから忘れてたが、こいつはジークと同じ匂いがする」
「とりあえず、起こしましょ」
というと姉様はオーウェンを水泡に入れた。
「姉様…」
「こうすればイヤでも目が覚めるでしょ」
少しすると、オーウェンが中からドンドン叩き出した。
水泡がパッと消える。
「ゲェッホ、ゲホッ、ちょっと!もう少し優しく起こしてよ!」
「だって変質者に触りたくないんだもの」
「僕は変質者じゃないから!」
「自覚がないって恐ろしいわねぇ」
「それより、」
オーウェンはキッとルヴィア嬢を睨むと、「キミ、なんてことするんだ!」と叫んだ。
兄上がすかさずオーウェンを拘束する。
「やったのはルヴィア嬢じゃねぇ、彼女から魔力発動してなかっただろ」
「…そういえば…」
オーウェンは拘束されたままルヴィア嬢をマジマジと見た。姉様がルヴィア嬢をかばうように立つ。
「オーウェン、貴方、自分より幼い子になんて態度なの」
睨み付けられ、とたんにシュンとする。
「ごめん、」
「私じゃないでしょ」
「…キミ、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「キミ、誰なの」
「おまえが先に名乗れ!変質者め!」
「変質者じゃないから!…僕は、オーウェン・エイベルだ。キミは?」
「はじめまして、ルヴィア・サムソンでございます」
「サムソン?ケイトリンの?…あ、キミ、よく見たら見たことある!ケビンさんと、魔法の訓練してる子じゃん!」
「…オーウェン」
「なに、姉さん」
「見たことある、ってどこで見たんだ」
「サムソン伯爵家だよ」
「なんで見たことがあるんだ?」
「決まってるじゃない!ケビンさんを見てるからだよ、サムソン伯爵家で!隠れてるのに見つかっちゃうんだよね、ケビンさんには」
オーウェンはうっとりした顔になると、「見つかって、おしおきされるのが堪んないんだよね☆」と言った。
「オーウェン、おまえ、一昨日からいなかったのか?」
「うん、なんで?」
「一昨日、兄上が帰ってきたのに知らなかったんだろ」
「そうなの!実はさ、」
オーウェンは、顔を赤くすると嬉しそうに笑った。
「3日前から、ケビンさんに拘束されてたんだよ~☆また見つかっちゃってさぁ~☆
『貴方はほんとに何をしてるんですか、王族としての自覚をどこに置いてきたのですか、恥を知りなさい。陛下に申し訳ないと思わないのですか』って罵られた☆」
はぁ、ケビンさん、めっちゃカッコよかった!もっと罵ってほしい!3日間もケビンさんの部屋に閉じ込められて最高だったよ!たまらない匂いだった!けど手も足も拘束されてるから、自分で触れなくてさぁ、放置プレイ!最高!と次から次へ変態発言をするため、とりあえず姉上にルヴィア嬢を隔離してもらうことにした。ルヴィア嬢は、赤い顔でふらついていた。大丈夫だろうか…。
「…カティの言わんとすることはわかった」
「なになに?なんの話?」
動揺という言葉と一番縁遠いはずの兄上をここまで驚愕させるとは。そう言う意味ではオーウェンは大物かもしれない。
「継承権の話だ」
「カティ姉さん、早く結婚して」
「なぜそうなるんだ、どいつもこいつも!」
「僕は無理だよぉ。ケビンさんについていくんだから」
「…ついていく?」
「うん。あ、そうだ、姉さん!僕、お願いがあって。ケビンさんのとこにもう少しいたかったんだけど、早い方がいいからさ」
「なんだ」
「同性でも結婚できる法律を作って!」
「おまえは何を言い出すんだ!」
「ねぇ、サヴィオン兄さん」
「なんだ」
「他の国、同性婚認めてる国ないの?」
「興味がねぇからわからん」
「ちぇっ、筋肉バカめ」
サラリと暴言を吐いたオーウェンは、「でも、アキラの国があったとこでは、同性婚認めてる国があるって言ってた」と私を見て言った。
「なんで結婚したいんだ」
「そんなの決まってるでしょ、好きだからだよ」
「…ケビンの気持ちもあるだろう」
「好きになってもらえるように努力するから大丈夫だよ!」
さっき消えた変質者とまるっきり同じ種類の匂いがする。話がどんどん逸れていくので、無理矢理戻す。
「ケビンがいなくなるとはどういうことなんだ?」
「昨日、ケビンさんのところにジョージが来たんだよ」
せっかくの僕たちの逢瀬を邪魔してさぁ、とブチブチ言うが、いろいろおかしい。
「ジョージはケビンの兄だろ、ケビンさん、なら、ジョージさん、と呼ぶべきだ」
「あ、そうか。義兄さんって呼べばいいんだ」
兄上はオーウェンを放置することにしたらしく、座ってケーキを食べている。いつの間に出してもらったんだ、しかもあんなに大量に。
「カティ、ケイトリンと、サムソン辺境伯がお目通りしたいそうよ」
と姉上が戻ってきた。
「ふたり一緒ですか?」
「そう。一緒に来たみたい。辺境伯の顔が緩みっぱなしで怖くて見れなかったわ」
ルヴィちゃんのことは、一応ケイトリンにしらせたわよ。私の部屋にいてもらってるから、と言うと、「あ、サヴィオンずるい!私にも!」とケーキを奪って食べ始めた。
「たぶん、ケビンさんの話だよ」
そんなわけがない。
「とりあえず、入ってもらおう」
私は取り次ぎの者に合図をした。すぐにふたりが現れる。イヤそうな顔のケイトリンと、…その手を繋ぐサムソン辺境伯だ。
「…貴方。陛下の御前ですよ」
「わかった、我慢する」
どいつもこいつもなんなんだ、うちの男どもは…。
ケイトリンは片膝をつくと「陛下、お忙しいところありがとうございます」と言った。
「いい、楽にしてくれ。サムソン辺境伯、久しぶりだな。相変わらず素晴らしい仕事ぶりで、我が国の平和が守られていること、深く感謝する」
「もったいなきお言葉です」
「ふたりとも、座ってくれ。オーウェン、おまえも座れ」
お茶の準備をしてもらい、自分も席につく。さっきのジークのように辺境伯はケイトリンの椅子に自分の椅子をぴったりくっつけて座る。なぜだ。
「陛下、昨夜はヴィーをお預かりいただいて、ありがとうございました。ご迷惑はかけませんでしたか?」
「迷惑をかけたのはジークだ。申し訳ない」
「ねぇ、ケイトリン!ケビンさんの話でしょ?」
「オーウェン様、おはようございます。いろんなことの順番が、まだおわかりにならないのですか?もういくつにおなりでしたか?オーウェン様」
「おはよう、ケイトリン!辺境伯も!で、ケビンさんの話でしょ?」
ケイトリンはため息をつくと、「陛下」と私を見た。
「なんだ」
「昨夜、我が家で話し合いをしまして。ヴィーがいいならそれでいい、ということで落ち着きました」
「おっ、そうか!ありがとよ、ケイトリン!変質者を押し付けて申し訳ねぇなぁ。こっちから、きちんとした形で婚約の申し込みをする」
「サヴィオン様、ありがとうございます。ただ、」
ケイトリンは兄上を見ると心配そうな顔になった。
「サヴィオン様の息子であるジークフリート様は、やはりカーディナル魔法国の王族になるのですよね?」
「ああ、ケイトリン、あいつは昨夜からジークハルトになったんだ。名前、変えたんだよ」
「あんまり変わった気がしませんが、承りました」
「まぁ一応王族だが、なんか問題あるか?」
「いえ、その、ヴィーは将来王家に嫁ぐことになるのかとロレックスさんが」
溺愛モンスターにとっては死活問題なのだろう。
「いま、その継承権の話をしてたんだけどよ、オーウェンの野郎が煩くてなぁ。俺としては、俺自身が継承権を放棄するし、ジークもここに縛り付ける気はねぇから。むしろあの変質者は喜んで臣籍降下するんじゃねぇかな」
「そうですか」
ケイトリンはホッとしたように言うと、「オーウェン様、ケビンの話とはなんですか?」とオーウェンを見た。
「ケビンさん、辺境に行くんでしょ、って話だよ
」
「…なぜご存知なのですか」
「さっきまでケビンさんに拘束されてたから☆」
フヘヘ、と緩みきった顔になったオーウェンを諦めて私はケイトリンに尋ねた。
「ケビンが辺境に行くというのは…彼は、こちらの執事だろ?」
「ええ、そうなんですが、ジョージがどうしても王都に来たいと」
「ジョージは、辺境伯爵家の部隊の長だろう?そこはどうするんだ?」
「実力からすれば変わりませんので、ケビンを新たな長にするつもりです。幸い、行ったり来たりはありますし、ケビンもあちらで戦ってますから。部隊側としても受け入れないことはないかと」
「そうか。前からそんな話が出てたのか?」
「いえ、昨夜…急展開がありまして。私は知らなかったのですが、その…」
「なんだ」
「ジョージが、ヴィーの専属侍女を娶りたいと。ヴィーが王都にいるなら侍女も王都にいるわけだから、自分も王都に来たいと。今まで自分のことなんて二の次三の次だったジョージの口からそんな申し出があって驚きまして」
「ジョージが、こちらに来てたのは知らなかったな。彼ほどの魔力の移動があれば私も気づいたはずだが」
「いえ、来たのは昨夜遅くです」
「では、ルヴィア嬢の専属侍女があちらに移動してたのか?」
「いえ、マーサは…マーサというんですが、彼女はモンタリアーノ国からヴィーとともに来たので魔力はありません。移動もできませんし」
「ケイトリン…」
「はい」
「そのふたりは、どうやって、その…愛を育んだんだ?」
「育んではいないんです。ジョージがマーサに会ったのはヴィーとシーラが我が家に来た夜、ほんの何時間か。次の日、陛下とのお話が終わったあと、私がマーサを連れて王都の屋敷に移ってしまいましたので、その日ももし接触があったとしても数時間のはずです」
「しかし、先ほど娶りたいと言っていなかったか?」
「…ジョージが、一方的に、そうしたいと。ケビンはちょくちょく辺境に行ってジョージから話を聞いていたそうなんですが、」
「いや、わからない、わからないんだが、そもそもなぜいきなり結婚に結びつくんだ!」
我が国の行く末を思って、私は頭が痛くなった。
いきなり現れた弟にため息をつく。
「姉さん、いま植物魔法使ったの誰?」
「よぉ、オーウェン、久々だなぁ」
「あれ、サヴィオン兄さん。アンジェリーナ姉さんまで。どうしたの?なんでいるの?それより、今の誰?ケビンさんとおんなじ魔力の発現法だった…!」
部屋の中を見渡して、「キミ、」とルヴィア嬢を見たかと思うと、次の瞬間ルヴィア嬢の前に立っていた。
「僕があんなにお願いしても教えてもらえなかったのに!キミ、ケビンさんとどういう関係なのさ!」
「オーウェン、やめろ!」
いきなりのことに呆気にとられるルヴィア嬢の肩に、オーウェンが触れた…と思ったら、ガクリと膝をついた。
「…オーウェン?」
「ジークの呪いはすげぇなぁ…」
兄上を見ると、自分の左手薬指をさして「これだ」と言う。
「…誓約魔法」
「腐っても王族のオーウェンにこれだけダメージ与えるんだ。魔力が低いヤツがルヴィア嬢に触れたら下手したら昇天かもな」
ルヴィア嬢は何が起きたのかわからずに呆然として、目の前にへたりこむオーウェンを見る。
「ルヴィア嬢、愚弟が突然すまなかった」
「愚弟…」
「ああ、こいつは、私のふたつ下の弟で、オーウェン・エイベルという。キミの、というか、サムソン伯爵家の王都の執事、ケビン・レドモンドを、その…」
我が家は変質者が生まれやすい家系なのだろうか。
父上、母上はまともだったはずなのに。
「愛してやまない、変質者なんだ」
「カティ、言い方…」
「でも、それしか言い様がねぇよな。しばらく会わないから忘れてたが、こいつはジークと同じ匂いがする」
「とりあえず、起こしましょ」
というと姉様はオーウェンを水泡に入れた。
「姉様…」
「こうすればイヤでも目が覚めるでしょ」
少しすると、オーウェンが中からドンドン叩き出した。
水泡がパッと消える。
「ゲェッホ、ゲホッ、ちょっと!もう少し優しく起こしてよ!」
「だって変質者に触りたくないんだもの」
「僕は変質者じゃないから!」
「自覚がないって恐ろしいわねぇ」
「それより、」
オーウェンはキッとルヴィア嬢を睨むと、「キミ、なんてことするんだ!」と叫んだ。
兄上がすかさずオーウェンを拘束する。
「やったのはルヴィア嬢じゃねぇ、彼女から魔力発動してなかっただろ」
「…そういえば…」
オーウェンは拘束されたままルヴィア嬢をマジマジと見た。姉様がルヴィア嬢をかばうように立つ。
「オーウェン、貴方、自分より幼い子になんて態度なの」
睨み付けられ、とたんにシュンとする。
「ごめん、」
「私じゃないでしょ」
「…キミ、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「キミ、誰なの」
「おまえが先に名乗れ!変質者め!」
「変質者じゃないから!…僕は、オーウェン・エイベルだ。キミは?」
「はじめまして、ルヴィア・サムソンでございます」
「サムソン?ケイトリンの?…あ、キミ、よく見たら見たことある!ケビンさんと、魔法の訓練してる子じゃん!」
「…オーウェン」
「なに、姉さん」
「見たことある、ってどこで見たんだ」
「サムソン伯爵家だよ」
「なんで見たことがあるんだ?」
「決まってるじゃない!ケビンさんを見てるからだよ、サムソン伯爵家で!隠れてるのに見つかっちゃうんだよね、ケビンさんには」
オーウェンはうっとりした顔になると、「見つかって、おしおきされるのが堪んないんだよね☆」と言った。
「オーウェン、おまえ、一昨日からいなかったのか?」
「うん、なんで?」
「一昨日、兄上が帰ってきたのに知らなかったんだろ」
「そうなの!実はさ、」
オーウェンは、顔を赤くすると嬉しそうに笑った。
「3日前から、ケビンさんに拘束されてたんだよ~☆また見つかっちゃってさぁ~☆
『貴方はほんとに何をしてるんですか、王族としての自覚をどこに置いてきたのですか、恥を知りなさい。陛下に申し訳ないと思わないのですか』って罵られた☆」
はぁ、ケビンさん、めっちゃカッコよかった!もっと罵ってほしい!3日間もケビンさんの部屋に閉じ込められて最高だったよ!たまらない匂いだった!けど手も足も拘束されてるから、自分で触れなくてさぁ、放置プレイ!最高!と次から次へ変態発言をするため、とりあえず姉上にルヴィア嬢を隔離してもらうことにした。ルヴィア嬢は、赤い顔でふらついていた。大丈夫だろうか…。
「…カティの言わんとすることはわかった」
「なになに?なんの話?」
動揺という言葉と一番縁遠いはずの兄上をここまで驚愕させるとは。そう言う意味ではオーウェンは大物かもしれない。
「継承権の話だ」
「カティ姉さん、早く結婚して」
「なぜそうなるんだ、どいつもこいつも!」
「僕は無理だよぉ。ケビンさんについていくんだから」
「…ついていく?」
「うん。あ、そうだ、姉さん!僕、お願いがあって。ケビンさんのとこにもう少しいたかったんだけど、早い方がいいからさ」
「なんだ」
「同性でも結婚できる法律を作って!」
「おまえは何を言い出すんだ!」
「ねぇ、サヴィオン兄さん」
「なんだ」
「他の国、同性婚認めてる国ないの?」
「興味がねぇからわからん」
「ちぇっ、筋肉バカめ」
サラリと暴言を吐いたオーウェンは、「でも、アキラの国があったとこでは、同性婚認めてる国があるって言ってた」と私を見て言った。
「なんで結婚したいんだ」
「そんなの決まってるでしょ、好きだからだよ」
「…ケビンの気持ちもあるだろう」
「好きになってもらえるように努力するから大丈夫だよ!」
さっき消えた変質者とまるっきり同じ種類の匂いがする。話がどんどん逸れていくので、無理矢理戻す。
「ケビンがいなくなるとはどういうことなんだ?」
「昨日、ケビンさんのところにジョージが来たんだよ」
せっかくの僕たちの逢瀬を邪魔してさぁ、とブチブチ言うが、いろいろおかしい。
「ジョージはケビンの兄だろ、ケビンさん、なら、ジョージさん、と呼ぶべきだ」
「あ、そうか。義兄さんって呼べばいいんだ」
兄上はオーウェンを放置することにしたらしく、座ってケーキを食べている。いつの間に出してもらったんだ、しかもあんなに大量に。
「カティ、ケイトリンと、サムソン辺境伯がお目通りしたいそうよ」
と姉上が戻ってきた。
「ふたり一緒ですか?」
「そう。一緒に来たみたい。辺境伯の顔が緩みっぱなしで怖くて見れなかったわ」
ルヴィちゃんのことは、一応ケイトリンにしらせたわよ。私の部屋にいてもらってるから、と言うと、「あ、サヴィオンずるい!私にも!」とケーキを奪って食べ始めた。
「たぶん、ケビンさんの話だよ」
そんなわけがない。
「とりあえず、入ってもらおう」
私は取り次ぎの者に合図をした。すぐにふたりが現れる。イヤそうな顔のケイトリンと、…その手を繋ぐサムソン辺境伯だ。
「…貴方。陛下の御前ですよ」
「わかった、我慢する」
どいつもこいつもなんなんだ、うちの男どもは…。
ケイトリンは片膝をつくと「陛下、お忙しいところありがとうございます」と言った。
「いい、楽にしてくれ。サムソン辺境伯、久しぶりだな。相変わらず素晴らしい仕事ぶりで、我が国の平和が守られていること、深く感謝する」
「もったいなきお言葉です」
「ふたりとも、座ってくれ。オーウェン、おまえも座れ」
お茶の準備をしてもらい、自分も席につく。さっきのジークのように辺境伯はケイトリンの椅子に自分の椅子をぴったりくっつけて座る。なぜだ。
「陛下、昨夜はヴィーをお預かりいただいて、ありがとうございました。ご迷惑はかけませんでしたか?」
「迷惑をかけたのはジークだ。申し訳ない」
「ねぇ、ケイトリン!ケビンさんの話でしょ?」
「オーウェン様、おはようございます。いろんなことの順番が、まだおわかりにならないのですか?もういくつにおなりでしたか?オーウェン様」
「おはよう、ケイトリン!辺境伯も!で、ケビンさんの話でしょ?」
ケイトリンはため息をつくと、「陛下」と私を見た。
「なんだ」
「昨夜、我が家で話し合いをしまして。ヴィーがいいならそれでいい、ということで落ち着きました」
「おっ、そうか!ありがとよ、ケイトリン!変質者を押し付けて申し訳ねぇなぁ。こっちから、きちんとした形で婚約の申し込みをする」
「サヴィオン様、ありがとうございます。ただ、」
ケイトリンは兄上を見ると心配そうな顔になった。
「サヴィオン様の息子であるジークフリート様は、やはりカーディナル魔法国の王族になるのですよね?」
「ああ、ケイトリン、あいつは昨夜からジークハルトになったんだ。名前、変えたんだよ」
「あんまり変わった気がしませんが、承りました」
「まぁ一応王族だが、なんか問題あるか?」
「いえ、その、ヴィーは将来王家に嫁ぐことになるのかとロレックスさんが」
溺愛モンスターにとっては死活問題なのだろう。
「いま、その継承権の話をしてたんだけどよ、オーウェンの野郎が煩くてなぁ。俺としては、俺自身が継承権を放棄するし、ジークもここに縛り付ける気はねぇから。むしろあの変質者は喜んで臣籍降下するんじゃねぇかな」
「そうですか」
ケイトリンはホッとしたように言うと、「オーウェン様、ケビンの話とはなんですか?」とオーウェンを見た。
「ケビンさん、辺境に行くんでしょ、って話だよ
」
「…なぜご存知なのですか」
「さっきまでケビンさんに拘束されてたから☆」
フヘヘ、と緩みきった顔になったオーウェンを諦めて私はケイトリンに尋ねた。
「ケビンが辺境に行くというのは…彼は、こちらの執事だろ?」
「ええ、そうなんですが、ジョージがどうしても王都に来たいと」
「ジョージは、辺境伯爵家の部隊の長だろう?そこはどうするんだ?」
「実力からすれば変わりませんので、ケビンを新たな長にするつもりです。幸い、行ったり来たりはありますし、ケビンもあちらで戦ってますから。部隊側としても受け入れないことはないかと」
「そうか。前からそんな話が出てたのか?」
「いえ、昨夜…急展開がありまして。私は知らなかったのですが、その…」
「なんだ」
「ジョージが、ヴィーの専属侍女を娶りたいと。ヴィーが王都にいるなら侍女も王都にいるわけだから、自分も王都に来たいと。今まで自分のことなんて二の次三の次だったジョージの口からそんな申し出があって驚きまして」
「ジョージが、こちらに来てたのは知らなかったな。彼ほどの魔力の移動があれば私も気づいたはずだが」
「いえ、来たのは昨夜遅くです」
「では、ルヴィア嬢の専属侍女があちらに移動してたのか?」
「いえ、マーサは…マーサというんですが、彼女はモンタリアーノ国からヴィーとともに来たので魔力はありません。移動もできませんし」
「ケイトリン…」
「はい」
「そのふたりは、どうやって、その…愛を育んだんだ?」
「育んではいないんです。ジョージがマーサに会ったのはヴィーとシーラが我が家に来た夜、ほんの何時間か。次の日、陛下とのお話が終わったあと、私がマーサを連れて王都の屋敷に移ってしまいましたので、その日ももし接触があったとしても数時間のはずです」
「しかし、先ほど娶りたいと言っていなかったか?」
「…ジョージが、一方的に、そうしたいと。ケビンはちょくちょく辺境に行ってジョージから話を聞いていたそうなんですが、」
「いや、わからない、わからないんだが、そもそもなぜいきなり結婚に結びつくんだ!」
我が国の行く末を思って、私は頭が痛くなった。
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