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第五章
それぞれの再出発⑤(エカテリーナ視点)
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「マーサは、以前からケビンには相談していたようなんですが…元々こちらに来たのもヴィーが4~5年くらいはカーディナルにいるけど、その後はモンタリアーノに戻る、という話だったからなんです。
しかし、ヴィーがこちらに住むことになり、魔力がない自分はこの国にいるべきではないと」
「なんでそう思ったのかしら?」
姉様の問いに、ケイトリンは「一番のネックは、移動手段だそうです」と言った。
「移動手段?」
「はい。我々カーディナルの人間は、特性がなくても、移動だけは必ずどの人間もできます。だから、移動できない人間を考えた仕組みになっていません。ロレックスさんもよく言いますが、馬車がないと、馬に乗れない魔力がない人間は、徒歩で動くしかない。生活範囲が非常に狭くなります。
マーサは、『お嬢様の専属侍女といいながら、私は街で買い物ひとつできない。お嬢様の侍女として仕事ができていない』と悩んでいたそうなんです。
昨夜、ヴィーの婚約の話をしたところ、それならもうカーディナルから出たいと」
「なるほどねぇ。確かに、モンタリアーノ国は馬車があったわね。乗り合いみたいなのもあったし。
カティ、」
「はい」
「国を繁栄させるために必要だと言われるものはたくさんあるけれど、その中に人材の流入、人材の受け入れも含まれるわね。
カーディナルは、閉鎖してる国ではないけれど、そう言われてみると閉鎖に近いと思わない?」
「なぜですか?」
「だって、魔力のある人間しか生活しにくい国なんですもの」
「…確かに」
「そのマーサがいう移動手段、これは今後国を発展させるために早急に整備するべきだと思うわ」
「それなんだけどよ、カティ」
「どうしました」
「おまえ、さっき、アキラの話で旅行って言ったよな?」
「ええ、言いましたが」
「俺たち王族は地図さえあればそこに飛べるが、カーディナルの平民はそんなことできねぇだろ」
「え、ええ、…?」
兄上の言いたいことがわからずに困惑していると、
「そうなると、自分で移動できる範囲がその人間の一生の檻になっちまうよな」
「え?」
「だって、移動手段がねぇんだし、そういう人間は代々そこにしか住まねぇだろ。よそに知り合いなんてそうそうできねぇじゃねぇか」
「…あ」
自分が困ったことがないからそんなことに思い至りもしなかった。
「今まで特に何も出なかったのは、たぶん誰しもが『こんなもんだ』って思ってたからなんだよな。そういう固定観念というか。だけど、そこから新しい場所に行けることになったら…人生がさらに豊かになるんじゃねぇのかなぁ。たとえばだが、カーディナル魔法国には海がないだろ?」
「そうですね」
「でも、海を見たら人生観が変わるヤツも出てくるかもしれない。この先には何があるんだろう、って。そいつらが新しい何かを求めることで、新しい何かが国にもたらされるようになる。なんとか暮らしていけるから特に考えてもいなかったが、もし、モンタリアーノから独立する三領地を組み入れたら船を使って貿易もできるだろ」
「すでにやってるわね、ここは」
「港を整備しているのですか?」
「そうね、領地ごとに」
「軍はいねぇのか?」
「軍?」
キョトンとする姉様に兄上は「艦艇で乗り込まれる心配はしてないのか?」と聞いた。
「うーん、特に考えてはなかったんじゃないかしら?今までなかったし」
「でも俺たちはクリミアにやられただろ」
兄上は厳しい顔になるとわたしを見て言った。
「もしここを組み入れることになったら、貿易はもちろんだが艦艇を造り海軍を配置するべきだと思う」
「海軍…」
「実際、海に面してる国はほぼあるはずだ。海軍を配備してないモンタリアーノが特殊だと俺は思うぞ」
「だってクズが国王なのよ。そんなこと、考えもしないわよ」
「あとな、カティ」
「はい」
「シングロリアには、鉄道がある」
「鉄道…?」
「ああ。線路を引いて駅を作り、主要な都市を結ぶんだな。人が動くのはもちろんだが、物流も兼ねることができるらしい。大量にヒトやモノを動かせるんだ。遠く離れた場所に行くには馬車よりも快適だと思う」
俺は乗ったことがねぇからなんとも言えねぇが、と兄上は言って、「シングロリアで、それを学ばせてきたらどうだ?」と言った。
「ねぇ」
突然オーウェンが口を開いた。
「その鉄道ができたら、ケビンさんは王都にいるかな」
「…は?」
「だって、その鉄道ってのができたら、ケイトリンのとこの侍女だって移動できるようになるんでしょ。そしたら、ジョージも辺境のままでいいじゃん」
「オーウェン、貴方、バカなの?」
姉様は呆れたように言った。
「ジョージは、マーサと一緒にいたい。マーサはルヴィちゃんの侍女で王都からは離れない。だから、自分が王都に来たいって言ってるのよ。ケビンだって、それを了承してくれたんだから、鉄道ができようがなにしようが、それは変わらないでしょ」
「そっか!」
オーウェンはニコーッと笑うと、「じゃあやっぱり僕も辺境に行くね!」と言った。
すると兄上が、「いや、ダメだ」とオーウェンを見た。
「はぁ?筋肉バカになんでそんなこと言われなきゃならないんだよ!カティ姉さんが言うならまだしも、好き勝手に生きてきたヤツに言われたくない!」
兄上は、黙って立ち上がるとオーウェンの襟を掴んで椅子から放り投げた。
「いった…何するんだよ!なんでも暴力に訴えやがって!」
しゃがみこんだままのオーウェンを見下ろして兄上は、「おめぇ、いくつになった?」と言った。体から覇気が洩れだしている。
オーウェンもそれを見てマズイとわかったのか、「28だけど…」と小さい声で呟いた。
「俺は確かに早々とカーディナルから出た。しかし、王族に与えられる褒章は俺は受け取ってない。そうだな、カティ」
「…そうです。兄上の分として積み立ててはいますが、使ってはいませんね」
「…それが、なんなのさ」
「俺は確かに好き勝手に生きてきたが、王族としての権利は放棄した。積み立ててくれてる金も放棄する。だが、おまえはなんだ?」
兄上は、オーウェンを睨み付けた。
「王族としての責任を果たさず、カティに守られ、自分が受けられる恩恵は受け放題。そして今度は辺境に行くだと?そんなことは許さん。だったら、王族をやめろ。自分の力で生きていけ。安穏と恩恵を貪り続けて、何も責務を果たさないことは許されない。今までおまえが与えられてきた金も返せ。成人後からに目こぼししてやるから、8年分だ」
「無理だよ、そんなの!」
「じゃあ、今から働け。8年分、カティにかえせ」
「だって!カティ姉さんは、そんなこと今まで言わなかった!」
「オーウェン!!」
ビリビリと震える兄上が放った覇気に、誰も動くことができない。
「押しつけられて、それを粛々と受けざるを得なかったカティの気持ちがおまえにわかるのか?」
「でも…っ」
「もし、どうしても行くというなら、この場でおまえを殺す。償いにもならない安い命だが、仕方ない」
オーウェンは、青い顔で兄上を見上げた。
「…どうすればいいのさ」
「おまえ、ケビンを見るために、監視するための魔道具作ってたろ。10歳くらいのときに」
兄上はオーウェンを見据えて言った。
「それを生産しろ。おまえしかできないんだからな」
「何に使うんだよ!」
「さっき言ったように、これからカーディナルは新しい人間を受け入れる。しかし、悪どいことを考える人間だって入ってくるだろ。それを見張り、何かを起こした場合には証拠として残すんだよ」
「…監視するってこと?」
「現にやってんだろ、おめぇ」
オーウェンは兄上を見上げると、「…いくつ作ればいいのさ」と言った。
「カーディナル全体を覆える数だ」
「バカじゃないの!?何年かかるかわかんないじゃん!」
「最低8年はカティに返すべきだ。おまえがやりたくないなら、他の人間に技術を渡せばいいだろうが」
「…簡単に言いやがって!」
クソッ、と吐き捨てると、オーウェンは、「やってやろうじゃん」と言った。
「僕がそれをやり遂げたら、好きにさせてくれるんだろうね」
「あとは、身分証だな」
「なんだよ、次から次へと!!」
「その人間が、カーディナル魔法国の人間であることを明らかにするのを作れ。各関所で他国から入ってくる場合には、身分証明ができるものを提示させる。カーディナルに永住するにしても、ただ観光にきたにしても、だ。それを本物か偽物か見破るモノを作れ」
「バカ言うな!何年かかるかわかんねーじゃん!」
「だから、言ったろ?少なくとも8年はカティに返せ」
真っ赤な顔になったオーウェンは、「やってやるよ!すぐにそんなの作ってやる!僕を舐めるなよ!」と言って消えた。
「兄上…」
「カティ、俺は当たり前のことを言っただけだ。あいつの頭脳と技術を活かさない手はない」
ケビンと一緒にいたいなら、死に物狂いでやるだろうよ、とニカッと笑った。
「シングロリアに派遣する人間を決めろ。俺も一緒に行く」
風呂に入れねぇのはツラいが、俺も働くぜ。オーウェンに言った手前、さぼるわけにいかねぇだろ、と言ってまた兄上は笑った。
「…ありがとうございます」
「なに言ってんだ、カティ。礼を言うのはこっちだよ」
兄上は、私の前に立つと、「今までカーディナルを守ってくれてありがとう。これからは俺もカーディナルのために頑張る。仲間に入れてくれ」と言った。
私は込み上げるものを必死に抑えた。気を抜いたら涙が出そうだった。
「ちょっと、サヴィオン!何ひとりだけいい子ぶってんのよ!」
姉様は兄上の頭をペチッと叩くと、「カティ、私も頼ってよ」と言った。
「私もカーディナルのために頑張るわ。だから、ひとりで頑張りすぎないで」
そう言うと姉様は私をぎゅうっと抱き締めた。
「モンタリアーノの三領地がどうなるか決まるまでは、私がカティの補佐をする。ね、だから、たまには休んで。約束よ」
優しい姉様の声に思わず目が熱くなる。
「…ありがとうございます」
「じゃ、私、モンタリアーノの三人と話してくるわね。いつがいいか。話し合いしたほうがいいでしょ、どちらにしても」
姉様はそう言ったあと、「あ、そうだわ、カティ」と私に腕輪を取り付けた。
「…姉様?」
「どうせ気を張りすぎて夜もまともに寝てないんでしょ。私もサヴィオンもいるんだし、貴女を愛してやまない魔術団がいるのよ。安心して、私たちを信頼して、今日はゆっくり眠りなさい。魔力を封じておけば、さらにゆっくり眠れるわよ」
にこやかに言う姉様に、私は礼を言い、今日は早めに休ませてもらうことにした。
しかし、ヴィーがこちらに住むことになり、魔力がない自分はこの国にいるべきではないと」
「なんでそう思ったのかしら?」
姉様の問いに、ケイトリンは「一番のネックは、移動手段だそうです」と言った。
「移動手段?」
「はい。我々カーディナルの人間は、特性がなくても、移動だけは必ずどの人間もできます。だから、移動できない人間を考えた仕組みになっていません。ロレックスさんもよく言いますが、馬車がないと、馬に乗れない魔力がない人間は、徒歩で動くしかない。生活範囲が非常に狭くなります。
マーサは、『お嬢様の専属侍女といいながら、私は街で買い物ひとつできない。お嬢様の侍女として仕事ができていない』と悩んでいたそうなんです。
昨夜、ヴィーの婚約の話をしたところ、それならもうカーディナルから出たいと」
「なるほどねぇ。確かに、モンタリアーノ国は馬車があったわね。乗り合いみたいなのもあったし。
カティ、」
「はい」
「国を繁栄させるために必要だと言われるものはたくさんあるけれど、その中に人材の流入、人材の受け入れも含まれるわね。
カーディナルは、閉鎖してる国ではないけれど、そう言われてみると閉鎖に近いと思わない?」
「なぜですか?」
「だって、魔力のある人間しか生活しにくい国なんですもの」
「…確かに」
「そのマーサがいう移動手段、これは今後国を発展させるために早急に整備するべきだと思うわ」
「それなんだけどよ、カティ」
「どうしました」
「おまえ、さっき、アキラの話で旅行って言ったよな?」
「ええ、言いましたが」
「俺たち王族は地図さえあればそこに飛べるが、カーディナルの平民はそんなことできねぇだろ」
「え、ええ、…?」
兄上の言いたいことがわからずに困惑していると、
「そうなると、自分で移動できる範囲がその人間の一生の檻になっちまうよな」
「え?」
「だって、移動手段がねぇんだし、そういう人間は代々そこにしか住まねぇだろ。よそに知り合いなんてそうそうできねぇじゃねぇか」
「…あ」
自分が困ったことがないからそんなことに思い至りもしなかった。
「今まで特に何も出なかったのは、たぶん誰しもが『こんなもんだ』って思ってたからなんだよな。そういう固定観念というか。だけど、そこから新しい場所に行けることになったら…人生がさらに豊かになるんじゃねぇのかなぁ。たとえばだが、カーディナル魔法国には海がないだろ?」
「そうですね」
「でも、海を見たら人生観が変わるヤツも出てくるかもしれない。この先には何があるんだろう、って。そいつらが新しい何かを求めることで、新しい何かが国にもたらされるようになる。なんとか暮らしていけるから特に考えてもいなかったが、もし、モンタリアーノから独立する三領地を組み入れたら船を使って貿易もできるだろ」
「すでにやってるわね、ここは」
「港を整備しているのですか?」
「そうね、領地ごとに」
「軍はいねぇのか?」
「軍?」
キョトンとする姉様に兄上は「艦艇で乗り込まれる心配はしてないのか?」と聞いた。
「うーん、特に考えてはなかったんじゃないかしら?今までなかったし」
「でも俺たちはクリミアにやられただろ」
兄上は厳しい顔になるとわたしを見て言った。
「もしここを組み入れることになったら、貿易はもちろんだが艦艇を造り海軍を配置するべきだと思う」
「海軍…」
「実際、海に面してる国はほぼあるはずだ。海軍を配備してないモンタリアーノが特殊だと俺は思うぞ」
「だってクズが国王なのよ。そんなこと、考えもしないわよ」
「あとな、カティ」
「はい」
「シングロリアには、鉄道がある」
「鉄道…?」
「ああ。線路を引いて駅を作り、主要な都市を結ぶんだな。人が動くのはもちろんだが、物流も兼ねることができるらしい。大量にヒトやモノを動かせるんだ。遠く離れた場所に行くには馬車よりも快適だと思う」
俺は乗ったことがねぇからなんとも言えねぇが、と兄上は言って、「シングロリアで、それを学ばせてきたらどうだ?」と言った。
「ねぇ」
突然オーウェンが口を開いた。
「その鉄道ができたら、ケビンさんは王都にいるかな」
「…は?」
「だって、その鉄道ってのができたら、ケイトリンのとこの侍女だって移動できるようになるんでしょ。そしたら、ジョージも辺境のままでいいじゃん」
「オーウェン、貴方、バカなの?」
姉様は呆れたように言った。
「ジョージは、マーサと一緒にいたい。マーサはルヴィちゃんの侍女で王都からは離れない。だから、自分が王都に来たいって言ってるのよ。ケビンだって、それを了承してくれたんだから、鉄道ができようがなにしようが、それは変わらないでしょ」
「そっか!」
オーウェンはニコーッと笑うと、「じゃあやっぱり僕も辺境に行くね!」と言った。
すると兄上が、「いや、ダメだ」とオーウェンを見た。
「はぁ?筋肉バカになんでそんなこと言われなきゃならないんだよ!カティ姉さんが言うならまだしも、好き勝手に生きてきたヤツに言われたくない!」
兄上は、黙って立ち上がるとオーウェンの襟を掴んで椅子から放り投げた。
「いった…何するんだよ!なんでも暴力に訴えやがって!」
しゃがみこんだままのオーウェンを見下ろして兄上は、「おめぇ、いくつになった?」と言った。体から覇気が洩れだしている。
オーウェンもそれを見てマズイとわかったのか、「28だけど…」と小さい声で呟いた。
「俺は確かに早々とカーディナルから出た。しかし、王族に与えられる褒章は俺は受け取ってない。そうだな、カティ」
「…そうです。兄上の分として積み立ててはいますが、使ってはいませんね」
「…それが、なんなのさ」
「俺は確かに好き勝手に生きてきたが、王族としての権利は放棄した。積み立ててくれてる金も放棄する。だが、おまえはなんだ?」
兄上は、オーウェンを睨み付けた。
「王族としての責任を果たさず、カティに守られ、自分が受けられる恩恵は受け放題。そして今度は辺境に行くだと?そんなことは許さん。だったら、王族をやめろ。自分の力で生きていけ。安穏と恩恵を貪り続けて、何も責務を果たさないことは許されない。今までおまえが与えられてきた金も返せ。成人後からに目こぼししてやるから、8年分だ」
「無理だよ、そんなの!」
「じゃあ、今から働け。8年分、カティにかえせ」
「だって!カティ姉さんは、そんなこと今まで言わなかった!」
「オーウェン!!」
ビリビリと震える兄上が放った覇気に、誰も動くことができない。
「押しつけられて、それを粛々と受けざるを得なかったカティの気持ちがおまえにわかるのか?」
「でも…っ」
「もし、どうしても行くというなら、この場でおまえを殺す。償いにもならない安い命だが、仕方ない」
オーウェンは、青い顔で兄上を見上げた。
「…どうすればいいのさ」
「おまえ、ケビンを見るために、監視するための魔道具作ってたろ。10歳くらいのときに」
兄上はオーウェンを見据えて言った。
「それを生産しろ。おまえしかできないんだからな」
「何に使うんだよ!」
「さっき言ったように、これからカーディナルは新しい人間を受け入れる。しかし、悪どいことを考える人間だって入ってくるだろ。それを見張り、何かを起こした場合には証拠として残すんだよ」
「…監視するってこと?」
「現にやってんだろ、おめぇ」
オーウェンは兄上を見上げると、「…いくつ作ればいいのさ」と言った。
「カーディナル全体を覆える数だ」
「バカじゃないの!?何年かかるかわかんないじゃん!」
「最低8年はカティに返すべきだ。おまえがやりたくないなら、他の人間に技術を渡せばいいだろうが」
「…簡単に言いやがって!」
クソッ、と吐き捨てると、オーウェンは、「やってやろうじゃん」と言った。
「僕がそれをやり遂げたら、好きにさせてくれるんだろうね」
「あとは、身分証だな」
「なんだよ、次から次へと!!」
「その人間が、カーディナル魔法国の人間であることを明らかにするのを作れ。各関所で他国から入ってくる場合には、身分証明ができるものを提示させる。カーディナルに永住するにしても、ただ観光にきたにしても、だ。それを本物か偽物か見破るモノを作れ」
「バカ言うな!何年かかるかわかんねーじゃん!」
「だから、言ったろ?少なくとも8年はカティに返せ」
真っ赤な顔になったオーウェンは、「やってやるよ!すぐにそんなの作ってやる!僕を舐めるなよ!」と言って消えた。
「兄上…」
「カティ、俺は当たり前のことを言っただけだ。あいつの頭脳と技術を活かさない手はない」
ケビンと一緒にいたいなら、死に物狂いでやるだろうよ、とニカッと笑った。
「シングロリアに派遣する人間を決めろ。俺も一緒に行く」
風呂に入れねぇのはツラいが、俺も働くぜ。オーウェンに言った手前、さぼるわけにいかねぇだろ、と言ってまた兄上は笑った。
「…ありがとうございます」
「なに言ってんだ、カティ。礼を言うのはこっちだよ」
兄上は、私の前に立つと、「今までカーディナルを守ってくれてありがとう。これからは俺もカーディナルのために頑張る。仲間に入れてくれ」と言った。
私は込み上げるものを必死に抑えた。気を抜いたら涙が出そうだった。
「ちょっと、サヴィオン!何ひとりだけいい子ぶってんのよ!」
姉様は兄上の頭をペチッと叩くと、「カティ、私も頼ってよ」と言った。
「私もカーディナルのために頑張るわ。だから、ひとりで頑張りすぎないで」
そう言うと姉様は私をぎゅうっと抱き締めた。
「モンタリアーノの三領地がどうなるか決まるまでは、私がカティの補佐をする。ね、だから、たまには休んで。約束よ」
優しい姉様の声に思わず目が熱くなる。
「…ありがとうございます」
「じゃ、私、モンタリアーノの三人と話してくるわね。いつがいいか。話し合いしたほうがいいでしょ、どちらにしても」
姉様はそう言ったあと、「あ、そうだわ、カティ」と私に腕輪を取り付けた。
「…姉様?」
「どうせ気を張りすぎて夜もまともに寝てないんでしょ。私もサヴィオンもいるんだし、貴女を愛してやまない魔術団がいるのよ。安心して、私たちを信頼して、今日はゆっくり眠りなさい。魔力を封じておけば、さらにゆっくり眠れるわよ」
にこやかに言う姉様に、私は礼を言い、今日は早めに休ませてもらうことにした。
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