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第五章
それぞれの再出発⑮
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サヴィオン様が戻ってきて、「ジークは明日から、飛び級で騎士養成学校に行くことになった」と言った。
16歳になる年から3年通う学園の前に、騎士養成学校で武術を磨き、その傍らでサヴィオン様の公務のお手伝いをするのだと言う。
ただただ泣き続ける私に、「すまねぇな、ルヴィア嬢」とサヴィオン様は言った。
「もし、キミが知りたいなら、ジークがどんなことをしているかお知らせする」
「お願いします、」
その後、おばあ様が迎えに来て家に着くと、お父様が「ヴィー、あんな無理矢理結ばれたような婚約、解消されて良かったじゃないか」と言った。
私の左手の指輪を見て「それは、ジークハルト様にお返しするべきだ。お父様がお返ししておく」と取り上げようとする。
「ロレックス!」
お母様の叫びと同時に、私はお父様を蔦で巻き付けた。
「…ヴィー!?」
「お父様、触らないでください。これは、私がハルト様からいただいた大切なものです」
「ヴィー、もう婚約は解消したんだよ!」
「だからなんですか?これは、ハルト様が、私に着けて下さったんです。たとえお父様でも許しません」
私はおばあ様に、「あとで解いて差し上げてください」と言って、お父様を見ずに自室に飛んだ。
それから3日、ひたすら泣き続けた。ハルト様の「ルヴィ」と優しく呼んでくれる声、甘く蕩けた笑顔。繋いだ手の温もり、重ね合わせたくちびるの柔らかさ。ハルト様のすべてが、私を苛み、苦しめた。こんなに涙が出るんだな、というくらいに泣き続けた。
泣き疲れて眠ってしまった4日目の朝。
「…ひどい顔」
姿見で自分を見て、笑ってしまうくらいにひどかった。はれぼったいまぶた、ぐちゃぐちゃな髪の毛。
その時、左手のハルト様の指輪が、ポワッと光った。
たった一瞬だったけど、確かに光った。
あの、最後のとき。ハルト様は、「愛してる、ルヴィ」と言った。
「愛してた、ルヴィア嬢」じゃない。「愛してる、ルヴィ」と。
「ジークハルトと呼んでくれ」と言ったことに、私は返事をしていない。だから、これからもハルト様と呼ぶ。
私はハルト様を諦めない。絶対に。
ハルト様の指輪に、そっとキスをする。
「愛してます、ハルト様」
こんなふうに泣いていたって何も変わらない。ハルト様が私にぶら下がって私が壊れる?なら、壊れない私になる。
3日も無駄にした。もうこれ以上無駄にしない。
私は顔を洗い、身支度を整えおばあ様の元に行った。
「子どもじみたことを致しました。申し訳ありません」
顔を上げて見たおばあ様は、私を痛ましそうな目で見ていた。
「ヴィーちゃん」
「はい」
「これから、どうする?アンジェ様からも、陛下からも、一度顔を見せてくれないかと言われているの。でも嫌なら、」
「参ります」
「…ヴィーちゃん、」
「おばあ様」
「…なにかしら」
「私はハルト様との婚約を解消しましたが、それは私の本意でも、ハルト様の本意でもありません。それをお伝えしてもよろしいですよね。私はハルト様を諦めません。ハルト様が私を思い続けてくださったように、私はハルト様を思い続けます。
今後、私に婚約者を設けないでください。どなたとも結婚はいたしません。ハルト様以外とは」
「ヴィーちゃん」
おばあ様は、「お二人に、いつがいいか聞いてみるわね」と言ってお城に向かった。私はケビンさんの元に飛んだ。
「ケビンさん、ご心配をお掛け致しました。申し訳ありません」
1年程前、ジョージさんとケビンさんが交代する話が出たのだが、ケビンさんが私の魔法の先生のため、まだ実現していなかった。
「お嬢様、大丈夫ですか。大変でしたね」
「いえ、もう大丈夫です。気持ちの整理はできました。ケビンさんに、教えていただきたいことがあるんです」
「なんでしょう?」
「ケビンさんに教えていただいて、相手を縛り付けたり、攻撃したりすることができるようになりましたが、治療のための魔法を学びたいのです」
「それならば、魔術師養成学校に行かれるのがよろしいかと。基礎から学び直すことで、新たな発見もできるでしょう。私がお教えした攻撃魔法は、たぶん養成学校ではやらないはずです。私が独自に展開したものですから」
「養成学校は、16歳になる年からと伺いましたが」
「お嬢様の想い人も、16歳からのはずの騎士養成学校に行かれたそうですね?」
「…はい」
「まだ構想段階とのことですが、16になる年に入学する学園を、普通科、騎士科、魔術科、として現在の養成学校を統合するそうです。私は、お嬢様は普通科に行き、政治や経済について学び、カーディナルをより発展させる人材になるべきだと思います。そうなると、魔術の勉強はできなくなります」
「…はあ、」
「なので、今から入学して極めてください。魔術を」
「飛び級を認めてもらうということですね」
ケビンさんはニコッと笑うと、「頑張れますか?」と言った。
「やります」
「その意気です。お嬢様、欲しいものを手に入れるために努力をすることはとても楽しいことですよ。私も応援しております」
ケビンさんは、「お嬢様の入学が決まりましたら、私は辺境に参ります。ジョージがうるさくて敵わないのですよ」とおどけたように言った。
そこにおばあ様が戻ってきた。
「ヴィーちゃん、ここにいたのね。今からお会いくださるそうだけど、行ける?」
「はい。ケビンさん、ありがとうございました」
「お嬢様、お気をつけて。言いたいことをすべてお伝えしてくるのですよ」
ケビンさんは、なぜなんでも知っているのだろうか。
16歳になる年から3年通う学園の前に、騎士養成学校で武術を磨き、その傍らでサヴィオン様の公務のお手伝いをするのだと言う。
ただただ泣き続ける私に、「すまねぇな、ルヴィア嬢」とサヴィオン様は言った。
「もし、キミが知りたいなら、ジークがどんなことをしているかお知らせする」
「お願いします、」
その後、おばあ様が迎えに来て家に着くと、お父様が「ヴィー、あんな無理矢理結ばれたような婚約、解消されて良かったじゃないか」と言った。
私の左手の指輪を見て「それは、ジークハルト様にお返しするべきだ。お父様がお返ししておく」と取り上げようとする。
「ロレックス!」
お母様の叫びと同時に、私はお父様を蔦で巻き付けた。
「…ヴィー!?」
「お父様、触らないでください。これは、私がハルト様からいただいた大切なものです」
「ヴィー、もう婚約は解消したんだよ!」
「だからなんですか?これは、ハルト様が、私に着けて下さったんです。たとえお父様でも許しません」
私はおばあ様に、「あとで解いて差し上げてください」と言って、お父様を見ずに自室に飛んだ。
それから3日、ひたすら泣き続けた。ハルト様の「ルヴィ」と優しく呼んでくれる声、甘く蕩けた笑顔。繋いだ手の温もり、重ね合わせたくちびるの柔らかさ。ハルト様のすべてが、私を苛み、苦しめた。こんなに涙が出るんだな、というくらいに泣き続けた。
泣き疲れて眠ってしまった4日目の朝。
「…ひどい顔」
姿見で自分を見て、笑ってしまうくらいにひどかった。はれぼったいまぶた、ぐちゃぐちゃな髪の毛。
その時、左手のハルト様の指輪が、ポワッと光った。
たった一瞬だったけど、確かに光った。
あの、最後のとき。ハルト様は、「愛してる、ルヴィ」と言った。
「愛してた、ルヴィア嬢」じゃない。「愛してる、ルヴィ」と。
「ジークハルトと呼んでくれ」と言ったことに、私は返事をしていない。だから、これからもハルト様と呼ぶ。
私はハルト様を諦めない。絶対に。
ハルト様の指輪に、そっとキスをする。
「愛してます、ハルト様」
こんなふうに泣いていたって何も変わらない。ハルト様が私にぶら下がって私が壊れる?なら、壊れない私になる。
3日も無駄にした。もうこれ以上無駄にしない。
私は顔を洗い、身支度を整えおばあ様の元に行った。
「子どもじみたことを致しました。申し訳ありません」
顔を上げて見たおばあ様は、私を痛ましそうな目で見ていた。
「ヴィーちゃん」
「はい」
「これから、どうする?アンジェ様からも、陛下からも、一度顔を見せてくれないかと言われているの。でも嫌なら、」
「参ります」
「…ヴィーちゃん、」
「おばあ様」
「…なにかしら」
「私はハルト様との婚約を解消しましたが、それは私の本意でも、ハルト様の本意でもありません。それをお伝えしてもよろしいですよね。私はハルト様を諦めません。ハルト様が私を思い続けてくださったように、私はハルト様を思い続けます。
今後、私に婚約者を設けないでください。どなたとも結婚はいたしません。ハルト様以外とは」
「ヴィーちゃん」
おばあ様は、「お二人に、いつがいいか聞いてみるわね」と言ってお城に向かった。私はケビンさんの元に飛んだ。
「ケビンさん、ご心配をお掛け致しました。申し訳ありません」
1年程前、ジョージさんとケビンさんが交代する話が出たのだが、ケビンさんが私の魔法の先生のため、まだ実現していなかった。
「お嬢様、大丈夫ですか。大変でしたね」
「いえ、もう大丈夫です。気持ちの整理はできました。ケビンさんに、教えていただきたいことがあるんです」
「なんでしょう?」
「ケビンさんに教えていただいて、相手を縛り付けたり、攻撃したりすることができるようになりましたが、治療のための魔法を学びたいのです」
「それならば、魔術師養成学校に行かれるのがよろしいかと。基礎から学び直すことで、新たな発見もできるでしょう。私がお教えした攻撃魔法は、たぶん養成学校ではやらないはずです。私が独自に展開したものですから」
「養成学校は、16歳になる年からと伺いましたが」
「お嬢様の想い人も、16歳からのはずの騎士養成学校に行かれたそうですね?」
「…はい」
「まだ構想段階とのことですが、16になる年に入学する学園を、普通科、騎士科、魔術科、として現在の養成学校を統合するそうです。私は、お嬢様は普通科に行き、政治や経済について学び、カーディナルをより発展させる人材になるべきだと思います。そうなると、魔術の勉強はできなくなります」
「…はあ、」
「なので、今から入学して極めてください。魔術を」
「飛び級を認めてもらうということですね」
ケビンさんはニコッと笑うと、「頑張れますか?」と言った。
「やります」
「その意気です。お嬢様、欲しいものを手に入れるために努力をすることはとても楽しいことですよ。私も応援しております」
ケビンさんは、「お嬢様の入学が決まりましたら、私は辺境に参ります。ジョージがうるさくて敵わないのですよ」とおどけたように言った。
そこにおばあ様が戻ってきた。
「ヴィーちゃん、ここにいたのね。今からお会いくださるそうだけど、行ける?」
「はい。ケビンさん、ありがとうございました」
「お嬢様、お気をつけて。言いたいことをすべてお伝えしてくるのですよ」
ケビンさんは、なぜなんでも知っているのだろうか。
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