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第六章
再会⑤(ジークハルト視点)
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「ルヴィ、」
ルヴィのボタンに手をかけようとしたとき、転送されてきた紙がパサリと落ちる気配がしてハッとする。
「…ちょっと待ってて」
俺はルヴィをそっと横たえ上からタオルケットを掛けると、ズボンを履いて寝室を出た。
机の上に紙が一枚。
『20時 アンジェの部屋にて ヴロンディ帝国の件』
父上の筆跡に思わず舌打ちする。あと30分もない。
俺は寝室に戻りベッドに腰掛け、「ルヴィ」と呼んだ。
ルヴィは真っ赤な顔で俺を見上げている。可愛い。
「ごめんね、ルヴィ。父上に呼ばれちゃったから、今夜は先に寝て。お風呂も入れるようにしておくから。着替えも準備しておくからね。
俺、今から何か食べられるもの持ってくるからゆっくりしてて」
コクコク頷くルヴィの額にチュッと口づけ、移動する。
サンドイッチと紅茶をテーブルに置き、ルヴィを見に行くとトロンとした顔で俺を見ている。
「…疲れたよね。ごめん。ゆっくりして」
ルヴィはハルトさま、と小さい声で呟くように俺を呼ぶと目を閉じてしまった。
ルヴィの甘い匂いをまとわせたままでは集中できず仕事にならない。俺は冷水を浴び、着替えてアンジェ様の部屋に移動した。
部屋にはアンジェ様、父上、オーウェン叔父上、ナディール叔父上、カイルが揃っていた。
「ギリギリだね、ハルト君。愛しのルヴィちゃんはどうだった」
「ぶっ殺しますよ、ナディール叔父上。俺のルヴィを馴れ馴れしく呼ばないでください」
ニヤニヤ笑いながら俺を見るのはエイベル家の第5子、ナディール・エイベル。黒い髪、赤い瞳の色持ち。カーディナル魔法国の諜報部のトップだ。魔法、魔力に対する執着が半端なく、俺が父上に刺された時に使った魔法もいつの間にか習得して「ハルト君、刺して!」と言ってくる変態だ。
「だってさ、久しぶりに会えて、入学式も終盤だったとは言え途中で消えちゃって、今まで籠ってたんでしょ?じっくり堪能できた?」
俺は無視して椅子に座り、父上を見た。
「お待たせしてすみません」
「ルヴィア嬢は大丈夫か」
「大丈夫、とは?」
「おまえ、無茶させてないだろうな」
「当たり前じゃないですか。俺は約束は守ります」
父上は疑わしそうな視線をよこしたが、それ以上何も言わなかった。
「ねぇ、早く始めてよ。僕、まだ今日のノルマ終わってないんだから。あと5台作らないと寝れない」
「オーウェン兄さん、カティ姉さんに返すにはまだ3年以上あるんだから、焦らずやりなよ」
「…法律改正のせいでケビンさんを追っかけられなくなったんだぞ。もう5年近く見てない。声も聞いてない。魔力の感知しかできない。ケビンさんに何かあったら赦さないからね、サヴィオン兄さん」
父上が「甘やかされて育った」と評していたオーウェン叔父上は、黒い髪に紫の瞳。5人のうち、アンジェ様とオーウェン叔父上が色持ちではない。
甘さだらけだった顔は厳しく引き締まり、あんなに手を掛けていた髪は伸ばしたまま無造作にひとつにまとめ、顔も無精髭が生えている。
父上に言われた国全体を覆う監視装置を造るため、自費で研究所を建てた叔父上は、魔術団の中でも魔力の強い者を引き抜いて自分の部下にしてしまった。装置は造って終わりではなく、補修なども出てくるため、一人でやるのは無理だと悟ったらしい。「ようやく才能に見合った仕事をするようになった」と父上が言っていた。
「…クリミアが取り込まれた今、武力衝突はない」
「ヴロンディ帝国が寄越す変な女に手をかけられるかもしれないじゃないか!」
「大丈夫だよ、オーウェン兄さん。ヴロンディの狙いは中央だ」
「詳細がわかったのか」
「うん。カイル君、出して」
「はい」
カイルが返事をすると部屋が暗くなり、壁の一面に光があたる。
「ここに写ってるのは、クリミア皇国の皇太子、第二皇子、宰相の息子、騎士団長の息子、皇太子の婚約者の弟の5人だよ。皇子二人は腹違いで同い年なの」
「まだ若いわよね?ジークくらいの年齢?」
「そう。皇太子の婚約者の弟以外は3月に学園を卒業するはずだった」
「ずいぶんまあ、カッコいい子ばっかりね」
「そうだね。身分も申し分ない。幼い時から婚約者も決まっていたのに、全員がたった一人の女に凋落され、学園の卒業式で婚約破棄を宣言した。その先がすごいよ」
ナディール叔父上は、嬉しそうに嗤った。
たぶんこの人がいちばんエイベル家で残酷だ。父上や叔母上は確かに苛烈で手を下すことにも躊躇はない。しかし、真っ直ぐだ。ナディール叔父上は違う。この人は、俺と同じ匂いがする。目的のためなら、どんな手を使っても構わないと思ってる。それで誰が…たとえ自分の身内が、傷つくことになろうとも。
「皇太子が、そのヴロンディ帝国が送りこんだ女…クリミア側は最後まで気付いてなかったんだけど、その女を新たな婚約者にするって発表したんだ。そしたら、騎士団長の息子が皇太子に斬りかかって殺害しちゃったんだよ。ついでに第二皇子も殺害。宰相家の息子は、自分の父親を殺害した。
いや~、ほんっと真っ赤。血の海。キレイだった。うっとりしたよ」
そう言いながらもナディール叔父上の目には高揚する熱はない。
「なんでその宰相の息子は、自分の父親に手をかけたの?」
「婚約者との婚約を破棄して、自分がいち早くそのヴロンディの女を手にしたかったのに邪魔されたからだって」
「衆人の前で自分の娘に恥をかかされた婚約者の家は王家に反旗を翻し、内乱状態になった。そこをヴロンディ帝国に攻め込まれてあえなく陥落したわけです」
カイルはそう言って部屋を明るくした。
「ヴロンディ帝国の目的はなんだ?」
「まぁ、領土拡大だろうね。クリミア皇国の資源も魅力的だっただろうし」
ヴロンディ帝国は、クリミア皇国の東に位置する国で、資源には恵まれていない国だ。
「ずいぶん手の込んだ方法を取るな。そもそも、その女に全員を凋落させられるかどうか、一か八かみたいなやり方、」
「魅了魔法だよ」
「…なに?」
「サヴィオン兄さんは知ってるよね?ハルト君も」
俺は黙って頷いた。
父上とあちこちの国を回って生活していたとき、耳にしている。
「クリミア皇国は魔法を使う国ではない。でも、ヴロンディ帝国も魔法はないはずじゃない?」
「うん。だから、どこからか連れてきたんだろうと思って探ってみたんだけど、あの国だったよ」
「サウスサイドのトゥリエナ帝国だな」
「さっすがだねぇ、サヴィオン兄さん。そう。ブロンディ帝国から、トゥリエナ帝国に王女が嫁いだでしょ。その縁で、ってことらしいよ」
「魅了魔法を使える人間はそんなに数もいないと思ってたが」
「うん。トゥリエナ帝国の中でも20人くらいじゃない?あの国は、僕みたいに頭がぶっ壊れてるヤツがトップに立ってるでしょ?魅了魔法を発現させるために、すごい数の女の子に実験を繰り返してるらしいよ。頭に直接作用させるから途中でおかしくなる人間ばっかりで、ようやく20人造り出したみたいだからね」
「その、おかしくなる人間を奴隷にしてるのか」
「うん、まあ…僕が言うまでもないけど、若くてキレイな女の子だからね。行き着く先はどこだか想像つくでしょ」
「そんなに希少なのに、よく貸してくれたね?」
「まぁ領土が広がれば入ってくるものも変わるし。かなりの代価を払ったみたいだよ」
「2年前のバタリアフォティも、もしかして、」
「うん。同じようなことが起きたみたいだね。あんまり気にしてなかったけど、続いて起きたから調べてみることにしたんだよ」
「学生ってことは、3年かけて実行するわけ?その女生徒による凋落を」
「いや、対象者が最終学年になるときに留学生として送り込んでる。この4月から、スフェラ国に留学生が入った。最終学年にはやはり皇太子がいる。」
「次の狙いはスフェラ国か」
「たぶんね。うちがバタリアフォティを気にしなかったように、ただの内乱だと思えば結び付けて考えることはまずないよね」
「そうやって領土を広げるとなると、カーディナルも狙われるわね」
「そうだね。次がうちか、もしくはレミントン国だろう。どこまでを狙うのかはわからないけど」
「でも」
俺はナディール叔父上を見た。
「叔母上の子どもはまだ2歳で、しかも女の子ですよ。対象にはならないじゃないですか。魅了魔法を使うのは女性だけでしょう」
するとナディール叔父上は、これ以上ないくらいイヤらしい顔で嗤った。
「キミがいるじゃない」
「…は?」
「キミと、カイル君は対象者になるよ」
「俺は皇太子ではありません」
「でも、カーディナル魔法国の王族だ。父親は海軍総督。叔母は女王、もう一人の伯母は女王補佐としてバリバリ働いてる。キミを凋落できれば、この国もうまく操れる。殺さなくてもね。キミを使って、たとえば海軍にクーデターを起こさせるとか」
「…俺が凋落されると思ってるんですか?ルヴィがいるのに?」
「あのさ、ハルト君。話聞いてた?魅了魔法を使うんだよ、相手は」
「俺には魅了は効きません」
「…は?それ、根性でどうにかします、とかいうやつ?ルヴィちゃんが好きだから効きませんとか?」
「…ナディール叔父上はご存知ないみたいですからお教えしますが、」
俺は同じくらいイヤらしい顔をして嗤ってみせた。
「セグレタリー国の魔物には、魅了魔法を使って獲物を捕らえる種類がいるんです。うちでも何人か捕まってる。だから、オーウェン叔父上に、魅了魔法を無効化する装置を作ってもらったんですよ」
「何だって!僕、そんなこと聞いてないよ!」
「あれ?だって、ナディール叔父上は、カーディナル魔法国の諜報部のトップですよね?国外だけじゃなく、国内についてもなんでもご存知ではないですか。先ほど俺がルヴィを入学式から連れ出した時間もご存知でしたよね?そんな、なんでもご存知の叔父上にわざわざこんなつまらないことをご報告するまでもないかと思いましたので」
俺のルヴィを軽々しくルヴィちゃん、などと呼ぶ不届きな輩に制裁を加えてやる。
「…とりあえず、以上でよろしいですか。俺はルヴィを待たせてるので失礼したいのですが」
「僕も戻るね」
オーウェン叔父上は、俺より先に消えてしまった。
俺も移動しようとしたとき、「ねぇ、ハルト君」と声がした。
ナディール叔父上を見ると、なんとも形容しがたい表情で俺を見ている。
「なんでしょうか」
「僕はね、ハルト君。売られたケンカは買う主義なんだよ。相手を完膚なきまで、叩いて叩いて叩きまくって、粉々になったところを更に足で踏み潰してこの世に存在などしていなかったようにやるのが好きなんだ。もちろんその前に、僕にケンカを売ったことを後悔して絶望するくらいの嫌がらせをしてからね」
「…ルヴィに何かしたら赦しませんよ」
「僕はルヴィちゃんに何もしないよ」
ニヤァ、と嗤う叔父上を見て、「失礼します」と移動した。「僕は、ね」と言った叔父上の言葉は聞こえなかった。
ナディール叔父上をやり込めてやったという慢心が俺の目を曇らせた。一枚上手だったナディール叔父上の残忍さを思い知らされ、絶望することも知らずに。
ルヴィのボタンに手をかけようとしたとき、転送されてきた紙がパサリと落ちる気配がしてハッとする。
「…ちょっと待ってて」
俺はルヴィをそっと横たえ上からタオルケットを掛けると、ズボンを履いて寝室を出た。
机の上に紙が一枚。
『20時 アンジェの部屋にて ヴロンディ帝国の件』
父上の筆跡に思わず舌打ちする。あと30分もない。
俺は寝室に戻りベッドに腰掛け、「ルヴィ」と呼んだ。
ルヴィは真っ赤な顔で俺を見上げている。可愛い。
「ごめんね、ルヴィ。父上に呼ばれちゃったから、今夜は先に寝て。お風呂も入れるようにしておくから。着替えも準備しておくからね。
俺、今から何か食べられるもの持ってくるからゆっくりしてて」
コクコク頷くルヴィの額にチュッと口づけ、移動する。
サンドイッチと紅茶をテーブルに置き、ルヴィを見に行くとトロンとした顔で俺を見ている。
「…疲れたよね。ごめん。ゆっくりして」
ルヴィはハルトさま、と小さい声で呟くように俺を呼ぶと目を閉じてしまった。
ルヴィの甘い匂いをまとわせたままでは集中できず仕事にならない。俺は冷水を浴び、着替えてアンジェ様の部屋に移動した。
部屋にはアンジェ様、父上、オーウェン叔父上、ナディール叔父上、カイルが揃っていた。
「ギリギリだね、ハルト君。愛しのルヴィちゃんはどうだった」
「ぶっ殺しますよ、ナディール叔父上。俺のルヴィを馴れ馴れしく呼ばないでください」
ニヤニヤ笑いながら俺を見るのはエイベル家の第5子、ナディール・エイベル。黒い髪、赤い瞳の色持ち。カーディナル魔法国の諜報部のトップだ。魔法、魔力に対する執着が半端なく、俺が父上に刺された時に使った魔法もいつの間にか習得して「ハルト君、刺して!」と言ってくる変態だ。
「だってさ、久しぶりに会えて、入学式も終盤だったとは言え途中で消えちゃって、今まで籠ってたんでしょ?じっくり堪能できた?」
俺は無視して椅子に座り、父上を見た。
「お待たせしてすみません」
「ルヴィア嬢は大丈夫か」
「大丈夫、とは?」
「おまえ、無茶させてないだろうな」
「当たり前じゃないですか。俺は約束は守ります」
父上は疑わしそうな視線をよこしたが、それ以上何も言わなかった。
「ねぇ、早く始めてよ。僕、まだ今日のノルマ終わってないんだから。あと5台作らないと寝れない」
「オーウェン兄さん、カティ姉さんに返すにはまだ3年以上あるんだから、焦らずやりなよ」
「…法律改正のせいでケビンさんを追っかけられなくなったんだぞ。もう5年近く見てない。声も聞いてない。魔力の感知しかできない。ケビンさんに何かあったら赦さないからね、サヴィオン兄さん」
父上が「甘やかされて育った」と評していたオーウェン叔父上は、黒い髪に紫の瞳。5人のうち、アンジェ様とオーウェン叔父上が色持ちではない。
甘さだらけだった顔は厳しく引き締まり、あんなに手を掛けていた髪は伸ばしたまま無造作にひとつにまとめ、顔も無精髭が生えている。
父上に言われた国全体を覆う監視装置を造るため、自費で研究所を建てた叔父上は、魔術団の中でも魔力の強い者を引き抜いて自分の部下にしてしまった。装置は造って終わりではなく、補修なども出てくるため、一人でやるのは無理だと悟ったらしい。「ようやく才能に見合った仕事をするようになった」と父上が言っていた。
「…クリミアが取り込まれた今、武力衝突はない」
「ヴロンディ帝国が寄越す変な女に手をかけられるかもしれないじゃないか!」
「大丈夫だよ、オーウェン兄さん。ヴロンディの狙いは中央だ」
「詳細がわかったのか」
「うん。カイル君、出して」
「はい」
カイルが返事をすると部屋が暗くなり、壁の一面に光があたる。
「ここに写ってるのは、クリミア皇国の皇太子、第二皇子、宰相の息子、騎士団長の息子、皇太子の婚約者の弟の5人だよ。皇子二人は腹違いで同い年なの」
「まだ若いわよね?ジークくらいの年齢?」
「そう。皇太子の婚約者の弟以外は3月に学園を卒業するはずだった」
「ずいぶんまあ、カッコいい子ばっかりね」
「そうだね。身分も申し分ない。幼い時から婚約者も決まっていたのに、全員がたった一人の女に凋落され、学園の卒業式で婚約破棄を宣言した。その先がすごいよ」
ナディール叔父上は、嬉しそうに嗤った。
たぶんこの人がいちばんエイベル家で残酷だ。父上や叔母上は確かに苛烈で手を下すことにも躊躇はない。しかし、真っ直ぐだ。ナディール叔父上は違う。この人は、俺と同じ匂いがする。目的のためなら、どんな手を使っても構わないと思ってる。それで誰が…たとえ自分の身内が、傷つくことになろうとも。
「皇太子が、そのヴロンディ帝国が送りこんだ女…クリミア側は最後まで気付いてなかったんだけど、その女を新たな婚約者にするって発表したんだ。そしたら、騎士団長の息子が皇太子に斬りかかって殺害しちゃったんだよ。ついでに第二皇子も殺害。宰相家の息子は、自分の父親を殺害した。
いや~、ほんっと真っ赤。血の海。キレイだった。うっとりしたよ」
そう言いながらもナディール叔父上の目には高揚する熱はない。
「なんでその宰相の息子は、自分の父親に手をかけたの?」
「婚約者との婚約を破棄して、自分がいち早くそのヴロンディの女を手にしたかったのに邪魔されたからだって」
「衆人の前で自分の娘に恥をかかされた婚約者の家は王家に反旗を翻し、内乱状態になった。そこをヴロンディ帝国に攻め込まれてあえなく陥落したわけです」
カイルはそう言って部屋を明るくした。
「ヴロンディ帝国の目的はなんだ?」
「まぁ、領土拡大だろうね。クリミア皇国の資源も魅力的だっただろうし」
ヴロンディ帝国は、クリミア皇国の東に位置する国で、資源には恵まれていない国だ。
「ずいぶん手の込んだ方法を取るな。そもそも、その女に全員を凋落させられるかどうか、一か八かみたいなやり方、」
「魅了魔法だよ」
「…なに?」
「サヴィオン兄さんは知ってるよね?ハルト君も」
俺は黙って頷いた。
父上とあちこちの国を回って生活していたとき、耳にしている。
「クリミア皇国は魔法を使う国ではない。でも、ヴロンディ帝国も魔法はないはずじゃない?」
「うん。だから、どこからか連れてきたんだろうと思って探ってみたんだけど、あの国だったよ」
「サウスサイドのトゥリエナ帝国だな」
「さっすがだねぇ、サヴィオン兄さん。そう。ブロンディ帝国から、トゥリエナ帝国に王女が嫁いだでしょ。その縁で、ってことらしいよ」
「魅了魔法を使える人間はそんなに数もいないと思ってたが」
「うん。トゥリエナ帝国の中でも20人くらいじゃない?あの国は、僕みたいに頭がぶっ壊れてるヤツがトップに立ってるでしょ?魅了魔法を発現させるために、すごい数の女の子に実験を繰り返してるらしいよ。頭に直接作用させるから途中でおかしくなる人間ばっかりで、ようやく20人造り出したみたいだからね」
「その、おかしくなる人間を奴隷にしてるのか」
「うん、まあ…僕が言うまでもないけど、若くてキレイな女の子だからね。行き着く先はどこだか想像つくでしょ」
「そんなに希少なのに、よく貸してくれたね?」
「まぁ領土が広がれば入ってくるものも変わるし。かなりの代価を払ったみたいだよ」
「2年前のバタリアフォティも、もしかして、」
「うん。同じようなことが起きたみたいだね。あんまり気にしてなかったけど、続いて起きたから調べてみることにしたんだよ」
「学生ってことは、3年かけて実行するわけ?その女生徒による凋落を」
「いや、対象者が最終学年になるときに留学生として送り込んでる。この4月から、スフェラ国に留学生が入った。最終学年にはやはり皇太子がいる。」
「次の狙いはスフェラ国か」
「たぶんね。うちがバタリアフォティを気にしなかったように、ただの内乱だと思えば結び付けて考えることはまずないよね」
「そうやって領土を広げるとなると、カーディナルも狙われるわね」
「そうだね。次がうちか、もしくはレミントン国だろう。どこまでを狙うのかはわからないけど」
「でも」
俺はナディール叔父上を見た。
「叔母上の子どもはまだ2歳で、しかも女の子ですよ。対象にはならないじゃないですか。魅了魔法を使うのは女性だけでしょう」
するとナディール叔父上は、これ以上ないくらいイヤらしい顔で嗤った。
「キミがいるじゃない」
「…は?」
「キミと、カイル君は対象者になるよ」
「俺は皇太子ではありません」
「でも、カーディナル魔法国の王族だ。父親は海軍総督。叔母は女王、もう一人の伯母は女王補佐としてバリバリ働いてる。キミを凋落できれば、この国もうまく操れる。殺さなくてもね。キミを使って、たとえば海軍にクーデターを起こさせるとか」
「…俺が凋落されると思ってるんですか?ルヴィがいるのに?」
「あのさ、ハルト君。話聞いてた?魅了魔法を使うんだよ、相手は」
「俺には魅了は効きません」
「…は?それ、根性でどうにかします、とかいうやつ?ルヴィちゃんが好きだから効きませんとか?」
「…ナディール叔父上はご存知ないみたいですからお教えしますが、」
俺は同じくらいイヤらしい顔をして嗤ってみせた。
「セグレタリー国の魔物には、魅了魔法を使って獲物を捕らえる種類がいるんです。うちでも何人か捕まってる。だから、オーウェン叔父上に、魅了魔法を無効化する装置を作ってもらったんですよ」
「何だって!僕、そんなこと聞いてないよ!」
「あれ?だって、ナディール叔父上は、カーディナル魔法国の諜報部のトップですよね?国外だけじゃなく、国内についてもなんでもご存知ではないですか。先ほど俺がルヴィを入学式から連れ出した時間もご存知でしたよね?そんな、なんでもご存知の叔父上にわざわざこんなつまらないことをご報告するまでもないかと思いましたので」
俺のルヴィを軽々しくルヴィちゃん、などと呼ぶ不届きな輩に制裁を加えてやる。
「…とりあえず、以上でよろしいですか。俺はルヴィを待たせてるので失礼したいのですが」
「僕も戻るね」
オーウェン叔父上は、俺より先に消えてしまった。
俺も移動しようとしたとき、「ねぇ、ハルト君」と声がした。
ナディール叔父上を見ると、なんとも形容しがたい表情で俺を見ている。
「なんでしょうか」
「僕はね、ハルト君。売られたケンカは買う主義なんだよ。相手を完膚なきまで、叩いて叩いて叩きまくって、粉々になったところを更に足で踏み潰してこの世に存在などしていなかったようにやるのが好きなんだ。もちろんその前に、僕にケンカを売ったことを後悔して絶望するくらいの嫌がらせをしてからね」
「…ルヴィに何かしたら赦しませんよ」
「僕はルヴィちゃんに何もしないよ」
ニヤァ、と嗤う叔父上を見て、「失礼します」と移動した。「僕は、ね」と言った叔父上の言葉は聞こえなかった。
ナディール叔父上をやり込めてやったという慢心が俺の目を曇らせた。一枚上手だったナディール叔父上の残忍さを思い知らされ、絶望することも知らずに。
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