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真意と言われても…。
「…大したことはなんにもないわよ。ただ、バカらしくなったの。全部が」
まさか中身が入れ替わりましたとは口が裂けても言えないわよねぇ。気持ち悪い女が頭がおかしい女にランクアップしてしまう。フェルナンドは何も言わずこちらをじっと見据えている。…今の言葉では理由としては受け付けない、ってことなんだろうな。
「…私は、生まれてすぐに陛下の婚約者になった。それと同じくして父母には捨てられた、心情的にも現実的にも。母は出ていき、父は私たち兄妹にまったく関心がなかった。興味すらない。それなのに、教育だけは一級品のものを与えられ…甘える場所もないただの地獄でしょ、幼子にとっては。でも頑張れたのは陛下がいたから。陛下の婚約者である、将来の伴侶である、愛してもらえる、それが私の唯一の希望の光だったから頑張れたの。でも、愛されたことのない私はやり方を間違えて、陛下に嫌われた。…嫌われたというよりも、関心がない、が正解ね。ただ王妃と名乗らせ、仕事をさせているだけ。結婚して二年、閨も共にせず、それなのに子供ができないことを理由にして私を廃そうとしている。今回側妃として娶ったリリア様を新たな…真実の愛のお相手として、次の王妃にするつもりなんでしょう」
私の言葉を聞いたフェルナンドは、「…気付いておられたのですか…?」と呟いた。気付いてないわよ、オパールは。漫画を読んでいたから私は知っているだけ。廃された王妃、元王妃になったオパールは、文字通り身一つで城から放逐された。ユージーンはダグラス公爵家から多大なる額の寄付金を当然のように受け取っていたくせに、その娘であるオパールには「迷惑をかけられたのはこちらだ」と言ってびた一文渡さずに追い出したのだ。鬼畜かよ!
困り果てたオパールがなんとかダグラス公爵家に辿り着いたのに、父親であるダグラス公爵はオパールを家に入れなかった。王妃として家から出した時点でダグラス公爵家とは関わりのない人間である、って、顔も見せずに書類一枚で娘を切り捨てた。存在している兄はまったく漫画に出て来なかったからどんな立ち位置だったのかはわからない。誰にも頼ることができないある意味純粋無垢だったオパールは、持っていた毒を飲んで死んだ。…読んでる時には特に思わなかったけど、こうして自分がオパールになってみた今改めて考えると、…オパールは、どうやって毒を手に入れたんだろう。何にも分からず、お金すら持たせてもらえなかったのに。
そんなことを考えて黙ってしまった私をフェルナンドはどう捉えたのか、
「陛下はリリア様を娶る際、王妃陛下に気付かれないよう秘密裏に議会の承認を得ています。『王妃オパールとは婚姻を結んだ日から三年を持って離縁する。もしオパールに今後一年の間懐妊の兆しがあろうとも、それは国王の種ではないため国王の子どもとは認めない』と」
そう言って、口に弧を描いた。なに?傷ついただろ、って?おあいにくさま、まったく、ぜんぜん傷つかないよ。私はオパールの見た目でもオパールじゃないんだから。
勝手なことばっかりするよな、あいつ。職権乱用じゃない?なんでそうやってコソコソやるんだろう?オパールと関わりたくないから、ってのは理由にならない、だって結婚するって決めたのは他ならぬ自分だろうよ!汚い。やり方が汚すぎる。こんな男のために、オパールは人生を台無しにしてしまったんだ。こんな、私から見たらなんの価値もない男のために。
「じゃあ私が離縁されるのは決定事項ってことだよね、わかりました。あなたのような侍従の立場の人間からそれを告げられる時点で陛下の中には私への愛情など欠片もないことがよくわかるしね。元々ないことはわかってたから別にどうでもいいけど」
そう言う私をなぜか呆気にとられたような顔で見たフェルナンドは、その後眉をギュッとしかめた。…なに?
「…申し訳ありません。この立場で行き過ぎたことを」
「さっきの女性にしてもあなたにしても、私を王妃だと認めている人間なんてこの城にはいないんだから構わないわよ。私はただ、王妃って名前がついてるだけの、日々仕事をこなすための畜生に過ぎないんだから。口先だけの謝罪も必要ないわ、虫酸が走るから。とりあえず今まで通り仕事はするし、これから先は陛下にもリリア様にも関わらないから安心して。婚姻を結んだ日から、って言ったわよね。じゃああと約一年。その日が来たら私は出て行くからそれまでは申し訳ないけど辛抱して」
だいたい、グズグズと自分が悪くならないように理由を作って引き伸ばしてるのはユージーンだ。無理矢理理由をかこつけて念願のリリアを娶りながら性交はあと一年待つとかよくできるわ。不能かよ。心の中で悪態を突きつつ表面は冷静に淡々と告げてやると、フェルナンドはじっと私を見詰めてきた。
「…信じていただけないでしょうが、口先だけで謝罪したわけではありません」
「そう?じゃあそれでいいわ。とりあえず出ていって」
そう言って背を向けると、いきなり腕を掴まれた。…は?
「…離しなさい」
侍従が名ばかりとは言え王妃の腕を掴むとかあり得なくない?しかしフェルナンドは一向に離そうとしないどころか、ギリ、と力が込められる。
「痛いから離して!」
「何が、それでいい、んですか?」
「はあ…?」
睨み付けるように見上げて、思わずカラダがビクリと跳ねた。無表情でこちらを見下ろすフェルナンドから滲み出る雰囲気が怖い。いきなり切り替わった雰囲気に、無意識にカラダが震え出す。なに、この威圧感。
「それでいいとはなんですか、王妃陛下。わたくしにはわかりませんから教えてください」
…なんで。なんで今日初めて会った(はず)のあんたに詰め寄られなきゃなんないのよ。なんであんたに説明しなきゃならないのよ。私にはそんな義務ないしあんたにはそんな権利ないだろ!もしあったとしてもあんたにはあげないわよ!
一気に頭に血が昇って、私は今までやったことのない行動をとった。フェルナンドの脛を、思い切り蹴飛ばしてやったのだ。いわゆる弁慶の泣き所である。
「…っ」
私の狙い通り予想外の攻撃だったんだろう、フェルナンドが怯んだ隙に腕を振り払って中に入り鍵を閉める。くそー、裸足だったから足が痛い!なんなんだあの硬い脛は!
「王妃陛下…っ、申し訳ありません、不敬でした、認めますから扉を開けてください!申し訳ありません、きちんと話をさせてください!」
「必要ないわよ!あんたのこと誰かに言い付けるつもりもないし、さっさといなくなって!」
扉を控え目に、だがしつこく叩き続ける音を聞いて、オパール並みにストーカー気質な男だな、と呆れ返る。一時間経ってもまったくやまない。不敬罪で何かされるとでも思ってるんだろうか?名ばかり王妃のオパールに、そんな権限あるわけないのに。フェルナンドがいる限り外にも出られないため、私は諦めてフェルナンドが諦めるまでもう一度寝ることにした。こんな騒音、気にして眠れなかったりしたら社畜なんて務まらないんだよ!
「…大したことはなんにもないわよ。ただ、バカらしくなったの。全部が」
まさか中身が入れ替わりましたとは口が裂けても言えないわよねぇ。気持ち悪い女が頭がおかしい女にランクアップしてしまう。フェルナンドは何も言わずこちらをじっと見据えている。…今の言葉では理由としては受け付けない、ってことなんだろうな。
「…私は、生まれてすぐに陛下の婚約者になった。それと同じくして父母には捨てられた、心情的にも現実的にも。母は出ていき、父は私たち兄妹にまったく関心がなかった。興味すらない。それなのに、教育だけは一級品のものを与えられ…甘える場所もないただの地獄でしょ、幼子にとっては。でも頑張れたのは陛下がいたから。陛下の婚約者である、将来の伴侶である、愛してもらえる、それが私の唯一の希望の光だったから頑張れたの。でも、愛されたことのない私はやり方を間違えて、陛下に嫌われた。…嫌われたというよりも、関心がない、が正解ね。ただ王妃と名乗らせ、仕事をさせているだけ。結婚して二年、閨も共にせず、それなのに子供ができないことを理由にして私を廃そうとしている。今回側妃として娶ったリリア様を新たな…真実の愛のお相手として、次の王妃にするつもりなんでしょう」
私の言葉を聞いたフェルナンドは、「…気付いておられたのですか…?」と呟いた。気付いてないわよ、オパールは。漫画を読んでいたから私は知っているだけ。廃された王妃、元王妃になったオパールは、文字通り身一つで城から放逐された。ユージーンはダグラス公爵家から多大なる額の寄付金を当然のように受け取っていたくせに、その娘であるオパールには「迷惑をかけられたのはこちらだ」と言ってびた一文渡さずに追い出したのだ。鬼畜かよ!
困り果てたオパールがなんとかダグラス公爵家に辿り着いたのに、父親であるダグラス公爵はオパールを家に入れなかった。王妃として家から出した時点でダグラス公爵家とは関わりのない人間である、って、顔も見せずに書類一枚で娘を切り捨てた。存在している兄はまったく漫画に出て来なかったからどんな立ち位置だったのかはわからない。誰にも頼ることができないある意味純粋無垢だったオパールは、持っていた毒を飲んで死んだ。…読んでる時には特に思わなかったけど、こうして自分がオパールになってみた今改めて考えると、…オパールは、どうやって毒を手に入れたんだろう。何にも分からず、お金すら持たせてもらえなかったのに。
そんなことを考えて黙ってしまった私をフェルナンドはどう捉えたのか、
「陛下はリリア様を娶る際、王妃陛下に気付かれないよう秘密裏に議会の承認を得ています。『王妃オパールとは婚姻を結んだ日から三年を持って離縁する。もしオパールに今後一年の間懐妊の兆しがあろうとも、それは国王の種ではないため国王の子どもとは認めない』と」
そう言って、口に弧を描いた。なに?傷ついただろ、って?おあいにくさま、まったく、ぜんぜん傷つかないよ。私はオパールの見た目でもオパールじゃないんだから。
勝手なことばっかりするよな、あいつ。職権乱用じゃない?なんでそうやってコソコソやるんだろう?オパールと関わりたくないから、ってのは理由にならない、だって結婚するって決めたのは他ならぬ自分だろうよ!汚い。やり方が汚すぎる。こんな男のために、オパールは人生を台無しにしてしまったんだ。こんな、私から見たらなんの価値もない男のために。
「じゃあ私が離縁されるのは決定事項ってことだよね、わかりました。あなたのような侍従の立場の人間からそれを告げられる時点で陛下の中には私への愛情など欠片もないことがよくわかるしね。元々ないことはわかってたから別にどうでもいいけど」
そう言う私をなぜか呆気にとられたような顔で見たフェルナンドは、その後眉をギュッとしかめた。…なに?
「…申し訳ありません。この立場で行き過ぎたことを」
「さっきの女性にしてもあなたにしても、私を王妃だと認めている人間なんてこの城にはいないんだから構わないわよ。私はただ、王妃って名前がついてるだけの、日々仕事をこなすための畜生に過ぎないんだから。口先だけの謝罪も必要ないわ、虫酸が走るから。とりあえず今まで通り仕事はするし、これから先は陛下にもリリア様にも関わらないから安心して。婚姻を結んだ日から、って言ったわよね。じゃああと約一年。その日が来たら私は出て行くからそれまでは申し訳ないけど辛抱して」
だいたい、グズグズと自分が悪くならないように理由を作って引き伸ばしてるのはユージーンだ。無理矢理理由をかこつけて念願のリリアを娶りながら性交はあと一年待つとかよくできるわ。不能かよ。心の中で悪態を突きつつ表面は冷静に淡々と告げてやると、フェルナンドはじっと私を見詰めてきた。
「…信じていただけないでしょうが、口先だけで謝罪したわけではありません」
「そう?じゃあそれでいいわ。とりあえず出ていって」
そう言って背を向けると、いきなり腕を掴まれた。…は?
「…離しなさい」
侍従が名ばかりとは言え王妃の腕を掴むとかあり得なくない?しかしフェルナンドは一向に離そうとしないどころか、ギリ、と力が込められる。
「痛いから離して!」
「何が、それでいい、んですか?」
「はあ…?」
睨み付けるように見上げて、思わずカラダがビクリと跳ねた。無表情でこちらを見下ろすフェルナンドから滲み出る雰囲気が怖い。いきなり切り替わった雰囲気に、無意識にカラダが震え出す。なに、この威圧感。
「それでいいとはなんですか、王妃陛下。わたくしにはわかりませんから教えてください」
…なんで。なんで今日初めて会った(はず)のあんたに詰め寄られなきゃなんないのよ。なんであんたに説明しなきゃならないのよ。私にはそんな義務ないしあんたにはそんな権利ないだろ!もしあったとしてもあんたにはあげないわよ!
一気に頭に血が昇って、私は今までやったことのない行動をとった。フェルナンドの脛を、思い切り蹴飛ばしてやったのだ。いわゆる弁慶の泣き所である。
「…っ」
私の狙い通り予想外の攻撃だったんだろう、フェルナンドが怯んだ隙に腕を振り払って中に入り鍵を閉める。くそー、裸足だったから足が痛い!なんなんだあの硬い脛は!
「王妃陛下…っ、申し訳ありません、不敬でした、認めますから扉を開けてください!申し訳ありません、きちんと話をさせてください!」
「必要ないわよ!あんたのこと誰かに言い付けるつもりもないし、さっさといなくなって!」
扉を控え目に、だがしつこく叩き続ける音を聞いて、オパール並みにストーカー気質な男だな、と呆れ返る。一時間経ってもまったくやまない。不敬罪で何かされるとでも思ってるんだろうか?名ばかり王妃のオパールに、そんな権限あるわけないのに。フェルナンドがいる限り外にも出られないため、私は諦めてフェルナンドが諦めるまでもう一度寝ることにした。こんな騒音、気にして眠れなかったりしたら社畜なんて務まらないんだよ!
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