目が覚めたらあと一年で離縁される王妃になっていた件。

蜜柑マル

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「…オパール様の侍女は、先ほどの女と似たり寄ったりの人間しかおりませんでしたのですべてオパール様付きから解雇しました。城内にはおりますが、オパール様と顔を合わせることはございません、そのように手配いたしました。わたくしは護衛も兼ねておりますゆえ、なんでも仰ってください。オパール様に誠心誠意仕えさせていただきます」

頭を下げたまま言葉を紡ぐフェルナンドのつむじを見ながら考える。どうしたもんなんだろう。

「なんでも、って言ったけど」

と言うと、パッ、と顔を上げ、嬉しそうな表情になる。

「はい!なんでも、仰ってください!」

「部屋自体に文句はないんだけど、私の持ち物を一掃したいの。クローゼットに入っているドレスたちは、…私が、選んだものだけど、」

…選んだとか言いたくない、あんな悪趣味な服ぅ!!オパールめーっ!!あんたのこと好きじゃなかったらほんと許せないくらいの酷さだわよ!

心の中でオパールを呪っていると、フェルナンドが「わたくしもそう思います」と無表情で頷いた。…くそう。

「オパール様は顔立ちが元々はっきりとされていらっしゃる。素顔のままでもいいのですがうっすらとしたお化粧で十分ですし、せっかく素晴らしいカラダなのにあんなごたごたしたドレスではいいところがすべて台無しです。露出が多いものはわたくしが許可いたしませんが、オパール様の素晴らしい素材を生かせる、引き立たせられる、シンプルで美しいドレスをご用意いたします。それから、鼻がひん曲がりそうな悪臭はお止めください。…オパール様は、薔薇が…薔薇の香りがお好きなのですか?それとも、ユージーン様がリリア様を薔薇と称されたがためにわざとつけていらっしゃるのですか」

…そのあたりはわかりません。ただ、私の好みはわかる。

「薔薇の香りは好きじゃないわ。ああいう甘ったるいのに重い匂いは好きじゃないのよ」

じゃあなんでつけてたのか、って目で見るな。私にはわかりかねる理由なんだから。

ここに来る前、私は二次元にはまったオタクだった。大好きなアニメのグッズを漁った結果、キャラクターをイメージしたという香水に辿り着いた。これがもう、最高の香りで…。箱推しだった私は、けして安くはないそれらをキャラクター全員分、すべて購入した。その中でも特にやられた香りがあったのだが、残念ながら成分がわからない。

「ひんやりした感じというか、スーッとした感じというか、それでいて時間とともにほんのり甘く香るのが好きなの。柑橘系も好き」

そうですか、と頷いたフェルナンドは、急に私の首元に顔を寄せた。

「今日は何もつけていらっしゃらないですね。オパール様本来の香りがします」

なんなのこの変態発言。さっきの一時間ノックし続けますといい、怖いんだけど、こんなのが付くとか。

「…やっぱり、誰か女性を、」

「ダメです。オパール様には近付けません。わたくしが許可しませんので」

なんでよ!むしろあんたが近くにいるほうが危険だよ!

私の心の中の突っ込みは当然届かず、フェルナンドはカラダを離すとニッコリした。

「何種類か香水をお持ちしますので、その中からお好きなものをお選びください。今お持ちの薔薇の香水はすべて処分いたしますね。よかったよかった、オパール様が薔薇の香りがお好きではないと聞いて安心いたしました」

そう言うとフェルナンドは、「入ってよろしいですか」と言いながら扉を開けて中に滑るように入っていく。…一応女性の部屋なんだが…まあ、女として見てないだろうから意識もしないんだろう。

付いて行くと、フェルナンドは開け放していたクローゼットからバサバサとドレスを外し始めていた。行動が早すぎるんだが。

「こんな服を着せて影で嗤っていたんでしょうね、あやつらは。オパール様に嫉妬しているからとは言え許されることではない」

ブツブツ呟きながら腹立たしそうに服を投げ捨てるフェルナンドの言葉に違和感を覚える。嫉妬?

「私になんで嫉妬するのよ。夫に顧みられない、無視されてる女なのに」

「オパール様がおキレイだからです。妬みの対象ですよ。ご自分ではおわかりにならないのかもしれませんが」

そう言うとまたスッと近づいてきて、今度は私の腰を抱き込むように引き寄せると、もう片方の手で顎をクイッとやられた。美しい煌めきの碧眼とばっちり目が合う。ちくしょう、私はこういう男女の交わりに耐性がないんだよ!ドキドキするだろうが、離せぇ!動悸が激しすぎて死んじゃうだろうが!

「このキメ細かい美しい肌。あやつらはほとんど手抜きでオパール様の肌のお手入れもほぼしたことがないと白状いたしました。あんなにも無駄な化粧を毎日毎日しまくっていたにも関わらずまったく肌が荒れていない。これは天性の贈り物です。美しい…」

そう言うとこともあろうに、フェルナンドは私の頬に、ちゅ、と唇を押し付け、その後、ペロリと舐めた。…舐めた!?

「ちょっと!なにしてんの!」

「あまりにも可愛らしいオパール様が悪いのです」

シレッとした顔で私に責任を押し付けるのはやめろ!おかしいだろうが!くそー、なんなのこいつ!息するように手を出してくるような侍従兼護衛なんてお断りなんだよ!

「やっぱり別な人にして!」

「ムリです。わたくしはオパール様のそばを離れませんし、なんならわたくしとまともに闘い勝てる人間はほぼいませんよ。騎士団長にも勝ちましたから。それともオパール様はわたくしの次点である騎士団長を今の職務から外してそばに置きたいと仰るのですか?残念ながらあやつは侍従の真似はできませんのでオパール様もそれはそれはご不便を感じる毎日になるでしょうし、騎士団も規律がおかしくなるでしょうね」

と言ったあと、ああ、なるほど、と頷くと、

「騎士団から国を瓦解させてユージーン陛下に一泡吹かせる算段ですか?そう仰るなら、まあ、…仕方がありませんので、許可いたしますが」

瓦解、ってなによ。そんなことになったら非難の矛先が向くのオパールになっちゃうじゃないのよ!騎士団長にも騎士団にも恨まれるじゃないのよ!

どうしますか?と笑うフェルナンドは目が笑ってない。絶対に確信犯だ。私が肯首できないのをわかってて言ってる。なんだかわからず追い詰められてしまい、フェルナンドを侍従として置くことを認めるしかなくなってしまった。こんな手の早い男がそばにいるほうが危険だとその時の私は確かに思っていたのだが、そんな生易しい男ではなかったのだ、フェルナンドは。
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