逃げたら追いかけられた

蜜柑マル

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会社を出ると、目の前に上杉が立っていた。

ビクリとする私に「お疲れ様、薫。じゃ、行こう」と笑いかけると、指を絡めて手を繋ぎ歩きだした。こんなこと、今までされたことない。というより、同僚に見つかりたくないからと外で会ったことなど一度もなかった。

「あ、あの、」

「なぁに、薫」

ニコリとこちらを見る顔は相変わらず目が笑っていない。

さりげなく手を離そうとすると、痛いほどギュウッと握られる。

「とりあえず、泊まるホテルに行こう。二人で予約してある。ダブルの部屋だよ」

サラリと言われて、「あぁ、なるほど」と思い至った。

「美穂ちゃんと結婚決まったから挨拶に来たの?わざわざいいのに、」

「美穂ちゃんて誰」

「…え?」

振り返る上杉の顔は表情がなく、目だけが冷酷な光を湛えている。

「ダブルの部屋は、俺と薫が泊まるんだよ。来週の火曜日まで、薫、休み入れてもらったから。今日木曜日だから6日間ずっと一緒にいられるよ」

「え?」

私、そんな申請出してない。

「上杉、」

「啓一だよ、薫。俺の名前わかるよね。これから薫も上杉になるんだから、名前で呼んでよ」

そういうとまた手を握ったままスタスタと歩きだした。

「あの、上杉…っ」

「ねぇ、薫。俺が今言ったことわからなかった?」

上杉は振り向くと、私の耳をギリッと噛んだ。ものすごい痛みに襲われ、カラダがギュッと固まる。

「啓一だよ、薫」

こんなふうになった上杉を見たことがない私は、沸き上がる恐怖でカラダが震えはじめた。

「…どうしたの、薫。震えてるよ」

上杉は私の腰をぐっと引くと、「体調悪い?タクシーで移動しよう」と車を止め乗り込んだ。

車内でも私の腰から手を離さず、じっと私を見る。怖くて顔をあげることができず俯く私に上杉の視線が突き刺さる。

いったい何が?何が起きてるの?
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