あなたの愛は、もういらない

蜜柑マル

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「サーラ、君を、試すような真似をしてきた、本当に、すまない、」

「旦那様、謝罪は必要ありません。もうどうでもいいのです」

カラダをバッ、と離すと、夫は青ざめた顔で私を見つめた。

「サーラ、どうでもいいとは、」

「…旦那様は、わたくしが倒れたりしたせいで、ブリジット様との貴重な時間を無駄にされた怒りでわたくしを凌辱しました。…違いますね、あれは躾ですね。妻なのですから。あの時、貴方に愛して欲しいなどと願っていたバカなわたくしは死にました。これからは義務として…貴族の義務として政略結婚させられた憐れな旦那様のお役に立てるよう、生きて参ります。もう、何も求めません」

「サ、サーラ、違うんだ、」

夫は青ざめたまま、「違う」と呟く。

「俺は、サーラ、君を愛してるんだ」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「サーラ、」

「装飾品がなければ侯爵家嫡男の夫人になど見えないわたくしには、過ぎたるお言葉です。ありがとうございます。…ひとつだけ、お願いがあるのですが」

私の言葉に、夫は強張ったままの顔を向けた。

「なんだ?なんでも聞く、言ってくれサーラ」

「旦那様には屈辱でしかないでしょうが、離縁しない間はわたくしに子どもができるよう励んでいただきたいのです。侯爵家の後継である旦那様のお子は、残念ながら正妻の位置にいるわたくしが生まねばならないでしょうし…もし、お義父様のお許しが出るなら、確実に旦那様の種だとわかるよう愛人を囲っていただいて構いません。離れに住むようになるでしょうが、不便はないでしょうから」

「…サーラ、俺は君以外の女を抱くつもりはない」

「わかりました。では、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」

頭を下げると、また夫に抱き寄せられた。ドクドクと、夫の激しい鼓動が伝わってくる。

「サーラ、許してくれとは言わないから、やり直したい、あんな乱暴を働いて、君を傷付け、取り返しのつかないことをしたとようやくわかった、俺がバカだった、サーラ、愛してるんだ、サーラ、」

「もう必要ありません。旦那様の愛を求めるわたくしはもういなくなりましたから、安心なさって」

ニコリと微笑んでみせたのに、夫の顔は強張ったままだった。もう、平気なのに。愛されないと自覚できたのだから。

夫はしばらく無言で私を見つめ、「…サーラ、」と呟いた。

「はい」

「今まで、君を抱くことができないから我慢していたが、今夜から部屋を同じにしてくれないか」

「旦那様の仰る通りにいたします」

「…食事の時以外は、ここでふたりで過ごしたい。それから、風呂は毎日一緒に入る。サーラの月のものがあっても、体調が悪くない限りは一緒に入ってくれ。俺が仕事に行っている間も、ここで過ごして欲しい。運ぶものがあれば今から運ぶから、サーラの部屋に行こう」

「後で、必要なものがあれば自分で運びます。旦那様のお手を煩わせるわけには、」

「それから」

夫は被せるように、

「俺を旦那様と呼ばないでくれ。名前を呼んで欲しい。ライアンと、呼んでくれ、サーラ」

「旦那様の仰る通りに」

「サーラ」

「…ライアン様の、仰る通りにいたします」

夫はひとつ頷くと、私をギュ、と抱き締めた。

「サーラ、愛してる」

「ありがとうございます」

そのまましばらく、夫は私を離さなかった。そのカラダが、小刻みに震えていた。
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